異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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信也が新しい戦車を端末で生産するとこうなる

 

 木造の建物が発する匂いの中に、オイルの臭いが混じっていた。転生する前の世界ならば嗅ぐ機会のある臭いだったかもしれないけど、魔術や魔物が存在するこの異世界では絶対に嗅ぐことのない臭いだろう。

 

 完成したばかりのガレージの外から容赦なく入り込んで来る冷たい風で冷却されたその匂いを吸い込みながら、僕は目の前に鎮座する迷彩模様の兵器を見上げていた。

 

 裏庭にある物置の近くに建築された大きなガレージは、戦車を4両ほど格納できるほどのスペースがある。出撃する時は目の前の木製の巨大な扉を開け、塀の一部を取り除いて作られた戦車用のゲートから出撃することになっている。

 

 戦車を4両も格納できる大きさがあるんだけど、僕たちのギルドのメンバーはたったの8人だけだ。だから、ここに4台も格納したとしてもすべての車両で出撃するわけにはいかない。

 

(ねえ、シン! こっちの戦車はなんていう名前の戦車なの!?)

 

 僕の目の前に停車している2両の戦車のうち、右側に停車している大きな戦車の砲塔の上に乗ったミラが、僕がついさっき生産して装備したばかりの新しい戦車を見つめながら聞いてくる。

 

 彼女が砲塔の上に乗っている大きな戦車は、ラトーニウス王国への侵攻の際に活躍したドイツ製主力戦車(MBT)のレオパルト2A6だ。55口径120mm滑腔砲を持つ強力な戦車で、更に端末のカスタマイズで対人用のSマインやアクティブ防御システムまで搭載されている。

 

 そして、その隣に鎮座しているのは、レオパルトよりも小さな戦車だった。ガレージにはレオパルトのようなサイズの戦車ならば4両まで格納できるんだけど、この戦車ならば6両くらいは格納できるかもしれない。

 

 でも、砲塔から突き出た44口径120mm滑腔砲の砲身と、がっちりした装甲が発する威圧感はレオパルトと同等だ。

 

 レオパルトの隣に鎮座しているのは、自衛隊で採用されている10式戦車だ。日本製の主力戦車(MBT)で、アメリカのエイブラムスやドイツのレオパルトと比べると車体は小型だけど、非常に軽量だし、主砲の命中精度も高い。それに自動装填装置を装備しているから、動かすために必要な乗組員は車長と砲手と操縦士の3人だけなんだ。だから人数の少ない僕たちのギルドでも、少ない人数でこの戦車を動かす事が出来るということだ。

 

 レオパルトの砲塔の上から10式戦車の砲塔の上に飛び乗ったミラは、目を輝かせながら車長のハッチを開け、車内を見始めた。僕は笑いながら彼女を見守り、端末で10式戦車に装備を追加することにする。

 

 ひとまず、アクティブ防御システムは必須だろう。レオパルトと同じく20mm速射砲と20mmエアバースト・グレネード弾を発射可能なターレットを装備しておく。Sマインも装備しようと思ったんだけど、軽量な10式戦車ならば敵に接近されたとしても振り切ることは出来る筈だ。それに、2両を同時に投入した戦いならば、強力な戦車砲を持つレオパルトが敵を正面から攻撃し、スピードのある10式戦車が敵を背後や側面から奇襲するという作戦も取る事が出来るかもしれない。

 

 最新の戦車同士の共同作戦か。かっこいいなぁ・・・・・・。

 

(シン、こっちの戦車は3人分しか座席がないよ!?)

 

「ああ、その10式戦車は自動装填装置を搭載してるから、装填手は乗らなくていいんだよ」

 

(そうなの!?)

 

「うん。だからそっちの乗組員は3人なんだ」

 

(すごい・・・・・・! ねえ、シン! この戦車の試運転はやったの!?)

 

「え? ま、まだだけど・・・・・・」

 

 キューポラから顔を出したミラは、ハーフエルフの長い耳をぴくりと動かしながら楽しそうに笑った。

 

 彼女は戦車やヘリが好きらしい。だから、レオパルトに乗る時は必ずミラに操縦士をお願いしている。

 

 きっと、10式戦車の試運転をやってみたいと言い出すに違いない。

 

(じゃあ、試運転やろうよ!)

 

「はははっ。いいよ。10式戦車は僕も好きな戦車だからね」

 

 とりあえず、砲撃訓練はまだやる必要はないだろう。10式戦車の試運転なのだから、屋敷の外の草原を走行するだけで十分な筈だ。だから、砲手が乗る必要はない。

 

 大喜びしながら操縦席に腰を下ろす彼女を見つめながら、僕も車長の座席に腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ・・・・・・はぁっ」

 

「少し休むか?」

 

「ああ、すまん」

 

 俺は呼吸を整えながら肩を回すと、すぐ目の前にある飛行場の滑走路を眺めた。数日前にギルドの皆で板を敷いたばかりの簡単な滑走路の向こうにある屋敷の塀の外には、まだ建設途中の戦闘機用の格納庫がある。

 

 とりあえず、戦車を格納するための格納庫は完成したらしい。信也は新しい戦車を追加するって言ってたけど、何を追加するつもりなんだろうか? 

