異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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転生者がアンチマテリアルライフルで狙撃するとこうなる

 

 確かに、力也と仲間の少女が持っていた武器は変わった武器だったわ。400mも離れているゴーレムを、たった数発で倒してしまう遠距離武器なんて聞いたことがない。

 

 私は100mくらいまで接近してから弓矢で牽制して、魔術の攻撃で倒そうと考えてたわ。でも、モリガンの2人は接近せずに、400mから狙撃してすぐにゴーレムを倒してしまった。遠距離からゴーレムを倒せて、発射した時に轟音を発するあの武器は何なの? 

 

「くっ!」

 

 背中の矢筒から矢を一本取ると、私は愛用の弓につがえて狙いを定めた。狙いは、目の前から唸り声をあげて突っ込んでくる2体のゴブリン。まず前にいる方を弓矢で射抜いて、すぐに矢をつがえれば2体目もすぐに倒せるわね。

 

 矢を思い切り引いて手を離した私は、その矢が命中するのを確認しながらすぐに次の矢を矢筒から引き抜いた。私の放った矢はゴブリンの頭を正確に射抜き、私の方へと向かってきていた片割れを葬る。

 

「消えなさい!」

 

 接近してくる2体目に狙いを定め、矢を放とうとしたその時だったわ。突然またゴーレムを葬った時と同じ轟音が響いたかと思うと、私が狙っていたゴブリンの頭に穴が開き、血飛沫が上がった。もしも弓矢の攻撃だったのならば頭に矢が刺さっている筈なんだけど、そのゴブリンの頭には何も刺さっていない。轟音が響いて、頭に穴が開いただけだった。

 

「大丈夫か? カレン」

 

 私の後ろでその武器をゴブリンへと向けていたのは、私からこの依頼を引き受けた傭兵ギルドのメンバーの力也。私は構えていた武器から顔を離した彼に「大丈夫よ」と言うと、私が矢で倒した方のゴブリンから矢を引き抜いて、血を拭いてから矢筒へと戻したわ。

 

 彼らがあの武器で次々に魔物を倒し続けるから、まだ私は5体くらいしか魔物を倒せていないわ。間違いなくあの2人が倒した魔物は10体以上でしょうね。

 

「さっきのゴブリン、私が狙ってたんだけど?」

 

「俺たちの役割はお前の護衛だからな」

 

 分かってるわよ。護衛してって依頼したんだから。

 

「エミリア、そっちはどうだ?」

 

「今片付いたぞ。……フィオナ、もう大丈夫だ」

 

 私たちの後ろで、真っ黒な制服に身を包んだエミリアが、とどめを刺したばかりの狼から漆黒のサーベルを引き抜きながら言った。前方から接近してくるゴブリンたちを私と力也で迎え撃って、背後から接近してくる狼たちをエミリアに任せてたんだけど、彼女はあの武器とサーベルで襲ってきた狼たちを全滅させてたみたいね。

 

 フィオナが差し出したハンカチで顔についた返り血をふき取り、帽子をかぶり直すエミリア。サーベルを鞘に戻した彼女がこっちを振り向くと、力也も武器を背中に背負った。

 

「行こう、カレン」

 

「わ、分かってるわよっ!」

 

 確かにあんな武器があれば、たった2人で魔物の群れを殲滅することは可能かもしれないわ。弓矢よりも射程距離が長いから、魔物の群れが接近して攻撃してくる前に攻撃を仕掛けて全滅させることもできる。

 

 傭兵ギルドになんか負けてられない。

 

 私は小さい頃から魔物と戦うための訓練を受けてきた。剣術や弓矢をお父様と仲の良かった騎士団の教官から習っていたし、お父様が雇った家庭教師から魔術を教えてもらっていたわ。

 

 魔物から領内の民を守るために、私は強くなったの。

 

 私はネイリンゲンの街を出発してから全然数が減っていない矢筒の中の矢の数を数えると、村の廃墟がある場所へと向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「ここが廃墟か………」

