異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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黒と紫の包囲網

 地面を覆い尽くす雑草たちと木の根。アラクネが潜んでいる森を仲間たちと共に進みながら、俺はラトーニウス王国の森の中を思い出していた。あの時は狼の群れやフランシスカという強敵と戦った。そしてオルトバルカのこの森の中では、既にアラクネという気味の悪い魔物と戦っている。

 

 多分、アラクネはさっき襲ってきた奴ら以外にもいるだろう。木の根が浮き出てでこぼこする地面を踏み越えた俺は、銃剣を装着したAN-94で正面と枝の上を警戒しながら進んでいく。さっきのアラクネたちは俺たちの頭上から奇襲しようとしてたからな。もしかすると、また頭上から襲ってくるかもしれない。

 

「そういえば、エミリアって苦手なのは幽霊だけなのか?」

 

「ああ、そうだ。………でも、フィオナみたいな可愛らしい幽霊ならば大丈夫だな」

 

『ありがとうございます、エミリアさん』

 

「じゃあ、さっきのアラクネみたいな気味の悪い魔物なら大丈夫ってことか?」

 

「ああ。あのような魔物とは何度も戦っている。さすがにアラクネとは戦ったことはないが………」

 

「強敵なのか? アラクネって」

 

『強敵です。あの外殻の防御力と糸で、何人も騎士団やギルドの人々がやられています』

 

 エミリアと俺の間を浮かんでついてきていたフィオナが、俺の隣へとやって来ながら言った。さっき戦った時は糸は使ってこなかったが、もし次にアラクネが襲いかかってきた時は警戒しないといけないな。

 

 それに、あいつらはアサルトライフルの弾丸を弾くほどの硬さの外殻を持っている。さすがにアンチマテリアルライフルやロケットランチャーは防げないだろうな。もしアサルトライフルや剣で攻撃する場合は外殻で覆われていない頭を狙うしかないだろう。もしくはパイルバンカーを至近距離で叩き込んでやるしかない。

 

『でも、アラクネはこの森に生息していないはずです』

 

「そうなのか?」

 

『はい。アラクネはもっと南の方の森にしか生息しません。この森はアラクネたちにとって寒すぎるはずです』

 

 この森の先にある山岳地帯を越えれば雪山がある。確かに、ラトーニウスの森よりも寒い所だ。

 

「魔物の狂暴化が原因か?」

 

「分からん。だが、魔王が倒されてから生息するはずのない魔物が入り込んできたという地域もあるらしい。恐らく、このアラクネたちもそうなんだろう」

 

 南からここまで北上してきたのか? どうしてだ? 狂暴化したからと言っても、自分たちの生息していた場所と全く違う環境の場所まで来るか?

 

「―――ん?」

 

「どうした?」

 

 薄暗い森の中で、何かが銀色に輝いたような気がした。森の中の木々があんな輝きを発するわけがない。アラクネかもしれないと思ったけど、あいつらの色は黒と紫の2色だ。

 

 俺はドットサイトの後方にブースターを展開すると、俺は照準をその輝きの見えた地点へと重ねて、それが魔物だった場合にすぐ弾丸を叩き込めるように準備しながらゆっくりと歩き始めた。

 

「これは………」

 

 ドットサイトとブースターの向こう側に見えてきたのは、魔物ではなかった。頭上に広がる木の枝と葉の群れを突破して森の中を照らす日光の下にあったのは、折れて地面へと突き刺さった両刃の剣の刀身のようだ。

 

 刀身は刃こぼれしていて、亀裂の入った銀色の刀身には紫色の体液のような汚れが付着している。恐らく、この剣の持ち主はこの近くでアラクネと戦ってたんだろう。アサルトライフルの弾丸を弾くような防御力の外殻だから、剣で挑めば間違いなく折れてしまう。体液が付着しているという事はダメージを与えたという事なんだろうな。

 

「剣か?」

 

「ああ、折れてた。……もしかして、フランツさんたちの?」

 

「そうかもしれないな。この辺を調査してみるか」

 

「ああ」

 

