異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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アラクネの群れに転生者と騎士が挑むとこうなる

 力也のAN-94が2発の弾丸を放ち、またアラクネの顔面から紫色の体液が吹き上がる。顔面を狙った正確な2点バースト射撃で崩れ落ちたアラクネの数は、森に入って最初に襲撃された時から数えると既に5体に達していた。

 

 今はMP7のフルオート射撃を使っている私だが、AN-94を使う際も私はフルオート射撃を使うことが多い。でも、力也はあまりフルオート射撃を使わず、2点バースト射撃で中距離から狙撃することが多かった。

 

 確かに、私が最も得意とするのは剣術で、射撃ではない。射撃も屋敷の地下室で訓練しているが、当然力也の方が命中率はいい。的に空く風穴の数は、いつも力也の方が多いのだ。

 

 MP7の強烈なフルオート射撃をアラクネの顔面に叩き込み、マガジンに残った弾丸をフルオート射撃で別のアラクネへと叩きつける。顔面を弾丸でズタズタにされたやつはそのまま崩れ落ちたが、残った弾丸で狙ったやつは、頬の辺りが弾丸に引き裂かれたくらいで致命傷は負っていない。左側の頬から紫色の体液を流しているそのアラクネは、MP7からマガジンを取り外したばかりの私を睨み付けると、体液をまき散らしながら私を狙って突進してきた。

 

「―――阿呆」

 

 私は再装填(リロード)を中断すると、ペレット・サーベルを構えてそのアラクネへと向かって正面から走り出した。

 

 もし力也だったならば、再装填(リロード)を済ませてヘッドショットで仕留めるだろう。だが、私は彼のように射撃が得意ではないのだ。

 

 銃弾を弾くほどの硬さの外殻で覆われた右腕を握りしめ、私を叩き潰そうと右腕で殴りかかってくるアラクネ。突進の勢いが乗っていなかったとしても恐ろしい破壊力のパンチだろう。騎士団の防具では間違いなく防げない。

 

 私はそのままアラクネへと向かって走り続けながら、上半身を少しだけ右へと傾けた。

 

「――――!」

 

 アラクネの外殻に覆われた豪腕が顔の左を突き抜けていく。私の頭の代わりに粉砕された空気を叩きつけられながらアラクネのパンチを躱した私は、右手のペレット・サーベルの柄をアラクネの首へと押し当てた。

 

 このペレット・サーベルは、力也が使用しているペレット・ブレードと同じく散弾を発射する機能が付いている。だが、装填されているのは小型の散弾が1発だけ。このまま撃ったとしても、アラクネの外殻を撃ち破ることはできないだろう。

 

 パンチを躱されたと知ったアラクネが、今度は左手で私を叩き潰そうとする。左の頬が引き裂かれた顔を見上げた私は、ニヤリと笑ってやりながら散弾のトリガーを引いた。

 

 反動で押し付けていた柄がアラクネの外殻の表面から離れる。放たれた小型の散弾は確かに全弾外殻へと叩き込まれたが、1発も外殻を貫通できてはいないようだった。

 

 だが、散弾が全て叩き込まれた衝撃でアラクネがぐらりと揺れた。私を叩き潰すために用意していた左腕の一撃も、散弾に被弾したせいで台無しになる。

 

 その隙に反動でサーベルの柄がアラクネから十分に離れたのを利用した私は、体勢を崩して頭を下げたアラクネの顔へと、思い切りペレット・サーベルの漆黒の刀身を叩きつけた。

 

「はぁっ!!」

 

 もし外殻を斬りつけていたら刀身が折れていたかもしれない。でも、外殻に覆われていない頭は今まで剣で倒してきた魔物と変わらなかった。漆黒の刀身がアラクネの皮膚を切り裂きながら横へと進み、紫色の体液が吹き上がる。私はアラクネの頭を両断した刃を振り払うと、右手の親指で柄にあるハッチを開き、中から空になった散弾の薬莢を排出した。

 

 一旦サーベルを鞘に戻し、中断していたMP7の再装填(リロード)を終えると、私は再び鞘からサーベルを引き抜いて次のアラクネへと向かって走り出す。

 

「!?」

 

 突然、私の目の前のアラクネの上半身が粉々に吹っ飛んだ。飛び散る紫色の肉片と体液。間違いなく、アサルトライフルの破壊力ではなかった。

 

 AN-94でアラクネを仕留めるならば、外殻で覆われていない頭を狙う必要がある。だが、今アラクネの上半身が吹っ飛んだ瞬間に聞こえてきた銃声は、明らかにAN-94の2点バースト射撃のものではなかった。

 

 私は粉々になったアラクネの残骸を躱しながら、ちらりと力也の方を見る。

 