 

 頭にかぶっていたオーバーコートのフードを取った俺は、端末をポケットから取り出し、ドラグノフの代わりにAN-94を2人分装備してから片方をエミリアに渡す。普通の銃床になっているのがエミリアの分で、俺のAN-94はサムホールストックになっている。俺はアラクネとの戦いの時に装着した銃剣もエミリアへと渡すと、ライフルを構えながらボロボロになった木造の小屋の壁に隠れ、廃墟の中を覗き込んだ。

 

 俺が隠れている小屋は家畜の小屋だったらしい。穴の空いた木製の床の上には藁だらけになっていて、小屋の扉は片方が外れている。屋根も穴だらけだ。

 

 藁の臭いがする小屋へと足を踏み入れた俺は、今度は片方だけ残っている小屋の扉の陰に隠れて外を確認した。カレンはここにも魔物がいるって言ってたんだけど、小屋の外には魔物はいないみたいだ。壊れかけの柵やボロボロの家が建っているだけだった。

 

「どうだ?」

 

「―――魔物がいないぞ」

 

「どういうこと? ここに魔物がいる筈なのに………」

 

 俺の後をついてきたエミリアに答えると、依頼主のカレンが俺の傍らで言った。この廃墟の魔物を殲滅する予定だったんだが、魔物がいない。まさか、別の場所に移動したんだろうか?

 

 俺はポケットから端末を取り出し、OSV-96を背中に装備した。オーバーコートの背中から折りたたまれた状態のアンチマテリアルライフルを取り出し、銃身を展開すると、銃身の脇に折り畳まれていた狙撃補助観測レーダーのモニターも展開する。

 

「………魔物の反応はあるぞ」

 

「ねえ、何それ?」

 

「半径約2km以内の敵を察知してくれるものだ。………反応はあるな。30体もいるぞ」

 

 村の中に魔物たちの反応があった。やや大きめの赤い点はゴーレムの反応だろう。俺はモニターを折り畳んでからアンチマテリアルライフルの銃身を2つに折り畳むと、背中に背負ってからAN-94を構えて小屋の扉に隠れながら外を見る。

 

 魔物はいないみたいだ。俺は扉の陰から飛び出して目の前にあった壊れかけの柵を飛び越えると、その向こうにあった家の中へと飛び込んだ。

 

 フィオナとカレンを連れながら、エミリアも俺の後をついてくる。俺は彼女がボロボロの家へとたどり着くまで警戒すると、3人を家の中へと入れ、ドアを静かに閉めた。

 

「力也、どうする?」

 

「待っててくれ。―――2階から確認してみる」

 

 AN-94から銃剣を取り外し、俺はアサルトライフルを腰の後ろへと下げた。代わりにホルスターからスチェッキンを引き抜き、俺は静かにボロボロの階段を上り始める。

 

 さすがにゴーレムが襲い掛かってくることはないかもしれないけど、狼やゴブリンがこの廃墟に入り込んでいて、いきなり襲い掛かってくるかもしれない。モニターにこの家の中からの反応はなかったけど、俺はマシンピストルを構えて警戒しながら2階へと上った。

 

 オーバーコートのフードをかぶり、俺は2階の廊下の窓から外を確認した。

 

 2階建ての家や家畜の小屋の廃墟が並ぶ中に、狙撃補助観測レーダーの反応通りに大量の魔物たちが集まっていた。村の内側に建っているボロボロの2階建ての家の前に、ゴブリンやゴーレムたちが集まっている。ゾンビと狼もいるみたいだ。

 

「―――アラクネか?」

 

 魔物の群れが蠢いている中に、森の中にフランツさんを助けに行った時に見た黒と紫の気色悪い模様が見えた。俺はAN-94を取り出してドットサイトの後ろにブースターを展開させると、カーソルをその気色悪い模様に合わせて確認する。

 

