私のすぐ隣で大きな銃声が轟き、私が覗き込んでいたブースターとホロサイトの向こう側でゴーレムのうち1体の頭が消滅したのが見えた。頭だけでなく胸の辺りまで抉り取った強烈な一撃は、そのまま後方を歩いていたゾンビとゴブリンの肉体を木端微塵にして地面へと激突する。
たった1発の12.7mm弾で3体の魔物を絶命させた力也。彼が次のターゲットに照準を合わせ始めていると、農場を襲撃していた魔物たちがこちらから轟いた銃声に気が付いたらしく、農場の外側にいた魔物たちがこちらを振り向いたのが見えた。
住人が避難して誰もいない農場を荒らすより、人間を襲った方が楽しいと思うらしいな。私たちに気が付いた魔物たちが咆哮を上げ、攻撃目標を農場から私たちへと変えてきた。ゆっくりと進むゴーレムの足元を、ゴブリンとゾンビの群れがこちらへ向けて突っ走ってくる。
また隣で銃声が轟いた。2発目の12.7mm弾の狙撃がゴーレムの頭を消し飛ばし、その後ろを歩いていたゴーレムの右肩まで貫通してしまう。ゴーレムは非常に高い防御力と攻撃力を誇る魔物であり、騎士団では相手にするならば魔術で攻撃するようにと訓練される。矢ではあの外殻を貫くことはできないし、剣で倒すことは可能だが、確実に刃が折れるか刃こぼれを起こしてしまう。相手が単独ならば問題ではないのだが、最近ではゴーレムはあのようにゴブリンやゾンビの集団に護衛されていることが多い。ゴーレムを倒すために愛用の得物を壊してしまっては、後は残りの魔物の餌食になるだけだ。
だが、力也が使っている銃は違う。魔力を全く使わずに、騎士団が苦労する魔物を一撃で粉砕してしまうのだ。全く聞いたことのない武器だが、この威力と射程距離のおかげで私たちはジョシュアの追っ手の追撃から生き残ることができたのだ。
力也の狙撃によって頭部を失ったゴーレムが仰向けに倒れる。後ろをついてきていたゴーレムが何体か断末魔を上げながら押し潰され、草原に真っ赤な血飛沫が上がる。右肩を貫かれたゴーレムはそのまま膝をついて動かなくなっていた。
その動かなくなったゴーレムへ向けて、力也は左手でアンチマテリアルライフルの下に装着されていたロケットランチャーのトリガーを引いた。
ランチャーの先端部に装着されていたロケット弾が射出され、動けなくなったゴーレムへと叩きつけられる。爆音と爆炎が草原の上に吹き上がり、外殻の破片と周囲にいた魔物たちの肉片が舞い上がった。
「エミリア、そろそろ頼む」
「ああ」
力也の狙撃はゴーレムを狙っている。私が狙うべきなのは、ゴーレムの周りにいるゾンビやゴブリンなどの小型の魔物たちだ。
力也が私に持たせてくれたこのMG3は強烈な連射武器だと言っていたが、まだ一回も試し撃ちをやったことはない。実際に使ってみるしかなかった。
私はホロサイトとブースターを覗き込み、唸り声を発しながらこちらへと走ってくるゴブリンへと狙いをつける。恐らく距離はもう400m程だろう。私はカーソルをゴブリンの胸へと合わせると、MG3のトリガーを引いた。
「!!」
銃口が猛烈なマズルフラッシュに包まれ、凄まじい勢いで何発もの弾丸が魔物の群れへと目掛けて放たれていく。7.62mm弾が連続でゴブリンの胸を貫通して胴体をズタズタに千切り取り、後ろにいたゾンビまで巻き込む。私はトリガーから一旦指を離して次の目標に照準を合わせると、もう一度トリガーを引き続けた。
弾丸たちがゾンビを穴だらけにしていく。突っ込んでくる魔物たちが次々に血飛沫を上げ、草原の中へと崩れ落ちていった。
私が今まで経験した魔物との戦いでは、まず弓矢を装備した騎士たちが一斉射撃で接近する魔物たちの数を減らし、彼らの射撃が終わり次第剣や槍を装備した騎士が突撃するという戦法をとっていた。だが、銃を使えばそんな戦法をとる必要はない。接近してくる魔物に照準を合わせ、次々にトリガーを引いて倒していけばいいのだから。
「くっ、マガジンがもう空になった……!?」
照準を合わせた魔物へと弾丸を叩き込んでやろうと思ったのだが、トリガーを引いても弾丸が飛んでいくことはなかった。もうドラムマガジンの中の弾丸を撃ち尽くしてしまったのか!?
