異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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信也が父親になるとこうなる

 

 エイナ・ドルレアンはオルトバルカ王国の南側に広がるドルレアン領の中心地だ。領主の屋敷がある都市であるため統治下にある他の街よりも巨大で、商売のために訪れる商人は非常に多い。万が一王都が敵の攻撃で陥落した場合、王族を逃がして臨時の王都にする街の候補にも挙がっているほどだ。

 

 巨大な防壁の上や門の上に立ち、弓矢や剣を装備して見張りをする騎士団の騎士たち。剣は従来の騎士団で採用されているロングソードだが、弓矢の方はモリガン・カンパニーの技術分野で開発された新型のコンパウンドボウへと変更されている。従来の弓よりも性能が上がったこのコンパウンドボウのおかげで、騎士団の遠距離攻撃力は更に強化されており、魔物の掃討作戦も効率と生存率が上がっているらしい。

 

 彼らが警備している物騒な防壁の門を潜った先に広がるのは、昔のヨーロッパのような街並みだ。かつて何度も魔物に襲撃され、その度にドルレアン領の領主が騎士団を率いて守り抜いてきたこの街並みは、未だに魔物によって破壊されたことのない綺麗な街並みだ。

 

 魔物の返り血で汚れる役目を、騎士団たちが引き受けてきたからこそ、この街はまだ無傷で済んでいる。

 

 3年前に勇者が封印されてからは、なぜか魔物たちの凶暴化が止まり、街や拠点が襲撃される件数が激減している。そのため最近では騎士団の規模を縮小するべきではないかという意見も、議会の方で提唱され始めているらしい。

 

 軍縮されれば技術分野で生産されている武器の売り上げは落ちる。大企業の社長としては、商売が上手くいかなくなるのは面白くないことだが、利益と平和ならば俺は平和を選ぼう。俺はまだ27歳だが、子供たちはまだ6歳だ。この世界で生きる時間が長いのは、当然ながら子供たちなのだ。だからこそ平和を選ばなければならない。

 

 それに、モリガン・カンパニーの強みは技術分野だけではない。フィオナが開発し、現在は実用化のために試行錯誤を繰り返しているフィオナ機関という切り札もある。あれが実用化されればこの世界でも機械が発達し、産業革命が始まることだろう。

 

 暖かい風と共に、花の香りが飛び去って行く。俺は大通りから近くの路地へと入り込むと、数日前に降った雨水がまだ残る路地の中で懐中時計を取り出し、今の時刻を確認する。

 

 午前11時5分。あと1時間ほどでお昼になる。懐中時計を懐へと戻した俺は、少しだけ慌てて路地を後にすると、再び大通りを歩き始めた。

 

 鍛冶屋の看板の近くにある通りを右へと曲がり、一気に人気のなくなった小さな道を進んでいく。橋の上を渡ってから今度は左へと曲がり、街の真ん中へと向かって進んでいくと、先ほどの大通りほどではないけど道を歩く人の数も増えてきた。

 

 彼らの服装は庶民というよりは、立派なドレスやスーツに身を包んだ貴族たちだ。よく見ると彼らの服装だけでなく、周囲に屹立する建物も豪華で大きな屋敷の群れへと変わっている。

 

 その屋敷の群れの中に、1軒だけやけに新しい屋敷が建っていた。

 

 他の貴族の屋敷と比べれば小さいけど、その分庭や裏庭が広くなっている。裕福な貴族たちは屋敷の正面の門の前に警備の騎士を配置しておくことがあるんだけど、その屋敷の門の前には人影は見当たらない。その代わりに、どんな騎士よりも獰猛で恐ろしい無表情の門番たちが、奇妙な音を立てながら庭の上空を舞い続けていた。

 

 重機関銃を機体の下にぶら下げたドローンたちだった。広い庭の上を、まるでアンチマテリアルライフルのような大きなマズルブレーキが搭載されたロシア製のKord重機関銃を搭載したドローンたちが巡回している。もし侵入者や襲撃者が屋敷に入り込んできた場合は、すぐにその12.7mm弾で粉々にしてしまう恐ろしい番人たち。小型のドローンにこんな恐ろしい武器を搭載する男の事を思い出しながら、俺は屋敷の正面の門をそっと開けた。