 カーソルの向こうに見えたのは、やっぱりアラクネだった。あいつらの外殻は5.45mm弾を弾いてしまうため、外殻に覆われていない頭を狙うか、アンチマテリアルライフルやパイルバンカーのような強烈な武器で外殻ごと破壊するしかない。

 

 魔物の群れの中にアラクネがいるのは厄介だけど、数は一番少ない。3体くらいだ。

 

『ま、魔物がいっぱい………!』

 

「フィオナか」

 

 いつの間にか、俺の隣にフィオナがいた。俺と同じく隠れながら村の中に集まっている魔物の群れを見つめている。

 

『しかも、アラクネまでいますよ………!?』

 

「エミリアたちに報告だな」

 

 AN-94を再び腰の後ろに戻し、ボロボロの床の上に置いておいたスチェッキンを拾い上げた俺は、フィオナを連れて階段を降り始めた。

 

「フィオナ、やっぱりアラクネはここに生息してなかったんだろ?」

 

『はい。南の森に住んでいた筈なのに………』

 

「2人とも、どうだった?」

 

「3体ほどアラクネが混じってたぞ」

 

「アラクネが?」

 

 階段を降りた俺は、キッチンのところで待っていたカレンとエミリアのところへと歩きながら報告した。

 

 前は森の中でアラクネの群れと戦い、アラクネたちを殲滅している。でも今回はアラクネの群れではなく、他の魔物の群れの中にアラクネが混じっている状態だ。糸と外殻を持つアラクネは厄介だけど、他の魔物にも注意しないとな。

 

「力也、どうするの?」

 

「………」

 

 アラクネの外殻を粉砕できる武器は、ロケットランチャーとアンチマテリアルライフルとパイルバンカーだ。でも、パイルバンカーの射程距離はたったの30cm。他の魔物もいるから、突っ込んでアラクネをパイルバンカーで仕留めるわけにはいかない。

 

 OSV-96で狙撃するのがいいだろうな。12.7mm弾だったらあの外殻を粉砕できるし、俺のOSV-96にはロケットランチャーのRPG-7も装着されている。

 

「俺がOSV-96の狙撃でアラクネを排除する。エミリアはフィオナとカレンを連れて、他の魔物を倒してくれ。俺もアラクネを殲滅したら援護する」

 

「分かった」

 

「任せなさい」

 

 草原で魔物と戦っていた時、カレンはまったく魔物を倒していなかったからな。

 

 俺は家の外へと向かう3人を見送ると、再び2階への階段を上り始めた。

 

 

 

 

 

 

 折り畳んでいた銃身を展開し、バイボットも展開する。狙撃補助観測レーダーのモニターに表示されている魔物たちの反応は先ほどから移動していない。数も変化していないようだった。

 

 先ほど魔物たちの数を確認した2階の窓の近くにあった大きめの壁の穴からマズルブレーキが装着されたアンチマテリアルライフルの銃身を突き出した俺は、伏せた状態でスコープを覗き込む。

 

 右手でライフル本体のグリップを握り、左手ではロケットランチャーのグリップを握る。まず最初にRPG-7でアラクネと周囲の魔物を一気に倒し、残った2体のアラクネを12.7mm弾の狙撃で倒すつもりだ。アラクネを倒した後は、残った魔物たちへと攻撃を仕掛けるエミリアたちを援護する。

 

 左手の人差指を伸ばし、ロケットランチャーのトリガーへと近づけていく。ここから魔物の群れまでは200mくらいだ。最初にバレットM82A3でゴーレムたちを狙撃した時よりも近い。

 

 アラクネの周りにはゾンビやゴブリンもいるのが見える。もしあそこにロケットランチャーをぶっ放せば、そのゾンビやゴブリンも爆風に巻き込まれ、粉々にされるだろう。

 

「―――発射」

 

 カーソルをアラクネの気色悪い外殻に合わせた俺は、左手でロケットランチャーのトリガーを引いた。

 

 

 

 


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