異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

153 / 224
第11章
世界を救うための依頼


 

 俺の左半身の一部は、移植した義足の影響で変異してしまっている。左腕は義足と同じようにサラマンダーの外殻で覆われ、腰の後ろからは同じく外殻で覆われた細い尻尾が生えているんだ。そして、頭の左側からは髪で隠れてしまうくらいの長さのサラマンダーの角が生えている。

 

 変異が起きた時はショックだったんだけど、もう慣れてしまった。今では尻尾をもう1本の腕のように使う事が出来るようになったんだ。二刀流で戦っている最中に尻尾で銃を使ったり、ライフルを使っている最中に尻尾で刀を使って敵を撃退することも出来るようになった。それに、料理を作る時は包丁で食材を切っている最中に尻尾を使ってフライパンで食材を炒めることも出来るようになったんだ。この尻尾はなかなか便利だ。

 

 左腕の外殻も、どうやらサラマンダーの外殻よりも硬いらしい。しかも本来ならば転生者の体内に存在しない筈の魔力が、この左腕の中には大量に入っているらしい。更に、その魔力はもう既に炎属性に変換されているらしく、詠唱をしなくても炎属性の魔術を使う事が出来るようだ。昨日試してみたんだが、詠唱をせずにすぐに強力な魔術を繰り出せるというのはかなり便利だった。

 

 普通の魔術師ならば、詠唱している間は他の仲間に援護してもらう必要があるんだけど、俺の場合は詠唱しなくても強力な魔術を次々に発動できるから、単独でも全く問題はない。ただし、使える魔術は炎属性のみとなっている。

 

 フィオナに教えてもらったんだが、基本的に属性に変換された魔力を元の状態に戻すことは不可能らしい。儀式をすれば元に戻すことは出来るらしいんだけど、時間がかかるためにその儀式をする魔術師はいない。

 

 そして、頭の左側から生えている角なんだが、どうやらこの角は俺の感情が昂ると伸びるようだ。普段は髪に隠れてしまうくらい短い角なんだけど、伸びるとまるで頭から短剣の刀身が生えているような長さになってしまう。ちなみに角の形状は円錐状の角ではなく、剣の刀身のような形状だ。

 

 頭に生えているその角に触り、伸びているのを確認した俺は、左右で俺に抱き付きながら眠る2人のそっくりな少女を見てからため息をついた。

 

 右側で眠っているのは、この異世界で最初にできた仲間のエミリアだ。ラトーニウス王国騎士団に所属していたんだが、俺と一緒に隣国のオルトバルカ王国までやってきて、一緒に傭兵ギルドをやっている。いつもは凛々しい雰囲気を放つ美少女なんだけど、最近はよく俺に甘えてくるようになった。

 

 左側で眠っているのは、彼女の姉のエリスだ。エミリアと同じくラトーニウス王国騎士団に所属していて、弱冠12歳で王都の精鋭部隊に引き抜かれるほどの実力者なんだけど、ギルドの仲間になってから何故かかなりの変態になってしまった。男子よりも女子が好きらしいんだけど、俺だけは特別らしい。

 

 左右から2人の少女に抱き付かれているせいで、俺の頭から生えている角は伸びてしまっている。きっと俺の顔も真っ赤になっているだろう。

 

 変異した左腕と尻尾は便利なんだが、この角だけは不便だ。興奮すると勝手に伸びるし、伸びた状態だと帽子やフードをかぶっても隠す事が出来ない。

 

 いっそへし折ってしまおうかと思ったんだけど、どうやらこの角は俺の頭蓋骨の一部が変異して突き出ているらしく、へし折れば俺の頭蓋骨まで損傷してしまうため、折るわけにはいかない。しかもサラマンダーの角よりも硬くなっているらしく、パイルバンカーを叩き込んだとしてもへし折ることは出来ないらしい。

 

「ん・・・・・・」

 

「あ、エリス・・・・・・」

 

「ん・・・・・・ああ、力也くん・・・・・・。おはよう・・・・・・」

 

 俺の隣で眠っていたエリスが目を覚ました。瞼をこすりながら俺に顔を近づけてくると、俺の首筋に柔らかい唇を押し付けてから、すっかり真っ赤に変色してしまった俺の髪の匂いを嗅ぎ始めた。

 

 そして、その赤い髪の中から突き出ている角を優しく撫でてから「ふふっ」と楽しそうに笑うと、俺から離れてベッドから起き上がる。

 

 俺もそろそろ起きるか。そう思って毛布を退けて起き上がろうとしたその時、いきなり俺の尻尾を後ろに引っ張られ、俺は再びベッドの上に倒れてしまう。

 

「うおっ!?」

 

「う・・・・・・力也ぁ・・・・・・」

 

「えっ、エミリア?」

 

 どうやらエミリアも目を覚ましたらしい。起き上がろうとしていた俺の尻尾を引っ張って引き戻した彼女は、そのまま俺に抱き付いて匂いを嗅いでから、俺の唇にキスをしてきた。

