異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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力也が反撃を始めるとこうなる

 

「――――そんな馬鹿な」

 

 B29の操縦席で、兄さんからの報告を聞いた僕は驚愕していた。

 

 今まで、転生者は基本的に他の転生者と手を組むようなことはなかった。この世界の人間たちを仲間にするか、奴隷を引き連れている転生者ばかりだったんだ。

 

 他の転生者と手を組めば、自分が手に入れることのできる利益が減る。だから手を組むのではなく、奪い合う。おそらく転生者たちの考え方はそうなんだろう。他の敵を蹴落とし、蹂躙できるだけの力を手にしているのだから、彼らの前に天敵でも表れない限り、手を組むのはありえない。

 

 兄さんからの報告では、仕留めた4人の警備兵が全員転生者だったらしい。

 

 僕はメガネを外して目の前の計器の上に置いてから冷や汗を拭い去った。極寒の山脈の上空を飛行しているというのに、全く寒さを感じない。

 

(そんな・・・・・・! 転生者が手を組むなんて・・・・・・!)

 

 隣で操縦桿を握るミラも驚愕している。

 

 メガネをかけ直した僕は、深呼吸をしてから目の前の計器を睨みつけた。兄さんとフィオナちゃんは、無数の転生者たちの群れの中に下りて行ったんだ。そして、核兵器の使用を防ぐために、彼らの核兵器を必死に封印しようとしている。

 

 僕だけビビって操縦桿を倒し、逃げかえるわけにはいかない。僕はもう非力じゃないんだ。

 

「・・・・・・作戦は予定通りに」

 

(りょ、了解・・・・・・!)

 

 兄さんたちが核兵器を封印した直後に、僕たちはあの基地に総攻撃を仕掛ける。そして先に潜入しているあの2人と連携して、敵を殲滅する。

 

 僕たちが行かなければ、兄さんとフィオナちゃんは敵の群れの中に置き去りにされてしまう。今の僕たちが、あの2人にとっての命綱だった。

 

 小さい頃は兄さんにたくさん助けてもらった。苛められていた僕を助けてくれたし、小学校に入学する時に緊張していた僕を励ましてくれた。中学校からは全く苛められなくなったんだけど、苛められなくなった理由は、兄さんが後輩に根回しをしてくれていたかららしい。

 

 だから、僕もそろそろ恩返しをしないといけない。

 

「こちら信也。B29機内のみなさんに通達します」

 

 燃料計の脇にあった無線機を手に取り、機内で待機している仲間たちに通達する。きっとみんなも、敵は全員転生者かもしれないという絶望を押し返していることだろう。

 

「間もなく、このB29を装備から解除します。解除した直後は機体が消失しますので、機体が消失した後はパラシュートで地上に降下してください」

 

 無線で通達しながらミラの方をちらりと見る。彼女は頷きながら、操縦桿を前へとゆっくり倒し始めていた。

 

 ポケットの中から懐中時計を取り出し、時刻を確認する。今の時刻は午後8時だ。操縦席の外は真っ暗になっていて、暗闇の中から白い雪がまるで曳光弾のように飛来してくる。

 

 高度計を睨みつけた僕は、再び無線機を手に取った。隣で操縦桿を握っているミラも、首に下げていた酸素マスクを顔に装着し始めている。

 

「高度5000m。装備解除まで、10秒前」

 

 端末を取り出し、兵器を装備するメニューを開く。装備している武器や兵器をタッチし、装備を解除するかと問いかけてくるメニューの下にある『はい』をタッチすれば、このB29は装備している兵器から除外され、消失する。再び使うには飛行場で装備し直せばいい。

 

 カウントダウンをしながら、僕は首に下げていた酸素マスクを装着した。徐々に下がっていく高度計を見ながら、僕は無線機に向かって呟く。

 

「――――装備、解除」

 

 そう告げた僕は、右手で端末の画面をタッチした。

 

 その瞬間、僕が手にしていた無線機がいきなり消失した。腰を下ろしていた操縦席の座席も消滅し、目の前にあった筈の窓ガラスや計器類も全てなくなってしまう。機体を覆っていた装甲が受け止めてくれていた猛烈な冷気に呑み込まれながら、僕は暗闇から飛び出してくる白い雪の群れを睨みつけ、パラシュートを開いた。

 

