異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

13 / 224
クガルプール要塞

 

  クガルプールの空はすっかり明るくなっていた。そのせいで、俺が眠った時よりもクガルプール要塞の警備の状況がはっきりと見えている。街に入るためには入り口の検問所を通らなければならないらしく、入り口に近付いた商人の荷馬車が騎士に呼び止められていた。

 

 俺たちが隠れていた森からクガルプールまでは、少し深い草むらが広がっている。俺はパーカーのフードをかぶり、ソードオフのウィンチェスターM1873とペレット・ダガーだけを腰のホルダーと鞘に装備した状態で、エミリアと共に草むらの中を匍匐前進していた。

 

 目的はもちろん国境を越えるためだ。でも、このまま匍匐前進でクガルプール要塞を迂回して国境を越えようなんて作戦ではない。そんなことをすれば時間がかかるし、空中を警戒している飛竜に見つかるかもしれない。それに、迂回している最中に魔物に襲われれば厄介なことになる。魔物に不意打ちされる可能性があるだけでなく、もしそこで魔物を撃退したとしても、それが原因で騎士団に発見される可能性があるんだ。

 

 だから俺たちは、何とか要塞に潜入して飛竜を奪い、空を飛んで国境を越えるという作戦を立てた。飛竜に乗った経験があるエミリアに手綱を任せ、俺は追撃して来ると思われる騎士たちの飛竜を何とか撃退すればいい。

 

 検問所の騎士に気付かれないように防壁へと接近した俺たちは、身体についた草の切れ端を払い落とすと、そのまま要塞の方へと進み始めた。いきなり防壁を何とか越えて侵入すれば、そこに広がっているのは要塞ではなく街だ。飛竜がいるのは間違いなく要塞の方だろう。できるならば、要塞に侵入する前に見つかりたくはなかった。

 

「伏せろ」

 

「!」

 

 エミリアが俺のパーカーを引っ張り、近くに飛竜が来たことを告げる。俺は慌てて草むらの中に再び伏せると、上空を騎士を乗せた飛竜が通り過ぎていくのを待った。

 

「くっ、やっぱりすごい警備だな」

 

「何とか侵入するまで見つかりたくないものだ………」

 

 飛竜が飛び去っていったのを確認すると、俺たちは再び立ち上がって要塞の方を目指す。

 

 ジョシュアと戦った時や、フランシスカに殺意を向けられた時のような緊張感が俺たちを取り囲んでいるかのようだった。もしもこんな便利な端末をポケットの中に用意してもらえず、丸腰でこの異世界に転生させられていたら、俺はもう間違いなく死んでいただろう。それにエミリアとも出会えなかった筈だ。腰のホルダーの中にある銃とエミリアという仲間が、何とか俺が緊張感に屈しないように支えてくれていた。

 

 だから、負けられないんだ。

 

 さっき俺たちの上を飛び去っていった飛竜は、俺たちからかなり離れたところでゆっくりと旋回を始める。どうやら戻っては来ないらしい。

 

『聞いたかよ。ジョシュア様の許嫁を連れ去らったっていう男の話』

 

『何で俺たちまで付き合わされるのかねぇ………』

 

「ん?」

 

 壁の内側からそんな声が聞こえてきた。街の中を警備している騎士たちだろうか? 俺とエミリアは歩きながら、その会話に耳を傾ける。

 

『黒っぽい服を着て、背中に変わったでかい武器を背負ってるからすぐに分かるらしいんだが………。なんでも、ナバウレアから空を飛んで逃げたらしいぜ』

 

『飛竜でも呼んだのか?』

 

『いや、飛竜を使わずに飛んだらしいぞ?』

 

『ありえない。きっとジョシュア様は、許嫁をさらわれたショックで幻覚でも見ちまったんだろ?』

 