 

 すると、門を開けた俺の目の前へと群れの中から1機のドローンが急降下してきた。銃口と機関銃の左右に搭載されているセンサーを俺へと向けながら数秒間俺の目の前で滞空すると、この屋敷へと入り込むことを許可したかのように再び上昇し、自分に与えられた仕事を再開し始める。

 

 無人兵器を警備に使うのは、俺たちが所属しているギルドの規模が小さすぎるからだ。最盛期でもメンバーはたった9人だけだったんだけど、いくら1人で騎士団の一個大隊並みの戦力を持っているとはいえ、そのメンバーの中の数人に屋敷の警備を任せるのは効率が悪すぎる。だから無人兵器を転生者の端末で大量に生産し、警備を彼らに任せていたんだ。

 

 最近はメンバーたちが集まる回数も減ってしまったため、なおさら警備は無人兵器たちに任せなければならないのだろう。

 

 重機関銃をぶら下げたドローンたちが舞う庭を通過した俺は、玄関のドアを左手でノックした。相変わらず俺の左手はサラマンダーの外殻に覆われたままになっているため、ドアをノックすると普通の人間がノックするような音ではなく、まるで金槌でドアを叩いたような音がする。

 

 長年一緒に傭兵をやって来た兄弟ならば、この普通とは違うノックの音で来訪者の正体を察してくれることだろう。

 

(はーいっ!)

 

 屋敷の中から聞こえてきたのは、聞き慣れた女性の声だった。しばらく玄関のドアの前で上空のドローンを見上げながら待っていると、ノックした玄関のドアがゆっくりと開き、大きなドアの向こうからフードの付いた黒い制服に身を包んだ銀髪の女性が顔を出した。

 

 彼女の銀髪から突き出ている耳は人間よりも長い。肌が白いからエルフのようにも見えてしまうが、彼女は人間とエルフの間に生まれたハーフエルフの女性だ。胸元が開いた黒い制服を身に着けている彼女の喉元には、10年前からずっと消えない禍々しい傷跡が残っている。

 

 その傷のせいで二度と声を出す事ができなくなっても、彼女はいつも明るい。彼女が仲間になったばかりの時は暗かったんだが、俺の弟と出会ってからは今のような明るい性格になってくれた。

 

「やあ、ミラ」

 

(あ、力也さん!)

 

 長い耳をぴくぴくと動かしながらにっこりと微笑んだ彼女は、俺を屋敷の中へと案内してくれた。

 

 屋敷の中は、かつてネイリンゲンにあったモリガンの屋敷にそっくりだった。入口の右手には通路があって、その通路の先にはキッチンがある。キッチンに行く通路の途中にある地下への階段の先にあるのは、おそらくあの屋敷の地下にあった地下室を再現した射撃訓練場なんだろう。左の方には2階へと続く階段があって、その踊り場には剣を持った騎士が描かれている絵画が掛けられている。

 

 ミラと共に2階へと上がった俺は、2階にある部屋のドアを見つめながらネイリンゲンの屋敷を思い出していた。勇者の核ミサイルによって破壊されてしまったあの屋敷の構造と、この屋敷の構造はほとんど同じだ。2階には書斎や応接室があって、廊下の隅の方には小さな部屋がある。あの屋敷ではフィオナが研究室に使っていた部屋だが、この屋敷では物置に使っているらしい。

 

 応接室に連れて行かれると思っていたんだが、どうやらミラは俺を3階まで連れて行くつもりらしい。彼女の後に続いて階段を上って行った俺は、そのまま3階にある部屋のドアの前までついて行った。

 

(シン、お客さんだよ)

 

「はーい」

 

 ドアの向こうから聞こえる懐かしい声。この異世界で出会ったばかりの頃と比べると随分と低くなったけど、確かにドアの向こうから聞こえたのは、俺の弟の声だった。

 

 ミラがドアを開け、俺を部屋の中へと招き入れる。彼女の後に続いて部屋の中へと足を踏み入れた俺は、まるで今はもう廃墟となったネイリンゲンの屋敷で過ごしていたあの時に戻ったような気がして、目を見開いてしまった。

