異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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冷気の蹂躙

 

 俺の目の前に、巨大なドラゴンが鎮座していた。

 

 全身を赤黒い外殻で覆われたそのドラゴンの頭からは、まるでランスのような巨大な角が生えている。先端部はまるで溶鉱炉に放り込まれた金属のように真っ赤になっていて、根元の方は赤黒くなっている。赤と黒のグラデーションの下にある眼は、炎のように真っ赤だった。

 

 そいつは、俺の義足の素材にされたドラゴンだった。火山で最強の魔物と言われ、多くの冒険者を焼き殺してきたサラマンダーだ。

 

 どうして俺の目の前に現れる? プライドの高いドラゴンが、低俗な人間の左足の材料にされたことが恨めしいのか?

 

 思い浮かんだその言葉が伝わったのか、俺の目の前に鎮座して俺を見下ろしていたサラマンダーは、頭から生えている角を更に隆起させ、激昂しながら咆哮した。赤黒い外殻の隙間から小さな火柱がいくつも噴き出し、瞬く間にサラマンダーの身体を炎が覆い尽くしていく。

 

 剣や弾丸を溶かしてしまうほどの超高温の鎧を纏ったサラマンダーは、足元で見上げている俺に向かって再び咆哮した。

 

 こいつは普通の人間には決して倒せない怪物だ。剣を振るっても刀身を溶かされる。矢を放っても命中する前に燃え上がってしまう。魔術の詠唱を初めても、詠唱が終わる前にブレスで焼き尽くされる。そして騎士たちの防具では、爪や尻尾の外殻を防ぐ事が出来ない。

 

 この怪物を討伐できるのは、同じ人間たちからも怪物と呼ばれるほどの実力を持つ戦士たちか、本当に怪物に成り果てた者だけだ。

 

 俺は、後者だった。

 

 他の転生者たちを蹂躙し続けた。

 

 仲間たちに武器を向けてきた奴らも撃ち殺してきた。

 

 そして片足を失い、怪物の素材で作られた義足を移植して肉体が変異し、本当の怪物に成り果てた。

 

 だから俺は、この怪物を倒せる。

 

 今まで殺してきた奴らと同じように蹂躙できる。

 

 お前はもう、俺の体の一部だ。前のように炎を自由自在に操り、縄張りに入り込んだ人間たちを蹂躙することは出来ないのだ。俺の身体を乗っ取ろうとするのならば、体内に残っているお前の血液も蹂躙し、屈服させるまでだ。

 

 激昂しながら咆哮するサラマンダーを嘲笑いながら、俺は腰の後ろのホルスターから水平二連ソードオフ・ショットガンを引き抜く。普通の散弾よりも強力な8ゲージの散弾を発射するショットガンを引き抜いた俺は、撃鉄(ハンマー)を元の位置に戻し、2つの銃口をサラマンダーの頭へと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

 クレイモアの刀身を振り回し、飛来する7.62mm弾を何発も弾き続ける。弾かれた弾丸が発する火花の向こうでアサルトライフルを放っているのは、私の大切な仲間の面影を残した、ドラゴンと人間が融合したような怪物だった。

 

 彼が愛用するSaritch308ARは、普通のアサルトライフルで使用される5.56mm弾よりも強力な7.62mm弾を使用するアサルトライフルだ。弾丸をクレイモアの刀身で叩き落とす度に、柄を握る両腕を猛烈な衝撃が突き抜けていく。

 

 だが、この衝撃をあと数秒堪えれば反撃できる。力也が愛用するSaritch308ARのマガジンの中に入っている弾丸の数は30発だ。先程からそれをフルオート射撃でずっと私に撃ち続けているのだから、そろそろマガジンが空になる頃だろう。いくらガルゴニスを投げ飛ばした恐ろしい怪物でも、再装填(リロード)せずにずっと銃を撃ち続けることは出来ないのだ。

 

「力也くん、しっかりしてよ!」

 

『力也さん!!』

 

