異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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選抜射手が2人もいるとこうなる

 

 壁にかけておいた漆黒のオーバーコートを羽織ると、俺は腰のホルダーに愛用のペレット・トマホークを収め、ポケットから端末を取り出す。端末で武器と能力の装備の画面を開いた俺は、昨日の夜に生産し、地下の射撃訓練場でエミリアと訓練をした武器を2人分装備した。2人で戦う際、俺はエミリアにも銃を渡すようにしているけど、あくまでも端末を持っているのは俺だ。つまり、俺以外の人間が銃を使えるようにするには、俺が2人分装備していることにしなければならない。

 

 だから、俺とエミリアの2人が複数の武器を装備して戦う場合は、端末の方には俺がものすごい重装備をしていることになっている。アンチマテリアルライフルと汎用機関銃を同時に装備してたりとかな。

 

 俺が端末を操作して装備したのは、ロシア製のマークスマンライフルのドラグノフだ。俺はドラグノフを2丁装備すると、片方を俺の後ろで漆黒の軍帽をかぶっていたエミリアに手渡した。

 

 ドラグノフはセミオートマチック式のライフルだ。今回の依頼は西の草原とその先の廃墟にいる魔物を倒しに行くカレンの護衛。敵はもちろん魔物だ。間違いなく数は多いだろう。

 

 まず、最初の草原の魔物に対してはこのドラグノフのセミオート射撃で殲滅して、村の廃墟にたどり着いたらAN-94に切り替えるつもりだ。遮蔽物のない草原ならば遠距離や中距離から狙撃できるし、廃墟ならば2点バースト射撃かフルオート射撃ですぐに魔物を射殺できる。

 

「エミリア、これも」

 

「ああ、スチェッキンか」

 

 俺はホルスターに入った状態のロシア製のマシンピストルを彼女に手渡した。草原での戦闘中に、もし魔物に接近されたり、別の魔物が背後から回り込んできた場合は、このフルオート射撃が可能なマシンピストルで応戦するつもりだった。だから、昨日の訓練ではドラグノフ以外にこのスチェッキンの射撃訓練も行っている。

 

 エミリアはスチェッキンのホルスターを腰に下げると、壁に立てかけていたペレット・サーベルも腰に下げた。漆黒の軍服と軍帽のせいで、まるで指揮官のように見えてしまう彼女。制服を作ってもらう前、エミリアにスカートとズボンだったらどっちがいいかって聞いたんだけど、彼女はズボンを選んだんだよな。

 

 確かに、スカートよりもズボンの方が似合ってるよ。

 

「そういえば、昨日は片手でこれ撃ってたよな」

 

「ああ。そうすれば片手でサーベルが使えるだろう?」

 

 昨日の訓練の最中に、エミリアは急にスチェッキンを左手で撃ち始めたんだ。最初はフルオート射撃でまったく命中させられていなかったんだけど、4つのマガジンのうち2つを使い切ってから、段々と命中させるようになってきて、最後のマガジンでは新しく用意した木製の的が穴だらけになっていた。

 

 なるほど、片手でサーベルを使うつもりだったのか。確かMP7を装備してアラクネたちと戦った時もやってたな。

 

「はい、フィオナ」

 

『はい』

 

 俺はオーバーコードのフードをかぶると、もう1丁スチェッキンを装備してからそれをエミリアの傍らを浮かんでいたフィオナに手渡した。今回の依頼には彼女も来てくれるらしい。

 

 フィオナは生前に治療用の魔術を勉強していたため、今でも魔術を使用した治療は得意分野らしい。前にアラクネと戦っていた最中にフランツさんの治療を頼んでたんだけど、俺たちがアラクネたちを殲滅した数分でフランツさんが負っていた傷は半分以上が消えていた。

 

 彼女がいてくれれば、魔物との戦いで致命傷を負ってしまったとしてもすぐに治療してもらえるだろう。しかも今回は領主の娘のカレンを護衛しなければならないから、フィオナにはついてきてもらった方がよかった。

