異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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転生者が戦車を使うとこうなる

 

 木箱や樽の影を移動しながら、要塞の防壁にある別の扉を目指して進んでいく。見張りの騎士が近くにいないか確認してから木箱の影から移動すると、俺は目の前にあったテントの陰に隠れ、周囲を確認した。見張り台の上にはライフルのようなでっかいボウガンを構えた兵士がいるが、発見されてはいないだろう。

 

 9mm拳銃を構えながら、静かにテントの入口へと移動する。入口の隙間から、テントの中で銀色の防具を身に着けた男が背中を向けて立っているのが見えた。間違いなく、見張りの騎士だろう。テントの中の机に置かれている資料のようなものを確認しているようだ。

 

「フィオナ、頼む」

 

『はい』

 

 フィオナが俺よりも先にテントをすり抜け、両手をその騎士へと伸ばした。すると、資料を読んでいた見張りの騎士がいきなり真っ直ぐ立ったまま動かなくなってしまう。

 

 さっき拷問していた男と同じく、あの騎士も金縛りにしてしまったんだ。俺は9mm拳銃をホルスターに戻してからダガーを引き抜き、テントの入口を捲って一気に中に駆け込むと、金縛りにされた騎士の首にダガーを突き付けた。

 

 銃を突き付けてもいいんだが、この世界には銃という武器が存在しない。だから、脅すのならば彼らのよく知っている武器の方が効果があるんだ。

 

「いいぞ、フィオナ。・・・・・・おい、俺の持ち物はどこだ?」

 

 金縛りを少しだけ弱めてもらい、喋れるようにしてやってから俺は尋ねた。もし叫んで仲間を呼ぼうとしたならば、防具の隙間からすぐにこのダガーの切っ先を突き込んでぶっ殺してやるつもりだ。

 

 騎士はかなり慌てているようだったが、怯えながら答えてくれた。

 

「け、研究室だ・・・・・・! 研究室で魔術師の奴らが解析してる筈だ・・・・・・!!」

 

「研究室?」

 

「そ、そうだ。司令塔の近くにある扉から行く事が出来る・・・・・・!」

 

「なるほど。―――じゃあ、エミリアはどこにいる?」

 

「え、エミリア?」

 

 知らないのか? 俺はダガーを突き付けながら騎士の目の前にゆっくりと回り込み、机の上に置かれていた資料を確認する。

 

 資料に記載されていたのは、搬入予定の物資や食料の数量だった。エミリアの行き先や俺の端末とは全く関係がない。舌打ちをしながら片手で資料を掴んで投げ捨てると、俺は金縛りにされたままの騎士を睨みつけた。

 

「早く答えろ。エリスがここに連れて来た蒼い髪の女の子だ。彼女はどこにいる?」

 

「し、知らん・・・・・・!」

 

「嘘をつくな」

 

「本当だ・・・・・・! お、俺はここで物資の搬入の確認をしてただけだ・・・・・・!!」

 

「そうか。ありがとう」

 

 俺は小さな声でその騎士に礼を言うと、首に突き付けていたダガーをそのまま押し込んだ。切っ先が首の肉を食い破り、肉を引き裂いていく。

 

 フィオナが再び金縛りを強めてくれたらしく、騎士は目を見開いて血を流しながら、絶叫せずに静かに絶命した。俺は絶命した騎士を静かに横たえると、返り血で真っ赤になったダガーを鞘に戻し、テントを後にする。

 

 まず、端末の在処が分かった。司令塔の近くにある扉から要塞の中に潜入し、端末を手に入れるべきだろう。あれがなければ武器は信也から借りた武器しか持っていない状態だし、ステータスもかなり低下したままだ。

 

 そこにいる魔術師ならばエミリアの居場所を知っているかもしれない。

 

 ホルスターから9mm拳銃を引き抜き、司令塔の近くにある扉へと向かう。その扉へと入り込むためには、見張り台の近くを通過しなければならないようだ。見張り台の上には、やっぱりボウガンを持った騎士が立っているのが見える。

 

 ヘッドショットで始末するか? 