 夜の雪山の上空を、パラシュートの群れが舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 射殺した3人の転生者の死体を戦車の中に隠し、格納されているすべての戦車にC4爆弾を設置し終えた俺は、フィオナを連れて戦車の格納庫を後にしていた。寒い通路を警戒しながら進み、格納庫の外に出る。

 

 外は暗くなっていた。エミリアがプレゼントしてくれた大切な懐中時計で時刻を確認した俺は、懐中時計を内ポケットにしまってから格納庫の外を見渡した。

 

 他にも格納庫は5つほどある。その格納庫の群れの真ん中に鎮座しているのが司令塔だ。もしかすると核兵器は司令塔の中に隠されているのかもしれないと思ってちらりと司令塔の様子を確認したが、格納できるスペースはないだろう。

 

 他の格納庫に無ければ、地下にも格納庫か貯蔵庫があるのかもしれない。

 

「次の格納庫を見てみよう」

 

『了解です』

 

 フィオナはまだ実体化を解除しているため、聞こえてくるのは彼女の可愛らしい声だけだ。彼女の声を聞きながら絶望を押し返した俺は、Bizonを構えながら次の格納庫へと向かって走り出した。

 

 格納庫の外壁には『04』と書かれている。その格納庫の入口の近くにあるコンテナの影へと隠れた俺は、最初の格納庫に入る際に確認したように、コンテナの陰から入口の様子を確認する。まだ警備を交代する時間ではないらしく、入り口は閉じたままになっている。

 

 鍵がかかっていないことを祈りながらドアに近付いてドアノブを捻ってみたんだけど、ドアノブは全く回転しなかった。凍り付いているわけではない。鍵をかけられているだけのようだ。

 

 俺の攻撃力ならば容易く蹴破れるが、そんなことをすれば敵に気付かれてしまう。まだ核兵器を発見していないのだから、敵に見つかるわけにはいかない。

 

『任せてください』

 

 どうやってドアを開けようかと考えていると、フィオナの声が背後から聞こえた。どうやらこのドアをすり抜けて格納庫の中へと侵入し、内側から鍵を開けてくれるつもりらしい。

 

 さすがだ。

 

 Bizonの銃口を外に向けながら警戒して待っていると、微動だにしなかった格納庫のドアノブがゆっくりと回転し、背後のドアが開いた。開いたばかりのドアの向こうでは、防寒用のコートと帽子を身に纏ったフィオナが、にこにこ笑いながら待っていた。

 

「さすがだな。ありがとう」

 

『えへへっ』

 

 彼女の帽子を取って撫でてあげようと思ったんだけど、俺が手を伸ばす直前にフィオナは実体化を解除して姿を消してしまった。

 

 ここは敵の基地だからな。なでなでするのは屋敷に戻ってからにしよう。

 

 それにしても、今度の格納庫はさっきの格納庫よりも大きいな・・・・・・。何が格納されているんだ?

 

 飛行場はないから、爆撃機ではないだろう。だが、さっきみたいに戦車を格納しておくにしては大き過ぎる。大量の戦車を格納しているわけではないのだろうと予測した俺は、目を細めてからSMGを構え、奥へと進んでいった。

 

 もしかしたら、この格納庫に核兵器が格納されているかもしれない。

 

 曲がり角を曲がる前に一旦曲がり角に隠れ、廊下の奥を確認する。廊下にあるのは工具箱や書類が置かれている棚だけで、見張りの兵士がいる気配はない。

 

 SMGを構えながら曲がり角から出て、格納庫へと足を踏み入れる。外が暗くなったせいで、明かりが全くついていない格納庫の中は真っ暗だった。通路の天井に着いている照明のおかげでなんとなく格納庫の中に何かが並んでいるというのは分かるんだが、分かるのは装甲が白とグレーの2色で塗装されているということだけで、形状は全く分からない。

 

 俺はBizonの銃床を折り畳んで腰に下げると、ホルスターの中からマカロフを引き抜き、ライトをつけた。そのまま格納庫の中へと侵入し、ハンドガンのライトで目の前に鎮座している兵器を照らし出す。

 

 その兵器には、キャタピラが装着されていた。キャタピラが装着されている車体も戦車のように見えるけど、その上に乗っている筈の砲塔は見当たらない。ハンドガンのライトで徐々に上を照らし出していった俺は、車体の上に乗っていた巨大な砲身を目の当たりにし、戦慄する羽目になった。

 

 こんな兵器を生産する奴がいたとは・・・・・・。

 

