異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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十戒殲焔

 

「すげえ数だなぁッ!」

 

 旦那に用意してもらったM249パラトルーパーのトリガーを引き、次々にゾンビの頭を粉砕しながら俺は叫んだ。両手に持っている2丁のLMGには250発入りのヘリカルマガジンが取り付けられているから、再装填(リロード)はベルトを交換するのではなく、アサルトライフルと同じようにマガジンを交換してからコッキングレバーを引くだけでいい。2丁も使っているんだから、素早く再装填(リロード)が出来るのはありがたかった。

 

 再装填(リロード)している間にゾンビに襲われないように旦那がカスタマイズしてくれたんだ。俺は旦那に感謝しながら、2丁のLMGのフルオート射撃を次々に目の前のゾンビたちに叩き込んでいく。

 

 俺の隣では、カレンがアサルトライフルのG36を構えてフルオート射撃を行っていた。無数のゾンビが接近してくるから、マークスマンライフルのセミオート射撃で狙撃するよりもフルオート射撃や3点バースト射撃で次々に薙ぎ倒した方がいい。だから、カレンはいつものマークスマンライフルではなく、アサルトライフルを使っていた。

 

 俺たちの銃の5.56mm弾だけでなく、武装を搭載しているドローンやブローニングM2重機関銃を搭載しているターレットもゾンビに攻撃を叩き込み、接近してくるゾンビの騎士たちを粉砕していく。

 

 今のところは、ゾンビたちが蹂躙されている。だが、持久戦になればこっちは弾薬を使い果たしてしまうため、この蹂躙をずっと続けていることは出来ない。旦那とエリスが魔剣を何とかしてくれない限り、いずれ俺たちがあのゾンビ共に蹂躙される羽目になる。

 

 空になった薬莢が排出され、先に排出されていた薬莢とぶつかって金属音を奏でる度に、俺はぞっとしていた。このM249パラトルーパー用の弾薬はあとヘリカルマガジンが4つ。これを撃ち尽くせばいよいよ背中に背負っているグレネードランチャー付きのM16A4の出番だ。だが、旦那とエリスが魔剣を破壊してくれなければ、いつまでもゾンビ以外に弾薬が減っていく緊張とも戦わなければならない。

 

 まるで、少しずつナイフの切っ先を近づけられているような気分だった。弾薬が全てなくなり、ゾンビたちに接近戦を挑まなければならなくなった時、そのナイフは俺の肉体に突き立てられる。銃という強力な武器を持っているアドバンテージがなくなれば、間違いなく俺たちは敗北する。

 

 ゾンビたちを蹂躙するマズルフラッシュと銃声が途切れないように祈りながら、トリガーを引き続ける。

 

 飛び回るドローンたちが、マズルフラッシュを煌めかせて必死に押し寄せるゾンビの隊列を撃ち抜いていくけど、集中砲火を叩き込んで隊列を崩したかと思えば、その後ろにいたゾンビたちが呻き声をあげながら前進してくるから、すぐに隊列の穴は埋められてしまう。

 

 俺たちやドローンたちの持っている弾薬を全て叩き込んだとしても、こいつらを殲滅することは不可能だ。だから、俺たちはここでゾンビ共を殲滅するために戦うのではなく、旦那とエリスが魔剣をぶっ壊すまでの時間稼ぎをしなければならない。

 

 あの2人が魔剣をぶっ壊すまで、ゾンビ共に弾丸をお見舞いしなければならないということだ。

 

「ギュンター、大丈夫!?」

 

「当たり前だ! カレンは!?」

 

「私は大丈夫よ! ――――喰らいなさい!」

 

 カレンはG36のマガジンを取り外しながら手榴弾を取り出すと、片手で安全ピンを外して襲い掛かって来るゾンビの群れに向かって放り投げ、コッキングレバーを引いた。コッキングレバーが元の位置に戻った瞬間に彼女の手榴弾が爆発し、爆風と破片で再びゾンビたちの隊列に穴をあける。

 

 でも、その穴をすぐに後続の隊列が埋めてしまう。でもカレンは、アサルトライフルでその後続の隊列を狙うと、まるで傷口に更にナイフを突き立てるようにフルオート射撃を叩き込んだ。何発も5.56mm弾を頭に喰らったゾンビの頭が弾け飛び、周囲のゾンビ共が仲間の血肉で真っ赤になる。

 

 もう、あの群れの中に突っ込んでいった旦那たちは見当たらない。呻き声の向こうで銃声や爆音が少しだけ聞こえてくるけど、俺たちの目の前にあるのはゾンビの隊列とマズルフラッシュの光だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は誰なんだ・・・・・・?」

 

 私は目の前で楽しそうに笑う蒼い髪の少女に問い掛けた。雰囲気は私と姉さんに似ているが、ペンドルトン家の子供は私と姉さんだけの筈だ。私は姉さんのホムンクルス(クローン)だが、姉さん以外に子供がいる筈がない。

 

 まさか、私以外のホムンクルス(クローン)か?