 姉さんとフィオナが力也に呼びかけるが、マズルフラッシュの向こうで私を睨みつける彼には聞こえていないようだった。

 

 間違いない。力也は理性を失っている。

 

 いつもの彼とは全く違う戦い方だった。相手の攻撃を受け流し、フェイントも使って強烈な攻撃を叩き込むのが力也の戦い方なのだ。だが、先ほどの力也は相手の攻撃を回避しようとはせず、そのまま相手を攻撃しようとしていた。サラマンダーの外殻の防御力を過信していたわけではないだろう。

 

 フェイントを使うわけでもなかった。全くガードもしない。咆哮を発しながらガルゴニスに取り付き、至近距離で攻撃を叩き込み続けていたのだ。あいつは確かに無茶をする男だが、こんな自殺行為のような戦い方をする男ではない!

 

「!」

 

 その時、いきなりSaritch308ARの銃口で煌めき続けていたマズルフラッシュが消え失せた。熱風を引き裂き続けていた銃声も残響へと成り果て始めている。マガジンの中の弾丸がなくなったのだ。

 

 私はすぐに弾丸を弾き終えたばかりのクレイモアを構えながら、空になったマガジンを取り外したばかりの力也に向かって走り出した。あのアサルトライフルの銃身の下にはポンプアクション式のグレネードランチャーが搭載されているが、再装填(リロード)の途中に発射できるわけがない。いきなり40mmグレネード弾を放り込まれる可能性は低いと判断した私は、クレイモアを振り上げながら正面から突っ込む。

 

「力也、目を覚ませッ! ―――くぅッ!?」

 

 だが、クレイモアを彼の全身を覆っている外殻に振り下ろした瞬間、サラマンダーの角で作られていたクレイモアの刀身が、力也の左腕を覆っているガントレットのように発達した外殻に弾き飛ばされてしまった。サラマンダーの角は外殻よりも硬い上に耐熱性にも優れているため、角で作った大剣ならばサラマンダーの外殻を叩き割る事が可能だ。だが、力也を覆っているあのサラマンダーの外殻は、先ほどガルゴニスが散々私たちの攻撃を弾き飛ばしてしまったように、角で作った大剣を弾いてしまったのだ。

 

 あの外殻は、角よりも硬いのか!?

 

 つまり、あのヤークト・サラマンドルの外殻はサラマンダーの外殻よりも硬いということになる。

 

 それだけではない。ヤークト・サラマンドルはガルゴニスを投げ飛ばしてしまうような怪物だが、あくまでサイズは人間と変わらない。しかもその怪物に成り果ててしまった人物は、数多の転生者を狩り続けてきた猛者なのだ。

 

 弾かれた刀身を何とか引き戻し、今度は別の角度から剣戟を叩き込もうとするが、私の一撃を防いだ左腕の奥で赤黒い外殻に包まれた尻尾が揺れたのが見えた瞬間、私は攻撃を中断してすぐに後ろに飛び退いていた。

 

 その瞬間、腰の後ろから伸びるヤークト・サラマンドルの尻尾が、私が舞い上げた火山灰を突き破って地面に突き刺さった。この姿になる前の彼の尻尾の先端部はダガー程度の長さだったのだが、今は変異の影響なのか、ロングソードの刀身のように長く伸びている。あの尻尾の一撃はまさにロングソードの剣戟と等しいということだろう。しかも岩石を貫いても全く傷つかないほどの硬さだ。

 

 私はヤークト・サラマンドルが尻尾を引き抜く前に左手をクレイモアの柄から離し、腰から手榴弾を取り出すと、安全ピンを口にくわえて引き抜き、目の前で尻尾を引き抜いたばかりの怪物に向かって投げつけた。そして自分の手榴弾で自爆する羽目にならないように、すぐに後ろに飛び退く。

 

 その直後、怪物の目の前で手榴弾が弾け飛んだ。彼が使っているような対戦車手榴弾ではなく普通の対人用の手榴弾だが、手榴弾が生み出した衝撃波と爆風は怪物の上半身を呑み込むと、赤黒い外殻で覆われた身体を後ろへと吹き飛ばしてしまう。

