ミサイルサイロの底で、勇者と名乗っていた男が呻き声を上げていた。俺が先ほど彼をそこまで落とした際に叩き込んだ拳によって顔面の骨は砕かれているし、落下した際に肋骨を何本も折ってしまったようだ。おそらく、内臓も滅茶苦茶になっていることだろう。
無様な勇者の姿を嘲笑いながら、俺はミサイルサイロの壁面に用意されているキャットウォークの上へと飛び降りた。ミサイルサイロの中を支配する猛烈なミサイルの燃料の臭いを嗅ぎながら別のキャットウォークへと飛び移り、ミサイルサイロの底で呻いている勇者の傍らへと飛び降りる。
傷口は早くも再生を始めているようだが、かなり身体の中はズタズタにされているらしい。脇腹からは折れた血まみれの肋骨が突き出ているし、右腕は後ろへとかなり曲がっている。
「ぐ・・・・・・がぁ・・・・・・がっ・・・て、てめえ・・・・・・!!」
「無様だな、勇者」
「うぐっ!?」
外殻がガントレットのように変異している左腕でまだ再生している最中の勇者の首を掴んだ俺は、そのままボロボロの身体になっている天城の身体を持ち上げた。このまま首を握りつぶしてもすぐに再生するだろうから、このまま首を絞めておくことにしよう。そっちの方が苦しいだろう。
巨大な左手を掴み、両足を必死に振り回す勇者。何度も俺の腹を蹴ってくるが、訓練して鍛え上げた俺の腹筋とサラマンダーの外殻を突き破れるほどの威力はない。こいつが本気で蹴りを出してくれば吹っ飛ばされるかもしれないが、それでも俺の外殻を砕くことは出来ないだろう。
「チートを使ってる奴が、なんで普通の転生者(プレイヤー)の負けてるんだ?」
こいつも他の転生者と同じく、自分の能力に頼っていたのかもしれない。転生者が使う事ができる能力は非常に強力で、魔物や騎士団を圧倒する事ができる。凶暴な肉食獣が子ウサギの集団を蹂躙するのと同じだ。転生者の戦闘力の前では、騎士団の精鋭部隊は子ウサギでしかない。
だからこそ、そんな強敵を倒そうとする騎士たちは頭を使う。どんな作戦ならば有利になるのか。どうすれば敵の能力を封じる事ができるのか。自分たちの戦力で出来る作戦を必死に立案し、彼らは戦いに挑むんだ。
だが、転生者は蹂躙するだけだ。だから作戦を全く気にしない。自分の能力とステータスを当てにして、正面から突っ込んで蹂躙するだけだ。相手の攻撃は通用しないし、こっちの攻撃は一発で何人も一気に吹き飛ばせるのだから、作戦を考える必要性が無い。突っ立ったまま剣を振り回し、魔術を放ち続けていれば最終的には自分が勝てるから、彼らは作戦を立てることはない。
だから、転生者の技術はなかなか成長しない。転生者でありながらそのような技術が高い奴は、全く油断しないような奴か、そういう戦い方が好きな奴だけだ。
おそらく俺は前者で、信也は後者だろう。
こいつもきっと他の転生者と同じだ。どうせ魔王との戦いでも、このチートを頼りにして瞬間移動で魔王の目の前から姿を消し、あっさりと倒してしまったんだろう。
こんな奴が勇者なのか。
こんなくだらない奴が勇者なのか。
その時、俺の左手が掴んでいた筈の勇者の首が消えた。俺の腹を必死に蹴っていた両足も、急に俺の腹に飛んで来なくなる。
また瞬間移動を使ったらしい。
『ミサイル発射まで、あと1分。エンジンを始動します。作業員は、ただちにサイロ内から退避してください』
「拙いな」
そろそろサイロの中から逃げた方がよさそうだ。早く逃げなければ、これから打ち上げられる核ミサイルのエンジンの炎で丸焼きにされてしまう。おそらくこの外殻ならば耐えられるかもしれないが、逃げた方が良いだろう。
再びジャンプしてキャットウォークの上に飛び乗りながら、俺は天城を探した。あのクソ野郎は、今度はどこに瞬間移動しやがった? すぐに奴を撃ち抜けるようにプファイファー・ツェリスカをホルスターから引き抜きながら、俺はジャンプしてミサイルと接続されていた太いケーブルを掴み、先ほど俺が天城を吹っ飛ばして開けた大穴へとよじ登っていく。
