異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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再生と外殻

 

 宮殿の廊下には誰もいない。あの世界の宮殿と同じように絵画や彫刻が置かれ、装飾された宮殿の廊下には、この宮殿の主が吹き飛ばされた形跡だけが刻まれている。呻き声すら聞こえず静まり返っている廊下を警戒しながら進んだ俺は、目の前の廊下が十字路になっていることに気付き、曲がり角の陰に隠れてから息を吐いた。

 

 ほんの少しだけだが、威圧感を感じる。そしてその威圧感の陰に隠れているのは、禍々しい闇属性の魔力の気配。既に属性への変換を終えていつでも放てる状態にされているということは、この十字路に迂闊に顔を出した俺を撃ち抜こうとあの男が待ち構えているということだ。もしその気配に気づかずに前に進み続けていたのならば、レリエルの放った魔術によって身体を撃ち抜かれていた事だろう。

 

 アサルトライフルの銃身の下に搭載されているGM-94から左手を離した俺は、頭にかぶっていたお気に入りのシルクハットを左手で掴むと、ため息をついてから、そのシルクハットをそっと十字路に向かって放り投げる。

 

 その直後、俺から見て左側の通路から飛来した3本の闇の矢が、通路に向かって放り投げられた俺のシルクハットに突き刺さった。シルクハットはそのまま矢が纏っていた運動エネルギーに連れ去られ、反対側の通路へと向かって吹っ飛んでいく。

 

 やはり待ち伏せか・・・・・・!

 

 別の通路から攻撃しよう。このまま飛び出せば、俺もシルクハットと同じ結果を辿る羽目になる。

 

 俺はそう思って踵を返しかけたが、振り向いて走り出す前にはっとして足を止めた。

 

 待ち伏せを見破られたレリエルは、果たしてそのまま通路の向こうで待ち続けるだろうか? 俺に待ち伏せが見破られたと知ったレリエルならば、きっと移動して次の攻撃の準備をする筈だ。つまり、ここで移動して別の場所から攻撃しようとするのは奴の思う壺というわけだ。

 

 ならば、裏をかいてやろう。普通ならば愚策としか言いようがない策でも、裏をかけるならば最高の策となる。

 

 俺は反対側の通路を睨みつけると、裏をかかれて慌てふためくレリエルの顔を想像しながら隠れていた通路から飛び出した。同時にライフルを構え、セレクターレバーをフルオート射撃からグレネードランチャーに変更。チューブタイプのドットサイトの向こうに映っているのは、やはり待ち伏せを見破られたことを知って移動しようとしているレリエルの後姿だ。

 

 レリエルは俺が通路から飛び出したのを察したらしく、何故か楽しそうに笑いながら俺の方を振り返った。左手をかざして掌に紫色のエネルギー弾を生成し始めるが、俺がトリガーを引く前に放てる筈がない。

 

 やはり、トリガーを引いたのは俺の方が先だった。銃身の下に取り付けられているロシア製ポンプアクション式グレネードランチャーの砲口から飛び出した43mmグレネード弾は、エネルギー弾を生成している最中のレリエルへと向かって直進していく。だがそのグレネード弾はレリエルに命中するよりも前に、いきなりまるで空中分解するかのように砲弾の表面を剥離させ始めた。

 

 俺がぶっ放したのは、いつもの爆発するグレネード弾ではない。砲弾の内部に無数の矢のような弾丸を搭載した、フレシェット弾というタイプの砲弾だ。

 

 バラバラになった砲弾の中から姿を現したのは、レリエル用に銀にカスタマイズをしておいた無数の銀のフレシェット弾の群れだ。まるでショットガンが放つ散弾のように拡散した無数の矢のような弾丸たちは廊下の壁や天井を食い破りながら荒れ狂うと、まだエネルギー弾を生成している途中だったレリエルの全身に喰らい付き、彼の身体をズタズタに食い破った。

 

 エネルギー弾を生成していたレリエルの片腕が千切れ飛び、そのエネルギー弾が勝手に天井へと向けて放たれる。全身に銀の矢のような弾丸を叩き込まれたままレリエルはにやりと笑って反対の腕を俺に向けてくるが、俺は奴がエネルギー弾を生成する前に反対側の通路へと駆け込むと、ハンドグリップを引いて43mmフレシェット弾のでかい薬莢を排出しながら走り出す。