 

 もしかすると、もし魔剣を埋め込まれていた私が死んだ時のために他にもホムンクルス(クローン)を生み出していたのかもしれない。予備のホムンクルス(クローン)を用意しておけば、私が殺されても、心臓から魔剣を取り出して埋め込み直せば計画が頓挫することはない。

 

 つまり、予備の私ということか・・・・・・?

 

 すると、目の前の少女はにこにこと笑いながら言った。

 

『―――私は、エミリアと呼ばれる筈だった存在よ』

 

「なに・・・・・・?」

 

 エミリアと呼ばれる筈だった存在だと?

 

 つまり、彼女は生まれる前に死んでしまった本物のエミリアということか。魔剣を心臓に埋め込まれ、魔剣の破片に十分に血を吸わせるための道具としてだけ生み出された私とは違う、本物のエミリア。本当ならば姉さんと一緒にあの実家で育ち、妹と呼ばれる筈だった少女。

 

 何のために私の目の前に姿を現したのだろう? 自分の役割と名前を奪い、ジョシュアに利用されて死んだ私を嘲笑いに来たのだろうか?

 

『いつまでここにいるつもり?』

 

「え・・・・・・?」

 

 本物のエミリアはにこにこと笑ったまま、蒼い草原の向こうを指差した。彼女が指差した草原の向こうには、いつの間にか無数の半透明の人影が、まるで致命傷を負った負傷兵のようにふらふらと歩きながら、銃を構えて必死に弾丸を撃ち続ける半透明の人影たちへと向かって突進していく。

 

 どうやら先ほどから聞こえていた銃声は彼らが撃っていたかららしい。よく見ると、その銃を持っている半透明の人影たちは全員見覚えがあった。

 

 両手でLMGと思われる大型の火器を担ぎ、雄叫びを上げながら連射しているのはハーフエルフのギュンターだ。彼の傍らでアサルトライフルを構え、フルオート射撃で素早くゾンビたちの頭を撃ち抜いているのはカレンのようだ。

 

 彼らの近くでは、アサルトライフルを持った信也がミラと共に必死にゾンビたちに向かって銃を撃ち続けている。彼らが戦っている場所から離れたところにある屋敷の中では、真っ白なワンピースを身に纏ったフィオナが、モニターを見つめながらコンソールをタッチし、無線機で最前線の仲間たちに指示を出している。

 

 そして、ゾンビたちの群れの中を前進していく人影が見えた。片方は以前まで私が身に纏っていた黒い軍服のようなモリガンの制服を身に纏い、アサルトライフルと銃剣でゾンビたちを蹴散らしている。彼女の隣では、同じくアサルトライフルを持った少年が、至近距離でのフルオート射撃でゾンビの頭を吹き飛ばし、銃剣でゾンビを何体もまとめて両断していた。

 

 その人影は、力也と姉さんだった。特徴的な黒いオーバーコートを羽織りながら戦う力也の隣で奮戦する姉さんは、まるで私のようだった。

 

 当たり前だ。私は姉さんの遺伝子を元に生み出された偽物の妹(エミリア)なのだから。

 

『彼らはあなたのために戦ってるんだよ?』

 

「私のため・・・・・・?」

 

『そう。あなたを殺した敵に報復するため』

 

 ジョシュアに報復するためだと?

 

『でも、あれはあなたの弔い合戦なんかじゃない。彼らはみんな、あなたが戻ってきてくれるって信じてる』

 

「私が・・・・・・?」

 

『うん。・・・・・・だから、戻ってあげて。そして、また一緒に戦ってあげて』

 

 そう言いながら、本物のエミリアは私の方に歩み寄ってきた。そして、ぎゅっと握っていた私の手を優しくつかむと、必死に戦っている仲間たちの姿を眺めていた私を引き寄せ、そっと抱き締めてくれた。

 

『私は生まれる事が出来なかった。でも、あなたは私の代わりに生まれて、私の名前を引き継いでくれた。あなたは、私の役割と名前を奪ったわけじゃない。私の代わりに、姉さんの妹になってくれた。だから、私はあなたの事を全然恨んでないのよ・・・・・・?』

 

「エミリア・・・・・・」

 

