異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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転生者がエリスと戦うとこうなる

 窓際でバイボットを展開したSaritch308LMGを構えながら、フルオート射撃で弾丸をばら撒き続ける。距離が離れている敵はカレンが狙撃で対応してくれるから、俺は接近してくる奴らにこいつで風穴を開けてやればいい。

 

 ラトーニウス王国騎士団の連中が物陰から弓矢を放ってくるけど、フルオート射撃の連射が襲い掛かって来る真っ只中では正確に俺たちを狙える筈がない。奴らが放った矢は俺ではなく1階下の窓の近くに突き刺さり、そのまま下へと落ちて行った。

 

 そして無理に矢を放って外してしまった間抜けな奴らは、矢の射撃によってカレンに自分たちの居場所を宣言してしまい、そのまま彼女に狙撃されていくんだ。また矢を外した射手がカレンの7.62mm弾で頭を撃ち抜かれ、崩れ落ちていく。

 

「さすが!」

 

「なめないでよ!」

 

 彼女はそう言いながら20発入りのマガジンを取り外し、次のマガジンを装着して再装填(リロード)を済ませようとする。俺は彼女がマガジンを交換するまで奴らを足止めするために、LMGの銃身の下に装着されているロケットランチャーをぶっ放す事にした。

 

 ロケットランチャー本体から突き出たグリップを握り、トリガーを引く。

 

 ブローニングM1919重機関銃のようなバレルジャケットが装着された銃身の下から放たれたロケット弾が、屋敷の塀の近くの地面に突き刺さった。真っ白な煙の先端部で大爆発が発生し、塀の陰に隠れていた弓矢の射手数名を木端微塵に粉砕してしまう。

 

 土と人間の体の破片が舞い上がったのを確認しながらLMGを引っ込め、用意しておいた予備のロケット弾を装着すると、俺は再びフルオート射撃で弾幕を張り始めた。

 

『え、エミリアさん!?』

 

「フィオナちゃん、どうした!?」

 

 銃声と排出された薬莢が床に落下する音を聞きながら射撃をしていると、俺の左側の窓でPDWを使って射撃していたフィオナちゃんがいきなり叫んだ。

 

 どうしたんだ? 

 

『エミリアさんが外でお姉さんと戦ってます!』

 

「はぁっ!?」

 

「どういうこと!? エミリアは部屋の中から射撃してる筈じゃ・・・・・・!?」

 

 姉御の持ち場は3階の部屋で、ミラと信也と3人で外の騎士を狙うことになっていた筈だ。俺は弾丸をばら撒きながらちらりと旦那が戦っている庭を見下ろしてみることにした。

 

 屋敷の庭では、相変わらず旦那が姉御にそっくりな胸のでかい騎士に向かってアンチマテリアルライフルをぶっ放しているところだった。さすがに12.7mm弾はガードできないと判断したその騎士は、射撃を何とか回避しながら距離を詰め、力也にハルバードを振り下ろしている。そして旦那はハルバードを受け流して距離を取り、アンチマテリアルライフルをぶち込もうとしている。

 

 そんな旦那を、姉御が2丁のSMG(サブマシンガン)で援護していた。

 

「あ、姉御ぉッ! 何やってんだよッ!?」

 

 あいつらの狙いは姉御なんだぜ!? 

 

「ギュンター!」

 

「くそったれッ!!」

 

 いきなり俺のLMGの薬莢の排出が止まる。250発入りのヘリカルマガジンが空になっちまったんだ。

 

 俺は煙を発する銃身を窓の中に引っ込めると、空になっちまったヘリカルマガジンを取り外し、新しいヘリカルマガジンと交換した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷の破片が冷気をまき散らしながら舞う。エリスのハルバードをスペツナズ・バヨネットで弾き返す度に、ハルバードを覆っている氷が砕け散り、剥がれ落ちていく。

 

 でも、すぐに氷が剥がれ落ちた部分を新しい氷が覆っていくんだ。そのせいでさっきから散々ハルバードを弾き返しているというのに、彼女のハルバードはまだ氷に覆われたままになっていた。

 

「ちっ・・・・・・!」

 

 俺はT字型のマズルブレーキの下から突き出ている両刃の銃剣をちらりと見た。彼女のハルバードを弾いていた俺の銃剣の先端部は、まるで彼女のハルバードのように氷で覆われている。

 

 迂闊に彼女のハルバードには触れられないな。ガードせずに直撃してしまったら、一瞬で氷漬けにされてしまうに違いない。

 

「あの氷に気を付けろ!」

 

「分かっている!」

 

 相手が氷を使ってくるならば、炎で対抗してやる!