 

 もしレリエルが俺を追ってきた時のために、この通路にトラップを仕掛けておこう。無数のボールベアリングの代わりに聖水を入れておいたクレイモア地雷を曲がり角の陰に置き、反対側の壁へと地雷から伸ばしたワイヤーを仕掛けておく。

 

 吸血鬼にとって聖水を浴びるということは、人間が濃硫酸を頭から被る事と同じだ。触れれば身体が溶けだし、吸血鬼たちは激痛を味わうことにある。

 

 しかも俺が用意したこの聖水は、端末で生産できるタイプの聖水ではなく、王都にある教会で購入してきた強力な聖水だ。

 

 トラップを仕掛け終えてからすぐに立ち上がり、全く人の気配がしない通路の中を走り出す。当然ながらこの宮殿にやってくるのはこれが初めてだ。この通路がどこに繋がっているのかなど俺が知っているわけがない。だが、レリエルはこの宮殿の支配者だ。宮殿の内部を奴が把握している以上、俺もレリエルのように待ち伏せをして攻撃するわけにはいかない。そんなことをすれば、構造を把握しているレリエルに背後から攻撃されかねないからだ。

 

 フィオナの作ったエリクサーは十分に用意してきたが、その瓶の蓋を開け、中に入っている液体を口へと流し込む事ができないような致命傷を負ってしまっては回復など出来る筈がない。だから、致命傷を負うことは許されない。

 

 敵の攻撃は極力躱し、躱しきれないのであれば外殻で防ぐ。リスクの高い戦法は厳禁だ。

 

 絵画が飾られている通路を通り抜け、広間へと出た俺は、ちらりと周囲を見渡してから右側の通路へと入り込んだ。曲がり角を曲がってからそこにも聖水入りのクレイモア地雷を設置し、走りながらセレクターレバーをグレネードランチャーからフルオート射撃へと切り替える。

 

 その瞬間、遠くから爆音が聞こえてきた。爆音の残響が轟く向こうからは、まるで熱したフライパンの上に氷の塊を落としたような音が聞こえてくる。

 

「引っかかったな」

 

 幼少の頃、調子に乗っている年上のガキ大将にいたずらした時の事を思い出した俺は、にやりと笑った。

 

 レリエルが地雷に引っかかったんだ。つまりレリエルは、俺の事を追ってきているということだ。今頃あの吸血鬼は教会で購入した聖水を全身に浴び、全身を溶かされていることだろう。

 

 おそらく数秒で再生してしまうだろうが、ダメージは与えられている。

 

 だが、教会で購入した強力な聖水でも決め手にはならないだろう。銀の弾丸を撃ち込み、銀のフレシェット弾でハリネズミにし、聖水をお見舞いしたとしても決め手にはならない。レリエルの体力を削っているだけだ。

 

 奴を葬るには、複数の弱点で同時に攻撃しなければならない。

 

 帝都で戦った時は、奴が朝日を浴びている状態で教会の鐘の音を聞かせ、銀の弾丸を叩き込んだ。おそらく最低でも3つの弱点を同時に叩き込まなければ、奴はくたばる事はあるまい。

 

 魔界に太陽はない。そして教会の鐘もない。俺が用意した奴の弱点は銀の弾丸とニンニクのガスと聖水の3つだ。奥の手も用意してあるが、こいつは諸刃の剣だ。出し惜しみはするべきではないと思うんだが、こいつは何度も使えないし、下手をすれば自滅する危険性もある。迂闊に使うわけにはいかない。

 

 目の前のドアを蹴破って奥にある階段を駆け上がり、端末を取り出してターレットを装備する。ターレットが装備しているのはロシア製重機関銃のKord。俺が背負っているOSV-96と同じ12.7mm弾をフルオート射撃でぶっ放す事ができる恐ろしい代物だ。もちろん、その12.7mm弾も銀に変更してある。

 

 踊り場で待ち伏せる役をターレットに任せた俺は、階段を駆け上がってから目の前の通路を突っ走った。

 

「そのまま逃げるつもりか?」

 