 

「ところで、左足はどうだ?」

 

「ん? ああ。痛みは消えてきたし、もう大丈夫なんじゃないか? ほら、指もこんなに動くようになったんだぜ?」

 

 左足の靴を脱ぎ、靴下を脱いでから赤黒い外殻に覆われた義足を彼女に見せる。人間の足とは違う形状の左足をエミリアはまじまじと見つめていたけど、俺が黒い爪の生えた義足の指を動かすと、彼女は「おお」と言って驚いた。

 

 義足を付けてもらったばかりの頃は、動かそうとしても足が痙攣するだけだったのに、まるで本当の左足が戻って来たかのように動くようになったんだ。もう松葉杖なしで歩いてもふらつくことはないけど、走っているとまだ義足が痙攣する事があるから、まだ完全に馴染んだわけではないんだろう。

 

 でも、明日にはもう馴染んでいる筈だ。レベッカは一週間くらいって言ってたけど、今日は義足を付けてもらってからまだ5日目だ。どうやら俺のリハビリの速度は速いらしいな。

 

 義足が馴染んでくれれば、俺はエミリアと2人で王都までデートに行けるんだ。

 

 そういえば、そろそろ足のブレードの試し斬りをしてもいいだろうか? もう指は動くようになったし、松葉杖も必要なくなった。レベッカは馴染むまで試し斬りはするなって言ってたけど、もうやっても大丈夫だろう。

 

 靴下と靴を履いた俺は、ズボンの裾を捲りながら左足に力を入れた。すると脹脛の辺りに用意されていたカバーの中から、サラマンダーの角で作られた両刃のブレードが、脹脛に刻まれたスリットに沿って展開する。

 

 冷たい風を蹂躙しながら現れたブレードを展開したまま右足だけで立ち上がった俺は、左足で足技を繰り出すように、何度か義足を振り回してみた。冷たい風を凶悪なドラゴンの素材で作られたブレードが切り裂き、炎のような赤い残像を残していく。

 

「・・・・・・良いブレードだな」

 

「そうだな。レベッカに頼んで正解だった」

 

 レベッカはハイエルフの少女だ。ハイエルフの鍛冶の技術はドワーフと同じく非常に高いため、ハイエルフの鍛冶屋が作る武器や防具は高品質のものばかりだ。特に貴族が好んでハイエルフやドワーフの鍛冶屋に依頼するらしい。

 

 でも、国によっては奴隷にしたドワーフやハイエルフに作らせる場合もあるらしいんだ。

 

 ブレードを義足の中に戻した俺は、靴の中で義足の指をもう一度動かしてから屈伸を始めた。義足が馴染んできたおかげで、屈伸をしても義足が痙攣することはない。左足を失う前のように、スムーズに動いてくれる。

 

 これ以上屈伸する必要はないのに、俺は必要以上に屈伸をすると、立ち上がってから再び滑走路の周りを走り出そうとした。

 

 その時だった。向こうに見えた戦車のガレージのゲートが開き、その中からレオパルトよりも小さな戦車が躍り出たんだ。モスグリーンとブラウンの2色の迷彩模様の戦車はキャタピラとエンジンの音を草原に響かせながら、異世界の草原を走り回り始める。

 

「あれが新しい戦車か?」

 

「ああ。あれは・・・・・・10式戦車だな。俺と信也が住んでた国の戦車だ」

 

「確か、日本という国だったな?」

 

「ああ」

 

 俺の隣で腕を組みながら10式戦車を眺めるエミリア。以前に、寝る前に俺たちの住んでいた世界の事を教えてほしいと彼女が言ってきたことがあったんだ。だから、眠る前に俺と信也がいた世界の事を教えてあげた。

 

 俺たちの世界には魔術や魔物は存在しない。そして、銃という強力な武器が存在する。

 

 彼女は面白そうに俺の話を聞いてくれていた。俺たちの世界に魔術が存在しないという話をした時はかなり驚いていたよ。

 

 エミリアたちは最初に銃を見た時驚いてたけど、俺たちも初めて魔物や魔術を見た時はかなり驚いたぞ。

 

「あれが日本の戦車なのか・・・・・・。なんだかレオパルトよりも小さいな」

 

「ああ。でもレオパルトより軽いんだよ。それに、自動装填装置を搭載してるから乗組員は3人なんだ」

 

「ふむ。つまり、装填手は必要ないと言う事か」

 

「そういうことだな」

 

 よく見ると、あの10式戦車の砲塔の上には、早くもカスタマイズで追加されたターレットが乗っていた。おそらくレオパルトにカスタマイズで追加されたものと同じだろう。20mm速射砲と20mmエアバースト・グレネード弾を発射する事が出来るターレットとアクティブ防御システムだ。

 

 キューポラのハッチが開き、車長の座席から信也が手を振ってくる。やっぱりあの戦車に乗っていたのは信也だったか。ということは、あの10式戦車の操縦士はミラか?