 

「お、おはよう・・・・・・」

 

「ああ、おはよう。ふふっ」

 

 せっかく角が縮み始めていたのに、再び伸びてしまった。

 

 俺は角に触ってため息をついてから、もう一度ベッドから起き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を終えた俺は、裏庭の門の外に広がる草原へとやってきていた。ネイリンゲンの周辺の草原には魔物があまり出没しないため、ネイリンゲンは他の街のように防壁には囲まれていない。だから、防壁に囲まれている他の街よりもよく風が入り込んでくる。

 

 左手を隠すために付けていた真っ黒な革の手袋を外した俺は、サラマンダーの外殻に覆われてしまった左手を握りしめた。

 

 転生者はこの世界の人間ではないため、体内に魔力を持っていないんだ。だから、転生者が魔術を使うには、普通ならば魔術師という能力を生産して装備しなければならない。でも、俺のこの左腕には炎属性に変換してある魔力が大量に入っているらしいから、わざわざ能力を生産して、装備している十戒殲焔(ツェーンゲボーテ)を装備から外す必要はないんだ。

 

 炎属性の魔術しか使えないけど、強力な魔術でも詠唱する必要はない。

 

「――――マグマ・フレンジー!」

 

 俺は外殻に覆われた左腕で、足元の草原を殴りつけた。

 

 まるで空爆のような轟音が草原に響き渡り、俺の目の前の地面から何本も火柱が吹き上がる。真っ赤な火柱は草原を蹂躙しながら隊列を形成し、草原に無数の火の粉をまき散らした。

 

 マグマ・フレンジーは、地中から無数の炎の槍を出現させて攻撃する魔術だ。エリスが使っていたアイス・フレンジーの氷の柱を火柱にしたような魔術になっている。本来ならば炎の槍で攻撃するんだけど、俺の左腕の中にある魔力の量が多いせいで、地面から噴き出た炎たちは、槍ではなく火柱に成長してしまっていた。

 

 俺の目の前にあった草原は、まるで火山のような光景になってしまっている。

 

「調整が難しいな・・・・・・」

 

 かなり手加減した筈なんだが、出現したのは炎の槍ではなく火柱だった。エリスも体内に持っている魔力の量が多いから、かなり手加減しなければアイス・フレンジーの氷は全て氷の柱になってしまうと言っていた。

 

 あいつに調整するコツでも聞いてみようかな。

 

「力也」

 

「ん? カレンか?」

 

 もう1回練習しようと思っていると、後ろからカレンの声が聞こえた。

 

 確か彼女は、朝食を済ませた後は愛用のマークスマンライフルを担いで射撃訓練場に行っていた筈だ。何か俺に用事があるんだろうか?

 

「どうした?」

 

「依頼よ。応接室まで来て」

 

「依頼?」

 

「ええ。もしかしたら、大仕事になるかもしれないわよ」

 

 大仕事だって?

 

 俺は「分かった」と言いながら、カレンの後について行く。

 

 焦げ臭くなってしまった草原を離れて裏庭への門を潜り、裏口のドアを開けて屋敷の中へと戻る。応接室があるのは屋敷の2階だ。クライアントが依頼に来た場合は、そこで話を聞くことにしている。

 

 ちなみに、俺たちが住んでいるのは大昔にフィオナが住んでいた屋敷だから、他の傭兵ギルドの事務所よりも応接室は立派らしい。

 

 角は髪の中に隠れているけど、もしかしたら気付かれてしまうかもしれないので、一応真紅の羽根がついたフードをかぶっておく。

 

 応接室の前に到着した俺は、ドアを開けてカレンと一緒に部屋の中へと入った。

 

「あ、兄さん」

 

「おう。お待たせ」

 

 大きなソファの向かいに座っていた信也にそう言いながら、俺は弟の隣に腰を下ろした。

 

 応接室のソファに腰を下ろして俺を待っていたのは、エルフやハーフエルフのように長い耳を持つ、浅黒い肌の老人だった。ハーフエルフの中にも浅黒い肌を持つ者はいるけど、この老人の肌は彼らよりもやや黒い。

 

 おそらく、ダークエルフなんだろう。

 

 ダークエルフはハーフエルフと同じく、他の種族から迫害されている種族だ。彼らの肌が浅黒くなったのは、過酷な環境の地域に追放され、そこで生活するようになった影響らしい。

 

「おお・・・・・・お前がモリガンのリーダーか・・・・・・」

 

「ああ」

 

 老人は頷くと、ソファに持っていた杖を立て掛けた。

 

「お前たちは、フランセン共和国の火山地帯に封印されたエンシェントドラゴンの伝説を知っておるか?」

 

「エンシェントドラゴン?」

 

「ああ、噂で聞いたことがあります。ガルゴニスっていうエンシェントドラゴンですよね?」

 

「左様じゃ。レリエル・クロフォードが世界を蹂躙するよりも昔に、人間たちに戦いを挑んだ最古の竜じゃよ」

 