 どうやら、騎士団の中でもジョシュアは嫌われてるみたいだな。話を聞いていた方の騎士はめんどくさがっていたようで、そのエミリアと彼女を連れ去った俺に壁の外から聞かれてるっていうのにジョシュアの悪口を口にしている。

 

「………嫌われてんだな、あいつ」

 

「仕方がないだろう………」

 

 フランシスカは彼の事をどう思ってたかは分からないけど、他の部下たちもきっとさっきの騎士と同じように思っているのかもしれないな。可哀相に。

 

 

 

 

 

 

 俺の放り投げたワイヤー付きのペレット・ダガーの刃が防壁の壁面にしっかり突き刺さったのを確認すると、俺はダガーから鞘に伸びるワイヤーを掴み、防壁をゆっくりと登り始めた。防壁の下では俺のウィンチェスターM1873を構えたエミリアが、もし飛竜に発見された場合にすぐ迎撃できるよう警戒している。俺はその間にこの壁を登り切って、彼女にワイヤーが繋がったダガーの鞘を下ろしてあげればいい。

 

 両腕に力を込めて身体を持ち上げ、壁を踏みつけながら進んでいく俺。ダガーはぐらつくことなく壁面に食い込んだままになってるけど、このダガーの切れ味って凄いんだな。それとも俺の攻撃力のステータスのせいなんだろうか? 確か、レベル7の段階で500を超えていたような気がする。

 

「ふう………」

 

 何とか壁を登り切った俺は、防壁の上に見張りがいないことを確認すると、すぐに腰の鞘を外してエミリアの方へと落としてやった。彼女がそれをキャッチして上り始めたのを確認すると、俺はサプレッサーを装着したHK45を装備し、警戒を始める。

 

 飛竜はまだ俺たちに気付いていない。どうやら飛竜に乗っている騎士たちは、俺たちが街の方にいると思い込んでいるらしく、そっちの方を中心に見張っているようだ。だから俺たちが要塞の防壁の上にいることに全く気付いていない。

 

「ほら、掴まれ」

 

「す、すまない………っ!」

 

 彼女の右手を握って引き上げると、俺は呼吸を整える彼女から鞘を返してもらい、壁面から何とかペレット・ダガーを引き抜いた。

 

 HK45を彼女に返し、俺も彼女からソードオフのウィンチェスターM1873を返してもらうと、俺は銃をホルダーに戻しながら要塞を見渡す。オルトバルカ王国方面の防壁は特に分厚くなっていて、その防壁の分厚くなっている部分の上には弓矢を装備した騎士たちがずらりと並んでいる。あっちから上がらなくて本当に良かった。

 

 街から要塞に入るための門の前には検問所があって、そこを抜けたら要塞の中の道を通ってオルトバルカ王国の国境へと向かうことができるようだ。もし飛竜が見張っていなければ、馬を盗んで逃げることもできたかもしれない。

 

「飛竜は…………あそこか」

 

 その分厚くなっている防壁の下にある広場が、どうやら飛竜の発着場になっているらしい。分厚い防壁から伸びた鎖には、3体の飛竜が繋がれているのが見える。

 

 何とかあそこに辿り着き、鎖を切断して飛竜で飛び立つことができればいい。空を警戒している飛竜も、すぐに俺たちが飛竜を盗んで逃げたしたことに気が付けないだろう。彼らが対応するよりも、間違いなく俺たちが逃げ切る方が先だ。

 

「行くぞ」

 

「ああ」

 

 HK45を手にしたエミリアが、防壁から要塞内部へと降りていくための階段を降り始める。騎士に発見されないうちに階段を駆け下りた俺たちは、近くに置かれていた木箱の陰に隠れ、見張りの騎士たちがこっちに来ないかを確認した。

 

 エミリアのHK45はサプレッサーが装備されているけど、俺のウィンチェスターM1873には装着されてない。つまり俺がこのままトリガーを引けば、銃声が要塞の中に轟く結果になる。

 