 

「魔物は俺たちが倒すから、フィオナは誰かが傷を負ったらすぐに治療してくれ」

 

『はい、分かりました』

 

 彼女に渡したスチェッキンは彼女の護身用だ。一応、昨日の夜にフィオナも訓練をしている。

 

「よし、行こう」

 

 俺はドラグノフを2丁とスチェッキンを3丁も装備していることになっている画面を閉じ、端末の電源を切ると、屋敷の玄関へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 モリガンのメンバーたちが使う武器は変わった武器だっていう話は聞いたけど、格好も変わってるわ。私は黄金の装飾がついた真っ赤な防具を胸と両腕と両足に装着しているのに、彼らは金属製の防具をまったく装着せず、真っ黒な制服を身に纏っているの。背中に背負っているのが彼らの武器なのかしら? 

 

「行くわよ」

 

「おう」

 

「そっちの子もメンバーなのね。………その真っ白な子は?」

 

 真っ白なワンピースを身に纏った白髪の女の子。私よりも年下みたいなんだけど、どうして帽子をかぶっている子の近くで浮かんでるのかしら? 

 

「えっと………俺たちのギルドの仲間だ」

 

「なんで浮かんでるのよ?」

 

「………フィオナは幽霊だからな」

 

「ゆっ、幽霊っ!?」

 

 幽霊がギルドの仲間なの!? 幽霊が所属してるギルドなんて聞いたことないわよ!?

 

「ところで、その村の廃墟までは徒歩で行くのか?」

 

「その予定よ。廃墟に到着したらそこの魔物を殲滅して、ネイリンゲンまで戻ってくるの。いいわよね?」

 

「ああ」

 

 多分、魔物の数はかなり多いわ。矢はかなり持ってきたんだけど、必ず撃ち尽くすことになるでしょうね。だから私は弓矢だけじゃなく、剣も持ってきた。

 

 得意分野は魔術と弓矢なんだけどね。

 

 力也ともう1人の少女もあの変わった武器以外に近距離用の武器を持っているみたいね。力也はトマホークで、少女の方はサーベルみたい。

 

「よし、出発しようぜ」

 

「ええ。私が先頭を進むから、あなたたちはついてきてちょうだい」

 

「大丈夫か?」

 

「私だって戦うための訓練は受けているわ。それに、道案内もできるし」

 

 何度も魔物とは闘ってきたし、騎士団と共に魔物の群れから街を守ったことだってあるのよ。実戦もかなり経験してるわ。

 

「……わかった。だが、俺たちはお前を護衛するために来てるんだからな」

 

「わかってるわ。行くわよ」

 

 私は漆黒の制服を身に纏った2人と幽霊の少女を引き連れると、ネイリンゲンの街から西の草原へと向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 西の草原の先にある村の廃墟には、徒歩で行くと30分くらいかかるらしい。その間にドラグノフの出番は確実にやってくるだろうと考えた俺とエミリアは、すでに背中からドラグノフを取り出し、スコープを覗きながら草原の向こうを見渡して索敵を始めていた。

 

 先頭を進むカレンも、すでに背中から弓矢を取り出して矢を準備している。彼女の弓矢は装飾がついてるけど、傷もついているようだ。訓練や実戦でつけたんだろうな。

 

 やっぱり、彼女はただの領主の娘じゃないみたいだ。いくら護衛の男とはいえ、たった一言で止められる筈がない。

 

「………10時方向にゴーレム」

 

 俺の後ろでスコープを覗きながら歩いていたエミリアが魔物を見つけたらしい。カレンが矢をつがえたのを見てから、俺もスコープを覗きこみ、エミリアが発見した魔物を確認する。

 

 確かに10時方向にゴーレムの巨体があった。ラトーニウス王国で、転生したばかりの俺がレイジングブルの狙撃で倒したやつらとは外殻の色が違うようだな。

 

