轟音が響き渡った瞬間、氷の破片が舞い上がった。その氷たちはT字型のマズルブレーキから放たれたマズルフラッシュと熱気を一瞬で冷却し、現れる筈の陽炎を消し去ってしまう。
しかし、熱気を冷却して勝ち誇る冷気を、すぐに次の焼夷弾の熱気が消し飛ばしてしまう。そして、また冷気が焼夷弾の熱気の残滓を冷却する。先ほどからこれの繰り返しだ。その攻撃を繰り出している主人の戦いも、この熱気と冷気の戦いのように膠着し始めていた。
空になったマガジンを取り外し、サムホールストックのホルダーから焼夷弾のマガジンを取り出すと、そのマガジンを装着してから銃剣をエリスに向かって突き出す。彼女がその銃剣を受け止めた瞬間にコッキングレバーを引いて再装填(リロード)を済ませ、至近距離でそのままトリガーを引く。
でも、エリスはすぐに受け止めていた銃剣を上に押し上げ、右に回り込んだ。トリガーを引いた瞬間に銃身を押し上げられてしまったため、OSV-96の銃口は空へと向けられ、炎を纏った12.7mm焼夷弾は空へと飛んで行ってしまう。
「くっ・・・・・・!」
俺は左手でキャリングハンドルを握りながら銃剣をエリスへと向け、横から奇襲してきた彼女のハルバードを受け止めた。焼夷弾をぶっ放したばかりのアンチマテリアルライフルの銃身が、氷を纏った彼女のハルバードで冷却されていく。冷却してもらえるのはありがたいが、大事な得物を氷漬けにされるわけにはいかない。銃身を左に振り回すようにしてハルバードを逸らし、銃剣を引き戻す。
おそらく、エリスは左利きだ。だから俺から見て左側に得物を逸らされると、体勢をすぐには立て直せない筈だ。その隙に攻撃できるかもしれない。
エリスのハルバードの先端部が地面に叩き付けられた瞬間、俺は左手をキャリングハンドルから放して腰の後ろにあるホルスターに伸ばした。そのまま水平二連ソードオフ・ショットガンのグリップを握って引き抜き、2つの銃口をエリスの頭に向ける。
でも、トリガーを引こうとした瞬間、ソードオフ・ショットガンの短い銃身がいきなり左に逸らされた。そのせいでさっきの焼夷弾のように、8ゲージの散弾たちは地面に大きな風穴をいくつも開ける羽目になった。
どうやらハルバードから左手を離し、俺に撃たれる前に銃身を殴りつけて逸らしたらしい。
「ははははっ! 彼女に勝てるわけがないだろう!?」
「うるせえ!」
俺はエミリアの近くで儀式の準備をしているジョシュアに怒鳴り返した。あいつに向かって今すぐ散弾か12.7mm弾をぶち込んでやりたいが、そうすれば近くで縛りつけられているエミリアまで巻き添えになってしまう。それに、エリスと戦っている最中にジョシュアに狙いを定められるわけがない。
ソードオフ・ショットガンをホルスターに戻して再びアンチマテリアルライフルのキャリングハンドルを握った俺は、後ろにジャンプしながら空中でエリスに照準を合わせた。そして彼女に向かってトリガーを引き、エリスが焼夷弾を回避している隙にOSV-96の長い銃身を折り畳む。
そして、腰の左側に下げている刀と小太刀を引き抜きながら着地した。
右手に持っているのはアンチマテリアルソード改だ。レリエルとの戦いで破壊されたアンチマテリアルソードの改良型で、ライフルのような形状から刀のような形状に変化している。12.7mm弾を1発だけ装填する事が可能な変わった刀で、トリガーを引くと薬室の内部で12.7mm弾が爆発するようになっている。その爆風を刀身の峰の部分にあるスリットから噴射することによって、アンチマテリアルライフル並みの運動エネルギーで敵を斬りつけることが可能になっていた。
レバーアクション式のライフルのループレバーのような部品が装着された柄を握った俺は、小太刀を逆手に持ちながらエリスに向かって突撃する。左手の小太刀にはワイヤーがついていて、そのワイヤーは鞘に装着されているリールに繋がっている。だからこの小太刀は投擲するだけでなく、移動するのにも使えるようになっている。
「接近戦を挑むつもり!?」
「ああ!」
エリスはこの刀に搭載されている機能を知らない。きっと変わった部品の付いた刀だと思っている筈だ。
氷を纏ったハルバードの先端部を俺に向けて突き出してくるエリス。俺は左手の小太刀で先端部を受け流しながら左側に回り込み、右手の刀を右下から左上に振り上げる。
いきなりトリガーを引くわけにはいかない。エリスは俺の早撃ちを見切るほどの強敵なんだから、いきなり繰り出したら見切られてしまうだろう。だから見切られずに攻撃を叩き込むには、何度か攻撃して普通の刀だと思い込ませなければならない。
振り上げた刀身を躱したエリスはハルバードを一旦引き戻し、後ろにジャンプしながら俺に切っ先を突き出して来た。また小太刀で弾き返したけど、エリスはすぐに弾かれた先端部を引き戻し、また俺に向かって突き出してくる。
エミリア以上のスピードだった。片手の小太刀だけでは受け止めきれない!
