異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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カレンが砲手をやるとこうなる

 

「な、なんだっ!?」

 

 司令塔の窓の外には、巨大な黒煙が出現していた。その巨大な黒煙は防壁を飲み込み、黒い柱へと変貌していく。

 

「分かりません! いきなり城門が吹っ飛びました!」

 

「城門が吹っ飛んだだと!?」

 

 馬鹿な。オルトバルカ王国側にある要塞の城門は、熟練の魔術師たちがフルパワーで魔術を叩き込んでも打ち破ることができないほど堅牢なんだぞ!? 

 

 ゴーレムの突進でも破壊できなかったというのに、その城門がいきなり吹っ飛んだというのか!?

 

「敵は!? 魔物か!? オルトバルカの騎士団か!?」

 

「わ、分かりません!」

 

「すぐに飛竜部隊を出撃させろ! 急げッ!」

 

 指令室の中で部下に命令を下していたその時だった。

 

 城門が吹っ飛ぶ寸前に聞こえた奇妙な音が、再び要塞の中に木霊し始めたのだ。指令室を飛び出して命令を伝えに行こうとしていた部下が立ち止まり、冷や汗を流しながら窓の外を見つめている。

 

 そして、その奇妙な音が近づいて来たかと思うと、今度は物資の入った木箱が積み上げられていた辺りがいきなり大爆発を起こし、周辺を警備していた騎士たちを粉々にしながら吹っ飛んだ。舞い上がる破片や肉片の間を火柱が突き抜け、黒煙がすぐにその火柱を飲み込んでしまう。

 

「あれは・・・・・・魔術なのか・・・・・・!?」

 

 弓矢を構えて外を睨みつけていた騎士が呟いた。

 

 確かに、あんな魔術は見たことがない。爆炎が出現しているということは炎属性の魔術なのかもしれないが、爆発する前にあんな奇妙な音を発する炎属性の魔術など全く聞いたことがなかった。

 

 オルトバルカ王国の魔術師が生み出した、新たな魔術なのだろうか?

 

「指令、どうしますか!?」

 

「飛竜部隊の出撃を急げ! 同時に突撃部隊も編成し、魔術師を叩くんだ! これ以上攻撃させるな!!」

 

「はっ!」

 

 かなり強力な魔術のようだが、飛竜部隊による空中からの攻撃と突撃部隊による地上からの攻撃を仕掛けられれば、敵の魔術師共は簡単に倒す事が出来るだろう。我が騎士団は魔術師を戦力に組み込むことは出来ていないが、その分接近戦では他国の騎士団を圧倒している。接近することさえ出来れば、あとは我々が敵を蹂躙するだけになるのだ。

 

 飛竜部隊と突撃部隊に命令を伝えるために、騎士たちが指令室から飛び出て行く。私はハンカチで冷や汗を拭いながら、防壁の中で吹き上がる黒煙を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「初弾命中! 城門を破壊!」

 

(さすがカレンさん!)

 

 カレンさんの砲撃は、正確にクガルプール要塞の城門を吹き飛ばしていた。あの城門は熟練の魔術師の魔術でも破壊できないほど堅牢な城門らしいけど、このレオパルト2A6に搭載されている55口径120mm滑腔砲を防ぐことは出来なかったみたいだ。榴弾であっさり吹っ飛ばされ、堅牢な防壁があった場所は今や僕たちが突入するための突破口と化している。

 

「車長、次は!?」

 

「次も榴弾でお願いします! カレンさん、要塞の内部にぶち込んでください!」

 

「任せなさい! 絶対に叩き込んでやるわ!」

 

「ふんっ!」

 

 ギュンターさんが巨大な戦車砲の砲弾を砲塔の内部にある装填用のハッチに押し込み、2発目の砲弾の装填を済ませる。次の攻撃目標は要塞の内部であるため、また同じ場所に砲弾を叩き込めば問題ない。

 

 カレンさんは再び照準器を覗き込むと、傍らにある発射スイッチを押した。

 

「発射(ファイア)!」

 

 キューポラに用意された小さな窓の外で、猛烈なマズルフラッシュが煌めいた。

 

 カレンさんが放った2発目の砲弾は、さっきと同じ角度で放たれた。2発目の榴弾は城門を吹っ飛ばした歳に生み出された黒煙の壁に巨大な穴を開け、そのまま要塞の内部へと飛び込んでいく。

 

 そして、塞がり始めた黒煙の壁の向こう側で、着弾した瞬間に生まれた火柱の赤い光が煌めいた。

 

「命中!」

 

「よし、ミラ。前進しよう」

 

(了解!)