「矢の射程距離外よ。もっと接近しましょう」

 

「―――いや、ここから狙う」

 

「え?」

 

 矢を矢筒に戻しながら振り返るカレン。確かにここからあのゴーレムを弓矢で狙うのは不可能だろう。絶対に矢が届かない。

 

 でも、このマークスマンライフルならば問題ないだろう。ゴーレムまでの距離は約400メートルほどだ。

 

「何言ってるのよ? こんなところから攻撃が届くわけないでしょ?」

 

 銃を知らないカレンが言う。俺は彼女の声を聞きながらスコープのカーソルをゴーレムの頭へと重ね、一旦スコープから目を離してちらりとエミリアの方を確認する。

 

 彼女も照準を合わせたらしく、スコープから目を離して俺の方を見つめてきた。

 

「ヘッドショットで倒すぞ」

 

「了解だ」

 

 生産したドラグノフにはバイボットが装着されているけど、伏せて狙撃する必要はないだろう。もしかしたら数発のライフル弾でゴーレムを倒せるかもしれない。

 

「ねえ、力也!?」

 

「………撃つぞ」

 

「え?」

 

 俺は再びスコープを覗きこむと、少し右にずれていたカーソルを再びゴーレムの頭へと重ねてからトリガーを引いた。銃声を知らないカレンが俺の傍らで「きゃっ!?」って可愛らしい叫び声をあげ、その後にエミリアのドラグノフも銃声を草原へと響かせる。

 

 もしドラグノフじゃなくてOSV-96で狙撃してたら、カレンはもっと驚いてただろうな。もしかしたら涙目になるんじゃないだろうか? 

 

 ドラグノフから放たれた弾丸が、銃声と残響を引き連れて草原の上を駆け抜ける。スコープの向こう側で俺がぶっ放した弾丸が命中し、ゴーレムの頭がぐらりと揺れ始めた。でも、少し後に放たれたエミリアの弾丸がゴーレムの頭が大きく揺れる直前に命中し、ゴーレムが叫びながら草原の上へと崩れ落ちた。

 

「え……? あ、当たった……!?」

 

「まだ生きてるぞ、力也!」

 

「よし、撃ち続けるぞ!」

 

「了解!」

 

 ドラグノフはセミオートマチック式のライフルだ。だからボルトアクション式のライフルのように、ボルトハンドルを操作する必要がない。

 

 俺とエミリアは草原からなんとか立ち上がろうとするゴーレムに照準を合わせると、トリガーを引いて弾丸を撃ち続けた。どうやらアラクネのように弾丸を弾いたわけではないらしい。俺たちが叩き込んでいる弾丸は、弾かれることなくゴーレムの外殻を食い破り、巨体を穴だらけにしていた。

 

 弾丸が外殻を食い破る度にスコープの向こう側でゴーレムが血を吹き上げる。立ち上がろうとしたゴーレムの片足に風穴が開き、再び草原に倒れたところにエミリアのライフル弾が叩き込まれる。

 

 容赦のない中距離からの集中砲火だった。既に撃ち込まれた弾丸は合計で6発ほどになるだろう。7発目の弾丸を叩き込んでやろうと思ってた俺だけど、ゴーレムが起き上がろうとしなくなり、動かなくなったのを確認した俺は、トリガーを引こうとしていた指を引っ込め、スコープから目を離した。

 

「………撃ち方止め」

 

「了解。………何発撃った?」

 

「3発だな。エミリアもだろ?」

 

「ああ。撃ち過ぎたかも知れんな」

 

 いざとなればすぐに端末で武器を生産することができるんだが、さすがに戦闘中に生産はできない。弾丸は使い過ぎないようにしなきゃいけないな。

 

 弾切れになる恐れがあるだけじゃなくて、カレンの出番もなくなってしまうことになるからな。

 

 

 

 


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