「うおおおおおおおおおおおッ!!」
右手の刀も使って、俺は彼女の連続攻撃をひたすら弾き続けた。刀とハルバードが衝突する度に火花と氷の破片が舞い上がり、すぐに消えて行く。
小太刀で受け止めた瞬間にすぐに引き戻して突き出してくるため、弾いた直後に反撃する事が出来ない。
どうやらエリスは、このままジョシュアが儀式を終えるまで消耗戦に持ち込んで時間を稼ぐつもりらしい。出来れば付き合いたくない戦いだが、リタイアすれば彼女のハルバードに串刺しにされてしまう。
「いいぞ、エリス!」
「くそ・・・・・・!」
彼女の攻撃を弾きながら、俺はちらりと自分の得物の様子を確認した。刀と小太刀の漆黒の刀身は彼女の氷で凍り付き始めていて、段々と重くなってきている。
拙いぞ。いつまでも2本の刀を振るっていられるわけがないし、段々と氷が増えて行くから重量も増えていく。このままでは彼女の連続攻撃に追いつけなくなってしまうだろう。
ここで使うしかないみたいだ。
俺は彼女のハルバードを左手の小太刀で受け止めてから、右手の刀で弾き返す筈だったハルバードを右足で左上に蹴り上げた。蹴りを叩き込んだ右足のブーツが凍り付く前に足を戻すと、目を見開きながらすぐにハルバードでガードの準備をしているエリスに向かって、トリガーを引きながら右手の刀を振り払った。
右手の刀の中から、アンチマテリアルライフルのような凄まじい銃声が轟いた。薬室の中の12.7mm弾が絶叫を発した直後、峰の部分のスリットから真っ赤な爆風が噴出し、刀が早くエリスを斬りたいと言わんばかりに俺の右手を引っ張り始める。
消耗戦からリタイアするついでに、エリスを倒す!
「喰らえ、エリスッ!!」
しかし、再び冷気が熱気を冷却し始めた。
炎を噴出しながら振り払われた刀を、氷で覆われたハルバードの柄が受け止めたんだ。弾丸が跳弾するような大きな音が響き渡り、ハルバードから剥離した氷が熱気と共に舞い散った。
受け止めたのか!?
彼女は何とかハルバードで俺の攻撃を受け止めたけど、アンチマテリアルライフル並みの運動エネルギーを叩き込まれたエリスは、そのまま体勢を崩して吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられてしまう。
「きゃっ・・・・・・!!」
今すぐに追撃すれば、彼女に止めを刺せる。
彼女に飛び掛かって刀を突き立ててやろうと思ったけど、早くエミリアを助け出さなければ儀式が始まってしまう。俺は踵を返すと、エリスが立ち上がる前にエミリアに向かって走り出した。
「エミリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「くっ・・・・・・! おい、エリス! 何やってんだよ!? さっさとその余所者を殺せ!」
縛り付けられているエミリアの近くで、彼女が縛り付けられている柱に自分の魔力を流し込んでいたジョシュアが叫んだ。
今の俺のレベルならば、ジョシュアを一瞬で殺せるだろう。初めて戦った時よりもレベルやステータスが上がっているし、他の転生者やレリエルとの戦いも経験しているから、技術も上がっている筈だ。何度も死にかけながら戦ってきた俺に、権力しかない貴族の奴が勝てるわけがない。
ジョシュアが慌てて剣を引き抜いた。俺は情けない彼を睨みつけ、刀を振り上げながら突っ走る。
だが、いきなり左から冷気を引き連れて突き抜けてきた氷の塊に邪魔をされ、俺は立ち止まる羽目になった。
「エリス・・・・・・!」
「い、いいぞ、エリス!」
刀のキャリングハンドルを掴んで12.7mm弾を装填しながら、俺は氷の塊を放ったエリスを睨みつけた。彼女は地面に身体を叩き付けられただけらしく、あまりダメージはなかったようだ。
「お前、なんで邪魔をする!? 自分の妹が儀式に使われそうになってるんだぞ!?」
何のための儀式なのかはまだ分からないが、この儀式にはエミリアが必要らしい。自分の妹が儀式に使われようとしているのに、エリスは何故止めようとしないのか?