 

 装着していた12.7mm弾のマガジンを取り外し、サムホールストックに用意されている12.7mm焼夷弾のマガジンを手に取った俺は、それを装着してから銃口をエリスに向けた。

 

 他にも12.7mmキャニスター弾があるが、こっちの方が効果的だろう。

 

 俺は彼女に照準を合わせると、エリスが突っ込んで来る前にトリガーを引いた。

 

 マズルフラッシュの中から飛び出たのは、まるでマズルフラッシュの輝きをそのまま纏ったかのような真っ赤な弾丸だった。被弾した敵兵を粉砕し、火達磨にするための焼夷弾が、熱気を放ちながら轟音と共にエリスへと向かって突っ込んでいく。

 

 エリスはすぐにその場から右に向かってジャンプした。ただでさえ12.7mm弾をガードするわけにはいかないのに、それが自分の氷を打ち破れるほどの炎を纏った弾丸に変わったのだから、彼女はこの攻撃を回避するしかない。ガードすればハルバードが粉砕されるかもしれないし、熱量でせっかく展開した氷が融解させられてしまうかもしれないからな。

 

 焼夷弾を回避したエリスを熱風が襲う。炎を纏って冷気の中を突き抜けて行った弾丸が残した熱風の刃がエリスに叩き付けられる。

 

「今だ!」

 

「やぁッ!!」

 

「!!」

 

 エリスが焼夷弾を回避した瞬間、SMG(サブマシンガン)からバスタードソードに持ち替えていたエミリアが斬り込んだ。

 

 姿勢を低くしながらエリスに急接近し、左斜め下から右上に向かってバスタードソードを振り上げる。エリスは氷で覆われたハルバードでそれをガードしようとするけど、氷で覆われている筈のハルバードの柄の表面には、溶けかけた氷が少しだけ残っているだけだった。

 

「なっ・・・・・・!?」

 

 驚くエリスを見つめながら、俺はニヤリと笑う。

 

 彼女のハルバードの氷が溶けた原因は、さっき俺がぶっ放した12.7mm焼夷弾の熱だった。

 

 さっきまで散々12.7mm弾を回避していたんだから、この一撃も回避されてしまうだろう。だからこいつで直接彼女を狙うのではなく、隙を作り出すことにしたんだ。

 

 エリスは焼夷弾を避けるために右に向かってジャンプした。つまり、彼女の利き腕である左腕が持っていたハルバードは、彼女の体よりも近い距離で焼夷弾の熱風に襲われたということになる。氷に覆われている場所に剣戟を叩き込むと剣まで凍り付いてしまう恐れがあったため、こうしてあらかじめ氷を溶かしておくことにしたんだ。

 

 こうすれば、エミリアが氷漬けになることはない!

 

「くっ!」

 

 エリスは氷に覆われていない柄でエミリアの剣戟をガードした。彼女はそのままエリスに押し返されないように、バスタードソードを押し込む。

 

「姉さん・・・・・・!」

 

「姉さんと呼ぶなと・・・・・・言ってるでしょうッ!」

 

「何故だ!? 昔はあんなに優しかったのに!」

 

「うるさい!」

 

 エリスは絶叫しながらエミリアを押し返そうとする。だが、エミリアがバスタードソードを押し込んでいるため、なかなかエミリアは離れてくれない。

 

 この間に俺が狙撃するべきか?

 

 アンチマテリアルライフルだとエミリアまで巻き込んでしまう可能性がある。ならば、アサルトライフルかリボルバーで狙撃した方がいいだろう。

 

 エリスの身体能力はかなり高いが、防御力は他の騎士たちと変わらない筈だ。それに彼女は人間だから、レリエルやアリアのような再生能力を持っているわけでもない。

 

 俺はアンチマテリアルライフルを右肩に担ぎながら、左手でホルスターの中からプファイファー・ツェリスカを引き抜いた。装着されているスコープを覗き込み、カーソルをエリスの腹に合わせる。

 

 その時だった。スコープのカーソルの上の方で必死にエミリアのバスタードソードを受け止めていたエリスのハルバードの柄が、再び氷に包まれ始めたんだ。

 

 まさか、氷を再構築しているのか!?

 

「拙い! エミリア、下がれッ!!」

 

 あのままでは、エミリアの剣が氷漬けにされる。もしかしたらそのまま彼女まで氷漬けにされてしまうかもしれない。

 

 エミリアも再び凍り付き始めたハルバードの柄に気が付いたらしく、すぐにバスタードソードを押し込むのを止め、エリスから距離を取ろうとする。

 

 だが、彼女がエリスに体重をかけるのを止めた瞬間、エリスは右手をハルバードから離してエミリアの袖を掴み、彼女を再び引き寄せた。そのまま凍結していくハルバードをエミリアに近づけていく。

 

「エミリアぁっ!!」

 

「し、しまった・・・・・・!」

 

 エミリアの体に押し当てられたハルバードの柄が完全に凍り付き、その氷がエミリアの体を少しずつ凍結させていく。俺は彼女が氷漬けにされてしまう前にプファイファー・ツェリスカで狙撃しようと思ったが、背後から他の騎士たちが剣を振り上げながら接近してきたため、エリスを狙撃する事が出来なかった。

 

「邪魔するんじゃねぇッ!!」

 

「がぁッ!!」

 

 右肩に担いでいたアンチマテリアルライフルの銃身を接近してきた騎士の頭に叩き付け、兜ごと頭蓋骨を木端微塵にしてやる。潰れた頭の上にアンチマテリアルライフルの銃身を置いたまま後ろを振り返り、エリスを狙撃してエミリアを助けようとしたけど、カーソルの向こうに見えたのは既に氷漬けにされてしまったエミリアの姿だった。