 そういえば、エミリアとデートに行った時に、劇場でそのガルゴニスの伝説を題材にした演劇のポスターを見たような気がする。確か、ドラゴンたちのための世界を作るために戦いを挑んだエンシェントドラゴンの物語だったな。

 

 そのエンシェントドラゴンは、どうやら信也たちがサラマンダーを倒すために行ったあの火山地帯に封印されているらしい。

 

「そのガルゴニスの封印が、弱り始めておる」

 

「封印が?」

 

「うむ」

 

 ダークエルフの老人は、ソファに立て掛けていた杖を拾い上げると、その杖を天井へと向けた。

 

「自然の力が・・・・・・乱れておる。その乱れが、封印を弱らせているのじゃ」

 

「つまり、そのガルゴニスが復活しそうになっているということか?」

 

「左様じゃ。あの竜は人間を憎んでおる。もし復活すれば、レリエル・クロフォードのようにこの世界を蹂躙してしまうじゃろう。もう一度封印し直すか、倒さなければならん」

 

「ガルゴニスを?」

 

「うむ」

 

 最古の竜と戦う羽目になるかもしれないということか。もしかしたら、またレリエルと戦った時のような激戦になるかもしれない。封印だけで済めば問題はないんだが、封印されているのは普通の魔物ではなく、エンシェントドラゴンだ。簡単に封印することは出来ないだろう。

 

「そこで、火山地帯に行き、ガルゴニスを封印して欲しいのじゃ。もし封印できなければ倒すしかないじゃろう」

 

「・・・・・・分かった。引き受けるぜ、爺さん」

 

「助かる。・・・・・・モリガンの傭兵よ、世界を救ってくれ」

 

 そう言ったダークエルフの老人は、応接室のドアの近くで待っていたカレンと共に、杖を突きながら廊下の方へと歩いて行った。

 

 もしガルゴニスが復活すれば、世界は再び蹂躙される。俺たちが奴を封印するか倒さなければ、人間を憎んでいるそのエンシェントドラゴンは間違いなく再び人間たちに襲い掛かることだろう。

 

 まさに、この依頼は世界を救うための依頼だった。

 

「こりゃ大仕事だな・・・・・・」

 

 信也が用意してくれていた紅茶のカップを持ち上げながら、俺は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランセン共和国は、国土の6分の1が火山地帯になっていて、その火山地帯は全てダンジョンになっている。ダンジョンは基本的に環境が過酷すぎる場合や、生息する魔物が危険過ぎるせいで全く調査が出来ていない場所をそう呼ぶため、フランセン共和国は国土の6分の1が調査できていないということになっている。

 

 その火山地帯に足を踏み入れて生還してくる冒険者は40%だ。カレンの先祖であるリゼットが埋葬されていた地下墓地よりも難易度が低いダンジョンだが、足を踏み入れた冒険者の6割が返り討ちにあっている。

 

 俺たちの目的はガルゴニスの封印であるため、戦闘機で向かうわけにはいかない。いつも通りにスーパーハインドで火山地帯へと向かい、到着したら徒歩でガルゴニスが封印されている石碑を目指すことになるだろう。

 

 封印するための魔術はフィオナが知っているらしいので、ガルゴニスが復活する前に石碑に辿り着く事が出来れば、封印し直す事が出来る。でも、封印している最中のフィオナは何もできなくなるため、彼女が魔物に襲われないように守らなければならない。

 

「石碑があるのは火山地帯の中心だ。火山地帯に辿り着いたら、あとは徒歩で近くにある廃村を目指すぞ」

 

「了解だ」

 

『了解です!』

 

「頼むぞ、フィオナ」

 

『はいっ!』

 

 ガルゴニスを封印できるのはフィオナだけだ。もし彼女が消滅してしまったら、俺たちは彼女の治療魔術でサポートしてもらえない上に、ガルゴニスと戦わなければならなくなってしまう。

 

 スーパーハインドの兵員室に乗り込んだ俺たちは、中に用意されていた座席に腰を下ろしながら武器の点検を始めた。

 

「いいか? 火山地帯は当然ながら高熱だ。銃のオーバーヒートも早くなる可能性があるから気を付けろよ」

 

「了解!」

 

 オーバーヒートした場合にすぐに銃身を交換できるように、仲間たちの持つSaritch308には、ドイツ製汎用機関銃のMG42やMG3のように銃身を交換できるようにカスタマイズをしてある。オーバーヒートしそうになったらすぐに銃身を取り外し、予備の銃身と交換すれば問題ないだろう。

 

 信也とミラは火山で戦った事があるけど、他のメンバーで火山で戦った事があるメンバーはいないらしい。しかも信也とミラは火山でサラマンダーを瞬殺しているため、高温の火山で銃を長時間撃ったことはないらしい。

 

 俺は予備の銃身を確認すると、愛用のアサルトライフルを腰に下げ、ため息をついた。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。