異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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カレンとエリスが砲手をやるとこうなる

 

 キャタピラとエンジンの音を火山に轟かせながら、俺たちの分隊はガルゴニスが封印されているという中心部の石碑に向かって進軍していた。

 

 魔物が最も生息している方角から進撃したため、俺たちの分隊の戦力は、他の分隊の戦力よりも多い。俺の乗っている九七式中戦車(チハ)の後方には、もう1台の九七式中戦車(チハ)と、四式十五糎自走砲(ホロ)が走行している。この2両の戦車と1両の自走砲を護衛するのは、百式機関短銃や九九式小銃を装備した歩兵たちだ。

 

 俺たちの目的は、この火山に封印されているガルゴニスを復活させて捕獲し、俺たちの組織の戦力にする事だ。最古の竜を戦力にする事が出来れば、この異世界に存在する大国や他の転生者に対する抑止力になる。

 

 ガルゴニスの力を手に入れる事が出来れば、あの忌々しい転生者ハンターを消す事も出来る筈だ。

 

 あの転生者ハンターにやられた転生者の人数は、なんと496人だ。しかも、転生者ハンターのギルドの仲間も転生者並みの戦闘力を持っているため、他の転生者たちはあのモリガンという傭兵ギルドを恐れている。

 

 だが、ガルゴニスの力が手に入れば、モリガンを簡単に殲滅できるだろう。

 

「隊長、第3分隊より救援要請です」

 

 九七式中戦車(チハ)のキューポラの上で火山を眺めながら考え事をしていると、車内から通信担当の隊員が報告してきた。

 

 第3分隊は、俺たちと別ルートでこの火山地帯に突入してきた部隊だ。九七式中戦車(チハ)1両と歩兵8人で構成された小規模部隊で、突入してきたルートは魔物があまり生息していない安全な地域だ。損害を出さずに目標地点に到着できる筈の部隊なのに、なぜ救援要請を送ってくるんだ?

 

 車内に戻って通信担当の隊員からヘッドホンを受け取った俺は、ヘッドホンを耳に当てて「第3分隊、応答せよ」と言った。

 

 すると、ヘッドホンの向こうから、ノイズと銃声と共に隊員たちの絶叫が聞こえてきたんだ。

 

『こ、こちら第3分隊! が、ガルゴニスの襲撃を受けているッ!』

 

「ガルゴニスだと!?」

 

 馬鹿な!?

 

 あのエンシェントドラゴンは、まだ石碑に封印されている筈だ。まさか、もう封印が解けてしまったのか!?

 

 もしかしたら普通の飛竜やドラゴンのみ間違えかもしれない。俺はヘッドホンに向かって「見間違いではないか?」と問いかけてみるが、第3分隊の隊員に怒鳴り返されてしまう。

 

『ふざけんな! 見間違えるわけがないだろうがッ!』

 

『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

『くそ、またやられた! 救援はまだなのか!?』

 

「・・・・・・馬鹿な」

 

『た、頼む! もう戦車は大破しちまって―――――ギャアアアアアアアアアアア!!』

 

 怒鳴っていた兵士の金切り声が聞こえてからは、ヘッドホンから聞こえるのはノイズだけになってしまった。必死に応戦する兵士たちの絶叫や断末魔はもう聞こえない。

 

 そっとヘッドホンを外しながら、俺は黙って無線担当の兵士にヘッドホンを返した。俺からノイズを発するだけになったヘッドホンを受け取った彼は、冷や汗を拭いながら俺の顔を見上げている。

 

 火山の熱風で熱されている車内だというのに、俺は全く熱さを感じなかった。冷や汗が混じった汗を袖で拭い去った俺は、ヘッドホンを手にしたまま俺を見上げる隊員を見下ろす。

 

 もし第3分隊が本当に復活したガルゴニスに壊滅させられたのだとしたら、複数の分隊に分かれて石碑に向かう意味はない。彼らが壊滅した場所に赴き、何とかガルゴニスを捕獲しなければならない。

 

 彼らが見間違えた可能性もある。だが、我々の戦車の主砲ならばドラゴンの外殻は貫通可能だ。それに、歩兵たちのライフルでも頭を狙えば歩兵のみでドラゴンを撃破することは出来る筈だ。でも、第3分隊は壊滅してしまった。

 

 まさか、本当にガルゴニスにやられたのだろうか?

