異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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ドルレアン家の英雄

 

 背後からショットガンの銃声が聞こえてきた。轟音の逃げ場になるのはこの広間か、背後の螺旋階段のある円柱状の空間の上しかないから、背後で響き渡ったその銃声はいつもよりも強烈な轟音に変貌していた。

 

 ギュンターがあの冒険者たちと戦い始めたんだ。私は彼が心配だったけど、そのまま広間の奥にある棺に向かって走り続けた。

 

 振り返るわけにはいかない。彼は私がリゼットの曲刀を回収できるように、たった1人で冒険者たちに戦いを挑んでいる。だから私は早くリゼットの曲刀を回収して、彼を助けてあげないといけない。

 

 彼だって、ドルレアン領に住む私の民なんだから。

 

 背後で続けざまにショットガンの銃声が轟く。そしてその残響が消え始めると、消えていく残響に止めを刺すかのようにギュンターの雄叫びが聞こえてくる。

 

 彼はかなり無茶をする男よ。最初に転生者と戦った時も、自分が転生者の相手をしている間に私とミラとエミリアを逃がそうとしていたの。力也もかなり無茶をするから、私たちのギルドで無茶をしないのは信也君だけね。

 

 ショットガンの轟音を聞きながら、私は緑色の光の中に飛び込んだ。広間の壁から突き出ている緑色の結晶達の切っ先を横切り、その結晶で作られた中央部の床を踏みつけて、棺に向かって伸びている3本の緑色の線に沿って爆走する。

 

 もう少しでリゼットの棺に辿り着く。全力で走りながら、緑色の炎で照らされているリゼットの棺に向かって手を伸ばした。大昔に死んでしまった先祖の棺の中に、彼女が愛用していた2本の刀が入っている筈よ。それを手に入れれば、ギュンターを助けてあげる事が出来る。

 

 あの棺の蓋を開けて中に入っている2本の刀を手に入れ、その刀の力をあの転生者と冒険者たちに叩き付ける。あの転生者は、リゼットの曲刀には転生者を脅かすほどの力があると言っていたわ。

 

 私と同じように広間に侵入してきた冒険者や転生者はいない。独走しているようなものだったわ。

 

 でも、私がゴールに辿り着いて棺に触れようとした瞬間、いきなり棺の周囲に用意されていた蝋燭の炎が煌めき、目の前に鎮座しているリゼットの棺を飲み込んでしまった。私は大慌てでその光の中に手を伸ばし、光に飲み込まれた棺を探した。

 

 棺の中に入っている刀を手に入れなければ、私は領主になる事が出来ない。そして、大切な仲間を助けてあげる事が出来ない。

 

 必死に緑色の光の中に手を伸ばしていると、いきなり体がぐらりと揺れたような気がした。倒れてしまわないように踏ん張ろうとするんだけど、力を入れようとすると、まるで目が回っている状態のようにふらふらとしてしまう。

 

 どういうこと? これは何なの?

 

 私は緑色の光の中で、ふらつきながらまだ手を伸ばしていたわ。すると棺を飲み込んでしまった忌々しい緑色の光たちが私の足元に下りていき、私の足元にあった筈の地下墓地の床を草むらに変貌させてしまった。

 

「・・・・・・え?」

 

 いつの間にか、私は草むらの中に立っていた。

 

 背後から聞こえていたショットガンの轟音やギュンターの雄叫びはもう聞こえない。目の前には草原があるだけで、リゼットの遺体が収まっている筈の棺はなくなっていた。

 

 後ろを振り向いてみると、前と同じように草原があるだけだったわ。あの黴臭い地下墓地の空気も、まるでネイリンゲンの周囲に広がる草原に戻ってきたようにすっかりなくなっていた。

 

「ここは・・・・・・?」

 

 私は背中に背負っていたSaritch308DMRを取り出しながら、草原を見渡した。あの光のせいで、どこかの草原に連れて来られたのかしら? それとも、幻覚なの?

 

『――――あなたが、私の末裔なのね?』

 

「誰!?」

 

 声が聞こえてきた方向に愛用のマークスマンライフルを向けながら、私は叫んだ。

 

 いつの間にか、私の後ろの草原に、真っ白な甲冑を身に着けた金髪の女性が立っているのが見えた。身に着けている甲冑は騎士の者なんだけど、腰に納めている得物は騎士たちが使うロングソードではなく、刀だった。肩の部分にはドルレアン家の家紋が刻み込まれていたわ。

 

 彼女は、父上が実家で見せてくれた絵画に描かれていた女性だった。身長は全く同じで顔もそっくりだから、着ている服と甲冑を交換すれば、きっと誰も気づかないかもしれない。まるで甲冑を身に着けた自分を見ているようだったわ。

 

「リゼット・テュール・ド・レ・ドルレアン・・・・・・・・・!?」

 

 目の前に立っているあの女性の騎士が、私が回収に来たリゼットの曲刀の持ち主であり700年戦争を終結させた、ドルレアン家の英雄だった。でも、彼女は家臣に裏切られて死んでしまった筈よ? どういうことなのかしら?

