≪レベルが上がりました≫
部屋で端末の電源をつけると、画面にはそう表示されていた。これで今の俺のレベルは9に上がり、武器を作るのに必要なポイントも増えたことになる。俺はついに攻撃力のステータスが630にまで上がったのを確認すると、俺は今のポイントも確認しておくことにした。
えっと、今のポイントは9000ポイントだな。たまには能力の方も作ってみるか。俺は能力の生産をタッチすると、表示された能力の名前の一覧を確認していく。
あまりこっちは見てなかったけど、いろんな能力があった。魔術が使えるようになる『魔術師』っていう能力が少しだけ気になったけど、今の俺には銃があるし魔術は必要ないな。俺は武器の生産をタッチしてそっちの方を見始める。
「ん?」
一番下にその他っていうのがあるんだけど、何だこれは? 俺はその他をタッチしてみることにした。
その先にあったのはグレネードやクレイモア地雷といった、爆弾やトラップの数々だった。もしかしたらいつか使うかもしれないと思った俺は、グレネードをタッチして生産する。使うポイントはたったの20ポイントだった。
「下にまだ何かあるぞ?」
何があるんだろうか? 俺は下の方も確認することにした。
≪ギリースーツ≫
おお、ギリースーツか。草原や森が多いし、作っておいてもいいかな。俺はギリースーツを100ポイントで生産すると、その生産したばかりのギリースーツを装備してみることにした。
黒いパーカーが急に消えたかと思うと、いつの間にか俺はまるで草で作られたかのようなギリースーツを身に着けていた。
最近は狙撃をする機会も増えたし、この装備もいいかもしれないな。でも、さすがに戦う場所が雪山とか砂漠だったらすぐにばれてしまうから、このギリースーツを身に纏えるのは草原や森の中だけだろうな。
ギリースーツを解除していつものパーカー姿に戻った俺は、近距離武器の剣の項目からペレット・ブレードを選んで強化することにした。最近は接近される前に銃で敵を倒してしまうようなことばかりだったけど、フランシスカとの戦いではこの剣のおかげで殺されずに済んだ。剣術を使ってくる相手を近距離で迎え撃つならばこれだろう。
でも、これを装備する時は腰に鞘を下げておかなければならない。手榴弾も作ったことだし、できることならばパイルバンカーみたいに腕に装着するタイプに変更できないかな。
「お、あった」
≪装着型への変更≫
俺はその装着型への変更をタッチし、表示された説明文を確認しておく。
≪腕に装着するタイプに変更することができる。刀身は腕に装着されたカバーの中に収納されており、使用時はカバーの中からグリップと共に出現する。グリップには散弾発射用のトリガーが用意されており、散弾は肘の方向から発射される≫
つまり、散弾を相手にぶっ放す時は肘を相手に向けないといけないってことか。まあ、接近戦でぶっ放すんだし問題ないだろう。俺はペレット・ブレードの形状を変化させ、他のカスタマイズの項目も見てみることにした。
他にもドラゴンブレス弾が使えるようになったり、アイアンサイトが追加できるようになってるみたいだな。ライフルグレネードも使えるのかよ。もう近距離武器じゃないぞ。
「力也、入るぞ」
「おう。どうしたんだ?」
「さっきクライアントの人が報酬を持ってきてくれてな」
「お。どれくらい貰えた?」
「ふふふっ。何と金貨40枚だ」