俺の体重と重装備でケーブルが千切れてしまわないか心配だったが、ミサイルから離されたこのケーブルは思ったよりも頑丈だった。外殻と爪でケーブルの被覆に傷をつけながらよじ登り、そこから上にあるキャットウォークへとジャンプする。
「よう、魔王様」
「!!」
そのキャットウォークの上で、天城が待っていた。
傷口は既に再生を終えていた。脇腹から突き出ていた血まみれの肋骨は見当たらないし、腕もちゃんと元通りになっている。そしてその元通りになった右腕には、チートによってフルオート射撃のように連続で.454カスール弾を放てるようになったマテバ6ウニカが握られていた。
銃口を俺に向けてくる天城。俺は早撃ちが得意なんだが、キャットウォークに着地した直後だったため、さすがに咄嗟に早撃ちで反撃するのは不可能だった。俺は奴の銃撃を回避してから反撃しようとしたんだが、ジャンプする前に天城がトリガーを引いたため、俺は腹に.454カスール弾を喰らう羽目になった。
「ぐっ・・・・・・!」
衝撃に突き飛ばされ、俺はキャットウォークの淵まで吹っ飛ばされてしまった。何とかキャットウォークに左手の爪を喰い込ませて、そのままエンジンの噴射が始まった影響で火の海になったサイロの底へと突き落とされるのだけは防いだが、このままでは天城に止めを刺されてしまう・・・・・・!
何とか這い上がろうと腕に力を込めていると、神経を逆なでするようなあの嘲笑を浮かべながら、天城がキャットウォークから俺を見下ろしていた。このまま俺の頭に弾丸を撃ち込み、あの日の海の中へと突き落とそうとしているのだろうと思っていたんだが、天城は俺に向けていた銃口を下ろすと、俺がキャットウォークを掴んでいる左手に向かって、トリガーを引き始めた。
今の俺の身体は硬化している状態だ。エンシェントドラゴンほどではないが、大口径の銃弾を弾き飛ばせるほどの防御力がある。だから、.454カスール弾を至近距離で叩き込まれたとしても、この外殻が抉られることはない。
「力也、しっかりしろっ!!」
「エミ・・・・・・リア・・・・・・!」
「待っていろ、今援護する!」
天城が吹っ飛ばされてきた穴からそう叫んだ彼女は、先ほどあの広間での戦闘で俺が投げ捨てたシャープシューターを構えていた。6.8mm弾の狙撃で援護してくれるらしい。
俺の左手に向かってリボルバーを撃っていた天城は、左手でホルスターの中からもう1丁のマテバ6ウニカを引き抜くと、その銃口を上でマークスマンライフルを構えているエミリアへと向けた。
エミリアの放った6.8mm弾が、キャットウォークの床に激突して金属音を響かせる。外してしまったわけではない。またしても天城が瞬間移動で姿を消してしまったんだ。
そのおかげで俺は何とかキャットウォークの上に上る事ができたんだが、また天城を探さなければならなくなってしまった。だが、おそらくもうこのミサイルサイロの中にはいないだろう。あと40秒経過すると、このミサイルサイロの真ん中に鎮座している巨大な
すると、俺が今から振り向こうとしていた方向から銃声が聞こえてきた。今の銃声はシャープシューターの銃声ではなく、マテバ6ウニカの銃声だ。どうやら俺の予想は当たっていたらしい。
俺は思い切り上にあるキャットウォークの上までジャンプすると、そのまま巨大な円柱状になっているミサイルサイロの壁に向かって突っ走った。瞬時に左足から義足のブレードを展開すると、それを壁に突き刺して壁を駆け上がり、天城が壁に開けた大穴に手を引っ掛ける。
何とか広間の中へと戻った俺の目の前では、やはりエミリアとエリスとフィオナが、天城と戦っている最中だった。あのままあそこでエミリアに反撃するよりも、こっちで接近戦をやった方が安全だと天城は判断したんだろう。
『ミサイル発射まで、あと20秒』
こいつはチートを使っている。どんな攻撃を叩き込んだとしても、何とかチートを解除しない限り倒すことは出来ないだろう。
俺はプファイファー・ツェリスカの銃口を天城の背中へと向けると、すぐにトリガーを引いた。動き回るエミリアとエリスに向かってすさまじい速度で.454カスール弾をぶっ放し続けていた天城の肩甲骨の辺りに大穴が開き、反対側からは粉砕された肩甲骨の破片と肉片が噴き出す。
