異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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サラマンダーの義足

 

 俺たちの屋敷からレベッカの鍛冶屋に行くには、傭兵ギルドの事務所が集まっている通りを通過しなければならない。そこを通らなくても鍛冶屋に行くことは出来るんだけど、かなり遠回りになってしまう。遠距離を松葉杖と片足で移動するのは辛いので、仕方なくその通りを通って行く事にした。

 

 だが、傭兵ギルドの中には俺たちの事を嫌っている連中もいる。俺たちが有名になってからみんな俺たちに依頼をしてくるため、彼らの仕事が減ってしまっているんだ。だから、その通りを通っている最中に喧嘩を売られるかもしれない。だから俺は、いつもそこを通る時は威嚇用に武器を持って通ることにしている。

 

 でも、今の俺は片足だ。戦闘力はかなり低下している。こんな状態で喧嘩を売られたら非常に危険だ。

 

 だから、俺の隣を歩く少女が護衛についてくれたんだ。

 

「力也、大丈夫か?」

 

「ああ、大丈夫だ。・・・・・・それにしても、早く義足が欲しいなぁ・・・・・・」

 

 俺の隣を歩きながら苦笑するエミリアの背中には、大剣のクレイモアが装備されている。彼女がレベッカの鍛冶屋で購入してきたものらしく、鍔の部分からはサイズの違うリングが三重に反対側の鍔へと伸びていた。装飾はそのリングだけだ。

 

 前に刀身を見せてもらったんだが、レベッカには刀身を黒くして出来るだけ装飾は控えてくれと注文していたらしい。俺たちのギルドでみんなが使っている近距離武器は、一部を除いて刀身が黒く塗装してある。理由は、隠密行動の際に反射しないようにするためなんだが、隠密行動をする時は基本的にサプレッサーの付いた銃で対処してしまうから、あまり潜入や暗殺の依頼で近距離武器を使った覚えはない。

 

 どうやら、俺と一緒に傭兵ギルドをやっているうちに、装飾が控えめで刀身が黒い剣に慣れてしまったらしい。

 

「傭兵を引退する気はないんだろう?」

 

「当たり前だ。お前らが戦ってるのに俺だけ引退できるわけないだろ?」

 

 それに早く義足を作ってもらって歩けるようにならないと、エリスに捕まって襲われてしまうかもしれない。だから俺の貞操のためにも、早く歩けるようにならなければならない。

 

 路地で酒瓶を手にしていた傭兵たちが、腕を組みながら俺とエミリアを睨みつけてくる。俺たちの事を嫌っている傭兵たちだろう。今のところ、手を出されたら徹底的に報復するようにしているから、俺たちに嫌がらせをしようとする傭兵たちはいない。

 

 その睨みつけてきた傭兵たちも、俺とエミリアを睨んでいただけで手は出して来なかった。もし喧嘩を売って来たならば、エミリアが一瞬で撃退してくれるだろう。俺も何とか戦えるが、俺が反撃する前にエミリアが全員叩きのめしてしまうに違いない。

 

 傭兵たちに睨まれながら通りを歩いていると、向こうに鍛冶屋の看板が見えて来た。レベッカの鍛冶屋だ。

 

 店の扉を開けて中に入る。カウンターの向こうは工房になっているらしくて、出来上がったばかりの武器や防具が置いてある棚の奥には窯が見える。その窯のおかげで、店内は暖かかった。

 

 その工房の中で、ツインテールにしたエメラルドグリーンの髪の少女が、華奢で小柄な彼女には似合わない大きなハンマーを焼けたばかりの剣の刀身に何度も叩き付けていた。仕事に集中していて、俺たちには気づいていないらしい。

 

 でも、エミリアが店のドアを閉めた瞬間、彼女の髪から突き出ている長い耳がぴくりと動いた。どうやらドアの閉まった音で気付いたらしい。

 

 彼女はハンマーを傍らに置いて肩にかけていたタオルで汗を拭うと、楽しそうに笑いながらカウンターの方へとやって来た。

 

「いらっしゃいませ! あ、力也さん! お久しぶりです!」

 