 

 私はその隙にクレイモアを背中の鞘に戻し、背中に背負っていたSaritch308ARを取り出した。私のアサルトライフルは力也と同じ銃だが、銃身の下に搭載されているのはポンプアクション式のグレネードランチャーであるチャイナレイク・グレネードランチャーではなく、ボルトアクション式ショットガンのM26MASSだ。それ以外のカスタマイズは彼と同じになっている。

 

 ドットサイトを覗き込み、爆風の向こうにいる怪物に照準を合わせる。トリガーを引こうとした瞬間、黒煙へと変わり始めた爆炎の中から、かつん、と小さな何かが地面に落下するような音が聞こえてきた。手榴弾が地面に落下する音に似ていたため、私はヤークト・サラマンドルが手榴弾の仕返しに対戦車手榴弾を放り投げてきたのかと思ったのだが、地面に落下したのは手榴弾ではなく、見覚えのある赤黒い懐中時計だった。

 

 あれは・・・・・・力也とデートに行った時に私がプレゼントした懐中時計だ。

 

 前に彼にチンクエディアをプレゼントしてもらったから、お返しするために買ってあげたのだ。

 

 すると、爆風の中から飛び出してきたヤークト・サラマンドルは私に攻撃せず、アサルトライフルを放り投げると、真っ先にその懐中時計を拾い上げようとした。

 

 理性を失っているというのに、彼はあの懐中時計を大切にしているのだ。

 

 怪物に成り果ててしまった手で懐中時計を拾い上げると、私が目の前でアサルトライフルの銃口を向けているというのに、ヤークト・サラマンドルは安心したように懐中時計を眺め、制服の内ポケットへと戻す。

 

「――――それを大切にしてくれているのか」

 

『ウウウ・・・・・・グルル・・・・・・!』

 

「エミリアちゃん!」

 

『エミリアさん、危ないですよ!』

 

 そっと呟きながら、私は彼に向けていたアサルトライフルの銃口を下ろし、静かに前へと踏み出した。

 

 彼は私を睨みつけながら唸り声を発したが、武器を取り出す様子はなかった。いつの間にかこの恐ろしい怪物から感じていた威圧感は全く感じなくなっている。いつも彼と一緒にいる時のように微笑みながら、私は彼に近づいていく。

 

 先ほど大剣で斬りかかった間合いまで近づいているというのに、彼は唸り声を発するだけだった。ロングソードのように鋭い尻尾も振り下ろしてくる様子はない。

 

「ありがとう、力也・・・・・・。嬉しいよ」

 

『ウウウ・・・・・・!』

 

 私は武器を足元に置いてから両手を広げると、まだ唸り声を発している彼を優しく抱きしめた。鍛え上げられた彼の身体は硬い外殻に覆われてしまっていたけど、制服に染み付いた火薬の臭いはいつもと変わらない。決して取れることのない力也の匂いを吸い込みながら、私は顔を彼の胸に押し付ける。

 

 すると、彼が唸り声を発するのを止めた。

 

「大丈夫。落ち着くんだ」

 

『クゥン・・・・・・』

 

 背中に回していた手を静かに彼の頭へと乗せ、いつも彼が私を抱き締めた後に撫でてくれるように、私も彼の頭を優しく撫でた。変異しても面影を残そうと足掻いたかのように残った彼の真っ赤な長髪を覆うフードを撫でていると、私から見てフードの右側からダガーのような鋭い角が突き出ているのが分かった。

 

 その角に触れていると、突き出ていたその角が少しずつ縮み始めた。この角は彼の感情が昂ると伸びるようになっているらしい。縮んでいるということは、彼が少しずつ落ち着いてくれているということだ。

 

 そうだ、落ち着いてくれ。いつもの彼に戻ってくれ。

 

 みんな大丈夫だ。お前が怒ってくれたから、みんな助かった。

 

 彼は姉さんを助けるために怒ってくれたのだ。ガルゴニスに握りつぶされそうになっていた姉さんを助け出すために激昂し、こんな姿になってしまった。

 