「っ!?」

 

 その声が聞こえた瞬間、俺は後ろにジャンプした。先ほど全身に聖水を浴びてダメージを受けていた筈のレリエルの声だったんだ。全く気配は感じなかったし、足音も聞こえなかった。ターレットも反応していなかったからまだ遠くにいるんだと思い込んでいたんだ。

 

 ぞっとしながら後へとジャンプした直後、俺が数秒後に駆け抜けていく筈だった通路の床を紫色の閃光が突き抜け、天井に大穴を開けながら駆け抜けて行った。まるで紫色の光の柱がいきなり出現したような凄まじい閃光だ。おそらく、先ほど俺に放とうとしていたエネルギー弾なんだろう。

 

 あんな攻撃を喰らったら、サラマンダーの外殻で硬化していたとしてもたちまち消滅してしまうだろう。威力を見せつけられてまたしてもぞっとしていると、その床の穴からレリエルが楽しそうに笑いながらジャンプしてこの廊下まで上がってきた。

 

 まだ頬には皮膚が溶けた痕があるが、真っ赤な肉は徐々に生成されている皮膚に覆われつつある。

 

 アサルトライフルの銃口を向け、レリエルが攻撃してくる前に発砲。宮殿の外での戦闘ではレリエルは槍を持っていて、それで弾丸を弾いていたが、今のレリエルは丸腰だ。圧倒的な量の魔力によって放たれる魔術はまさに一撃必殺だが、弾丸を防ぐほどの速さで繰り出せる魔術は少ないだろう。

 

 だが、レリエルはなんと楽しそうに笑ったまま、自分に向かって飛んで来る無数の銀の弾丸の中へと向かって突っ込んできた!

 

「なっ・・・・・・!?」

 

 予想外だった。あのまま被弾するか、一旦近くの遮蔽物の陰に隠れると思い込んでいた俺は、突っ込んできたレリエルを睨みつけながらぎょっとしていた。

 

 すぐに再生できるとはいえ、自分の弱点である銀の弾丸の群れに突っ込むとは思っていなかったんだ。レリエルは自分へと向かって突っ込んで来る弾丸を置き去りにしてしまうほどの速度で突っ走りながら上半身を傾けて弾丸を躱し、姿勢を低くしながら長い爪の生えた右手を俺に向かって突き出してくる。俺は咄嗟にスイッチを押してナイフ形銃剣を展開しつつ、先端部がダガーのようになっている尻尾でレリエルの右手を受け流そうとしたが、予想以上の速度で突っ込んできたレリエルの攻撃を、更に咄嗟に受け流すことは出来なかった。

 

「ぐっ・・・・・・!?」

 

「ハッハッハッハッハッ!!」

 

 レリエルの爪が、俺の左肩にめり込む。まるでナイフを一気に5本も突き立てられたかのような激痛が体内で荒れ狂う。

 

 爪を引き抜かれる前に尻尾を操り、先端部をレリエルの額に突き刺す。額を鋭い尻尾で串刺しにされたレリエルは、眼球と口から血を流しながら身体をぐらりと揺らし、俺の左肩からやっと爪を引き抜いた。

 

 左足からブレードを展開し、格闘家が回し蹴りを叩き込むかのようにブレードをレリエルの首へと叩き付けた。サラマンダーの角で作られた刀身がレリエルの首に食い込み、皮膚と筋肉を寸断し、首の骨を両断する。

 

 ブレードを収納してから床を踏みつけた俺は、刎ね飛ばされたばかりのレリエルの首が地面に落下するよりも先に懐から水銀入りの対戦車手榴弾を取り出すと、安全ピンを引き抜いてレリエルに向かって放り投げた。

 

 カーペットが敷かれている床の上に落下した対戦車手榴弾の隣に、ごろりとレリエルの刎ね飛ばされた首が落下する。猛烈な爆風と衝撃波に押し出される水銀にズタズタにされる前にその場を離れた俺は、後ろにある階段の方へと突っ走り、大慌てで階段を駆け下りた。

 

 その直後、対戦車手榴弾が生み出した獰猛な爆風と、その爆風が押し出した水銀が廊下を蹂躙した。爆風が彫刻を粉々に粉砕し、水銀を叩き付けられた絵画が額縁もろともズタズタにされる。

