「砲塔旋回! 2時方向! 目標、敵兵の隊列! キャニスター弾用意!」
「了解!」
モニターとレーダーの反応を確認しながら、僕は車長の座席で指示を出していた。兄さんが騎兵隊の隊列を突破して後続の騎士たちを蹂躙しながら進んでいるおかげで、突出してきた騎士たちと後方で待ち構えている騎士たちが分断されている。だからレオパルトに襲い掛かって来る騎士たちを殲滅したら、僕たちも前進するべきなのかもしれない。
レーダーでは、敵の反応である赤い点の群れが2つに切り裂かれていた。兄さんの反応が前進する度に、敵は兄さんを恐れて逃げて行くか、兄さんに立ち向かっていって数秒で返り討ちにされているようだ。兄さんの目の前に現れる紅い点たちが一瞬で次々に消えて行くのを見てから、僕はモニターをちらりと見る。
騎士たちはまだレオパルトに接近できていなかった。先ほどからキャニスター弾や榴弾で吹き飛ばされ、大きな盾ごと木端微塵に粉砕されている。ドラゴンのブレスや魔物の攻撃を防ぐ事が出来る盾を装備しているようだけど、ドラゴンの外殻を簡単に貫通するほどの火力を持つ戦車の武装は防御できるわけがない。
「
「発射(ファイア)!」
カレンさんが砲弾の発射スイッチを押した直後、120mm滑腔砲から放たれたキャニスター弾が砲声を引き連れながら、盾を構えて何とかレオパルトに接近しようとしている騎士たちに襲い掛かった。1m以上くらいの大きさの盾が一瞬で穴だらけになり、その風穴の向こうで断末魔と鮮血が吹き上がる。
(9時方向より敵の隊列!)
操縦席でモニターを確認していたミラが、別方向から接近してくる敵の隊列を発見したらしい。手元のモニターを見てみると、確かに9時方向から20人くらいの騎士たちが接近しているようだった。装備は分からないけど、接近されたとしても彼らにレオパルトの装甲を破壊する術はない。
でも、叩き潰しておくべきだ。
「ターレットで迎撃します! カレンさんは引き続き前方を砲撃してください!」
「了解! 砲塔を12時方向に戻すわ!」
キャニスター弾で敵を蹂躙し終えたレオパルトの巨大な砲塔が、再びナバウレアの方向を向く。キャニスター弾を9時方向から接近してくる敵に叩き込めば一撃で全滅させられるのかもしれないけど、前方の敵が最も数が多い。ここで9時方向の敵を砲撃してしまえば、ギュンターさんが装填している間に接近されてしまうかもしれない。
だから、ターレットで迎撃する。敵の中に飛竜はいないみたいだから、ターレットは既に20mm速射砲から20mmエアバースト・グレネード弾に切り替えてある。
「ターレット、撃ち方始めッ!」
コンソールを操作して、砲塔の上に乗っているターレットを9時方向に旋回させる。するとターレットに搭載されているセンサーが敵を察知し、一番接近している敵に自動で照準を合わせると、砲身の中に装填を済ませていた20mmエアバースト・グレネード弾で砲撃を開始した。
20mm速射砲の砲弾のように、エアバースト・グレネード弾が敵の隊列に向かって飛んで行く。騎士たちはターレットの砲口でマズルフラッシュが煌めいたのを見てから盾を構えたみたいだけど、あの盾では間違いなくエアバースト・グレネード弾の爆風を防ぐことは出来ないだろう。
彼らに向かって放たれたエアバースト・グレネード弾は、盾を構えながら前進してくる騎士たちに着弾する寸前で、彼らの目の前に爆風をまき散らした。目の前にいきなり爆風を放り込まれた騎士たちの盾は一瞬で粉砕され、盾を破壊した猛烈な爆風が騎士たちを粉々にしていく。
その一撃だけで接近していた騎士たちの隊列が崩れた。ターレットは容赦なく強烈なエアバースト・グレネード弾をもう1発放り込み、騎士たちの盾を次々に爆風で砕いていく。
側面からレオパルトに接近しようとしていた20人の騎士たちは、たった3発のエアバースト・グレネード弾であっさりと壊滅してしまった。未だに騎士たちは誰もレオパルトに接近できていないから、レオパルトの装甲はまだ無傷だ。
「ミラ、前進!」
(了解!)