 AN-94を背中に背負い、エミリアは腰からペレット・サーベルを引き抜いた。左手にはホルダーから取り出したMP7を装備し、剣が刺さっていた周辺を調べ始める。

 

 俺もAN-94を構え直すと、剣が刺さっていた場所の近くに生えている木の陰を確認する。木の幹には紫色の体液の痕があり、剣かアラクネの爪のどちらかで付けられたと思われる傷も残っていた。

 

 ここでアラクネとの戦いがあったのは間違いない。アラクネの体液が残っているという事は、この剣の持ち主がアラクネに傷を負わせたという事だ。そして人間の血が見当たらないという事は、あの剣の持ち主はここでの戦闘で傷を負わなかったという事だろう。

 

 もしあの剣の持ち主がフランツさんだったならば、アラクネを相手に善戦したという事になるな。俺は安心しながらエミリアの方を振り向こうとしたその時、足元の緑色の草むらの中に、紅い何かが見えた。

 

 冷や汗を拭い去り、ゆっくりとしゃがみこんで雑草の葉にこびりついたその赤い何かを確認する俺。まさかこれは人間の血か? この草の葉だけでなく、他の草にもその紅い何かはこびりついている。

 

「おい、力也!」

 

「ん?」

 

 俺は立ち上がると、エミリアの方へと走った。彼女は何を見つけたんだろうか?

 

 地面から突き出た木の根を飛び越えながら突っ走ってエミリアたちと合流した俺。エミリアとフィオナの目の前には岩肌が広がっていて、そこに6mくらいの高さの穴が開いていた。

 

「ここを調べてみないか?」

 

「この洞窟を?」

 

 もしかするとアラクネの巣かもしれない。俺は背中からOSV-96を取り出してモニターを開き、洞窟の中にアラクネの反応がないか確認する。モニターにはいくつか赤い点が表示されていたけど、目の前の洞窟の中からの反応はない。反応があったのは左右や後の方だけど、この狙撃補助観測レーダーはOSV-96の射程距離である2km以内の敵をモニターに表示する。その反応との距離は1km以上離れていた。

 

 俺は頷くと、OSV-96を再び背中に背負い、端末を取り出してAN-94とMP7のカスタマイズでライトを生産すると、エミリアにもライトを渡し、武器にライトを取り付けてから洞窟の中へと進み始めた。

 

 ライトで正面だけではなく頭上も照らして警戒するけど、頭上には湿った岩があるだけだった。

 

「………!」

 

「どうした?」

 

「血だ………」

 

 俺はライトで右側の岩の壁を照らしながら言った。エミリアもMP7のライトで照らして確認する。右側の岩の壁に付着していたのはアラクネの紫色の体液ではなく、人間の紅い血の痕だった。

 

 フランツさんたちを仕留めたアラクネが、返り血をつけたままここに逃げ込んだのか? それとも傷を負ったフランツさんたちがここに逃げ込んだんだろうか?

 

 モニターにアラクネの反応はなかったから、多分後者だろう。俺はアサルトライフルを構えたまま、エミリアに「進んでみるぞ?」と言ってから再び進み始めた。

 

 ライトを洞窟の奥へと向けながら前へと進んでいく。目の前の右側の方の壁にまた血の痕を見つけた俺は、その血の痕を照らそうとライフルに装着したライトを向ける。

 

 その時、何かがライトの光を反射した。さっき森の中で折れた剣の刀身が銀色に輝いていたように、洞窟の中で何かが銀色に輝いていた。

 

「うう………! だ、誰だ………!?」

 

「………フランツさん?」

 

 呻き声を発したのは、その血の痕のある壁の近くに座り込んでいた、防具を身に着けた男性だった。体中は傷だらけで、傍らには折れた剣が置かれている。まさかさっき森の地面に刺さっていた剣はこの人の剣だったんだろうか?