 やはり、このアラクネを粉砕したのは彼のようだった。手にしているのはサムホールストックのAN-94ではなく、ロケットランチャーとマズルブレーキが装着された、圧倒的な破壊力のアンチマテリアルライフルだった。

 

 

 

 

 

 

 やっぱり、12.7mm弾ならば外殻の防御力は関係なかった。俺は左手でキャリングハンドルをしっかり握りしめながら、マズルブレーキが装着された銃口を次のアラクネへと向けてトリガーを引く。

 

 猛烈な銃声が、まるでアラクネたちの唸り声を全て黙らせるかのように森の中へと響き渡った。12.7mm弾が黒と紫の外殻にめり込み、一瞬でその気色悪い模様の外殻を亀裂だらけにしていく。

 

 その亀裂から体液が吹き上がったかと思うと、そのアラクネは最初に12.7mm弾の餌食となったアラクネと同じく木端微塵に吹き飛ばされていた。5.45mm弾を弾いた外殻が砕け散り、6本の脚が全て千切れ飛んだ蜘蛛の胴体が草むらの上に転がる。

 

「!」

 

 その時、1体のアラクネが俺に向かって吠えたかと思うと、蜘蛛の胴体の後ろの部分を俺へと向け―――そこから白い糸を吐き出してきた!

 

 そういえば、フィオナはあのアラクネの外殻の防御力と糸で、何人もギルドや騎士団がやられてるって言ってたな。あの糸を喰らうわけにはいかない。

 

 だが、今の俺はアンチマテリアルライフルを構えている状態だ。アサルトライフルで射撃している時のように素早く動き、攻撃を回避するのは不可能だろう。もしOSV-96を手放して回避しようとしたとしても、躱そうと体を動かし始めた瞬間に糸を喰らってしまうかもしれない。

 

 でも、俺はアンチマテリアルライフルを一旦手放した。ロケットランチャーと狙撃補助観測レーダーが搭載されたことでかなりの重さになったライフルが草むらの上に落下し、俺の両腕が一気に軽くなる。俺はアラクネの胴体から伸びてくる糸を躱そうとはせず、右腕の肘を糸へと向け、グリップを展開した。

 

 右腕に装備されているのは、普通の剣のような形状から装着型へと変更されたペレット・ブレードだ。形状は変わっているけど、散弾の発射機能はしっかりと残ったままになっている。肘を糸へと向けたのは、散弾の銃口が刀身の出現するカバーの反対側にあるからだった。

 

 ペレット・ブレードが発射するのは小型の散弾だ。しかも散弾を発射するだけの機能になっているため、普通のショットガンと比べると命中精度は非常に悪い。しかも使用するのは普通のショットガンが発射する散弾よりも小型だから、威力も低くなっている。

 

 そんな散弾でアラクネの糸を迎え撃つのは不可能だろう。でも、俺は肘の銃口を迫ってくる糸へと向けると、展開したグリップにある発射ボタンを押した。

 

 以前にナバウレアでジョシュアへと放った時と同じ銃声が響き渡った。だが、銃口から飛び出していった散弾は、今まで俺がぶっ放してきたペレット・ブレードの散弾とは違っていた。

 

 銃口から放たれて拡散した小型の散弾たちが、炎を纏っていたんだ。その炎の散弾たちはアラクネが放った白い糸と激突すると、糸を食い破り、纏っていた炎でアラクネの糸を焼き払い始めた。

 

 俺を狙って放ったアラクネの糸が燃え上がり、逆に炎が糸を燃やしながらアラクネの胴体へと伸びていく。

 

 俺が糸に向かってぶっ放したのは、装着型に形状を変更した時に追加しておいたドラゴンブレス弾だった。普通の散弾だったら糸を食い破るだけだっただろうけど、この炎の散弾ならば更に糸を焼き尽くしてくれる。糸を回避する必要はないんだ。

 

 慌てて自分から吐き出した糸を切り離すアラクネ。炎が怖いんだろうか? 俺はすぐにペレット・ブレードのグリップを元に戻すと、手放したOSV-96を足元の草むらから素早く拾い上げ、キャリングハンドルとグリップをしっかり握ってトリガーを引いた。

 

 焼き尽くされていく糸の真上を、既に2体のアラクネを木端微塵に粉砕した12.7mm弾が突き抜けていく。ドラゴンブレス弾によって燃え上がった炎を貫いた弾丸がアラクネの首へと突っ込み、首を覆っていた外殻を簡単に打ち砕いた。被弾した首とその上にあった頭は簡単に引き千切られ、体液や外殻の破片と共に飛び散っていく。

 

『力也さん! エミリアさん!』

 

「どうした!?」

 

『色の違うアラクネが!』

 

 洞窟の入り口のところでフランツさんを魔術で治療していたフィオナが、アラクネの群れの方を指差しながら叫んだ。俺よりも前に出てアラクネの首を斬りおとしていたエミリアも、俺の隣まで戻ってくる。

 

 俺たちを囲んでいたアラクネの数は少なくなっていたが、まだ5体ほど残っている。黒と紫の気色悪い模様の外殻をもつアラクネの中に、1体だけ真っ白な外殻のアラクネが混じっているのが見えた。他のアラクネよりも若干大きい。

 

 あいつがリーダーか?