死体が転がるナバウレアの草原に、レオパルトのキャタピラの音が響き渡る。全く攻撃が通用しない上に、一瞬で隊列を吹き飛ばしてしまうほどの火力を持つ怪物が前進し始めたのを目の当たりにした騎士たちは、次々にどこかへと逃げ出していく。
ナバウレアに逃げ込んでも、兄さんが騎士たちを蹂躙しながらナバウレアに向かっているから、駐屯地に逃げ込んでしまったら今度は兄さんの餌食になってしまう。だから彼らの逃げ場は草原しかない。
まだレオパルトに立ち向かってくる騎士が残っていたけど、彼らは他の騎士たちと同じように、キャニスター弾でズタズタにされるか、エアバースト・グレネード弾で粉々にされていった。
8ゲージの散弾が、俺に向かって剣を振り下ろそうとしていた騎士の頭をもぎ取った。散弾に穴だらけにされた騎士の頭が弾け飛び、俺が薙ぎ倒して来た騎士たちの死体の上に肉片が飛び散る。
ナバウレアの防壁までかなり接近した。あと50mくらいで、ナバウレアの防壁に辿り着くことができる。
あの防壁の向こうにエミリアがいる筈だ。絶対に彼女を助け出し、ジョシュアの野郎をぶち殺さなければならない。
ソードオフ・ショットガンを腰の後ろのホルスターに戻し、腰の左側に下げているアンチマテリアルソード改と小太刀を引き抜く。騎士たちを何人も倒したというのに、俺の目の前ではまだ騎士たちが隊列を組み、ナバウレアへの接近を阻止しようとしているのが見える。
「はぁッ!!」
「どけッ!」
反時計回りに回転して騎士が振り下ろした剣を躱しながら、がら空きになっている脇腹に左手の小太刀を突き刺す。呻き声をあげて崩れ落ちて行く騎士の手からロングソードを奪い取った俺は、そのロングソードを敵に向かって叩き付けるのではなく、後方の隊列で指揮を執っていた指揮官らしき初老の騎士に向かって思い切り放り投げた。
前衛の騎士たちがたった1人の敵に蹂躙されていく光景を見て狼狽する騎士たちを叱責していた指揮官の喉元に、俺の放り投げたロングソードが突き刺さった。
指揮官が俺にやられたせいで、その隊列がバラバラになっていく。どこかへと逃げ出し始める騎士たちと俺と戦おうとする騎士たちのせいで、隊列が引き裂かれていく。
そして俺は、俺と戦うために雄叫びを上げながら突っ込んできた騎士たちに襲い掛かった。
姿勢を低くして騎士が振り払った剣を回避し、そのままアッパーカットを放つように立ち上がりながら騎士の顎に向かってアンチマテリアルソード改を突き刺す。頭を刀に串刺しにされた騎士から刀を引き抜いた俺は、背後に回り込んでいた騎士の剣を小太刀で受け止め、俺に向かって剣を振り下ろしたその騎士を蹴飛ばした。攻撃力のステータスが20000を超えている転生者の蹴りを叩き込まれた騎士は、俺の足跡がついた防具を身に纏ったまま血を吐いて崩れ落ちる。
バラバラになった隊列の向こうには、まだ他の隊列が見える。大型の盾と槍を装備した騎士たちの隊列の後方には、弓矢を装備した騎士たちがずらりと並んでいるようだ。あの槍を持った騎士たちを防壁代わりにして、俺を弓矢で倒すつもりらしい。
だが、そんな作戦で転生者が倒せるものか。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
2本の刀を構えながら、俺はその隊列に向かって突進した。
今まで散々隊列を突破してきたが、目の前に並んでいる騎士たちの隊列は一番大きい。おそらく、あの隊列を突破する事が出来ればナバウレアに突入する事が出来るだろう。
あれを突破すれば、エミリアを助ける事が出来る!