 

 部屋の中では、ソファに腰を下ろした男性が、傍らに腰かけている小さな黒髪の少女に絵本を読んでいるところだった。彼の隣で絵本の絵をじっと見つめている少女の顔つきは幼少期の弟のように気弱そうで、少し長めの黒髪の左右からは母親と同じく長い耳が伸びている。

 

 彼女の名はノエル・ハヤカワ。信也とミラの娘で、種族は人間ではなくハーフエルフということになっている。かつて気が弱かった頃の両親に似たのか、彼女も気が弱く、身内でも見慣れていない人間は怖がってしまうらしい。

 

 あまり見慣れない男が母親と一緒に入って来たことに驚いたらしく、その幼い少女は隣に座らせていたクマのぬいぐるみを抱えると、隣で絵本を読んでいた父親の後ろに素早く隠れてしまった。

 

 確かに彼女とはあまり会ったことはないんだけど、怖がり過ぎじゃないか?

 

「ノエル、大丈夫だよ。この人はパパのお兄さんなんだ。覚えてるかな? 力也おじさんだよ?」

 

「う・・・・・・」

 

「はははっ。・・・・・・ごめんね、兄さん。この子は怖がりなんだ」

 

「仕方ないさ。気が弱い子供だっているもんだ」

 

 ぬいぐるみを抱えたまま自分の後ろに隠れている2歳の娘の頭を撫でながら、私服姿の信也はそう言って笑った。右手だけを真っ黒な革の手袋で覆っていることを除けば、普通の優しそうな父親と同じだ。

 

 彼が右腕を失ったのは3年前だ。勇者を倒すためにファルリュー島へと総攻撃をかけるきっかけとなったネイリンゲンへの核攻撃で、あの屋敷にいた信也は、ミラを庇って右腕を失った。

 

 彼の向かいのソファに腰を下ろしながら信也の右手を凝視していると、信也は娘の頭を撫でるのを止め、そっとその黒い革の手袋を外した。

 

 3年前に失ってしまった右腕の代わりに姿を現したのは、まるで漆黒の金属のようなものに覆われた義手だった。騎士団の鎧で覆われているようにも見えるけど、よく見るとその漆黒の表面には血のように紅い奇妙な模様が浮かび上がっている。

 

 左足を失って義足を付けている俺のように、彼も右腕に義手を移植していた。彼が身体に移植した義手の素材には、キングアラクネと呼ばれる危険な魔物の素材が使われているらしい。

 

 キングアラクネは様々なアラクネの変異種の中でも最強と言われている。普通のアラクネとは違い、巨大な蜘蛛と甲冑に身を包んだ男性の騎士を融合させたような姿をしているキングアラクネは非常に凶悪な魔物で、捕食するために襲い掛かってくるドラゴンを返り討ちにしてしまうこともあるという。また、普通のアラクネは口や胴体から糸を出すんだが、このキングアラクネは指先からワイヤーのような糸を射出し、獲物を捕らえるのではなくバラバラに切り裂いてしまうらしい。

 

 信也の義手には、そのキングアラクネの外殻と骨格と筋肉繊維が使われている。もちろんワイヤーのような糸を射出する機能もそのまま移植されているため、彼は自分の右腕から自在に凄まじい切れ味のワイヤーを生み出す事ができるというわけだ。

 

 ワイヤーを使って戦う信也には、うってつけの義手だ。

 

「変異は?」

 

「今のところは問題ないね。僕はまだ人間だよ」

 

 あれから3年も経過して完全に馴染んでしまったため、もう血液は投与していないようだ。俺は移植した義足が馴染んでからすぐに変異を起こしてしまったんだが、信也は特に変異はしていないらしい。

 

 今のところ、変異の影響でキメラになってしまったのは俺とタクヤとラウラの3人だけということか。

 

「ところで、フィオナちゃんがすごい物を作ったらしいね」

 

「ああ。魔力で動く装置だ。蒸気機関みたいなもんだな」

 

「さすがフィオナちゃんだね」

 

「まだ試作型でテストしてる段階だがな。実用化されたら、この世界で産業革命が始まるぜ」

 