 

 壊滅した彼らの報告を見間違いだったということにして、予定通り進軍するのか。それとも、今すぐ他の分隊に連絡して、彼らの壊滅した場所に向かうべきか。決断しなければならなかった。

 

「・・・・・・全分隊に連絡。進路を変更し、第3分隊の救援に向かう」

 

「よ、よろしいのですか?」

 

「ああ。急げ!」

 

 俺は乗組員に指示を出すと、再びキューポラの上に戻る。

 

 車内から「進路変更! 3時方向!」という操縦士の復唱する声が聞こえてきて、九七式中戦車(チハ)と共に歩兵たちが進路を変更し始める。後続の戦車と自走砲も、俺の乗る戦車と同じく進路を変え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『みんな、演技お疲れ様!』

 

 レオパルト2の無線機から、隣の10式戦車に乗っている信也の声が聞こえてきた。俺は思わずニヤニヤしながら、レオパルト2のキューポラの上に装備されたブローニングM2重機関銃の点検を始める。

 

 おそらく、今頃別ルートから進軍している敵の分隊は、復活したガルゴニスに第3分隊が襲撃されたという嘘の情報に騙され、こちらに向かっていることだろう。奴らの目的はガルゴニスの捕獲なのだから、もう既に封印が解けた後の石碑に向かっても意味はないんだ。

 

 信也の作戦は、敵の無線を使って敵にガルゴニスに襲撃されているという嘘の情報と救援要請を送り、ここに敵を全て誘き出して一網打尽にするという作戦だった。何とか応戦しながら救援要請を送っているように見せかけるため、俺と信也とギュンターの3人で演技し、エミリア達には敵の銃を空に向けてぶっ放してもらっていたんだ。エミリアたちが演技をしなかったのは、敵の隊員の中に女はいなかったからだ。

 

 敵から聞き出した情報では、敵が使っている兵器は殆ど旧日本軍が使っていた旧式のものばかりらしい。だから、簡単に一網打尽にできるだろう。

 

 ブローニングM2重機関銃のベルトを確認した俺は、ちらりと隣に停車している迷彩模様の10式戦車を見た。数分後に始まる敵部隊の殲滅には、モリガンが保有するレオパルト2A6と10式戦車を使うことにしている。

 

 10式戦車は自動装填装置を搭載しているため、装填手が乗る必要はない。そのため、10式戦車に乗っているのは操縦士を担当するミラと、砲手を担当するカレンと、車長を担当する信也の3人だけだ。

 

 レオパルトの方には、操縦士を担当するエミリアと、装填手を担当するギュンターと、砲手を担当するエリスと、車長を担当するフィオナが乗っている。俺はキューポラの上の重機関銃の射手を担当することになっている。

 

『だ、大丈夫でしょうか・・・・・・? なんだか不安です・・・・・・』

 

「大丈夫だよ、フィオナ。敵を見つけたらエリスに指示を出せばいいんだ。俺もサポートするからさ」

 

『は、はいっ!』

 

 キューポラから頭を出して俺を見上げているフィオナの頭を優しく撫でると、彼女は幸せそうに笑いながら車長の座席に腰を下ろした。

 

「それにしても、旦那の演技力は凄かったなぁ」

 

「ああ、自信があったからな」

 

 ちなみにさっきの演技の配役は、俺が無線機に向かって怒鳴りつけている兵士で、信也は断末魔を上げる兵士だった。ギュンターは救援を催促する兵士の役だ。

 

『はははっ。もし依頼が来なくなったら、傭兵ギルドじゃなくて劇団でも始める?』

 