 彼女は私から両手を離すと、私を優しく後ろへと押した。後ろに向かってよろめいた瞬間、いきなり本物のエミリアの後方に蒼い草原が吸い込まれ始め、向こうで戦っていた半透明の人影たちが消滅していく。周囲の光景が吸い込まれて消滅していくというのに、目の前で微笑んでいる本物のエミリアは、まるで消えて行くこの空間に置き去りにされたかのようにまだ目の前に立っていた。

 

「エミリア!」

 

『そろそろ行ってあげなさい。・・・・・・あの力也っていう人が喜ぶわよ?』

 

 だが、微笑みながら私に手を振る彼女の体も、徐々に消滅を始めた。爪先が蒼い光を放ちながら崩れていき、周囲の光景と共に背後に吸い込まれていく。

 

 でも、彼女はまだ微笑んだままだった。自分から名前と役割を奪った私を見送ってくれているのだ。

 

『――――頑張って!』

 

「ありがとう、エミリア・・・・・・・・・!」

 

 そして、蒼い光が彼女を包み込んだ。蒼い人影となった彼女が崩れ去り、草原と共に消滅していく。

 

 彼女は、私を恨んでいなかった。

 

 私は彼女の代わりに生まれ、姉さんの妹になったんだと言ってくれた。

 

 ならば、彼女の代わりに仲間たちの所に戻ろう。そして、仲間たちと一緒に戦う!

 

 力也、今行くからな・・・・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 最後のグレネード弾をぶっ放し、ゾンビ共がふらつきながら構えていた盾もろとも近くのゾンビを吹っ飛ばした俺は、端末が用意してくれた弾丸を全て撃ち尽くしてしまったM16A4を投げ捨てると、腰の後ろのホルスターから2丁の水平二連ソードオフ・ショットガンを引き抜いた。

 

 俺と一緒にゾンビの群れを突破しようとしているエリスもアサルトライフルとグレネードランチャーの弾薬を使い果たしてしまったらしく、M16A4を投げ捨ててホルスターから引き抜いた9mm機関拳銃で応戦している。

 

 8ゲージの散弾と9mm弾の弾幕を目の前のゾンビにだけ叩き付け、俺たちを食い殺そうとしてくるゾンビたちの隊列をこじ開けていく。崩れ落ちたゾンビの死体を踏みつけて前へと走り続け、ひたすらトリガーを引いた。

 

 火薬の臭いと血肉の臭いが混じり合う。銃声がゾンビたちの呻き声をかき消し、その銃声の残響をゾンビたちの呻き声が喰らいつくしていく。でも、このままゾンビたちの隊列を突破できなければゾンビたちの呻き声が銃声を喰いつくしてしまうだろう。その前にジョシュアの所に辿り着き、魔剣をぶっ壊さなければならない。

 

 でも、ゾンビの数が多すぎる。そろそろ500体くらいゾンビを倒したような気がするけど、俺たちが銃で攻撃を始める前にドローンとC4爆弾の先制攻撃で数を減らされているにもかかわらず、ゾンビたちは次々に俺たちに襲い掛かって来る。

 

 もう呻き声と銃声しか聞こえない。自分の雄叫びや呻き声は、発した瞬間に銃声と呻き声の争いに飲み込まれて消えてしまうだけだ。

 

 その時、ゾンビが突き出して来たランスが俺の左肩を掠めた。鮮血と肉片で真っ赤になった刃が俺の左肩を少しだけ切り裂く。全くダメージはないんだが、突き出されたランスのせいで少しだけバランスを崩してしまい、ゾンビに向けていたソードオフ・ショットガンの銃口が天空を向いてしまう。

 

「くそったれ・・・・・・!!」

 

 弾薬を無駄にしちまった! しかも今撃っちまったのが装填されていた最後の散弾だったんだ! 水平二連ソードオフ・ショットガンは2発しか散弾を装填できないから、2回発砲したらまた再装填(リロード)をしなければならないんだ!

 

「力也くん!!」

 

 エリスが叫びながら俺を援護しようと左手の9mm機関拳銃を俺の近くのゾンビに向けようとするけど、彼女の周囲にもゾンビは何体もいる。両手のSMG(サブマシンガン)で何とか撃破できているというのに、俺を援護できる筈がない。

 

 このままではジョシュアの所に辿り着く前に、こいつらに喰い尽されちまう・・・・・・!