 

 まだ切り札は使うわけにはいかない。もう少し手持ちの武器で攻撃してからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 木端微塵にされた肉体を再生させた私は、まだ胴体の再生が完全に終わっていない状態のまま起き上がると、力也が走って行った方向に向かって走り始めた。

 

 再生が終わっていない胸や腹で激痛が荒れ狂うが、怒りは全く感じない。むしろぞくぞくする。

 

 私は昔から、このような戦いを望んでいたのだ。

 

 やっと腹の方の再生が終わったらしい。走る度にちらりと見えていた肋骨はもう見えなくなっている。階段を駆け下りた私は周囲を見渡したが、力也はもう既に逃げ去ってしまったらしく、彼の姿は見当たらない。

 

 彼の代わりに私を出迎えてくれたのは、彼の置き土産だった。

 

「ぬ・・・・・・!?」

 

 彼が背負っていた飛び道具に似た武器が取り付けられた奇妙な土台が、搭載されている飛び道具を私の方へと向けてきたのだ。

 

「小賢しいわッ!!」

 

 両手の拳に闇属性の魔力を纏わせたまま、私は再びその飛び道具が撃ち出してきた銀の弾丸の群れの中へと飛び込んだ。上半身を傾けて弾丸を躱し、拳で弾丸を殴りつけて叩き潰しながら力也の置き土産に距離を詰めた私は、左手の拳を飛び道具に叩き付けてそれをへし折ると、もう片方の拳をお見舞いして木端微塵にしてから力也を追い続ける。

 

 奴の体内には、強烈な炎属性の魔力がある。私の眷族にも何人か炎属性の魔術を好んで使う者もいるが、そいつらとは比べ物にならないほど強力な魔力だ。魔術として撃ち出さなくても、そのままでも敵を焼き尽くす事ができるだろう。

 

「・・・・・・見失ったか」

 

 魔力は感じるが、どこにいるのかは分からない。

 

 逃がさんぞ、力也。

 

 貴様には私を楽しませてもらわんとな。

 

 このまま追いかけ続けるよりも、身体を無数の蝙蝠に変化させて追った方が良いだろう。戦闘力はかなり大きく下がってしまうが、再生能力は蝙蝠の状態でも使えるし、そのまま戦うわけでもない。あくまでも力也のいる場所を知るためだ。

 

 私は身体を蝙蝠に変化させると、その蝙蝠の群れを宮殿中へと散開させた。この状態では私の眷族にも容易く捻り潰されてしまうほど弱くなってしまうが、索敵できる範囲は大きく広がる。

 

「・・・・・・見つけた」

 

 力也の魔力を追っていた蝙蝠が、力也を見つけた。奴は宮殿の3階の廊下を走り、窓を蹴り破って外へと出ようとしているところだ。

 

 何だ? 宮殿の中での戦いはもう飽きたのか? 待ち伏せをするのは楽しかったのだが・・・・・・。

 

 私はまだ屋内での戦いを楽しむつもりだったのだが、再び外で戦うのも悪くはないだろう。力也を発見した場所へと高速で飛びながら、散開させた他の蝙蝠たちにも集合命令を出す。

 

 廊下を駆け抜けて階段を上がり、3階へと向かう。そこで窓の外へと飛び出そうとしていた力也は、廊下の反対側から私の集合命令通りにやって来た他の蝙蝠たちに向かって、あの飛び道具を乱射しているところだった。

 

 次々に撃ち落されていく蝙蝠たち。私は生き残った蝙蝠たちを集合させて再び元の姿へと戻ると、力也に撃ち落とされて欠けてしまった部分を再生させながら、彼の方へと歩み寄る。

 

「何だ? もうここでの戦いは飽きたか?」

 

「・・・・・・」

 

「ふん」

 

 私を睨みつけながら仕込み杖を引き抜く力也。柄頭に奇妙な装飾の付いた仕込み杖を分離させ、2本の剣にした彼は、銀色の刀身の切っ先を私へと向ける。

 

 ブラック・ファングは外での戦いの際に切り落された右腕が握ったままだったから、私の手元にはない。丸腰で奴に接近戦を挑まなければならないようだ。

 

 私の方が不利だが、そのような不利は再生能力が希釈してくれるし、そのような不利な状況で戦うのも面白いではないか!!