 カウンターの向こうから元気のいい声で俺たちを出迎えてくれるレベッカ。でも、俺が松葉杖を使っていることに気付いた彼女は、俺の足を見て目を見開き、笑うのを止めてしまう。

 

「り、力也さん、足が・・・・・・!」

 

「ああ。この前の戦いでさ・・・・・・」

 

 ジョシュアが魔剣を持って攻め込んできた時、ネイリンゲンの住民は避難させておいた。だからレベッカも、住民として避難していたんだ。

 

「それで、義足を作って欲しいんだ」

 

「義足ですか?」

 

「ああ。まだ引退するつもりはないし。――――それに、俺の貞操のためにも歩けるようにならないと」

 

「て、貞操ッ!?」

 

「力也、何を言っている!?」

 

 だって、エリスに捕まったら襲われそうだしさぁ・・・・・・。

 

 でも、レベッカは再び楽しそうに笑ってくれているし、いいだろう。彼女を笑わせるための冗談なんだから。

 

「と、とりあえず、義足を作ってくれ」

 

「分かりましたっ! えっと、カタログはこちらですね」

 

 レベッカはカウンターの後ろにあった棚の中から義足のカタログを取り出すと、カウンターの上に置いた。俺は松葉杖をつきながら近づいていくと、彼女が用意してくれたカタログに目を通す。

 

 色んな義足があるようだった。フィオナが言っていたドラゴン系の素材を使った義足もあったし、ゴーレムの外殻を使った義足もある。アラクネの外殻を使った義足もあるみたいだな。アラクネの外殻はアサルトライフルの弾丸を弾くくらい硬いから防御力は凄いんだろうけど、なんだか模様が気色悪い。それに耐熱性とか耐火性が低そうだから、炎属性の能力を多用する俺が使ったらすぐに燃えてしまうかもしれない。十戒殲焔(ツェーンゲボーテ)には安全装置(セーフティ)があるから燃えることはないけど、なんだかアラクネの義足は使う気にはならなかった。

 

「ゴーレムの義足はどうです? 耐久性がありますよ?」

 

「重量は?」

 

「えっと、片足で20kgですね!」

 

「重すぎるだろッ!?」

 

 確かにあんな岩みたいな外殻がついてたら重くなるな。他にはないんだろうか?

 

 ページをめくってみると、次のページにはドラゴン系の素材を使った義足がずらりと並んでいた。やっぱり義足の中では一番人気らしく、種類も多い。

 

「ニーズヘッグの義足はどうですか? 非常に頑丈ですし、クリスタルもついてますよ?」

 

 確かニーズヘッグは、ミラと信也が闘技場で戦っている最中に乱入してきたドラゴンだな。背中に赤紫色のクリスタルが生えている大型のドラゴンで、非常に頑丈な外殻を持っている。ブレスは吐かないが非常に凶暴な奴だ。

 

 そいつの外殻とクリスタルから作った義足ならばかなり頑丈だろうな。でも、なんだか派手すぎるぞ。脛や膝の辺りがクリスタルだらけだ。

 

「うーん・・・・・・。なあ、出来るならば耐火性が高い義足がいいんだが、おすすめはないか?」

 

「た、耐火性ですか? でしたらこの義足はどうでしょうか?」

 

「ん?」

 

 レベッカがカタログのページをめくり、そのページの真ん中あたりに描かれていた義足の絵を指差す。

 

 その義足は、真っ赤な外殻で覆われていた。鱗の付いている部分もあるけど殆どが外殻で、さっき見せてもらったニーズヘッグの義足のように派手ではない。岩のような外殻に覆われたゴーレムの義足のようにがっちりしているわけではないけど、非常に高い防御力と耐火性を持っているようだ。他のドラゴンの素材を使った義足よりもシンプルだけど、俺はあまり装飾はしないから問題ないだろう。

 

「こいつは?」

 

「―――サラマンダーの素材を使った義足です」

 

「さ、サラマンダーだと!?」

 

 その義足に使う魔物の名を聞いた瞬間、黙ってカタログを眺めていたエミリアがいきなり大声を出した。そのせいで驚いた俺は、思わず松葉杖を床に落としてしまう。

 