 

 剣を持ったゾンビが、体勢を崩した俺に止めを刺そうとしたその時だった。

 

 空から無数の黒いレイピアの刀身のような棘が降り注ぎ、俺とエリスの周囲で呻き声をあげていたゾンビの群れを一瞬で穴だらけにしてしまったんだ。

 

「な・・・・・・!?」

 

「これは・・・・・・闇属性の魔術・・・・・・・・・!?」

 

 一時的にゾンビたちの呻き声が消えていたから、エリスの呟いた声がよく聞こえた。

 

 この魔術は見たことがあるぞ。

 

 近くに倒れているゾンビの体中に突き刺さっている棘を凝視しながら、俺はこの闇の棘を目にした戦いの事を思い出す。確か、あれはヴリシア帝国の帝都サン・クヴァントでの戦いだった。

 

 あの時戦った奴らが、こんな魔術を使ってきた。

 

 転生者よりも手強い奴だった。

 

「――――しっかりしろ、力也」

 

 いきなり背後から聞こえてきたのは、低い声だった。やっぱりその声は、あの帝都で戦った強敵の声だ。互いに重傷を負い、止めを刺す事が出来なかった強敵。転生者よりも手強かったあいつの声だ。

 

 後ろを振り返ると、やっぱり黒いコートを身に纏った30代くらいの男性が、腕を組みながら俺を見つめていた。

 

「レリエル・クロフォード・・・・・・!?」

 

「え・・・・・・!? この人が、伝説の吸血鬼・・・・・・・・・!?」

 

 9mm機関拳銃を彼に向けようとしていたエリスが、伝説の吸血鬼の名を聞いて目を見開く。かつてこの世界を支配した最強の吸血鬼なのだから、エリスだって知っている筈だ。

 

 俺たちが帝都で戦った最強の男は、傍らに白い服とマントを身に着けた金髪の少女と、黒いスーツを纏った銀髪の少年を引き連れて、俺とエリスの後ろに立っていたんだ。白い服の少女は彼の眷族のアリアだけど、あの銀髪の少年は誰だ? 新しい眷族なのか?

 

 何をしに来たんだ? まさか、俺とまた戦いに来たのか?

 

 もし戦いに来たのならば勝ち目がないぞ。あの時はカレンとギュンター以外のメンバーで戦いを挑んだというのに、スーパーハインドを撃墜された上にみんな死にかけたんだ。弱点の銀すら用意していないから、こいつに攻撃したとしてもすぐに再生されてしまう。

 

「―――相手は魔剣のようだな」

 

「ああ。俺はそいつをぶち殺しに行くから、お前とは戦えないぞ」

 

 レリエルはにやりと笑うと、腕を組むのを止めてからゾンビの隊列を睨みつけた。

 

「――――この無礼者共は、我々に任せろ」

 

「なに・・・・・・?」

 

 ゾンビの相手を引き受けてくれるというのか?

 

 俺と戦いに来たわけではないということなんだろうか。

 

「私の好敵手を、このような下等な者共に殺させるわけにはいかん」

 

「好敵手か・・・・・・」

 

「ああ。貴様とはまた戦いたいからな」

 

 レリエルがそう言うと、彼の傍らで漆黒のレイピアを引き抜いたアリアも俺の顔を見て笑いながら言う。

 

「ゾンビ共は私たちに任せなさい。あなたたちは早く魔剣を破壊して」

 

「助かるぜ」

 

「行け、力也!」

 

「おう!」

 

 あのレリエル・クロフォードが加勢してくれるらしい。これならば、ゾンビの隊列をすぐに突破する事が出来るぞ!

 

 俺はレリエルに「ありがとな!」と叫ぶと、ソードオフ・ショットガンのリロードを済ませてからホルスターに戻し、鞘の中からアンチマテリアルソード改と小太刀を引き抜く。エリスも9mm機関拳銃をホルスターに戻してから、背負っていたハルバードを取り出した。

 

 そして、伝説の吸血鬼に怯えているゾンビたちに向かって走り出す。魔剣はレリエルの血で汚れてしまった剣の成れの果てだから、ゾンビたちはその剣を汚した男を恐れているんだろう。まるで帝王を恐れる民衆のように、ゾンビたちは呻き声を上げず、黙って姿を現したレリエルと眷族たちを見つめている。

 

 でも、俺とエリスが最初にゾンビの首を両断した直後、再びゾンビたちは呻き声を上げ始め、真っ赤に汚れた得物を振り上げた。だが、既に俺とエリスは得物を構え、突進しながらゾンビたちに向かって武器を振り払っていたから、奴らが俺たちに武器を振り下ろすよりも先に、ゾンビ共が刀とハルバードの餌食になった。

 