 でも、もう大丈夫だ。姉さんは彼のおかげで助かった。

 

 だから後は、お前が元通りになってくれ。いつもの姿に戻って、また私の頭を撫でてくれ・・・・・・。

 

「・・・・・・もう大丈夫だよ、力也」

 

『キィ・・・・・・』

 

「私も一緒だからな・・・・・・」

 

 少しずつ、彼の体を覆っていた外殻が消えていく。元々変異していた左腕と尻尾は消えなかったが、それ以外の外殻が消え去り、怪物が元の姿へと戻っていく。

 

「あれ・・・・・・? エミリア・・・・・・?」

 

 聞こえてきたのは怪物の唸り声ではなく、聞き慣れた少年の声だった。

 

 元の姿に戻ってくれたのだ。

 

「すまない、迷惑をかけちまった・・・・・・」

 

「気にするな。――――お帰り、力也」

 

 私はまだ彼の胸から顔を離さず、ぎゅっと彼を抱き締める。すると力也は少し驚きながら両手を私の背中に回し、いつものように抱き締めてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「信じられねえ・・・・・・。旦那が元の姿に・・・・・・」

 

 ロケットランチャーで姉御を援護しようとしていた俺は、照準器の向こうで姉御に抱き締められた旦那が元の姿に戻ってくのを眺めながら呟いた。

 

 さっき、旦那はポケットから落ちた懐中時計を理性を失っている筈なのに慌てて拾い上げていた。おそらくあの懐中時計が、姉御とデートに行った時にプレゼントしてもらったっていう大切なお守りなんだろう。

 

 理性を失っていても、旦那はそれを手放さなかった。

 

 やっぱり旦那は怪物じゃなくて、人間だったんだ。

 

「旦那ぁ・・・・・・!」

 

 良かった。

 

 俺たちを助けてくれた男を攻撃する羽目にならなくて良かった。

 

 俺は安心しながら照準器から目を離し、ロケットランチャーを地面の上に置く。

 

『――――おのれ、人間どもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

「お、おいおい!!」

 

 だが、いきなり旦那たちの向こうから聞こえてきた低い声のせいで、俺は地面に置いたばかりの重いロケットランチャーを再び持ち上げる羽目になった。

 

 陽炎と火山灰の舞う熱風の奥で倒れていたエンシェントドラゴンが、再び起き上がったんだ。熱風の中に再び真紅の古代文字のような模様が浮かび上がり、猛烈な威圧感が安心したばかりの俺たちを容赦なく呑み込む。

 

 くそったれ! ガルゴニスの野郎だ! あいつ、まだ生きてたのかよ!?

 

 化け物になった旦那に右目を潰されたエンシェントドラゴンは、口から血を吐きながら起き上がると、身体中の模様を発光させながら俺たちを睨みつけてきた。

 

「おいおい、まだ生きてたぞ!?」

 

『大丈夫よ! あいつは力也の攻撃で致命傷を負ってる!』

 

 無線機からカレンの声が聞こえてくる。確かにガルゴニスは旦那に右目を滅茶苦茶にされてるし、口の中も手榴弾で滅茶苦茶にされている。だが、あいつはブチギレてるんだぜ? 

 

 どうするんだよ? あの右目でも狙うのか!?

 

『――――カレンさん! ギュンターさん! 手を貸してください!』

 

 ロケットランチャーの照準器を覗き込み、ガルゴニスの右目に照準を合わせようとしていると、今度は無線機から信也の声が聞こえてきた。

 

「どうするんだ!?」

 

『作戦を変更します! 僕たちは援護砲撃を!』

 

 援護砲撃? 何を言ってるんだ。無反動砲の砲弾を弾くような外殻を持ってる化け物なんだぞ? 