エミリアが予想してたよりも10枚多いな。もしかしたら俺たちがあの魔物たちを全部倒したっていう話を信じてくれなくて、報酬を払ってくれないんじゃないかと少し心配してたんだけど、ちゃんと払ってもらえたか。
「よし、今夜は肉でも買ってくるか!」
「そうだな。じゃあ今夜は私が夕飯を作るとしよう」
「おお。またエミリアの料理が食えるのか!」
エミリアは俺の作った料理を美味いって言いながら食ってくれたけど、俺よりも彼女の料理の方が美味いからな。
「それと、服も買ってこないか?」
「ん? あ、そうか。いつまでも騎士団の制服のままってわけにはいかないか」
これから依頼に行くわけではないため、さすがにエミリアは防具を外して騎士団の制服姿になっている。でも、その制服はラトーニウス王国の騎士団のものだ。いつまでもオルトバルカ王国で異国の騎士団の制服を身に纏っているわけにもいかないだろう。
「よし、行こう」
「ああ」
金貨の入った袋を手にし、階段を下りていくエミリア。俺は護身用にさっきカスタマイズしたばかりのペレット・ブレードを右手に装備すると、俺も階段を下りて行った。
「ふう………美味かったな、あのカレー」
夕食を終えた俺は、ソファに腰を下ろしてペレット・ブレードの刃を眺めながら呟いた。ラトーニウス王国からこっちに来るまでは木の実とかを食ってたし、昨日は屋敷に残ってた野菜とパンだけだったからな。
そういえば、ナバウレアでエミリアが作ってくれたシチューも美味しかったな。また今度作ってもらおうかな。
ペレット・ブレードの刃はククリナイフのように曲がったような形状から、真っ直ぐな片刃の刀身に戻している。カバーの脇には散弾で攻撃する時に使うアイアンサイトと、ライフルグレネードで攻撃する時に使う折り畳み式の照準器を追加しておいた。ライフルグレネードを使う際は、銃口にライフルグレネードを差し込んでトリガーを引く必要がある。
刀身を収めておくんだから散弾を発射するための銃身はどうなるのかと思ったけど、刀身を収めておくスペースより内側に銃身が収められているらしい。これならば柄の中に内蔵していた時よりも銃身が長くなるから、少しは命中精度が良くなってるかもしれないな。
ちなみに再装填(リロード)する時は、ジョシュアと戦った時のような
右手にペレット・ブレードを装備して、左手にパイルバンカーか………。これで二刀流とかできないかな?
「きゃあああああああああああっ!!」
「―――っ!?」
俺がペレット・ブレードの漆黒の刀身を眺めている最中に風呂場から突然聞こえてきたのは、エミリアの絶叫だった。まるであの女の子の幽霊を見た時のような叫び声だ。
まさか、あの子がまた出て来たんじゃないだろうな? 俺は一応レイジングブルの収まったホルスターを腰に下げると、ドアを開けて左へと曲がり、風呂場へと向かって突っ走った。
そして散弾でドアをぶち破ろうと思ったんだけど、はっとして突き出しかけていた右の肘を下ろした。
彼女は今、風呂に入っている状態だ。いくら彼女の叫び声が聞こえたとはいえ、そんなところに突入するわけにはいかない。
「おい、エミリア! 大丈夫か!?」
左手で風呂場のドアを叩きながら彼女に呼びかける俺。中から「りっ、力也ぁっ!」という彼女の声が聞こえたかと思うと、こっちに彼女が駆け寄ってくる音が聞こえた。
え? まさか、ドアを開けるつもり?
かかっていた鍵が内側から外れ―――ドアの向こうから、涙目になったエミリアが俺に向かって抱き付いてきた!