「それは楽しみだ」

 

 再び手袋で右手を隠し、まだ俺を怖がる愛娘の頭を撫で始める信也。娘が他人を怖がる姿を見て微笑むミラが持って来てくれた紅茶のカップを持ち上げた俺は、少しだけ紅茶を冷ましてからカップを傾けた。

 

「そういえば、そっちの調子はどうだ?」

 

「魔物退治の仕事は減って来たけど、盗賊団の殲滅とか荷馬車の護衛の依頼が増えてるよ」

 

「魔物の次は人間か・・・・・・」

 

(この前は久々に転生者が出て来たしね)

 

 珍しいな。久しぶりに転生者が出て来たのか。

 

 何人もの転生者が参戦したあの転生者戦争で、多くの転生者が戦死した。特に勇者側に参戦した転生者は負傷兵でも容赦なく銃殺されたし、命乞いをする奴らも殺されたため、勇者の手下として戦った転生者たちの生存者はゼロとなっている。あの戦いで一気に転生者の数が減ったため、今では転生者と出会って戦うのは珍しい。

 

 でも、どうせ瞬殺したんだろ? 信也のワイヤーを一番最初の戦いで見破るのは不可能だし、きっと威勢の良い事を言った直後にバラバラにされたに違いない。

 

「それで、瞬殺したのか?」

 

「うん。相手が威勢の良い事を言っているうちにワイヤーを首に巻き付けて――――」

 

「おい、ノエルが聞いてるんだからな」

 

 瞬殺したんだな。

 

 でも、信也。近くで2歳の娘が聞いてるんだぜ? 質問しなければよかったとは思っているんだが、ただでさえ気の弱い娘が聞いてるんだからあまりグロい話は止めよう。俺が悪かった。

 

「はははっ。―――――そういえば、ラウラちゃんとタクヤ君は元気?」

 

「ああ。ラウラは甘えん坊だし、タクヤは悪ガキだ。いつの間にか俺の皿の上にサラダをどっさりと・・・・・・」

 

「あはははははっ。何だ、昔の兄さんにそっくりじゃないか」

 

「あ? 俺って悪ガキだったっけ?」

 

「そうだよ、覚えてないの? 小学校の時に僕を虐めてた上級生の点数の低いテストの答案用紙をこっそり盗み出して、朝早くに黒板に貼って大恥をかかせたりしてたじゃん」

 

 そうだな。俺も悪ガキだった。

 

 信也が小学3年生の時に虐めてた奴の答案用紙を、そいつの家に遊びに行かせた後輩にこっそり盗み出させて、10点の漢字テストの答案用紙をそいつの教室の黒板に貼り付けてやったことがあった。

 

 もしかすると、タクヤは悪ガキだった頃の俺に似たのかもしれない。

 

(あら、力也さんって悪ガキだったんですね)

 

「今は違うぞ?」

 

 笑いながら再び紅茶のカップを持ち上げ、中に入っている紅茶を全て飲み干す。空っぽになったティーカップを片付けてくれるミラに礼を言った俺は、3週間ぶりに会った弟になにか話をしようと話題を探していたんだが、耳に装着していた小型の無線機から聞こえてきた幼い少女の声が、話題を探す俺の邪魔をした。ガルちゃんの声だろうか。何だか焦っているように聞こえる。

 

 緊急事態でも発生したのだろうか。大慌てで『リキヤ、大変じゃ!』と叫ぶガルちゃんの声を聞いた俺は、顔を強張らせながらちらりと信也の顔を見た。

 

「ガルちゃん、どうした?」

 

『タクヤとラウラが・・・・・・さ、さらわれてしまったッ!!』

 

「――――は?」

 

 何だって? 

 

 子供たちが・・・・・・さらわれた!?

 

『エリスと私と子供たちの4人で買い物をしている最中に、子供たちがいなくなってしまったんじゃ!!』

 

「お、落ち着け。はぐれたわけじゃないのか? 迷子じゃないよな?」

 

『そんなわけあるかッ!』

 

『ダーリン、ごめんなさい・・・・・・! 子供たちが・・・・・・!!』

 

「分かった、すぐに王都に戻る。警備分野の社員と騎士団に大至急連絡するんだ! それと、エミリアにも連絡を入れてくれ!」

 

 なんてことだ。子供たちが・・・・・・!