 エミリアは「す、すまん・・・・・・」と言いながら俺の松葉杖を拾い上げてくれると、俺の傍らに立て掛けてから再び視線をカタログへと戻した。

 

「サラマンダーって強敵なのか?」

 

「ああ。強力な炎属性のドラゴンでな・・・・・・」

 

「どんなやつなんだ?」

 

「常に炎を纏っている凶悪なやつだ。超高温の炎を纏っている上に、その炎を自由自在に操る事が出来るドラゴンなんだ」

 

 つまり、俺みたいなドラゴンって事か。俺も十戒殲焔(ツェーンゲボーテ)で超高温の炎を自由自在に操る事が出来るからな。ちなみに俺が操れる炎の温度は2000度まで何だが、そのサラマンダーは何度まで操れるんだろうか?

 

「それで、そいつの素材はあるか?」

 

「いえ、かなり強力なドラゴンですから、素材を持ち帰ってくる冒険者の方は殆どいないんです。・・・・・・挑んで生還してくる冒険者もいませんし」

 

「つまり、この義足を作るにはサラマンダーを倒さないといけないということか」

 

「そういう事ですね・・・・・・」

 

 なるほど。この義足をレベッカに作ってもらうためには、サラマンダーを倒して素材を持って来ないといけないわけか。片足で倒しに行けるだろうか?

 

 あの義足は気に入ったから、出来るならばあれが欲しいな。

 

「・・・・・・分かった。じゃあ、また後で来る」

 

「はい、お待ちしています!」

 

「おう。行くぞ、エミリア」

 

「ああ」

 

 とりあえず、義足はサラマンダーの素材を使ったやつにしよう。でももし片足で倒しに行けなかったら、まず他の義足を付けて歩けるようになってから倒しに行くしかないだろう。義足を足に馴染ませたりリハビリするために時間がかかってしまうが、あの義足を手に入れるにはそうするしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、2人とも。お帰り」

 

「おう、信也」

 

 エミリアと一緒に屋敷に戻ると、信也が裏庭でなぜか射撃訓練をしていた。射撃の訓練をするならば地下室の設備を使えばいい筈なんだが、何で裏庭で射撃訓練をしているんだろうか?

 

 彼が持っている武器は、以前に俺が使っていたレバーアクションライフルのウィンチェスターM1873だった。銃床を外して銃身を短くしたせいで、まるでループレバーの付いたフリントロック式のピストルのようになっている。信也はそのウィンチェスターM1873を2丁も持っていたんだ。

 

 信也は旧式の武器を好むんだが、このウィンチェスターM1873はアメリカが西武を開拓していた時代に製造されたライフルだ。だから信也が使っていた南部大型自動拳銃や九九式狙撃銃よりもさらに旧式の武器ということになる。

 

 2丁のレバーアクションライフルを腰のホルスターに収めた信也は、メガネをかけ直しながら俺とエミリアに尋ねてきた。

 

「どうだった? 義足見てきたんでしょ?」

 

「ああ。サラマンダーの素材を使ったやつが気に入ったんだが、素材がないらしくてなぁ。倒しに行かなきゃ作れないらしい」

 

「サラマンダー?」

 

「超高温の炎を自由自在に操る凶悪なドラゴンらしい。出来るならばそいつを倒しに行きたいんだが・・・・・・」

 

「はははっ。片足じゃ無理だって、兄さん」

 

 確かに、片足で倒しに行くのは転生者でも無理かもしれない。外殻を貫く事が出来る火力はあるんだけど、片足が無いから松葉杖がないと移動できないから、攻撃を回避するのはかなり難しいだろう。

 

 無理か・・・・・・。諦めるしかないのかな。

 

 とりあえず、他の義足でも探してみるか・・・・・・。

 

「・・・・・・じゃあ、僕とミラが倒しに行くよ」

 

「え?」

 

「信也が?」

 

 自分のなくなった左足を見下ろしながら苦笑いをしていると、目の前に立っていた信也がいきなりそう言った。

 

 信也がサラマンダーを倒しに行くというのか? だが、信也はまだメンバーの中では未熟だ。それにこいつが得意とするのは作戦を立案して仲間たちを指揮する事だぞ?