 

 いや、このまま通過した方がいいかもしれない。俺はハンドガンを持ったまま、さっきと同じように物陰に隠れながら扉へと向かっていく。

 

 テントの近くにあった木箱の影へと移動し、そこから更に樽の影に移動する。そういえば、エミリアと2人でここに潜入した時は腹が減っていたから、樽の中から干し肉を拝借して食ってたっけな。半年前のことを思い出して少し笑った俺は、試しに樽の中に手を突っ込んでみることにした。

 

 中に入っていた物の感触は、あの時と同じだった。俺は樽の中から干し肉を2枚取り出すと、実体化を解除して俺について来ている筈のフィオナに「食うか?」と言いながら差し出す。

 

『な、何やってるんですかぁっ!』

 

「少し腹が減っててな。はははっ」

 

 そう言いながら干し肉を口の中に押し込んで噛み砕く。半年前に食った干し肉と全く同じ味だった。

 

 フィオナは俺から干し肉を受け取ると、小さく千切ってから口へと運んでいた。さすがにこのままでは大き過ぎて食べ辛いらしい。

 

 彼女が干し肉を完食するまで、周囲を確認しておくことにした。

 

 司令塔の近くにある扉の前には見張りはいない。通路やテントの近くには見張りの騎士が何人か巡回しているようだけど、無理にハンドガンで排除する必要はないだろう。見張り台の近くさえ通過できれば、楽に要塞の内部に入り込めそうだ。

 

 フィオナが干し肉を完食したのを確認した俺は、再び別の物陰へと移動した。

 

 物置と思われるレンガ造りの小さな建物の陰に隠れながら、見張り台を確認する。見張り台の上の騎士はまだ俺に気付いていない。俺から見て右側の方を見つめながら突っ立っているだけだ。

 

 俺は物置の影から飛び出し、扉へと向かって突っ走った。テントの脇を通過して木箱の群れの間を通り抜け、要塞の内部へと入り込む事が出来る木製の扉へと向かう。

 

 何とか見張り台の上の騎士に気付かれずに辿り着く事が出来たけど、その扉を掴んで開けようとしても、木製の扉は全く動いてくれなかった。鍵がかかっているようだ。

 

「くそ・・・・・・」

 

『任せてください!』

 

「フィオナ?」

 

 真っ白なワンピースを身に着けた幽霊の少女はドアをすり抜けて向こう側へと向かった。おそらく、内側から扉を開けてくれるんだろう。

 

 ハンドガンを向けながら見張りが来ないか警戒していると、俺の背後に鎮座していた木製のドアがゆっくりと開き始めた。フィオナが鍵を開けてくれたんだ!

 

「良くやった。ありがとう」

 

『えへへっ』

 

 ドアを開けてくれた彼女に礼を言うと、俺は要塞の中へと足を踏み入れる。

 

 まずは研究室を目指すべきだ。魔術師がそこで俺の端末を解析しようとしているらしい。そこで端末を奪還して魔術師の奴らからエミリアの居場所を聞き出したら、狙撃補助観測レーダーのデータをレオパルトに送信し、信也に援護砲撃をしてもらうつもりだ。そしてこの要塞を壊滅させてから彼らと合流する。もしエミリアが別の場所に連れて行かれているのならば、信也たちと一緒にそこまで向かう予定だ。

 

 真っ白な壁の廊下を進み、曲がり角で廊下の向こうを確認しておく。まるで貴族の屋敷の中のようにカーペットが敷かれ、美術品が並んでいる要塞の廊下には誰もいない。騎士たちは巡回していないらしい。

 

 廊下を進んで奥にあった階段を上り、上の階へと移動する。上の階の廊下にも、やっぱり騎士は巡回していないようだった。

 

「あの部屋か・・・・・・?」

 

 廊下の向こうにある扉の近くには、研究室と書かれたプレートが用意されている。あそこに俺の端末があるんだろうか?