 

 俺たちの子供たちは無事なのか? 一体誰がさらったんだ? 身代金が目的なのか? 俺の子供だと知っている奴ならば身代金を目的にするだろうし、急成長を続けているモリガン・カンパニーを煩わしく思っている貴族ならば人質にしてくるだろう。

 

 どちらにせよ、子供たちを連れ去るような輩に容赦をするつもりはない。見つけたら全員皆殺しだ・・・・・・!

 

「・・・・・・信也、紅茶をありがとう。王都に戻らなければ」

 

「僕らも行くよ、兄さん」

 

「ありがたいが・・・・・・お前たちは子供の傍にいてやれ」

 

 気の弱い子供なんだ。両親として傍にいたほうがいい。

 

 俺はそう言うと、ソファの上に置いてあったシルクハットをかぶり、信也たちの屋敷を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 ハーレーダビットソンWLAに乗ってエイナ・ドルレアンから王都ラガヴァンビウスまで全力疾走した俺は、防壁の門を潜る直前でバイクをドリフトさせながら端末を取り出してバイクを装備から解除すると、子供たちが姿を消してしまったという大通りまで紳士の格好をしたまま突っ走った。

 

 そう言えば、数ヵ月前に2件ほど幼い子供が何者かに連れ去られた事件が王都で発生したことがある。朝に紅茶を飲みながら読んでいた新聞にその事が書いてあったのを思い出しながら、俺は大通りを突っ走り続けた。

 

「リキヤ!」

 

「ダーリン!」

 

「ガルちゃん! エリス!」

 

 エイナ・ドルレアンから王都まで全力疾走したんだが、かかった時間は約20分。連れ去られた時間はおそらく今から30分ほど前だろう。

 

 子供たちはどこに連れ去られた? まさか、もう別の街まで連れて行かれたのでは・・・・・・?

 

「騎士団に連絡は?」

 

「ええ、もう済ませたわ。・・・・・・ごめんなさい、ダーリン・・・・・・私のせいで、子供たちが・・・・・・!」

 

「落ち着け、大丈夫だ。俺が必ず連れ戻してくるから」

 

 子供たちを連れ去られたショックで泣き崩れそうになるエリスを抱き締めて落ち着かせながら、俺は彼女の近くで囁いた。だが、子供たちはどこへ連れて行かれたのか全く分からない。どうやらこの辺りを歩いていた時にいなくなっていたらしいんだが、人込みの真っただ中だし、手掛かりはなにも見つかりそうにない。

 

 落ち着こうとしているんだが、俺も動揺しているらしかった。

 

「・・・・・・ん?」

 

 冷や汗を拭いながら落ち着こうと足掻いていると、大通りの上に金色に煌めく何かが転がっているのが見えた。地面をびっしりと覆っている灰色のレンガとレンガの間に挟まっている何かが、大通りの上で金色に輝いている。

 

 あれは何だ? 金貨か? 石ではないぞ?

 

 エリスから手を離した俺は、素早くしゃがんでその光っている何かを拾い上げた。どうやら金貨ではないようだ。指くらいの太さの金属の小さな筒で、中からは微かに火薬の臭いがする・・・・・・。

 

 これは――――銃弾の薬莢だ。サイズが小さいからライフル弾ではなく拳銃弾だろう。おそらく、子供たちが訓練で使っているリボルバーの弾薬の薬莢だ。

 

 ラウラはスナイパーライフルを好んで使うため、リボルバーやハンドガンはあまり使わない。逆に、リボルバーを多用するのはタクヤの方だ。

 

 きっと、連れ去られる最中に、咄嗟にタクヤが道にばら撒いて行ったんだろう。

 

「さすがだな・・・・・・頭の良い奴だ」

 

 これならば、子供たちの居場所が分かるかもしれない。

 

 空になった.44マグナム弾の空の薬莢を拾い上げた俺は、その薬莢を思い切り握りしめた。

 

 

 

 


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