私は力也に再装填(リロード)するという事を伝えると、ドラムマガジンを取り外し、傍らに用意しておいた次のドラムマガジンを拾い上げる。隣では、力也がOSV-96から手を離し、自分のAN-94のフルオート射撃で魔物の群れを迎え撃ってくれていた。
「力也、魔物はあと何体だ!?」
「あと41体! このままだと騎士団の出番はないな!!」
「よし、全部倒してしまうぞ!!」
「了解ッ!!」
銃声の中で叫び合いながら、私は再装填(リロード)を終えて再びホロサイトを覗き込んだ。
そういえば、私と力也が初めて出会った時、私が街に到着する前に彼が魔物を全部倒してしまっていたな。ラトーニウス王国で彼と出会った時のことを思い出しながら、私は再びMG3のフルオート射撃を再開した。
私が射撃を開始した400mのところには、もう既に魔物の死体で埋め尽くされていた。魔物たちはそこを越えて私たちの方へと接近しようとして来るのだが、ゴブリンたちとの距離は400mも未だに開いたままだ。
「エミリア、そろそろ銃身を!」
「了解だ!」
銃身の脇を開き、私は中から真っ赤になったMG3の銃身を排出すると、傍らに置いておいた予備の銃身を差し込み、カバーを閉じて射撃を再開した。
「残り30体!」
OSV-96の狙撃でゴーレムを粉砕しながら力也が言った。農場を襲撃していた全ての魔物たちがこちらに向かっているようだったが、戦闘を始めてから3分も経過していないというのにかなり数が減っていた。
試し撃ちをやったこともないというのに、エミリアは次々に接近してくるゴブリンたちをMG3の射撃で薙ぎ倒していた。猛烈な7.62mm弾の弾幕に貫かれ、狙撃補助観測レーダーから次々に小型の魔物の反応が消え失せていく。
俺はOSV-96のマガジンを交換し、RPG-7に次のロケット弾を装填すると、すぐにゴーレムを狙って12.7mm弾をぶっ放す。ゴーレムの胸と頭を削り取った弾丸が後続のゴーレムの顔面に直撃し、2体のゴーレムが草原の上へと崩れ落ちた。
「ゴーレム全滅!」
「さすが!」
レーダーにはもうゴーレムの反応はない。俺はゴブリンとゾンビが集まっていたところへ向けてロケットランチャーをぶっ放し、一気に5体吹き飛ばすと、ロケットランチャー付きのアンチマテリアルライフルから手を離してAN-94を掴んだ。
どうやらRPG-7のロケット弾は、対戦車ミサイルとは違って普通のマガジンと同じく4発用意されるらしい。
ブースターをドットサイトの後ろへと展開させ、俺はAN-94をフルオート射撃ではなく2点バースト射撃に切り替えた。
「残り20体だ!」
2点バースト射撃でゴブリンを撃ち殺し、今度は隣を走っていたゾンビの頭に2発の5.45mm弾を叩き込む。俺はゾンビが肉片をまき散らしながら崩れ落ち始めるのを確認すると、すぐに照準をエミリアの弾幕の餌食にならなかった魔物へと向けた。
ちらりとOSV-96の狙撃補助観測レーダーのモニターを確認。あと15体くらい表示されてたんだけど、エミリアがMG3の連射で一気に7体も薙ぎ倒したらしく、残りの数が8体まで減った。
「あと8体!」
「了解だ!」
草原の上は魔物の死体が覆い尽くしている。しかも、俺たちへと向かって突進してくる魔物はたったの8体だけだ。
なのに、俺たちはまだ無傷のままだった。