 

 キャタピラとエンジンの音が混ざり始め、強力な戦車砲を搭載したレオパルトの巨体が要塞に向かって前進を始める。僕は手元にあるモニターで要塞の様子を確認しながら、左手の近くにあるコンソールをタッチし、アクティブ防御システムをスタンバイしておく。

 

 そろそろ飛竜に乗った騎士たちが、空から襲撃して来る筈だ。何度かドラゴンや飛竜が空を飛んでいるのを見たことがあるけど、飛竜が空を飛んでいる時の速度は戦闘機よりも遅い。戦闘ヘリくらいの速度だ。だからアクティブ防御システムの20mm速射砲ではなく、キューポラの近くに用意してある汎用機関銃のMG3でも対応できる筈だ。

 

 でも、MG3を使うにはキューポラの外に出なければならないから、危険なんだ。アクティブ防御システムならば確実に砲弾を命中させてくれるから、射撃が下手な僕が迎撃する必要はない。

 

 キューポラの外で、20mm速射砲の砲身とセンサーを搭載したターレットが旋回を始めた。兄さんが送ってきてくれているデータのおかげで、既に要塞の内部にいる敵の位置は全てモニターのレーダーに投影されている。

 

「飛竜の出撃を確認!」

 

「信也くん、敵の突撃部隊よ! ランスを持ってる!」

 

「大丈夫です。カレンさんは砲撃準備を。ギュンターさん、次の砲弾はキャニスター弾でお願いします!」

 

「了解。キャニスター弾だな!」

 

「対人戦闘用意!」

 

 戦車砲の装填用ハッチに、対人用の120mmキャニスター弾が装填される。カレンさんが砲撃準備を開始したのを確認してから、僕はキューポラのハッチを開けて上空を見上げた。

 

 要塞内部の発着場から飛び立った飛竜たちが、騎士を乗せてこっちに向かってくるのが見えた。数は4体のようだ。

 

 僕は左手でコンソールをタッチして、攻撃目標をターレットに指示する。

 

「―――ターレット、対空戦闘開始」

 

 その時、キューポラの外で戦車砲のマズルフラッシュよりも小さな光が煌めいた。20mm弾の空の薬莢が排出されて地面に落下した音が車外から聞こえてきたかと思うと、モニターの映像に映っていた飛竜がいきなり爆発し、黒煙の中からバラバラになった肉片や外殻の破片が落下していくのが見えた。

 

 20mm速射砲の砲弾が命中したらしい。僕に攻撃目標を指示されたターレットは、そのまま容赦なく砲弾を連射し続け、後続の飛竜たちを次々に叩き落としていく。

 

 生き残った飛竜は何とか急降下を止めて回避するために飛び始めるけど、撃ち落された飛竜たちと同じように背中に砲弾を叩き込まれ、あっさりとバラバラになって墜落していく。

 

 ターレットに任せた対空戦闘は、10秒足らずで終わってしまった。消費した20mm速射砲の弾薬もたった4発だけだ。

 

「対空戦闘終わり」

 

「発射(ファイア)!」

 

 僕が仲間たちに対空戦闘が終わったことを報告した瞬間、カレンさんが戦車砲の発射スイッチを押した。

 

 ギュンターさんが装填した120mmキャニスター弾が、黒煙が吹き上がる城門から雄叫びを上げながら突撃してきた騎士たちに襲い掛かった。巨大な砲弾がまるで空中分解したかのようにバラバラになり始め、その中から出現した無数の散弾たちが、次々に騎士たちの肉体にめり込んでいく。防具を簡単に貫通した獰猛な散弾たちは彼らの肉体を引き千切り、城門のあった場所を肉片と鮮血と防具の破片で埋め尽くしてしまった。

 

 この世界に銃や大砲は存在しない。つまり、彼らはこの主力戦車(MBT)を破壊できる火力を持っていないということだ。もしかしたら魔術師の魔術ならば破壊できるかもしれないけど、魔術で攻撃するには詠唱しなければならないし、魔術の射程距離は戦車砲の射程距離よりもかなり短い。

 

「よし、このまま要塞に突入!」

 

(ヤヴォール!)

 

 そろそろSマインも用意しておいた方がいいかもしれない。

 

 僕はコンソールを操作すると、キューポラの外を睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 8ゲージの散弾を使用する水平二連ソードオフ・ショットガンをもう1丁生産し、腰の後ろに2丁のソードオフ・ショットガンを収めた俺は、端末をポケットにしまってから制服の上着のチャックを閉めた。

 

 制服の上着も、この研究室に置かれていたんだ。何とか回収する事が出来て良かったよ。

 

 俺はフードに飾ってあるハーピーの真紅の羽根を撫でてから、漆黒のフードをかぶった。この羽根は、湿地帯でレベル上げをした時にハーピーの死体から抜き取ってきた戦利品だ。

 

『す、凄い砲撃ですね・・・・・・!』

 

「確か、砲手はカレンだったな」

 

 武器の準備をしながら俺は呟いた。

 