『いいわね。モリガン劇団って名前にしましょうよ』

 

「おいおい。仕事が来なくなるのは困るぜ」

 

 照準器のチェックをして苦笑いをしながら、俺は信也とカレンにそう言った。

 

 確かにあの演技ならば、劇団でも始められるかもしれない。傭兵の仕事がなくなってしまったら、本当に劇団を始めようかと考えていると、耳に装着した無線機から『・・・・・・来たよ、みんな』という信也の声が聞こえてきた。

 

 火山灰を含んだ熱風の向こうから、微かにキャタピラとエンジンの音が聞こえてくる。俺たちの主力戦車(MBT)は停車しているため、キャタピラの音が聞こえるわけがない。このキャタピラの音は、敵が進軍してくる音だ。

 

 ガルゴニスを復活させようとしている馬鹿どもの軍勢が、俺たちの演技に騙されてここへと向かっているんだ。

 

「総員、戦闘準備! 砲撃用意!」

 

『初弾装填! 形成炸薬(HEAT)弾!』

 

 無線機から、隣の10式戦車で指示を出す信也の声が聞こえてくる。車長の座席に腰を下ろすフィオナも、少しだけ慌てながら『しょ、初弾装填!』と指示を出している。

 

 俺は敵のキャタピラの音を聞きながら、ブローニングM2重機関銃の照準器を覗き込んだ。

 

 敵の戦力は旧式の戦車ばかりだ。しかも九七式中戦車(チハ)の主砲である47mm砲では、最新式の主力戦車(MBT)の装甲を貫通するのは不可能だろう。しかも、向こうの貧弱な装甲では、こちらの55口径120mm滑腔砲と44口径120mm滑腔砲を防ぐのも不可能だ。

 

 だから俺たちは、砲撃しながら前進するだけで勝てるんだ。

 

『目標、距離2400m!』

 

「まだ撃つなよ・・・・・・! 2000mまで引きつけるんだ」

 

『ヤヴォール!』

 

 俺は重機関銃のグリップから手を離すと、車長の座席に座ってモニターを覗き込みながら緊張しているフィオナの頭をもう一度優しく撫でた。

 

「大丈夫だ。信也の作戦だから、勝てるさ」

 

『は、はい・・・・・・!』

 

「よし、頑張ろうぜ」

 

 彼女の真っ白な髪から手を離し、キューポラのハッチを閉めた俺は、手を握りしめてから重機関銃のグリップを握った。

 

 戦車を異世界での戦いに使った事は何回かあったけど、相手は騎士団や魔物ばかりだった。転生者が操る兵器と戦ったことはまだ一度もない。

 

 でも、相手の装備は旧式ばかりだ。こっちには最新のドイツ製と日本製の戦車があるし、優秀な策士もいる。

 

『距離、2100m!』

 

『砲撃用意! 照準、先頭のチハ!』

 

 そろそろ砲撃が始まる。エリスは実戦で戦車砲をぶっ放したことはないけど、エミリアよりも射撃や砲撃が得意らしい。俺は指揮をしなければならないため、砲手は彼女に任せてある。

 

 それに、10式戦車の砲手はカレンだ。彼女の砲撃ならば間違いなく百発百中だろう。

 

『―――距離、2000m!』

 

「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

「発射(ファイア)ぁッ!」

 

『発射(ファイア)ッ!!』

 

 俺が号令を発した直後、レオパルト2A6と10式戦車の戦車砲が同時に轟音を発した。凄まじい衝撃波とマズルフラッシュをまき散らし、周囲の岩石の上に積もっていた火山灰が舞い上がる。

 

 残響が薄れていく中に、金属板が砕け散る音と爆音が轟いた。

 

 熱風と陽炎の向こうに、いつの間にか2つの火柱が出来上がっている。やがてその火柱は黒煙へと変貌し、火山灰と共に熱風に吹き飛ばされて消えていく。火柱が吹き上がっていた大地の根元には、砲塔を吹き飛ばされて炎上する戦車の残骸が転がっていた。