俺にも弟がいる。だが、俺はもし信也が何かの儀式に使われそうになったら、兄として止めようとするだろう。間違いなくエリスのように、ジョシュアに手を貸したりしない。
苛立った俺は、彼女を睨みつけながら問い掛けた。彼女はエミリアに姉と呼ばれるのを嫌っていた筈なんだけど、何故か俺がエミリアを自分の妹と言ったのに嫌う様子がない。悲しそうな顔をしながら歯を食いしばり、縛り付けられているエミリアを見つめている。
「ハッハッハッハッ。余所者、教えてやろうか?」
「なに?」
「エミリアも知らないだろう? この儀式で何が始まるのか・・・・・・」
「くっ・・・・・・!」
エミリアの頬を無理矢理撫でながら言ったジョシュアは、柱の近くに立てかけてあった1本の剣を拾い上げた。
俺たちが使っている剣のように、真っ黒な刀身の剣だった。チンクエディアの刀身を伸ばしたような形状の剣で、バスタードソードくらいの大きさだ。でも、その剣の切っ先は欠けているようだ。
かなり古い剣なのかもしれない。先端部が欠けた剣を手入れせずに放置したような剣だ。
「その剣は何だ・・・・・・!?」
「ハハハハッ。――――余所者。レリエル・クロフォードを封印した大天使の話は知っているか?」
大昔に世界を支配していた伝説の吸血鬼を倒し、封印した大天使の話なんだろう。以前にフィオナが寝る前に教えてくれた話だ。
レリエルは神々から2本の剣を与えられた大天使に、剣で心臓を貫かれて封印された。だがその心臓を貫いた剣は吸血鬼の血で汚れ、全てを切り裂いてしまう魔剣へと変貌してしまった。神々や大天使たちはその魔剣を破壊し、レリエルが封印された場所から離れた地に封印したという。
「魔剣に成り果てた剣は破壊されて封印された。・・・・・・・・・その魔剣は、これだよ」
「何だと・・・・・・・・・!?」
ジョシュアはニヤニヤと笑いながら、切っ先が欠けた真っ黒な剣を掲げた。あんな剣が魔剣だというのか!?
縛り付けられているエミリアも魔剣を見て驚いているようだ。ジョシュアは笑いながらエミリアにその魔剣を見せつけると、真っ黒な刀身を左手で撫で始める。
あんな手入れせずに放置したような古い剣が魔剣なのか?
「考古学者たちを何人も雇って破壊された魔剣の破片が封印された場所を探させたよ。ダンジョンの中にあったから、何人も騎士や考古学者が死んだ。・・・・・・でも、僕は魔剣を手に入れる事が出来たんだ」
「先端部が欠けてるみたいだな。どうした? なくしたのか?」
ジョシュアを睨みつけながら挑発すると、奴は笑うのを止めてから俺を睨みつけた。でも、すぐに手元の魔剣を見下ろしてまたニヤニヤ笑い始めると、また手を縛り付けられているエミリアに近づけていく。
「――――いや、破片は戻って来た」
「―――どういうことだ?」
すると、ジョシュアはいきなりエミリアが胸に装着していた防具を外し始めた。レベッカがエミリアのために作ってくれた漆黒の胸当てを取り外したジョシュアは、エミリアの左の胸を指差すと、楽しそうに笑いながら俺の方を振り向いた。
「―――――ここにあるんだよ」
「エアバースト弾、再装填(リロード)!」
(敵兵が来るよ、シン! 4時方向!)