 

『確認します』

 

「頼む」

 

 さっきみたいに扉をすり抜けて、部屋の中を確認してくれるらしい。俺は9mm拳銃をホルスターに戻して背中から89式自動小銃を取り出し、部屋の扉に近づいてから銃口を廊下へと向けた。

 

 89式自動小銃が使用する弾薬は5.56mm弾だけど、騎士たちの防具を貫通することは出来る。この銃身の短いアサルトライフルならば、室内戦でもすぐに騎士たちに風穴を開けてやる事が出来るだろう。それに、ライフルグレネードもある。

 

 廊下に銃口を向けていると、扉の中から再びフィオナが姿を現した。

 

「どうだ?」

 

『ここみたいです。力也さんの端末もありました』

 

「無事だったか?」

 

『はい。安心してください。分解はされていません』

 

 良かった。端末は分解されていないようだ。

 

「部屋の中には何人いるんだ?」

 

『3人です。騎士が2人と魔術師が1人でした』

 

 解析をしている魔術師が1人と、護衛をしている騎士が2人ということか。

 

 ならば、その2人の騎士はとっとと射殺して、魔術師を問い詰めることにしよう。

 

 両手で89式自動小銃をしっかりと構え、思い切り目の前の木製のドアに右足の蹴りを叩き込んだ。蹴破られたドアが部屋の中の壁に叩き付けられ、中にいた騎士たちが慌てて腰から剣を引き抜こうとする。でも、彼らが俺を攻撃するには資料が何枚も乗った机を飛び越えるか迂回して接近して来なければならない。でも、俺は狙いを定めてトリガーを引くだけで、彼らに風穴を開ける事が出来る。

 

 先手は俺が独占しているようなものだった。

 

 素早く右側の騎士の頭に向けてトリガーを引き、銃声が響き渡った直後にすぐに銃口を左側へと向けてからもう一度トリガーを引く。2発の5.56mm弾は2人の騎士の頭に直撃し、兜を簡単に貫通して頭に風穴を開けた。

 

「ひ、ひぃっ!?」

 

 崩れ落ちた2人の騎士を見ながら、魔術師の男が怯える。俺はその男に銃口を向けながら机の上に置いてあった端末を拾い上げると、電源を入れてから色んなメニューを開いて確認した。ポイントは全く使われていないようだし、武器もいじられていないらしい。どうやら全く解析できなかったようだ。

 

 俺は一応全ての武器の装備を解除してから、もう一度武器を装備し直すことにした。こうすればこの端末で生産した武器が敵に奪われていたとしても、強制的に俺の手元に呼び戻す事が出来る。

 

「おい、エミリアはどこにいる?」

 

「え、エミリア・・・・・・? エミリア・ペンドルトンの事か・・・・・・!?」

 

「ああ、そうだ。エリスにそっくりな蒼い髪の女の子だ。この要塞にいるのか?」

 

「い、いや、彼女はもうナバウレアに・・・・・・!」

 

「ナバウレアだと・・・・・・?」

 

 俺とエミリアの旅が始まった城郭都市だ。確か、あそこには騎士団の駐屯地があった筈だけど、この要塞よりも規模はかなり小さい。なぜあんなところに彼女を連れて行くんだ?

 

 彼女が連れて行かれた理由を考えていると、銃口を向けられていた魔術師の男がいきなり嘲笑を始めた。

 

「ガキめ。まさか、あんな女の事が好きなのか?」

 

「何だと?」

 

「はははっ・・・・・・。あんな女など、計画のために使ってから奴隷にされてしまうだろうな。返してほしいなら、商人に売られた彼女を奴隷として買えばいいじゃないか。そうすれば再会できるぞ? ハッハッハッハッハッ! ――――ギャアッ!!」

 

 男に向けていた銃口を少しだけ下げ、トリガーを引いた。5.56mm弾が嘲笑していた魔術師の男の左足を貫き、部屋の壁を真っ赤に汚す。

 