「お、おいっ!」
風呂から上がって着替えてた途中だったのか、上はパジャマで下はパンツの状態で俺に抱き付いてきたエミリア。そんな恰好で抱き付かれた上に、彼女の大きい胸が当たっているせいで俺は顔を真っ赤にしてしまう。
「えっ、エミリア!」
「ま、また幽霊が………!」
「え?」
震えながら風呂場の中を指差すエミリア。俺は顔を赤くしながらそちらの方を見る。
湯気の舞う風呂場の方から、真っ白なワンピースを身に着けた白髪の少女が、宙に浮いた状態でゆっくりとこっちにやってくるのが見えた。
『あ、あの………お願いだから、怖がらないでください………』
涙目になっているエミリアに、幽霊の少女も涙目になりながら語りかける。でもエミリアは、俺に抱き付いたままブルブルと震えるだけだった。
「エミリア、この子は大丈夫だって」
「で、でも、宙に浮いてる………っ!」
「憑りついたりしてこないから。大丈夫だよ。―――ごめんな。彼女、幽霊が苦手らしくて」
『そ、そうなんですか………』
「ああ。………ちょっと俺たちの部屋に行って待っててくれないかな? とりあえずエミリアを着替えさせないと」
『はい………』
いつまでも上だけパジャマの状態で抱き付かれるままっていうのも拙いし。
俺は幽霊の少女に部屋に行って待っててもらうようにすると、エミリアを連れてゆっくりと風呂場の方へと歩き出した。
やっとエミリアにパジャマに着替えてもらった俺は、震える彼女を連れて部屋へと戻った。俺の後をついてくるエミリアは聖水の瓶をしっかり握りしめ、手にはHK45を持っている。何でパジャマ姿でハンドガンを持ってるんだよ。
静かに部屋のドアを開けると、幽霊の少女はソファの上に浮かんで待っていてくれた。
「あ、ソファに座っていいよ」
『す、すみません………』
ぺこりと頭を下げてからゆっくりソファに腰を下ろす彼女。俺は自分の分とエミリアの分の椅子をテーブルの近くに置くと、エミリアを座らせてから俺も腰を下ろした。
「君がこの屋敷の幽霊だよね?」
『は、はい。私、フィオナって言います』
「俺は速河力也。彼女はエミリアっていうんだ。よろしくな、フィオナ」
『はい。よろしくおねがいします』
やっぱり、彼女は人に憑りつくような幽霊ではないらしい。俺は彼女ににっこりと笑いながら自己紹介をした。
エミリアは彼女を怖がらないようにしようとしているらしいんだけど、フィオナの蒼い瞳と目が合う度に、俺の右手を握っている手に力を込め、俺の右肩にしがみついてくる。
「フィオナはここに住んでるのか?」
『はい。そろそろ100年くらい経ちますね』
「そんなに住んでるんだ」
100年も住んでたのか……。もちろん1人だったんだろうな。俺たちみたいにこの屋敷に住んだ人も、彼女を怖がって逃げだしてるみたいだし。
『私、病気で死んだんです。でも、気が付いたら幽霊になってて………』
「病気か………」
『家族のみんなは私の事を怖がって、どこかに引っ越して行ったんです。それからはずっとここに1人で住んでます』
家族に怖がられて、その後にこの家を買った人たちに怖がられ続けてきたってことなのか。
「そうか………」
『ところで、力也さんたちはどうしてここに来たんです? 幽霊が出るって話は聞かなかったんですか?』
「えっと………」
傭兵ギルドを作るために事務所と住む場所が必要だったって事は言うべきなのかもしれないけど、さすがに幽霊が出るせいで無料で買えたとは言えないよな。そんなこと言ったらフィオナが傷ついちゃうし。
「俺たち、ここで傭兵ギルドを始めようと思っててさ」
『傭兵ギルドですか?』
「ああ」
『だから武器を持ってたんですね』
「そういうこと。だから悪いけど、この屋敷を使わせてもらってるよ」
頭を下げながら俺は言う。この屋敷は彼女が住んでいる家なんだからな。
『き、気にしないでください。私はもう死んじゃってるので………幽霊ですし』
「ふ、フィオナ………?」
今まで俺の右肩にしがみついたまま怖がっていたエミリアが、まだ震えながらゆっくりと彼女と目を合わせた。フィオナは今まで怖がっていたエミリアに話しかけてもらえて嬉しそうだ。
「昨日はすまなかった………。部屋の中で銃を使ってしまって」
『銃? 昨日、エミリアさんが使ってた武器の事ですか?』
「ああ。力也が持っていたんだ」
やっぱり、この世界に銃は存在しないんだな。騎士団と戦った時に装備を見てきたけど、使用されているのは剣や弓矢だったし。
エミリアはやっと彼女が怖くないと分かったらしく、俺の手から自分の手を離し、震えるのもやめていた。それにしても、彼女はどうしてあんなに幽霊が苦手なんだろうな?
「そろそろ風呂に入ってくるよ」
「ああ。私は彼女と話をしている」
何とかエミリアはフィオナを怖がるのをやめてくれたみたいだ。俺はテーブルの脇に置いてあった俺の着換えを手に取ると、静かに部屋を後にした。