「了解! カレンさん!」
「分かってるわ!」
レオパルトの巨大な砲塔が旋回し、長い砲身が後方から接近してくる騎士たちに向けられる。モニターを確認してみると、4時方向から突撃してくる騎士たちの反応はたった5人分しかない。前方から襲い掛かって来る騎士たちも指揮官が戦死したせいでバラバラだ。
中には逃走を始める騎士もいるから、敵の戦力は半減している。
「榴弾、装填!」
「了解!」
「発射(ファイア)!」
「発射(ファイア)ッ!!」
カレンさんが発射スイッチを押し、榴弾を接近していた騎士たちに叩き込んだ。薄汚れた防具を身に纏いながら、まだ攻撃を続けようとしている騎士たちをまとめ上げていた先頭の騎士を押し潰した榴弾は、バラバラになった騎士の肉体と共に地面に落下し、爆炎と爆風を近くにいた騎士たちに叩き付けた。
爆風に押し出された爆炎と泥が4人の騎士たちを飲み込んだ。銀色の防具が砕け散り、騎士たちの体が簡単に千切れ飛んでいく。
砲撃を終えた砲塔を正面に旋回させると、モニターに総崩れになった騎士たちの隊列が見えた。接近戦が得意なラトーニウス王国の騎士たちが、駐屯地に向かって進撃してくる異世界の兵器を恐れて逃げ出している。
「フィオナちゃん、あまり無理はしないでね?」
『は、はい。でも、敵が逃げてますから大丈夫です』
戦車の外でPDWを装備して護衛してくれていたフィオナちゃんは、先ほどから全く発砲していない。さっきから襲い掛かってくる敵はカレンさんの正確な砲撃で片っ端から吹っ飛ばされているし、接近してきた騎士は僕がエアバースト・グレネード弾で対応しているから、彼女の役割は接近してくる敵の索敵と迎撃の補助になっていた。
『それにしても、凄い兵器なんですね・・・・・・』
「う、うん・・・・・・」
この世界にはもちろん戦車という兵器は存在しない。騎士たちが乗り込むような兵器といえば飛竜くらいだろう。それ以外は基本的に騎士たちが自分で武器を持ち、敵を攻撃するしかない。
エアバースト・グレネード弾の再装填(リロード)が済んだ後、僕はモニターを睨みつけて敵の索敵を開始した。
でも、モニターの向こうの敵は殆ど逃げ出していた。さっきのように攻撃してくる騎士たちはもういないようだ。駐屯地の近くの方では何とか隊列を再編成していたようだけど、接近してくるレオパルトを見た騎士たちは構えていた盾や槍を投げ捨て、他の騎士たちと一緒に逃げだしていた。
「―――どういうことだ・・・・・・?」
魔剣の破片が、エミリアの胸にあるだと?
俺はジョシュアを睨みつけてから、ちらりと左にいるエリスを睨みつける。エリスは魔剣の破片の在処を知っていたらしく、悲しい顔をしながら俯いていた。
「そ、そんなわけがないだろう・・・・・・!? 何を言っているんだ・・・・・・?」
「先端部の破片は君の中にあるんだよ、エミリア」
先端部が欠けた魔剣を眺めていたジョシュアは、左手でエミリアの胸を指差した。そのまま指を彼女に近づけると、心臓の辺りに触れる。
「この魔剣の先端部は・・・・・・君の心臓に埋め込まれているんだ」
「馬鹿な・・・・・・! 魔剣が心臓の中にあるって事か!?」
どういうことなんだ!? 魔剣の最後の破片がエミリアの心臓の中にあるだと!?
ジョシュアは俺の顔を見て笑うと、エミリアの胸から手を離した。そして腰の鞘に入っている自分の剣を投げ捨てると、代わりに鞘の中に切っ先が欠けた魔剣を収め、両手を広げる。
「その通り。―――魔剣の切っ先は、レリエルの心臓を一番最初に貫いた部分だ。だから吸血鬼の血による汚染が一番酷くてね。そのままくっつけても、復活できなかったんだよ。・・・・・・魔剣を復活させるには、その切っ先に血を吸わせる必要があったんだ」
「なんだと・・・・・・?」
「だから、君が余所者に連れ去られた時はひやひやしたよ。魔剣の破片が連れ去られたんだからねぇ・・・・・・」
魔剣の破片が連れ去られた・・・・・・? エミリアはお前の許婚じゃなかったのか!?