「ふざけるな・・・・・・! 彼女が奴隷だと!?」

 

『り、力也さん・・・・・・!』

 

 俺は89式自動小銃を机の上に置くと、胸のホルスターから装備し直しておいた水平二連ソードオフ・ショットガンを引き抜いた。中に8ゲージの散弾がちゃんと装填されているのを確認してから、銃口を魔術師の男に向ける。

 

 数歩その男に近づいた俺は、銃口を男の右腕に近づけてからトリガーを引いた。あのレリエルの片腕を吹っ飛ばすほどの破壊力の散弾が、エミリアを侮辱した男の右腕を食い破った。でっかい散弾を何発も喰らった男の右腕の肘が血飛沫を吹き上げながら吹っ飛び、回転しながら資料が置かれているテーブルの上に落下する。

 

「ギャアアアアアアアアッ!! う、腕がぁぁぁぁッ!!」

 

 右腕を吹き飛ばされた男を見下ろしながら、俺は男の腹に銃口を向ける。即死させてやるつもりはない。このまま腹に散弾を叩き込み、内臓をズタズタにして殺してやる。

 

 腕を吹っ飛ばした武器が自分の腹に向けられているのを知った男は俺を見上げながら口を開いたけど、許すつもりはなかった。そのままトリガーを引き、至近距離で8ゲージの散弾を全て男の腹に叩き込む。

 

 肉片と肋骨の破片が舞い上がった。腹をズタズタにされた男は口から血を流し、痙攣してから動かなくなる。

 

 俺はソードオフ・ショットガンから空の薬莢を取り出して次の散弾を装填すると、机の上に置いておいた89式自動小銃を彼女に返した。9mm拳銃とマガジンもテーブルの上に置き、フィオナに装備させる。

 

「ナバウレアか・・・・・・」

 

『エミリアさんは、そこに連れて行かれたんですね』

 

「ああ。だが、計画って何だ? ジョシュアの野郎は何かを企んでいるのか?」

 

 まさか、目的はエミリアを連れ戻すだけではないということなのか? 

 

 ソードオフ・ショットガンを胸のホルスターに戻した俺は、背中に背負っていたOSV-96を取り出してから折り畳んでいたモニターを展開した。狙撃補助観測レーダーのモニターに、半径2km以内の敵の反応が表示される。

 

 俺はそのモニターの下にあるボタンを押した。敵の位置などのデータを味方に送るためのボタンだ。

 

 このデータを送る相手は、もちろん信也たちだった。

 

「よし。フィオナ、敵を殲滅するぞ。支援砲撃が来るから気を付けろ」

 

『了解です』

 

 よし。信也、頼むぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――来たわ。データを受信。力也からよ」

 

 双眼鏡で遠くに見えるクガルプール要塞を見つめていると、砲手の座席に座っているカレンさんが報告してきた。どうやら兄さんは端末を奪還する事が出来たようだ。

 

 僕は双眼鏡を首に下げ、黒い軍帽をかぶり直した。

 

「支援砲撃を開始します。ギュンターさん、初弾装填」

 

「おう。初弾装填! 榴弾でいいな?」

 

「はい」

 

 まずは、榴弾であの防壁の門を吹き飛ばす。

 

「攻撃目標、12時方向の城門。距離3000」

 

「了解。任せなさい!」

 

 レオパルトの砲身が少しだけ上を向く。僕はハッチを閉めて車長の座席に腰を下ろすと、近くにあったモニターを起動して映像を凝視する。

 

 あの要塞には飛竜の発着場もあるらしい。僕たちが砲撃を開始すれば、飛竜に乗った騎士たちが迎撃しにやって来るに違いない。

 

 もし飛竜が襲いかかってきたら、アクティブ防御システムの出番だ。

 

「――――発射(ファイア)ぁッ!!」

 

「発射!!」

 

 僕が叫んだ直後、カレンさんが復唱しながら発射スイッチを押した。

 

 そして、草原に55口径120mm滑腔砲の轟音が響き渡った。

 

 

 

 


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