 車体の上に乗っていたのは、車体の全長の倍以上の長さがある長い砲身だった。JS-7の130mm滑腔砲よりも遥かに巨大な砲身を持つ巨大な自走迫撃砲が、真っ暗な格納庫の中に鎮座していたんだ。

 

「Oka自走迫撃砲・・・・・・!」

 

 俺の目の前に鎮座していたのは、かつてソ連軍が開発した巨大な自走迫撃砲だった。このOka自走迫撃砲が搭載しているのは、俺たちのギルドの戦車の主砲よりも遥かに巨大な420mm迫撃砲だ。しかもこの自走迫撃砲は普通の砲弾だけではなく、核砲弾を発射する事ができる。

 

 そうか。だからこの基地にはミサイルサイロも飛行場もなかったんだ。このOka自走迫撃砲があれば、超遠距離から敵に核砲弾を叩き込む事ができる。だから核砲弾さえ何とか用意できれば、あとはこの自走迫撃砲を作り出すだけで核攻撃が出来るんだ・・・・・・!

 

「正気の沙汰じゃねえぞ・・・・・・!」

 

 しかも、格納庫の中に並んでいる自走迫撃砲は1両だけではなかった。

 

 非常に長い砲身を持つ同型の自走迫撃砲が、先ほどの格納庫に戦車がずらりと並んでいたように整列している。おそらく50両以上用意されているだろう。

 

 こいつが並んでいるということは、核砲弾もある筈だ。自走迫撃砲にC4爆弾を仕掛ける前に砲弾を探すことにした俺は、マカロフのライトで周囲を照らしながら格納庫の中を探した。

 

 オイルの臭いと冷気の中を、マカロフのライトが橙色に照らし出す。俺の頬や顎から流れ落ちた冷や汗が湯気を発しながら冷たい床に落下し、一瞬で冷却されていく。

 

「・・・・・・ん?」

 

 ずらりと並ぶOka自走迫撃砲の車列の後方に、巨大な砲弾の隊列が鎮座していた。俺たちのギルドで近代化改修をして使っているJS-7の130mm滑腔砲の砲弾よりも明らかに巨大な。こいつがOka自走迫撃砲の砲弾なんだろう。

 

 俺は砲弾を囲っているフェンスについているプレートを手袋で軽く擦った。冷気で冷え切った薄い金属製のプレートの表面には、確かに『420mm弾』と書かれている。

 

 だが、こいつは通常の砲弾だ。核砲弾はどこだ・・・・・・?

 

 並んでいる砲弾の後ろの方にも砲弾が用意されているようだ。こちらは金属製のケースのようなものに収められている。まさか、こいつが核砲弾か?

 

 ケースに近付き、冷え切った表面を手袋で擦る。すると、ケースの表面には『420mm核砲弾』と書かれているのが見えた。

 

 こいつだ・・・・・・! 

 

「フィオナ、これが――――」

 

 核砲弾を照らしながらフィオナに核砲弾を見つけたことを言おうとした瞬間だった。いきなり横から蒼白いライトで照らされたかと思うと、その蒼白い光の中から「動くな!」という少年の声が聞こえてきた。

 

 くそったれ、見つかった!

 

「くっ!」

 

 俺は後ろにジャンプしながら、サプレッサーの装着されているマカロフの銃口を少年へと向けた。警備兵が持っているアサルトライフルにはサプレッサーが装着されていない。せめてこいつが銃弾をぶっ放す前に仕留めようと思ったんだが、俺がトリガーを引くよりも先に、蒼白いライトの中でマズルフラッシュが煌めき、銃声が格納庫の中に響き渡った。

 

 どうやらこの兵士が持っていたライフルはAN-94だったらしい。2点バースト射撃で放たれた5.45mm弾にコートの右肩の辺りを抉り取られながら、俺はマカロフのトリガーを連続で3回引いていた。

 

 弾丸は3発とも命中したらしい。蒼白い光が天井を向き、マズルフラッシュの煌めきがたった1回の2点バースト射撃で終わってしまう。銃声の残響の中に少年が倒れる音が混じったのを聞いた俺は、舌打ちをしてから武器をBizonに持ち替えた。

 

『り、力也さん・・・・・・!』

 

「見つかっちまった・・・・・・! すまん、フィオナ。俺が囮になるから、お前は核砲弾の封印を頼む」

 