 

「これでモリガンには戦車が2台も・・・・・・」

 

「はははっ。なら、次は戦闘機だな」

 

 異世界の草原を爆走する10式戦車を見守るエミリアの隣で、俺は簡単な滑走路を見つめていた。

 

 あとはあの格納庫が完成すれば、俺たちのギルドは戦闘機という強力な戦力を手にする事が出来る。飛竜よりも速く、強力な武装を持つ戦闘機ならば、空でも敵を蹂躙できるだろう。

 

 爆弾やロケット弾を搭載すれば、敵を爆撃して地上にいる仲間を援護することも出来るようになる。

 

「あの格納庫が完成したら、戦闘機を早速生産する予定だ」

 

「楽しみだな」

 

「はははっ。戦闘機はドラゴンより速いぜ」

 

 俺は笑いながらエミリアにそう言うと、草原を爆走する10式戦車を彼女と一緒に見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハルバードの切っ先が、冷たい風を貫いた。

 

 すぐにハルバードを引き戻し、今度は地面にハルバードの斧の部分を叩き付ける。斧を地面から引き抜いた私は、漆黒のハルバードの柄を左手でしっかりと握りながら、柄についている銃のトリガーのような部品を人差し指で引いた。

 

 私がハルバードに搭載されていたトリガーを引いた瞬間、得物の中から銃声のような轟音が聞こえてきたわ。右手でハルバードの柄から上に突き出たキャリングハンドルを掴み、左手をトリガーから離して柄の側面にあるボルトハンドルを引いた私は、轟音が響き渡った瞬間に突き出たハルバードの先端部を見つめた。

 

 騎士団にいた頃に愛用していた得物はジョシュアに壊されちゃったから、力也くんのあの便利な端末で用意してもらったのよ。この『パイル・ハルバード』という名称のハルバードの先端部はパイルバンカーっていう武器になっていて、柄についているトリガーを引くと、ハルバードの先端部に搭載されている杭が突き出る仕組みになっているらしいわ。ドラゴンの外殻を簡単に貫通するほどの威力があるみたいなんだけど、使った後はボルトハンドルっていう部品を引いて空になった薬莢を排出し、12.7mm弾を装填しなきゃまた杭を撃ち出せないみたい。

 

 ちなみに、この12.7mm弾は力也くんが愛用しているアンチマテリアルライフルっていうあの大きな銃と同じ弾薬らしいわ。

 

 前まで使ってた得物よりも重いけど、もう慣れちゃった。

 

「おう、エリス」

 

「あら、力也くん。リハビリは?」

 

「もう走れるようになったんだ。まだふらつくけど、明日にはもう馴染むと思う」

 

「そうなの? じゃあ、力也くん」

 

「ん?」

 

 私は口の周りをぺろりと舐めてから、彼に作ってもらったパイル・ハルバードの先端部を力也くんへと向ける。力也くんは笑いながら端末を取り出すと、刀とマチェーテを装備して、鞘に収まった状態の得物の柄に手を置いたわ。

 

 引き抜かないのかしら?

 

「お姉さんと――――遊ばない?」

 

「はははっ。いや、まだ義足が完全に馴染んでなくてね。悪いけど馴染んでからでいいか?」

 

「あらあら、残念だわ」

 

 まだ馴染んでなかったのね。無理をしたら融合している最中の筋肉や骨がダメージを受けてしまうかもしれないから、無理をさせるわけにはいかないわ。

 

 私は肩をすくめながら先端部を彼に向けるのを止めると、傍らに得物を突き立てて腕を組む。無理をさせて彼の筋肉や骨がダメージを受けてしまったら、また義足を交換する羽目になるかもしれないわ。

 

 可愛い力也くんがエミリアちゃんに付き添ってもらいながら頑張ってリハビリをして来たんですもの。

 

「あ、そうだ。エリス」

 

「あら、どうしたの?」

 

 屋敷の中に戻ろうとしていた力也くんが、入り口のドアの前で立ち止まると、ハルバードの素振りを続けようとしていた私の方を振り向いた。私は目の前に突き出したばかりのハルバードを引き戻すと、ドアの前に立っている力也くんの顔を見つめた。

 

「明日、エミリアと王都まで出かけてくることになったからさ」

 

「あらあら、そうなの?」

 

「ああ」

 

「遠いじゃないの。あまり無理はしないでね?」

 

「大丈夫だって」

 

 エミリアちゃんと2人でお出かけ? 何をしに行くのかしら?

 

 まさか、デート・・・・・・?

 

 確かに、力也くんとエミリアちゃんは仲が良いわ。数日前は一緒にお風呂に入ってたし。

 

 デートかぁ・・・・・・。いいわねぇ・・・・・・。

 

 もしかしたら、はしゃいでるエミリアちゃんを見れるかもしれないわ! 

 

 私は屋敷の中へと入っていく力也くんの背中を見つめながら、口の周りのよだれを拭った。

 

 

 

 


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