 

 持っていたバスタードソードも、一緒に氷漬けにされている。

 

 思わずスコープから目を離し、銃口を下げてしまった。

 

「そ、そんな・・・・・・! ―――がッ!?」

 

 銃口を下げて呟いた瞬間、いきなり後頭部を何かに殴りつけられた。ぐらりと俺の体が揺れ、目の前にいきなり地面が出現する。

 

 ステータスのおかげで防御力は強化されているが、攻撃された際の衝撃は全く軽減されない。倒れながら後ろを振り向いてみると、大きなハンマーを担いだ騎士が俺の背後に立っているのが見えた。

 

 こいつが邪魔しやがったのか・・・・・・・・・!

 

 エミリアが氷漬けにされたせいで、俺は動揺していた。その隙に背後から接近されてしまったらしい。

 

 そのまま地面に頭を叩き付ける羽目になってしまう。俺は何とか起き上がろうとしたけど、俺が起き上がってそいつに反撃するよりも先に、エミリアを氷漬けにしたエリスが、冷気と氷の粒子を纏いながらゆっくりと歩いてきた。

 

 起き上がろうとするが、もう一度ハンマーで背中を殴られる。ダメージは全く無いんだが、まるで衝撃が俺を押さえつけるかのように地面に釘付けにしてくる。

 

「・・・・・・・・・諦めなさい」

 

「くそったれ・・・・・・・・・!」

 

 彼女の白い手が、俺の身体に触れた。エミリアと同じく白く細い手。しかし、纏っているものは違う。エミリアは誇りと意思を纏っていたが、彼女の姉であるエリスは―――――哀しみのような冷たいものを纏っていた。

 

 明らかに、騎士が纏うものではない。

 

 その哀しみの原因を探るよりも先に、俺の身体を包み込んでいった。

 

 くそったれ、身体が動かない。力を込めてもこの氷を砕くことは出来ないようだ。

 

 必死にもがきながら、俺は氷漬けにされるまでエリスを睨み続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリス様、被害が甚大です」

 

「問題ないわ。エミリアは確保したから、残存兵力を集めて撤退するわよ」

 

「はっ! この男はどうします?」

 

「連れて行きましょう。ジョシュアが仕返しをしたがっていたし、この飛び道具を解析できるかもしれないわ」

 

「了解しました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さんッ!」

 

 九九式狙撃銃のスコープから目を離し、僕は絶叫した。

 

 エミリアさんがあの女の騎士に氷漬けにされた直後、兄さんの背後委から接近していたハンマーを持った騎士が、そのハンマーで兄さんの後頭部を思い切り殴りつけたんだ。いくら転生者でも、あんな大きなハンマーで後頭部を殴打されては意識を失ってしまう。

 

 兄さんは持っていたアンチマテリアルライフルとリボルバーを手放しながら、地面に崩れ落ちた。

 

 なんということだ。あのままではエミリアさんと兄さんが連れて行かれてしまう!

 

「くっ!」

 

 僕は九九式狙撃銃のボルトハンドルを引いた。銃身の左斜め上に取り付けられているスコープを覗き込み、エミリアさんを連れて行こうとしている女の騎士を狙撃しようとする。

 

(シン、一斉射撃が来る!)

 

「なっ!?」

 

 スコープから目を離し、僕は塀の向こうにいる騎士たちの隊列を凝視した。既に生き残った騎士たちが塀の外に集結し、屋敷に向かって弓矢を構えている。

 

「構えッ!」

 

 隊列の中で、ロングソードを掲げた騎士団が絶叫する。

 

「一斉射撃が来るぞ! 隠れろぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 2階の窓から、ギュンターさんが絶叫したのが聞こえた。僕も慌てて九九式狙撃銃のバイボットを折り畳みながら部屋の中に隠れ、弓矢の一斉射撃に備える。

 

 ミラもSaritch308PDWでの射撃を断念し、部屋の中に隠れた。

 

「放てぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 指揮官の野太い絶叫が響き渡った直後、無数の弓矢が一斉に騎士たちの隊列から放たれた。屋敷の壁や窓に何本も矢が突き刺さり、部屋の中にも矢たちが飛び込んで来る。

 

 この射撃は僕たちを仕留めるための射撃じゃない。エミリアさんと兄さんを連れて逃げるために、僕たちを足止めにしておくための一斉射撃だ。つまり、再び僕たちが窓から銃を向けて射撃しようとしても、騎士たちはもう2人を連れて馬車で去っているということになる。

 

 僕は窓から再び旧日本軍が使用していたスナイパーライフルを突き出してスコープを覗き込んだけど、やっぱり塀の向こうには走り出した騎士団の馬車が残した砂塵しか見えなかった。あの防具を身に着けた騎士たちの隊列は全く見当たらない。

 

「そんな・・・・・・!」

 

 スコープから目を離し、僕は呟いた。

 

 兄さんとエミリアさんが、ラトーニウス王国の騎士団に連れて行かれてしまったんだ。

 

 

 

 


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