「ぐっ!?」
「ダーリン!」
リボルバーをホルスターの中に戻しつつ全力疾走。天城が呻き声を上げながら傷を再生しているうちに、一気に背後から接近する。
右側の肩甲骨を撃ち抜かれた天城は、動かなくなってしまった右腕ではなく、左腕を俺へと向けてリボルバーの弾丸を放ってくる。何発か俺の外殻に突っ込んできたが、やはり貫通はしなかった。戦車の装甲に向かってアサルトライフルを撃ったような金属音が響き渡り、火花が散るだけだ。
次々に弾丸を跳弾させながら俺は天城に向かって突っ込む。天城はリボルバーを投げ捨て、大慌てで腰の鞘からバスタードソードを引き抜いたが、もうパンチを放てばクソ野郎の身体を殴りつけられる距離まで俺はもう接近していた。この距離ならば、バスターソードは使い物にならない。
剣を振り回そうとしていた天城の手首をつかみ、右手で天城が纏っている白い制服の襟を掴んでから、俺はこのクソ野郎をミサイルサイロの方へと再び投げ飛ばした。天城の持っていた剣が床に突き刺さり、金属音を立てる。
俺に吹っ飛ばされた天城は、床に激突して転がり、そのまま壁の穴からミサイルサイロの底へと転がり落ちていく。あのまま落下すればミサイルのエンジンから吹き出す炎と高熱が支配する火の海へと落下するだろうが、それではあの男は死なないだろう。
「エミリア、援護を頼む」
「待て、何をするつもりだ? もうミサイルは――――」
そう。もうミサイルが発射されるまで10秒くらいしかない。
「・・・・・・あいつにプレゼントを渡してくるだけさ」
銃弾を散々弾き飛ばした外殻で覆われている左手でエミリアの頭を優しく撫でた俺は、彼女の傍らでまだ心配そうな顔をしているエリスとフィオナの顔を見つめてから頷くと、武器をホルスターから引き抜かずに、そのまま再びミサイルサイロへと向かって突っ走った。
壁の穴から再びミサイルサイロの中へと飛び降りる。キャットウォークに着地して床をへこませ、再びジャンプして別のキャットウォークへと飛び移った俺は、ジェットエンジンの噴射で真っ赤に染まっている床を見下ろした。
天城はその火の海の中に落下したわけではないようだ。もし落下していたら俺もあの中に飛び込んで、あのクソ野郎を引っ張り上げる羽目になっていただろう。
広いミサイルサイロの中を見渡していると、俺のいるキャットウォークの右側に垂れ下がっているケーブルに、白いマントを纏った男が必死にしがみついているのが見えた。
見つけたぞ、天城・・・・・・。
俺はにやりと笑うと、キャットウォークの鉄柵を飛び越えて別のキャットウォークに飛び移り、ケーブルにぶら下がっている天城の近くまでやってきた。俺がキャットウォークに着地した音で俺がやってきたと気付いた天城は、怯えながら下にいる俺を見下ろしてきた。
何だ? チートを使っているから死なないんだろ? 何で怖がってんだよ。
勇者が魔王を見てビビってんじゃねえよ。
俺はにやりと笑いながら天城を見上げ、腰のホルスターからプファイファー・ツェリスカを引き抜いた。シリンダーの中に残っている.600ニトロエクスプレス弾はあと2発だ。
『ミサイル発射まで、あと10秒』
『同志ハヤカワ、攻撃目標の変更が完了しました!』
「よくやった、李風!」
ギリギリだな。だが、これで核ミサイルがこの世界で爆発することはない。
安心した俺は制御室の窓に向かって親指を立てた。窓ガラスの向こうで応戦を続けている李風たちは、ヤークト・サラマンドルの姿になった俺を見て少しびっくりしたようだったが、すぐに俺に向かって敬礼をすると、制御室を奪還しに来た敵との戦闘を再開した。
俺は安心すると、施設内に響き渡るカウントダウンのアナウンスを聞きながら、プファイファー・ツェリスカの銃口を天城がぶら下っているケーブルへと向け、トリガーを引いた。