 俺はライフルを腰のホルダーに戻すと、鞘の中からペレット・ダガーを引き抜いた。銃よりもかなり射程距離は短くなるけど、こいつを投げて攻撃すれば静かに見張りを倒すことができるだろう。それに、ワイヤーを引っ張ればすぐにダガーを回収できる。

 

 近くに見張りの騎士がいないことを確認してから、俺は静かに木箱の陰から移動を開始。今度は樽の陰に隠れると、俺はエミリアがこっちに来る前に周りを確認する。

 

 それにしても、なんだかこの樽の中から美味そうな匂いがしてくるんだけど、もしかして非常食でも入ってるのか? そういえば昨日は森の中で見つけた木の実くらいしか食べてなかったし、腹も減っている。俺は樽の蓋を静かに開けて中に片手を突っ込むと、中身を取り出した。

 

「馬鹿、何をやっている?」

 

「腹が減っててな」

 

 いつの間にか俺と同じく樽の陰にまでやってきていたエミリア。俺は彼女に言い訳をしながら、樽の中から取り出した保存食の干し肉を一切れ差し出す。

 

「確かにな。私も空腹だ」

 

 彼女は俺から干し肉を受け取ってかじりつきながら、飛竜の発着場までどこを通っていくべきかを確認し始めたようだった。幸い要塞の中は木箱や樽だらけで隠れる場所が多いけど、もし空を見張っている飛竜たちが戻ってくれば簡単に見つかってしまう。それに、見張り台の上の弓を持った騎士にも気を付けなければいけない。

 

 干し肉を食べ終えた俺はエミリアからHK45を貸してもらうと、銃口を近くの見張り台の上にいる騎士へと向けた。見張りやすいように兜は装備していないみたいだ。

 

 ドットサイトで照準をつけ、俺は見張り台の上の騎士の顔面に45口径の弾丸をお見舞いする。森の中で狼たちと戦った際、エミリアが何度も轟かせていたあの銃声は、装着したサプレッサーによってしっかりと黙らせられていた。反動が俺の両手に襲い掛かり、空になった小さな薬莢が排出される。頭に風穴を開けられて騎士が崩れ落ちたのを確認すると、俺は彼女にハンドガンを返して移動を開始した。

 

 見張り台はあと4つ。今倒した騎士が崩れ落ちた時に音は全く出ていない筈だから、気付かれてはいないだろう。

 

 次の物陰に移動しようと頭を上げた俺は、甲冑の揺れるような音を聞いてすぐに頭を下げ、蓋が開いたままの木箱の陰に隠れる。エミリアは俺について来ようとした瞬間に騎士の接近に気が付いたらしく、まださっきの樽の陰に隠れたままだ。

 

 静かに確認してみると、見張り台の方へと騎士が1人歩いていく。まさか、さっきヘッドショットで仕留めた騎士を確認しに行くつもりか!?

 

 拙いぞ。もし見張りの死体が見つかったら街の方を警備していた騎士たちや飛竜に乗った騎士たちが集まってくるかもしれない。もしそうなったら、俺たちは200人以上の騎士たちに包囲されることになる!

 

 今すぐにあの騎士を仕留めないと拙い。でも、ウィンチェスターM1873で狙撃するわけにはいかない。銃声が要塞に響き渡ってしまうからな。

 

 俺はその騎士が俺の隠れている木箱の近くを通過するのを確認すると、ウィンチェスターM1873を手に持って―――銃床を思い切り、その騎士の後頭部へと叩きつけた。

 

 攻撃力が500もあるおかげで、俺に背後からライフルで殴られたその騎士はそのまま気を失い、崩れ落ちた。俺はすぐにソードオフのウィンチェスターM1873をホルダーに戻すと、気絶した騎士を木箱の陰に隠し、エミリアの方を向いてから頷く。

 

 飛竜の発着場まであと100m強。この調子で発着場の飛竜を奪うことができれば、後はオルトバルカ王国まで飛んでいくだけだった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。