 

「あの白いやつを狙うぞ」

 

「任せろ」

 

 MP7にマガジンを装着しながら言うエミリア。俺のアンチマテリアルライフルはまだ予備のマガジンとロケット弾が残っているけど、もちろんどちらも再装填(リロード)しなければならない。今マガジンの中に残っている弾丸は3発だ。

 

 RPG-7のロケット弾もまだ使っていないから、再装填(リロード)なしで4回まで攻撃できるという事になる。

 

「行くぞ!」

 

「了解ッ!」

 

 MP7をフルオート射撃でぶっ放し、普通のアラクネの顔面を風穴だらけにして仕留めたエミリア。地面に大量の空の薬莢をばら撒きながら突っ込んでいく彼女を援護するため、俺もアンチマテリアルライフルのトリガーを引く。

 

 12.7mm弾がアラクネの胴体に直撃し、外殻に覆われたアラクネの上半身が千切れ飛ぶ。エミリアはそのアラクネの上半身を踏みつけてジャンプすると、リーダーを守るために前へと出てきたアラクネの頭へ、ペレット・サーベルの刀身を叩き込んだ。

 

「エミリア!」

 

「!」

 

 仲間が3体もやられたのを見ていたアラクネのリーダーが、女性の叫び声のような声で吠えたかと思うと、胴体の後ろをアラクネの頭からサーベルを引き抜こうとしているエミリアへと向けた!

 

「くっ!」

 

 サーベルを引き抜き、頭を両断されたアラクネの死体を蹴飛ばすエミリア。その死体の背中にリーダーが吐き出した真っ白な糸が降りかかり、黒と紫の外殻を糸の中へと埋めていく。

 

 俺は残ったもう1体の普通のアラクネに狙いを定めてトリガーを引いた。糸まみれにされたアラクネの死体を掠め、アンチマテリアルライフルの弾丸がアラクネの外殻と肉体を抉り取る。そのままアラクネを貫通した12.7mm弾は糸を吐き出し終えた直後のリーダーにも襲い掛かり、元の位置に戻ろうとしていた胴体の後ろの部分を千切り取った。

 

 その一撃で胴体が半分消し飛ばされ、残ったリーダーが叫び声をあげる。アンチマテリアルライフルのキャリングハンドルを握る俺と、PDW(パーソナル・ディフェンス・ウェポン)のホロサイトを覗き込むエミリアの前で、真っ白な外殻を持つアラクネのリーダーは、紫色の血を口から吐き出しながら苦しそうな表情を浮かべていた。

 

「………フランツさんの仲間の仇だ」

 

 このアラクネたちは、フランツさんの仲間たちを殺した。俺たちが受けた依頼はフランツさんを連れ戻すことだけど、この恐ろしい魔物に止めを刺さずに帰るわけにはいかない。

 

 俺はキャリングハンドルから左手を離し、銃身の下に搭載されたロケットランチャーのグリップを代わりに握ると、銃床を肩に当ててスコープを覗き込んだ。

 

 後ろ脚と動体の後ろが吹き飛ばされ、動けなくなっているアラクネのリーダー。そのリーダーの近くから既にエミリアは離れていた。

 

「いいぞ、力也」

 

「ああ」

 

 カーソルの向こうで血を吐きながら俺の方を見つめてくる白いアラクネ。俺は今まで魔物を狙撃してきた時のように照準をアラクネに合わせると、RPG-7のトリガーを左手で引いた。

 

 ライフルをぶっ放した時とは違う反動。スコープの向こうのアラクネを目掛けて、1発のロケット弾が炎を噴き出し、真っ白な煙を残しながら向かっていく。

 

 スコープの向こうで、真っ白な煙の槍の切っ先が、アラクネのリーダーの白い外殻と激突した。アサルトライフルの弾丸を弾いた外殻に激突したロケット弾が爆発し、爆風と爆炎が真っ白な外殻を呑み込む。

 

 俺はスコープから目を離すと、ORV-96を折り畳んで背中に背負った。

 

 これでアラクネは殲滅できたし、フランツさんのギルドの仲間の仇も取ることができた。あとはフランツさんをネイリンゲンの奥さんの所まで連れ帰るだけだ。

 

 フランツさんとフィオナの待つ洞窟の入り口の方へと歩き出した俺たちの背後で、ロケットランチャーの爆発で生まれた轟音の残響が消え始めていた。

 

 

 


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