ジョシュアの言葉にキレた俺は、ソードオフ・ショットガンを引き抜いて銃口をジョシュアに向けた。だが、こいつをぶっ放せばエミリアにも風穴が開いてしまう。
「おっと、エミリアまで巻き込むよ? いいの?」
「クソ野郎が・・・・・・! 自分の許婚じゃねえのかよ!?」
「こいつが? ハハハハハッ!! 魔剣に血を吸わせるための女が俺の許婚だって!?」
「てめえ・・・・・・!!」
俺たちが逃げ出した時にジョシュアが止めようとしていたのは、許婚のエミリアが連れ去られるのを防ぐためではなく、魔剣の破片が持ち去られるのを防ぐためだったらしい。
つまり、エミリアはどうでもよかったのか!!
「ありえないよ。こいつは人間じゃないし」
「・・・・・・え?」
エミリアが目を見開き、ジョシュアの顔を見つめている。
どういうことだ? エミリアが人間じゃない・・・・・・?
その言葉を聞いた瞬間、怒りがいきなり消え失せた。俺はジョシュアの顔を睨みつけるのを止め、エミリアの顔を見つめる。
彼女は人間だ。半年だけだけど、今まで一緒に生活してきた。いつもは凛々しいけど、よく俺に甘えてくる可愛い少女なんだ。
「――――やめなさい、ジョシュア」
呆然としていると、後ろからエリスの声が聞こえた。彼女はジョシュアを睨みつけながら、彼に向かって氷のハルバードを向けている。俺よりも強い彼女に得物を向けられているというのに、エミリアの頬を撫で続けているジョシュアはまだニヤニヤ笑ったままだった。
「なんでだよ。君が彼女を嫌い始めた理由だろ?」
「言わないで、ジョシュア・・・・・・!」
まさか、エリスも知っているのか?
俺はゆっくりとエリスの方を見た。彼女はちらりと俺を見ると、さっきのように悲しい顔をしてから再びジョシュアを睨みつける。
だが、ジョシュアは言うつもりのようだった。ニヤニヤと笑いながらエミリアから手を離すと、俺の顔を見ながら言った。
「エミリアは―――――そこにいるエリスの遺伝子を元に作られた
「!?」
「なっ・・・・・・!?」
エミリアが
そんな馬鹿な。彼女は人間だ。エリスの妹で、俺たちのギルドの仲間だ。エリスの遺伝子を元に作られた
「魔剣に血を吸わせたら、破片を取り出す際に埋め込まれた人間は死ぬ羽目になる。だから長女であるエリスに埋め込むわけにはいかなかった。僕の父上やエリスの父は、次女として生まれてくる子に魔剣の切っ先を埋め込んで血を吸わせることにしたんだ」
相変わらずニヤニヤと笑いながら話を始めるジョシュア。今すぐ撃ち殺してやりたいと思っていた筈なのに、エミリアが人間ではなかったという衝撃がその殺意をどこかへと消してしまったようだ。
「でも、ペンドルトン家に生まれる筈だった次女は母親の胎内で死んでしまった。魔剣の切っ先に血を吸わせるための道具が死んじゃったんだ。でも、エリスに埋め込むわけにはいかない。だから僕の父上とエリスの父は、エリスの遺伝子を元に
ジョシュアは笑いながら言うと、柱に縛り付けられたまま呆然としているエミリアの頬をまた撫で始めた。
「エミリア、聞いてたかい? 大好きなお姉ちゃんが冷たくなった理由だよぉ?」
「そんな・・・・・・! ね、姉さん・・・・・・!」
「・・・・・・!」
「ジョシュアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「おっと、もう儀式を始めないとねぇ。エリス、時間を稼いでくれるかな?」
ふざけやがって・・・・・・!
再び殺意が戻って来た。俺はアサルトライフルの照準をジョシュアの頭に向け、ホロサイトの向こうにあるジョシュアの顔を睨みつける。
だが、トリガーを引こうとした瞬間、また左側から冷気を引き連れた氷の塊が俺の目の前を突き抜けていった。その冷気が俺の顔に叩き付けられたけど、全く冷たく感じなかった。
まるで俺の怒りが、その冷気をかき消しているかのようだった。
「エリスぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ! 邪魔するんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
心臓から魔剣の破片を取り出されれば、エミリアは死んでしまう。自分の妹が殺されそうなのに、どうして姉のお前は助けないんだ!?
彼女が嫌いなら、あんな悲しい顔はしないだろう!?
俺は氷のハルバードを俺に向けているエリスに銃口を向けると、絶叫しながらトリガーを引いた。