『りょ、了解です!』

 

 姿を消していたフィオナが実体化し、核砲弾のケースの前へと舞い降りる。俺はその間にBizonからサプレッサーを外し、端末を操作して迫撃砲付きのOSV-96を装備していた。

 

 発見されてしまったから、もうサプレッサーをつける必要はない。むしろ俺が囮になる必要がある。

 

 愛用のアンチマテリアルライフルを担いで格納庫の外へと走り出そうとしていると、封印の準備をしていたフィオナが俺の事をいきなり呼び止めた。振り返ってみると、かぶっていた防寒用の帽子を取ったフィオナが、蒼い瞳で俺の顔をじっと見つめている。

 

『む、無茶しちゃダメですからね!』

 

「分かってるって。妻たちを未亡人にするつもりはないよ」

 

 にやりと笑いながら親指を立てて、俺は核砲弾が格納されている格納庫を後にした。

 

 左手をコートの内ポケットに突っ込み、先ほど戦車にしこたま仕掛けてきたC4爆弾の起爆スイッチを取り出す。今頃、さっき爆弾を仕掛けた戦車に転生者たちが大慌てで乗り込んでいることだろう。この起爆スイッチを押せば、そのクソ野郎共が一斉に吹き飛ぶんだ。

 

 ―――滅茶苦茶楽しみだ。

 

 格納庫の外に出た俺は、近くにあった木箱や土嚢袋をかき集めてバリケードを作ることにした。得物を壁に立て掛け、木箱と土嚢部区を露行きの中から引っ張り出して積み上げていく。格納庫から響き渡るアラームとハッチが開いていく金属音を聞きながら大慌てでバリケードを作り上げた俺は、愛用の得物を手に取り、起爆スイッチの準備を始めた。

 

 やがて、俺たちがさっき調べてきた格納庫の中からT-72の群れが姿を現す。スコープを覗き込んで燃料タンクと車体の間にまだ爆弾が設置してあるか確認しておくか。外されている可能性もあるからな。

 

 スコープを覗き込んでみると、燃料タンクの陰にくっついているC4爆弾が見えた。どうやら転生者たちは、戦車にC4爆弾が仕掛けられていることに気付いていないらしい。

 

 はっはっはっはっはっ、いいね。

 

 砲塔の上で、車長らしき少年が無線に向かって何かを叫んでいる。どうやら主砲ではなく、機銃で俺を仕留めるつもりらしい。俺に向かって砲弾を発射すれば、流れ弾が格納庫の中の核砲弾に命中する可能性があるからな。

 

 戦力差はあり過ぎるが、俺は核兵器を立てにお前らを人質に取っているってわけだ。つまりあの馬鹿たちは、俺に向かって爆発物を使うわけにはいかない。

 

 ヤバい。大笑いしそうだ。

 

 俺を睨みつけながら機銃の照準器を覗き込む先頭のT-72に乗る車長に向かってニヤニヤ笑いながらエリスみたいにウインクした俺は、左手に持っていたC4爆弾の起爆スイッチを押した。

 

 その瞬間、格納庫から出撃したばかりのT-72の群れが、まだ1発も砲弾や銃弾をぶっ放す前に一斉に火柱と化した。真っ白な雪原を火柱と燃え上がりながら舞い上がる残骸で橙色に染め上げながら、黒煙の柱を次々に生み出していく。

 

 まだ格納庫の中で出撃する準備をしていた車両も吹っ飛んだらしく、格納庫の中でも爆発が発生した。いくら砲弾を弾き返すほどの防御力を誇る複合装甲でも、燃料タンクと車体の間に設置されたC4爆弾の爆発を防ぐことは出来なかったらしい。しかも格納庫にいた奴らの中には爆発反応装甲を装備していた車両もあった。装着していた爆発反応装甲が誘爆し、格納庫の中の給油タンクや予備の砲弾に引火して、今度は格納庫の屋根が吹っ飛ぶ。

 

「ガッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 木端微塵に吹っ飛んだ戦車の車列を眺めながら大笑いした俺は、別の格納庫や司令塔から出撃してきた歩兵を睨みつけると、バイボットを展開してバリケードの陰に隠れ、アンチマテリアルライフルのスコープを覗き込んだ。

 

「―――――さあ。派手にやろうぜ、同志」

 

 無数の歩兵を睨みつけながら、俺はニヤニヤと笑っていた。

 

 

 

 


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