 漆黒の刀に首を切断されたゾンビが崩れ落ちる。エリスが突き出したハルバードの先端部が、ゾンビを4体ほどまとめて串刺しにしてしまう。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 魔剣を持つジョシュアを守ろうと、ゾンビとなった騎士たちが必死に俺たちに向かって剣や槍を振り下ろしてくる。でも、すぐに傷だらけの体を鎧もろとも両断され、赤黒い血飛沫を上げながら崩れ落ちていった。

 

 血まみれの肉体が千切れ飛ぶ。俺とエリスの得物が、少しずつ真っ赤に変色していく。

 

 俺とエリスを囲んでいるゾンビたちが蹂躙されていく。後方でも信也たちや参戦してくれたレリエルたちにゾンビたちが次々に倒され、草原が死体だらけになる。

 

「どけッ!」

 

「遅いわよ!」

 

 前に踏み込みながら右手のアンチマテリアルソード改を振り下ろしてゾンビを頭から両断し、そのまま反時計回りに回転しながら左手のワイヤーの付いている小太刀を投擲。右隣のエリスに襲い掛かろうとしていたゾンビの頭を貫いたのを確認してから引き戻すと、目の前のゾンビのアキレス腱を右手の刀で斬りつけ、がくんと体勢を崩したゾンビの喉元に逆手持ちにしている小太刀の刃を叩き付ける。

 

 隣で奮戦しているエリスも、ハルバードの斧の部分でまとめてゾンビを吹っ飛ばし、目の前のゾンビがロングソードを振り上げた瞬間に頭を先端部で串刺しにする。そのまま得物を引き抜かずに振り回し、斧の部分でゾンビの頭を叩き潰しながら、串刺しになっていたゾンビを前方のゾンビの隊列に放り投げる。

 

 そして、エリスにゾンビを投げつけられて転倒した奴らに向かって、俺はトリガーを引きながら刀を振り下ろす。アンチマテリアルライフル用の弾薬が刀身の内部で爆発し、アンチマテリアルライフル並みの運動エネルギーを与えられた刀身がゾンビを5体も両断した。

 

 そのゾンビたちが吹き上げた血飛沫の向こうに、禍々しい剣を持った金髪の少年が立っていた。相変わらず派手な装飾の付いた防具を身に着け、ニヤニヤと笑っている。

 

「まだ生きてたのか、余所者が・・・・・・」

 

「ジョシュアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 俺はエミリアを殺した怨敵に向かって絶叫した。

 

 この男がエミリアの心臓から魔剣の破片を取り出し、彼女を殺したんだ。そして計画に手を貸していた筈のエリスを殺そうとした。

 

 こいつに報復しなければならない。こいつをぶっ殺して魔剣を破壊するために、俺とエリスはゾンビ共の隊列を突破してきたんだ!

 

「ぶち殺しに来たぜ、クソ野郎ッ!」

 

「ハハハハッ。僕をぶち殺す? 無理だよ。僕にはこの魔剣があるからね」

 

 そう言いながら、ジョシュアは紅いオーラを纏った禍々しい魔剣の切っ先を俺とエリスに向けて来た。

 

「あんなホムンクルス(クローン)を好きになるような馬鹿と、あんな魔剣を復活させるための道具を妹って呼んでる出来損ないなんて簡単に殺せる。安心しなよ。殺したら魔剣の力でお前たちをゾンビにして、僕の手下にしてやるからさぁ! ハッハッハッハッハッ!」

 

「―――今度は、止めを刺すからな」

 

「―――あ?」

 

 高笑いしていたジョシュアが、まだニヤニヤと笑いながら俺を見下ろした。

 

 お前は、また俺に負けるんだ。

 

「エリス」

 

「何?」

 

 右隣に立つエリスに向かって言うと、俺は左手の小太刀を鞘に戻し、右手の刀を足元に突き立てた。そして羽織っていた漆黒の制服を脱ぎ捨て、ジョシュアの野郎を睨みつける。

 

 エミリアに心臓を移植した際に切り開かれた胸の傷跡があらわになる。上半身だけ裸になった俺は、隣でハルバードを構える彼女に言った。

 

「―――今から、少々グロい姿になるからな」

 

「え?」

 

 端末で生産した、新しい能力の出番だ。かなり強力な能力だが、リスクが大き過ぎるからゾンビとの戦いでは全く使わず、ここまで温存しておいたんだ。

 

 もう報復すべき男は目の前にいる。

 

 俺の大切な仲間を殺し、その仲間の姉を利用した野郎だ。命乞いをしてきても絶対に許さない。

 

 蹂躙してやる・・・・・・!

 

「――――十戒殲焔(ツェーンゲボーテ)、発動・・・・・・!!」

 

 

 

 

 


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