エミリアの7.62mm弾を首に喰らったゾンビの首がへし折れた。ゴーレムの死体を飛び越えようとしたゴブリンは空中で彼女の集中砲火を喰らい、木端微塵にされている。
俺はゾンビたちを2点バースト射撃で撃ち抜き、空になったマガジンを取り外す。モニターを確認すると、残った魔物はあと1体になっていた。
俺が再装填(リロード)を終える前にエミリアが倒すだろうな。俺はマガジンを装着して再装填(リロード)を済ませ、ブースターとドットサイトを覗き込んだけど、その向こうで最後に残っていたゴブリンが穴だらけにされたのを見て、俺はドットサイトから目を離した。
狙撃補助観測レーダーのモニターに反応がないのを確認してから、農場の周囲を確認する。俺たちが射撃していた場所から見えるのは、クライアントの人の農場と魔物の死体だらけの草原だけだった。
「………殲滅したか」
「ふう………」
これで騎士団の出番はないな。俺はOSV-96を持ち上げると、折り畳んで背中に背負った。エミリアもMG3を背中に背負い、予備の銃身を拾い上げている。
「よし、街に戻るか」
「そうだな」
騎士団はまだ到着しそうにないし、銃のことを聞かれてもめんどくさいからな。
俺とエミリアは街から借りた馬に乗ると、ネイリンゲンを目指した。
「ほ、本当に全部倒してきたのか? たった2人で!?」
クライアントの人とジャックさんは、ジャックさんの店で待っていた。俺たちは馬を街に返してから報告に行ったんだけど、やっぱり2人とも俺たちだけで65体もの魔物を殲滅したっていうのが信じられないらしい。
それはそうだろうな。俺も最初は時間を稼いで騎士団と合流することを考えてたし。
「本当です。ただ………農場の周りが死体だらけになってますが」
「信じられないが………確認してこよう。もし本当に魔物が全滅していたら報酬を屋敷まで持って行く」
「はい、ありがとうございます」
本当に俺たちが魔物を殲滅したのか確認するため、店を後にするクライアントの人。俺たちもジャックさんの店から出ると、屋敷に向かって歩き始めた。
相変わらず大通りは人が多い。俺は大通りは通らずに、別の道を通って屋敷まで戻ることにした。
「どのくらい報酬が来るかな?」
「金貨30枚くらいは来ると思うぞ?」
金貨30枚か。それって多いのかな? ラトーニウス王国だと、銀貨1枚で野菜が買えてたみたいだけど。
エミリアに端末と銃の事は話しているけど、まだ俺がこの世界の人間ではないという事は言っていない。多分言わなくても問題ないと思う。
「それにしても、オルトバルカの騎士団は驚くだろうな。農場に到着しても出番がないんだからな」
そうだろうな。魔物は全部死体になってるし。
「これで俺たちのギルドが有名になってくれればいいんだけどな」
「有名にはなるだろう。2人では殲滅できないような数の魔物を全滅させたんだ」
確かに、2人で65体の魔物を全滅させれば有名になるな。
俺たちは街を出て、草原の中に建つ屋敷を目指した。少し錆ついた鉄柵を開けて庭へと入り、入り口のドアを開く。エミリアは幽霊が出てこないか警戒しているようで、HK45のホルスターに手を近づけていた。
俺は「幽霊なら大丈夫だって」と彼女に言うと、入り口のドアを閉め、エミリアを連れて部屋へと戻った。