 

 全く焦ることなく前に踏み出した私は、先ほど奴の置き土産を叩き潰した時のように両手の拳に闇属性の魔力を集中させると、2本の剣を構えて迎え撃とうとしている力也に襲い掛かった。右手の拳を横から振るって奴の頭を殴りつけようとしたのだが、二の腕に奴の尻尾が突き立てられたせいで私の腕は力也の頭を粉砕する直前でぴたりと止まってしまう。

 

 ならば、左腕を使うまでだ。尻尾を引き抜こうと片手で足掻きながら、今度は左腕の拳を下から奴の顎へと向かって思い切り振り上げる。力也は尻尾を私の右腕に突き刺したまま少しだけ後ろに下がると、私が振り上げた左手の拳に向かって、右手に持っていた仕込み杖の刀身を振り下ろしてきた。

 

 容易く刀身を粉砕できると思ったのだが、私の拳と真っ向から激突した彼の得物は金属音を響かせるだけでへし折れることはなかった。驚くべきことに、ドラゴンを一撃で殴り殺せるほどの威力がある私の拳とぶつかり合っても亀裂すら入っていないのだ。

 

 一体何の素材を使って生み出された武器なのか気になるな。この男を倒したら、戦利品としてあの杖をいただこう。

 

 逆に刀身に押し返されまいと拳を振り上げつつ、私は右腕に力也の尻尾が突き刺さっている状態のまま、強引に右腕を突き出した。突き刺さっていた尻尾のせいで皮膚と筋肉繊維が抉られ、二の腕がズタズタにされてしまうが全く気にならない。

 

 奴の尻尾の呪縛を打ち破って前進した私の拳は、力也の顔面へと向かって伸びていく。力也は慌ててもう片方の剣で受け止めようとするが、間に合う筈がない。あの剣が持ち上がった頃には、力也の頭は木端微塵になっておるわ。

 

 その時、いきなり力也の皮膚が赤黒く変色し始めた。変色した皮膚の表面がやがて人間の皮膚ではなく、ドラゴンと同じような硬い外殻へと変貌していく。

 

 義足を移植した影響で肉体が変異したという話は眷族たちからの報告で聞いていた。今まで戦場で手足を失った人間が義足や義手を付けているのを見たことがあるが、その移植が原因で変異を起こした人間は一度も見たことがない。この男のように肉体が変異し、人間ではなくなってしまったような怪物は全く前例がないのだ。

 

 なるほど。この外殻はサラマンダーの外殻か。

 

 だが、その程度の外殻では私の拳は防ぎ切れまい。エンシェントドラゴン並みの外殻ならば粉砕されることはないだろうが、サラマンダーは普通のドラゴンに分類されている。

 

 貴様の顔面が粉砕されるのは変わらんのだよッ!!

 

「砕け散るがいいッ!!」

 

「うおッ!!」

 

 やはり、奴の剣が持ち上がるよりも先に私の拳が力也の顔面へと叩き込まれた。だが、殴った感覚がいつもとは違う。外殻を粉砕した感覚は全くせず、まるでエンシェントドラゴンの外殻を殴りつけたような感覚がするのだ。しかも、奴の顔面を覆っている外殻からは全く破片が飛び散っていない。

 

 私に殴りつけられた力也は、得物を手にしたまま自分が蹴破った窓ガラスから外の建物へと向かって吹っ飛ばされていった。だが、間違いなく奴は今の一撃で全くダメージを受けていないだろう。

 

 何なのだ、あの硬さは・・・・・・。

 

 明らかに普通のドラゴンの外殻ではない。あれはサラマンダーの外殻ではなく、エンシェントドラゴンの外殻の硬さだった。

 

「・・・・・・面白いではないか」

 

 私は何度も再生できる。

 

 奴はどんな攻撃も弾き飛ばせる。

 

 どちらも厄介な能力を持っているものだ。

 

 私は奴を殴りつけた拳の再生を終えると、にやりと笑ってから外に吹っ飛んでいった力也を追撃することにした。

 

 

 

 

 

 


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