 

「大丈夫。この前の戦いでゾンビを相手にしてたら、レベルがかなり上がってたし」

 

「今のレベルは?」

 

「55だね」

 

 確かに、無数のゾンビ共を装備していた銃が全部弾切れになるまで倒していればレベルはかなり上がるな。これで信也のステータスもかなり強化されている筈だ。

 

 だが、まだ俺のレベルと比べると3分の1だ。大丈夫なのか?

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ。新しい戦い方も思いついたし、作戦を立てるのは得意だからさ」

 

 そう言いながらメガネをかけ直し、ニヤリと笑う信也。裏庭で射撃訓練をしていたのは、その新しい戦い方の練習だったんだろうか?

 

「だが、俺の義足だぜ? 弟に任せるわけにはいかないよ」

 

「気にしないでよ、兄さん。いつも兄さんには頑張ってもらってるし、恩もあるからね。僕からの恩返しだよ」

 

「い、いいのか?」

 

「うん。僕に任せて、兄さん」

 

「す、すまん・・・・・・」

 

 だが、さすがにただで行かせるわけにはいかないな。これは俺からの依頼ということにして、2人に報酬を用意しておくべきだろう。もちろん俺からの依頼だから、ギルドに報酬を提出する必要はない。全額2人にプレゼントするつもりだ。

 

 俺は優しい弟に感謝すると、松葉杖をつきながら屋敷の中へと向かった。裏口から屋敷の中へと入り、右手で階段の手すりを掴みながら少しずつ階段を上っていく。

 

 義足を足に付けたら、毎日その魔物の血液を投与して馴染ませながらリハビリをする必要がある。だから、義足を付けたらすぐに歩けるようになるわけではないらしい。

 

 でも、早く復帰しないとな。仲間たちに迷惑をかけてしまう。

 

「良い弟だな、力也」

 

「ああ。優しい弟だ・・・・・・」

 

 階段を何とか上って手すりから手を放し、松葉杖をつきながら廊下を進んでいく。左足があった頃ならば走れば数秒で登り切る事が出来た階段なんだが、今は1階から3階まで上って来るのに4分くらいかかってしまう。

 

 それに、転ばないように気を付けなければならないからかなり面倒だ。

 

 俺はため息をつきながら、自室のドアを開けた。

 

「お帰りなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」

 

「え、エリ―――ギャッ!?」

 

「力也ぁッ!?」

 

 ドアを開けた瞬間、いきなりドアの向こうから胸元が大きく開いたメイド服に身を包んだエリスが、部屋の中に入ろうとしていた俺に飛び掛かってきた!

 

 左足があれば回避できたかもしれないんだけど、片足が無いせいでスピードが落ちている俺は彼女のタックルに直撃する羽目になり、そのまま床に押し倒されてしまう。

 

「もう、なんでお姉さんを置いていくのよぉ! 寂しかったじゃないのっ!」

 

「え、エリス、頼むから離れて・・・・・・!」

 

「うふふふっ、ダメよぉ。お姉さんを置き去りにしたお仕置きなんだからぁ・・・・・・」

 

 お願いだからその大きなおっぱいを倒れている俺に押し付けるのを止めてくれませんか? エミリアにまた殺されそうになるんですけど。

 

 俺は何とかエリスを引き離そうと両手で抵抗しながら、恐る恐るエミリアの方を見上げた。俺が床に押し倒されているのを見下ろしていたエミリアは、また書斎でSMG(サブマシンガン)のフルオート射撃をぶっ放した時のように肩を震わせながら、右手を背中のクレイモアへと伸ばしている。

 

 ちょ、ちょっと待って! まさか今度はそれで斬るつもりか!?

 

「え、エミリア! ちょっと待って!」

 

「だからお前は人の姉で何をやっているんだ馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

「俺は被害者なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 俺は涙目になりながら絶叫すると、エリスに床に押し倒されたまま松葉杖を掴み取り、辛うじてエミリアの強烈な剣戟を受け止めた。

 

 


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