「放てぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
指揮官らしき騎士が絶叫しながら剣を振り下ろした瞬間、盾を持った騎士たちの後方に並んでいた騎士たちが、まだ俺の近くに味方の騎士が残っているというのに、一斉に無数の弓矢を放ち始めた。彼らを切り捨てたということか。
味方の騎士の矢に貫かれ、次々にラトーニウス王国の騎士たちが崩れ落ちて行く。俺は刀で無数の矢を叩き落としながら、前方の隊列へと向かって走り続けた。
「ぜ、前衛! 構え!!」
指揮官が怯えながら指示を出す。大きな盾と槍を持った騎士たちが槍の先端部を俺に向け、盾を構えながら前進を始める。
俺は左手の小太刀を一旦鞘の中に戻した。代わりに、左足の太腿の辺りにぶら下げていた手榴弾の柄を掴み、安全ピンを引き抜く。
俺が引き抜いたのは、ソ連製対戦車手榴弾のRKG-3だった。しかも、レリエルと戦った時に使った水銀の入っているタイプだ。
接近してくる騎士たちに向かって、俺はその水銀入り対戦車手榴弾を放り投げた。柄のついた手榴弾は回転しながら騎士たちの足元に落下し、そこで大爆発を引き起こす。
猛烈な爆風が、中に入っていた水銀たちをまるでショットガンの散弾のようにまき散らした。爆風で吹き飛ばされた水銀たちに防具と肉体を切り刻まれた騎士たちを、対戦車手榴弾の爆風が吹き飛ばしていく。
俺は対戦車手榴弾の爆炎の中へと飛び込み、そのまま走り続けた。俺に突っ込んできた騎士たちの隊列は、たった1つの対戦車手榴弾でズタズタにされていた。
「か、構えッ!」
目の前で、弓矢を装備した騎士たちが弓矢を構える。
俺は目の前の最後の隊列へと向かって走りながら、両手に持っている刀と小太刀を鞘に戻した。そして両手を背中に伸ばし、俺の背中で2つに折り畳まれている得物を取り出し、長い銃身を展開する。
OSV-96の銃身を展開した俺は、すぐに左手を銃身の下に搭載されているRPG-7のグリップへと伸ばした。そして目の前の隊列へと狙いを定め、ロケットランチャーのトリガーを引く。
騎士たちの隊列が一斉に矢を放つよりも先に、俺はロケットランチャーをぶっ放した。隊長は慌てて号令を出しながら剣を振り下ろそうとするけど、ロケット弾が着弾する方が早かった。
「あああああああああああッ!!」
ロケット弾が、弓矢を構えていた騎士に命中した。ロケット弾はまだ爆発せず、そのまま命中した騎士を後方の防壁の方へと連れ去っていく。
そしてロケット弾に連れ去られた騎士は、後方にあったナバウレアの防壁に背中を叩き付けられてから、自分の腹にめり込んだロケット弾と心中する羽目になった。
騎士を連れ去ったロケット弾が防壁に突き刺さった瞬間、爆風をまき散らして弾け飛んだ。魔物の襲撃を防ぐための防壁には、大穴が開いている。俺はロケット弾を再装填(リロード)しながら突っ走ると、防壁の破片と焦げた肉片を踏みつけながら防壁の大穴へと飛び込んだ。
「エミリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
そして、アンチマテリアルライフルを肩に担いで走りながら絶叫する。すると、ロケット弾の爆発が生み出した黒煙の向こうから、彼女の叫び声が聞こえてきた。
「力也ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
防壁の内側にあったのは、エミリアと一緒にやって来た時とあまり変わらない駐屯地の建物や宿舎だった。俺が入り込んできた場所は、どうやらジョシュアと戦った場所らしい。
その庭の奥には、金属製の柱が鎮座していた。その柱の周囲の地面には複雑な記号や古代文字が描かれた魔法陣が刻まれている。そして、その金属製の柱には、エミリアが縛り付けられていた。
「え、エミリア・・・・・・!」
「へえ。クガルプールから逃げ出したか・・・・・・」
エミリアに向かって走り出そうとした瞬間、柱の近くに立っていたジョシュアがニヤニヤと笑いながら言ったのが聞こえた。相変わらず派手な防具に身を包み、腰には装飾だらけの派手なロングソードを下げている。
そして、ジョシュアの隣に立っているのは、エミリアの姉のエリスだった。左手にハルバードを持ち、防壁を突き破って侵入してきた俺を睨みつけている。
「てめえ・・・・・・!」
「エリス、今から儀式を開始する。時間を稼ぐんだ」
「・・・・・・」
エリスは何故か悲しそうな顔をしてエミリアをちらりと見てから、ハルバードの先端部を俺に向けて来た。
やっぱり、エリスを倒してからエミリアを助け出さなければならないようだ。
「エリス、そこを退け・・・・・・!」
「・・・・・・・・・」
彼女はまた悲しそうな顔をしてから俯くと、首を横に振った。
「・・・・・・行くわよ、力也くん!」
「・・・・・・ああ」
俺は彼女を睨みつけながら、アンチマテリアルライフルの銃口を向けた。