 

 俺はもう一度「フランツさんですか?」と座り込んでいた男性に問いかけた。男性は呻き声を上げてから「ああ………俺だ」と答えた。

 

 この男性がクライアントの夫のフランツさんのようだ。俺はフランツさんに向けていた銃口を下げると、地面に座っているフランツさんに肩を貸す。

 

「大丈夫ですか?」

 

「君たちは………? 助けに来てくれたのか……?」

 

「はい。あなたの奥さんから依頼されました」

 

「奥さんがネイリンゲンで待ってますよ」

 

「そうか………」

 

 俺たちと共にゆっくりと洞窟の出口へと向かって歩き出すフランツさん。クライアントの話では、フランツさんはギルドの仲間と一緒に魔物の退治に森へとやってきたらしいけど、他の仲間はどうしたんだろうか? 

 

「アラクネに襲われたんですか?」

 

「ああ………。突然襲い掛かってきたんだ。みんな殺された………」

 

 フランツさんは脂汗を拭い去ると、悔しそうにそう言った。どうやら、フランツさんのギルドの仲間はアラクネの群れに襲われて全滅してしまったようだ。彼は右手に持っていた折れた剣を見つめると、もう一度脂汗を拭った。

 

 あの折れていた剣は、恐らくフランツさんがアラクネたちに一矢報いた時に折れてしまったんだろう。

 

 出口が段々と近付いてくる。この洞窟を脱出したら、あとはこの森を出て、フランツさんを馬に乗せてネイリンゲンまで戻ればいい。できるならば森を脱出するまでアラクネとは戦いたくないんだけど、MP7とサーベルを構えて先頭を歩いていたエミリアが立ち止まったのを見た俺は、左手でAN-94を構え、銃口を出口へと向けた。

 

 出口の向こうに黒と紫の気色悪い模様の魔物の群れが待ち構えているのが見える。銃を構えたまま出口の近くまで歩いた俺は、フランツさんを出口の近くに静かに座らせると、両手でAN-94を構え、銃口を外で待ち構えているアラクネへと向けた。

 

「フィオナ、フランツさんの手当てを頼む」

 

『わ、分かりました!』

 

「待て……。たった2人でアラクネの群れに挑むのは危険だ……!」

 

 フランツさんが俺の腕をつかむ。でも、フランツさんに肩を貸して、エミリアに守ってもらいながらアラクネの群れを突破するのは不可能だ。それに、フランツさんは俺たちが既に6体のアラクネを倒していることを知らない。

 

 激痛を抑え込みながらも腕に力を込め、俺を止めようとしてくれているフランツさん。俺は「大丈夫です」と答えると、俺の腕を掴んでいたフランツさんの腕をそっと握った。

 

「任せてください」

 

「ダメだ……! 俺の事はいいから、逃げてくれ……!」

 

 俺は腕を掴んでいたフランツさんの手を優しく引きはがすと、首を横に振りながら立ち上がり、洞窟の出口のところでMP7の銃口をアラクネたちへと向けているエミリアの隣に立った。

 

 洞窟の外は、やっぱりアラクネたちに包囲されていた。黒と紫の気色悪い模様の魔物が何体も外で蠢いているのが見える。

 

「―――行くぞ、力也」

 

「ああ」

 

 アラクネたちの外殻はアサルトライフルの弾丸を弾いてしまう。だから、アサルトライフルやPDWで攻撃するならば頭を狙わなければならない。

 

 ホロサイトでアラクネの頭に狙いを定めるエミリア。俺もドットサイトの照準をアラクネの頭へと合わせる。

 

 ドットサイトの向こうで俺に狙われているアラクネの顔が、ニヤニヤと笑っているように見えた。

 

「―――蜘蛛共が」

 

 静かに呟き、俺はトリガーを引いた。AN-94から2点バースト射撃で放たれた2発の5.45mm弾が、銃声と共に照準を合わせたアラクネの顔面へ叩きつけられる。高い防御力を誇る外殻に覆われていない顔面に弾丸を叩き込まれたアラクネは紫色の体液を吹き上げながら、森の中に崩れ落ちた。

 

 銃声の残響が森の中へと去っていく。俺はすぐに別のアラクネに2点バーストのヘッドショットを叩き込んでやるために、ドットサイトで次のアラクネへと照準をわせた。

 

 


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