 

 彼に無線で問い掛けようとしていると、ミラの隣に立っていた信也がいきなりポケットから端末を取り出した。どうやら何かを生産しているらしく、親指で画面を何度も素早くタッチしている。

 

 その直後、いきなりあいつの隣に巨大な砲身が姿を現していた。まるで土台の上に砲身を立て掛け、巨大な2つの車輪を取り付けたような外見だ。俺の持っているロケットランチャーよりも巨大な砲身へと駆け寄った信也が、俺に向かって手を振っているのが見える。

 

 なるほど。あのでかい兵器でガルゴニスに砲弾をぶちかますって事か。

 

 俺はにやりと笑うと、ロケットランチャーを背負って走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガルゴニスが私たちを見下ろしながら咆哮を発した。力也に致命傷を負わされて激怒しているのだろう。漆黒の外殻に浮かび上がっている真紅の模様は更に紅く煌めき、火山灰のせいで薄暗い空に紅い光をばら撒いている。

 

 拙いな・・・・・・。ガルゴニスは致命傷を負っているが、片目を潰され、口の中をズタズタにされた程度だ。やはりあの外殻を破壊できるロンギヌスの槍を叩き込むか、あの潰れた右目に砲弾でも叩き込まなければ倒せないのかもしれない。

 

「―――ねえ、フィオナちゃん」

 

『は、はい』

 

「そういえば、ジョシュアと戦った時にエミリアちゃんが真っ白な姿になってたけど、あれってエミリアちゃんに力を貸してたからなんでしょ?」

 

 最古の竜を倒すための作戦を考えていると、いきなり姉さんがそう言った。

 

 あの時、私はフィオナの力を借りて戦った。彼女から力を借りた状態だと、私は真っ白な電撃を自由自在に操る事が出来るようになる。確か力也がフィオナから力を借りた時は、白い炎を操っていた。私とは属性が違ったのだが、何故なんだろうか?

 

 属性の違いについて考察していると、姉さんは私の傍らに浮かんでいたフィオナの方を振り向いた。

 

「ねえ、お姉さんにも力を貸してくれないかしら?」

 

「えっ?」

 

 姉さんもフィオナから力を借りるつもりなんだろうか? 確かに彼女から力を借りる事が出来れば、戦闘力がかなり上がる。姉さんがフィオナから力を借りれば、もしかしたらガルゴニスを倒せるかもしれない。

 

 姉さんに頼まれたフィオナが、ちらりと私と力也の顔を見てくる。力也はアサルトライフルに最後のマガジンを装着しながら頷き、私の顔を見てから微笑んだ。

 

 私もフィオナを見つめながら頷いた。ロンギヌスの槍を装備しているのは姉さんだ。戦闘力が上がるのならば、ガルゴニスの外殻を粉砕できる威力がある武器を持つ姉さんの戦闘力を上げるべきだ。

 

『分かりました。行きましょう、エリスさん!』

 

「ええ!」

 

 フィオナが静かに浮き上がりながら両腕を広げる。彼女の長い白髪と真っ白なワンピースが熱風の中で揺らめき、白い光になって姉さんの身体を包み込んでいく。

 

 すると、その光の中で姉さんの身に着けていた制服が変色を始めた。漆黒のメイド服のようなデザインの制服が真っ白に染まっていき、姉さんの蒼い髪もフィオナのように真っ白になっていく。

 

 変色が始まったのは衣服と髪だけではない。装備していた武器も、制服と共に純白に変色していた。

 

 姉さんが蒼く変色した瞳を開いた瞬間、火山に決して流れ込んで来る筈がない冷気が出現し、私たちを包み込んでいた熱気を蹂躙し始めた。いきなり出現した冷気に火山の熱気があっさりと押し負けてしまい、姉さんが生み出した冷気が私たちの周囲を呑み込んでしまう。

 

 どうやら姉さんは、フィオナから力を借りた状態だと氷を操る事が出来るようになるようだ。しかも、火山の熱風を冷却して冷気に変えてしまうほどの力を持っているらしい。

 

「――――行くわよ、みんな!」

 

 左手でパイル・ハルバードを構えた姉さんが、冷気をまき散らしながらガルゴニスに向かって走り出した。

 

 


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