 

『命中! 1両撃破!』

 

「やったぞ、エリス! こっちも1両撃破だ!!」

 

「さすが姉さん!」

 

「やったわ! ギュンターくん、装填お願い!」

 

「ヤヴォールッ!!」

 

 俺は腰に下げていた双眼鏡を取り出して、敵の隊列を確認した。先頭を進んでいた2台の九七式中戦車(チハ)を吹き飛ばされた敵部隊は、慌てふためきながら警戒を始めている。

 

 おそらく、もうガルゴニスに襲撃されたという情報が嘘だと気が付いている筈だ。

 

 残念ながら仲間が壊滅した場所で待ち受けていたのは、最古の竜ではなく、日本製とドイツ製の最新式の主力戦車(MBT)だったんだよ。

 

『敵戦車、発砲!』

 

「まだ射程外だ! 第二射用意!」

 

『了解! こっちはチハを狙うから、兄さんたちは右翼の四式中戦車(チト)をお願い!』

 

「任せろ! エリス、右翼のでっかい戦車を狙え!」

 

「了解! ギュンターくん、装填は!?」

 

「済んでるぜ! ぶちかませ、姐さん!」

 

『撃てぇぇぇぇぇぇぇッ!』

 

「発射(ファイア)ッ!」

 

 エリスが放った2発目の形成炸薬(HEAT)弾が、熱風を引き裂きながら四式中戦車(チト)に襲い掛かった。車体に突き刺さった砲弾はそのまま装甲を突き破り、車内に爆風をばら撒いた。内部で吹き上がった爆風に押し上げられた砲塔が無数の金属の破片や乗組員の焦げた肉片と共に噴き上げられ、火山灰だらけの大地に落下する。

 

 そして、隣の10式戦車の主砲も轟音を発した。どうやら10式戦車が次に放ったのは形成炸薬(HEAT)弾ではなくAPFSDS弾だったらしく、飛んでいく砲弾のカバーがまるで空中分解してしまったかのように剥がれたのが見えた。

 

 カレンが放った砲弾は九七式中戦車(チハ)の砲塔を貫通し、なんとその後ろを走行していた四式十五糎自走砲(ホロ)の車体を貫いたのが見えた。大穴を開けられた戦車と自走砲が動かなくなり、風穴から黒煙を噴き上げ始める。

 

 さすがカレンだな。1発の砲弾で2両の敵を仕留めやがった!

 

『か、カレンさん!? 今の砲撃で2両仕留めたよ!?』

 

『ふふっ・・・・・・!』

 

「あらあら、お姉さんも負けられないわね。ギュンターくん、次はAPFSDS弾よ!」

 

「了解ッ!」

 

 爆発の残響を聴きながら、俺は敵の車両の数を確認した。今の砲撃で何両か撃破したんだが、まだ敵の戦車は30両くらい残っている。

 

 このまま射程距離外から砲撃を続けるべきだろうか? その作戦ならば無傷で勝利できるけど、戦っている最中にガルゴニスが復活してしまう可能性もある。

 

 ならば、こちらも接近して戦車砲だけでなくターレットの20mm速射砲の砲撃も叩き込み、短期決戦をするべきだ。それに、敵の戦車の攻撃力は貧弱だ。こっちの戦車の複合装甲を貫通するのは不可能だろう。リスクはかなり低い。

 

「信也、こっちも突撃するぞ!」

 

『了解! ミラ、前進!』

 

『了解!』

 

「エミリア、前進だ!」

 

「任せろ!」

 

 敵も砲撃しているが、俺たちが砲撃している場所まで届いていない。爆風で火山灰を舞い上げているだけだ。

 

 足元からエンジンとキャタピラの音が聞こえてくる。隣で砲撃していた10式戦車も同じくキャタピラとエンジンの音を響かせ、敵の隊列の中へと前進を始める。

 

 前進を始めたレオパルトの上で、俺はブローニングM2重機関銃の照準器を覗き込んだ。

 

 

 

 

 


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