太いケーブルだったが、銃弾を防ぐ事ができるケーブルなど存在するわけがない。あっさりと分厚い被覆を食い破った.600ニトロエクスプレス弾はケーブルの中の配線を食い千切り、ケーブルに大穴を開けると、ぶら下っている男を連れたまま真下にある火の海へと落下を始めた。
すぐに左手を伸ばし、落下していくケーブルから天城のクソ野郎を引き剥がす。一瞬だけ俺に助けられたのではないかと勘違いした天城が俺の顔を見上げてくるが、当然ながら助けたわけではない。このまま落下させてもこいつは死なないし、俺たちの復讐は達成されない。
死なないのならば、苦痛を与えるまでだ。
俺は天城の身体を掴んだまま、カウントダウンのアナウンスの中で打ち上げられようとしている巨大な柱のようなミサイルを見上げた。天城は俺が何をするために助けたのか理解したらしく、大慌てで俺から逃げようとする。
瞬間移動で逃げられるわけにはいかない。俺はすぐにキャットウォークからジャンプして目の前の核ミサイルの胴体に飛びつくと、天城を抱えたままミサイルの外壁を駆け上がり始めた。
「て、てめえ! 何を考えてるんだ!?」
「魔王様から頑張った勇者くんにプレゼントだ」
「は、離せ! 離せぇッ!!」
離すわけないだろ。
ミサイルの外壁をへこませながらついに巨大な核ミサイルの先端部まで来た俺は、義足のブレードをミサイルの表面に突き立て、尻尾の先端部もミサイルに突き刺して転落しないようにしてから、ミサイルの先端部から伸びているレイピアのようなアンテナへと、担いでいた天城の身体を放り投げた。
勇者と呼ばれた男の背中に、ミサイルの先端部から伸びるアンテナがめり込む。まるでレイピアの切っ先のように肉に突き刺さったそのアンテナは、折れずにそのまま天城の背中までめり込んだ。
「うがぁッ!?」
「てめえは―――――宇宙(シベリア)送りだ」
どうせ核ミサイルが爆発しても死なないんだろ?
口から血を吐きながら身体を痙攣させる天城。何とか突き刺さっているこのアンテナを引き抜いて逃げようとしているようだが、ミサイルの発射まであと3秒だ。重傷を負った状態でそんな短時間にこのアンテナを引き抜き、逃げられるわけがないだろう。
天城は血で真っ赤になったアンテナから手を離すと、その苦しんでいる様子を嘲笑しながら見下ろしている俺に向かって手を伸ばしてきた。
「た、助けて・・・・・・! 頼む・・・・・・!! 助けてくれぇ・・・・・・!!」
「―――――却下だ」
冷たい声でそう言った俺は、ミサイルに突き刺していたブレードと尻尾を引っこ抜き、ミサイルの先端部から飛び降りた。
こいつのせいで、仲間たちが何人も死んだ。それにリョウも犠牲になった。
だから苦しめ。死なないのならば、苦しんだまま宇宙旅行にでも行って来い。
キャットウォークの鉄柵に手を引っ掛け、そのまま広間の穴へと向かって思い切りジャンプする。ジェットエンジンの炎で橙色に照らされている広間の中へと転がり込んだ俺は、中で見守ってくれていたフィオナと妻たちを抱え、壁の穴の影へと飛び込んだ。
『ミサイル、発射』
無表情なアナウンスが、ミサイルの発射を告げた。
その直後、ミサイルサイロの中に鎮座していた核ミサイルが、振動しながらゆっくりと上昇し始めた。もちろん、先端部には勇者が突き刺さったままだ。
巨大なエンジンから火柱のように炎を噴射し、ミサイルサイロの中に猛烈な煙を置き土産として残しながら、この世界に向かって放たれる筈だった勇者の核ミサイルが打ち上げられていく。
俺はフィオナと妻たちをぎゅっと抱きしめ、壁の穴から流れ込んできた高熱から彼女たちを庇った。サラマンダーは元々炎属性のドラゴンだから、ミサイルの噴射の熱には耐えられるようだ。
やがて、炎の代わりに煙が入り込んでくる。妻たちから手を離した俺は、咳き込みながら壁の穴があった場所へと向かい、ロケットのように打ち上げられていったミサイルを見上げた。
巨大な白煙の槍が、天空へと向かって突き進んでいく。やがて蒼空の中に浮かんでいた白い雲を突き破り、そのまま巨大な雲の中へと消えていった。
「あばよ、クソ野郎」