 カレンは優秀なマークスマンで、中距離ならば早撃ちのように素早く敵を狙撃する事が出来るほどの実力を持つ。彼女が砲手ならば百発百中なのは当たり前だ。

 

「―――よし、俺らも攻撃を開始するぞ」

 

『はい!』

 

 フィオナは返事をしながら、グレネードランチャーを搭載したG36Cを構えて研究室の窓から外に飛び出した。俺はまだ窓の外には飛び出さず、ついさっき端末で生産した4連発が可能なアメリカ製ロケットランチャーのM202を肩に担ぐと、照準を司令塔ほ方へと向けた。

 

 端末は取り戻したし、エミリアの行方も魔術師から聞き出した。あとはここの騎士たちを殲滅するだけだ。

 

 俺はニヤリと笑いながら照準器を覗き込むと、4連装ミサイルポッドのような外見のM202に装填されているロケット弾を司令塔に向けてぶっ放した。ロケット弾は司令塔の窓ガラスを突き破ると、中の壁に突き刺さってから大爆発し、指令室の中に火柱を生み出す。俺はすぐにもう1発司令塔に叩き込むと、照準を地上へと向けた。

 

 レオパルトに反撃するために隊列を組んでいた騎士たちが、燃え落ちる司令塔の方を振り向いて絶叫している。俺はそいつらに照準を合わせると、ランチャーの中に残っていた2発のロケット弾を続けざまに叩き込んだ。

 

 1発目のロケット弾が隊列の先頭に着弾し、分隊長と近くにいた十数人の騎士を飲み込んで爆発する。もう1発は最後尾の近くで火柱を生み出し、弓矢を装備していた騎士たちを木端微塵に粉砕した。

 

 いきなり隊列の先頭と最後尾を吹っ飛ばされて生き残った騎士たちが混乱している間に、実体化を解除して反対側に回り込んでいたフィオナが攻撃を仕掛けた。実体化してG36Cのフルオート射撃をお見舞いし、次々に騎士たちを射殺していく。

 

 俺は弾切れになったM202を投げ捨てると、背中に背負っていた2丁のLMGを取り出す。取り出したのは、アメリカ製LMGのM249パラトルーパーだ。こっちもついさっき生産したばかりでホロサイトと300発入りのヘリカルマガジンくらいしか取り付けていないけど、問題はないだろう。

 

 2丁のLMGを持った俺は、研究室の窓を突き破って外へと飛び出した。無数のガラスの破片と共に防壁の内側へと舞い降りると、LMGの銃口を騎士たちの隊列へと向ける。

 

 物陰に隠れていた騎士の1人が、後ろに着地してきた俺に気付いたらしい。青ざめながら「て、敵だぁッ!」と絶叫したけど、彼の絶叫はフィオナの銃声に砕かれてしまうから、他の騎士たちは全く俺に気が付いていない。

 

「バーカ」

 

 俺はギュンターのように2丁のLMGを構えると、俺に気が付いていない騎士たちに向かってM249パラトルーパーのフルオート射撃をお見舞いした。

 

 フィオナの5.56mm弾と俺の5.56mm弾のフルオート射撃に挟み撃ちにされ、騎士たちは次々に風穴を開けられていく。背後から銃撃されていることに気が付いた兵士が慌てて隠れようとするけど、走り出した瞬間にフィオナに撃ち抜かれて崩れ落ちてしまう。

 

 こんな荒々しい戦い方をするのはギュンターの専売特許なんだが、今回は敵の数が多いからな。俺もLMGを2丁持って撃ちまくらせてもらう。

 

 銃口の先端部に取り付けられたマズルブレーキの向こう側で、マズルフラッシュの光が常に煌めき続ける。その輝きの向こうでは、騎士たちが5.56mm弾に次々に食い破られて崩れ落ちて行く。

 

 捕虜を取るつもりはない。ここの騎士たちは殲滅する。命乞いしてきても頭を撃ち抜いてやるだけだ。

 

 防壁の上で騎士たちが弓矢を構えているようだけど、次々にレオパルトから放たれる120mmの榴弾に防壁ごと吹っ飛ばされ、彼らは防壁の残骸と一緒にバラバラになりながら要塞の中へと降り注いでいく。

 

 そして、M249パラトルーパーに取り付けられていたヘリカルマガジンが空になる。俺は新しいヘリカルマガジンと交換しようと思ったけど、目の前の騎士たちはもう穴だらけにされて全滅しているようだった。

 

 防壁の上で弓矢を構えていた騎士たちも、防壁ごと木端微塵にされて全滅している。

 

「・・・・・・陥落したか」

 

 転がっているのは、ラトーニウス王国騎士団の死体だけだった。

 

 クガルプール要塞は、たった6人の傭兵たちに攻撃されて陥落していた。

 

 

 

 


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