これで、きっと死んでいったみんなも安心してくれるだろう。煙が薄れていくミサイルサイロの中から蒼空を見上げながら、俺はそう思った。
リョウたちは奴に利用され、核兵器を作ってしまった。そしてあのクソ野郎はリョウたちが集めたデータを使って核ミサイルを作り、ネイリンゲンの人々を虐殺しやがった。
ぶち殺してやりたかったが、チートのせいで死なないのならば、核ミサイルと一緒に宇宙旅行をプレゼントしてやるだけだ。
二度と帰ってくるんじゃねえぞ。
効果を解除しながら、俺はまだ煙の臭いがする空気を吸い込んだ。勇者を殺すことは出来なかったが、これでみんなの仇は取る事ができただろう。
そう思って煙の臭いがする空気を吐き出そうとしたその時だった。
「?」
背後から、何かに突き飛ばされたような感じがした。何かに突き飛ばされたのだろうかと思いながら後ろを振り向こうとするが、今度は背中と腹の辺りで何かに貫かれたかのような激痛が膨れ上がり始める。
エミリアたちがいたずらしたわけではないだろう。妻たちがこんなことをするわけがない。
「―――――よう、魔王様」
「なっ・・・・・・!?」
すぐ後ろから聞こえたのは、間違いなく憎たらしい勇者の声だった。
信じられない。奴はあの核ミサイルと一緒に今しがた打ち上げられていった筈だ。腹を先端部のアンテナに貫かれる重傷を負っていたから、すぐに瞬間移動は使えないと思っていたんだが・・・・・・。
ぞっとしながら後ろを振り向いてみると、傷口の再生を既にすべて終えた天城が俺の後ろに立っていた。アンテナに貫かれていた腹の傷はもうすっかり塞がっていて、真っ白な制服からは血痕も消え去っている。俺たちと戦い始めた時と何も変わらない姿の勇者が、俺の背後に立ち、腰に下げていたバスタードソードを俺の背中に突き刺していたんだ。
「ば、馬鹿・・・・・・な・・・・・・・・・! あの傷で・・・瞬間移動を・・・・・・・・・!?」
「瞬間移動できないと思ったか? 残念ながら、傷は関係ないんだ。俺が使いたいと思った瞬間に自由に使えるからなぁ」
「力也ぁっ!!」
「ダーリン・・・・・・嘘でしょ・・・・・・!?」
『力也さんッ!!』
仲間たちの悲鳴が聞こえる。
俺はすぐにこの剣を引き抜こうとするが、両腕になかなか力が入らない。まるで先ほどアンテナを体から引き抜こうとしていた天城のようだ。
痙攣する両腕で足掻いている俺を鼻で笑った天城は、両手で俺の背中を貫いているバスタードソードの柄を握ると、強引に俺の身体から血まみれになったバスタードソードを引き抜いた。
膨れ上がっていた激痛が弾け飛ぶ。爆発した爆弾の爆風と破片が飛び散るように飛散したその激痛が、俺の身体を容赦なく食い破っていく。
背中と腹の穴から、同時に鮮血が噴き出した。
「言っただろ? 普通の転生者(プレイヤー)じゃ、チート使ってる奴には勝てねえって。・・・・・・安心しろ。てめえの大切な妻たちは、俺の奴隷にしてやるからよ」
「クソ・・・・・・野・・・郎・・・・・・」
すぐに振り返って早撃ちをお見舞いしてやろうと思ったが、両腕どころか身体がもう動かない。俺の足元は、俺が噴き出した鮮血で血の海になっている。
天城は致命傷を負った俺を見て嘲笑うと、剣についた返り血を拭き取り、振り返ろうと足掻いていた俺の腹の傷口に蹴りを叩き込みやがった。
膨れ上がっていた激痛が更に押し出される。力が入らないせいで踏ん張る事ができなかった俺は、そのまま目の前にあるミサイルサイロの方へとふらつくと、先ほど天城が吹っ飛ばされた時に開いた大穴から、黒焦げになったミサイルサイロの底へと転落する羽目になった。
結構高いな。何mなんだろうか・・・・・・。
妻たちの悲鳴も、もう聞こえない。彼女たちが何と叫んでいるのかよく聞き取れない。
ごめんな、ラウラ。タクヤ・・・・・・。
この戦いが終わって家に帰ったら、一緒に狩りに行く約束をしていたのに。
すぐに帰ってくるからと、子供たちに時計を預けたままだったのに。
子供たちが俺たちを出迎えてくれる光景を思い浮かべながら、俺はそっと目を閉じた。