 

 目の前に現れた先祖に武器を向けるのは失礼だと思った私は、静かにマークスマンライフルの銃口を下ろした。

 

「どういうこと・・・・・・? あなたは死んだ筈でしょ・・・・・・!?」

 

『ええ、私は死んだわ。あなたが学校で習った歴史の通りに』

 

 ならば、これは幻覚なの?

 

『だから私は、風の精霊から与えられた刀と共にここで眠った。―――この地下墓地は、私を裏切らなかった家臣たちが私のために建ててくれた地下墓地なのよ』

 

 この地下墓地が発見されたのは最近の事よ。オルエーニュ渓谷を調査していた冒険者が渓谷のほぼ中心部で入口を発見したの。

 

 だから、入り口が発見されるまでずっと彼女はこの地下墓地の最深部で眠り続けていたのね。でも、その冒険者が地下墓地の入口を見つけてしまったせいで、中に何があるのかと冒険者たちがやって来るようになってしまった。世界中にはまだまだダンジョンが残っているから、世界地図には空白の場所がいくつも残っているわ。その空白になっている場所を調査するのが冒険者の役割なんだけど、長い間自分が眠っていた地下墓地に他人たちが入り込んでくるのは嫌ね。

 

『――――あなたも、この曲刀が欲しいの?』

 

 リゼットは微笑みながら、ちらりと腰に下げている曲刀を見た。

 

「・・・・・・ええ。ドルレアン家の者として、その曲刀を回収しに来たわ」

 

 なんとしても、彼女から曲刀を受け取らなければならない。受け取る事が出来なければ私は領主になることは出来ないし、ギュンターを助けてあげることも出来ない。

 

 私はマークスマンライフルを背負うと、目の前のリゼットを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハンナの仇よ! 喰らいなさい! アース・フレンジー!!」

 

 詠唱を終えた魔術師の少女が、俺に向かって叫びながら杖を振り回し、自分の魔力を埃だらけの床に流し込む。俺はアサルトマチェーテでエルフの少女が次々に放ってくる矢を叩き落としながら、ちらりと彼女の方を見た。

 

 強力な魔術を発動させるためには長い詠唱が必要になる。彼女は1分間くらい詠唱を続けていたから、今から繰り出す魔術はかなり強力な魔術なんだろう。聞いたことのない魔術だったけど、地面に向かって魔力を流し込んだということは、土属性の魔術なのかもしれない。

 

 すると、彼女の魔力を流し込まれた石の床がいきなり隆起を始めた。盛り上がった石の床は隆起を繰り返しながら、矢を叩き落としていた俺に向かって突っ込んで来る。

 

 転生者の男は剣を構えたまま、俺を見つめていた。今俺に向かって斬りかかってくれば、俺に土属性の魔術を確実に喰らわせるために弓矢で射撃をしているエルフの少女の邪魔になるし、自分もあの魔術に巻き込まれるかもしれない。だから、俺があの土属性の魔術を回避するのを待っているんだろう。

 

 回避した瞬間に突っ込んで来て、俺を両断するつもりだ。

 

「なるほどね・・・・・・」

 

 あの攻撃を回避した直後に続けざまに転生者の攻撃を防御するのは不可能だ。

 

 俺は矢を叩き落としてから、隆起を繰り返す石の床に向かって走り出した。

 

「馬鹿じゃないの!? そのまま石の床に串刺しにされなさい!!」

 

 魔術師の少女の罵声を無視しながら、俺は左手のナックルダスターを握った。彼女の魔術によって隆起している地面の高さは2m程だ。先端部は巨大なランスのようになっているけど、その素材になっているのはあくまでも埃まみれの地下墓地の床だ。脆くなっている筈だから、魔術によって変貌した石の槍の強度は高が知れている。腕のいいハイエルフの少女が鍛えてくれたこのナックルダスターならば、簡単に粉砕できる筈だ。

 

 エルフの少女は俺が自滅すると思ったらしく、弓矢による射撃を中止して、ナックルダスターを構えながら突っ込んでいく俺の事を眺めている。

 

「おりゃああああああッ!!」

 

 いつも通りの雄叫びを上げながら――――ナックルダスターの装着された左手で、ストレートを叩き込んだ。

 

 鋼鉄のナックルダスターと巨大な石の槍が激突する。石の槍が纏っていた埃が舞い上がり、螺旋階段の上層へと激突した音が駆け上がっていく。

 

 そして、舞い上がった埃の中で、粉砕された石の破片が舞い散った。俺が装着しているナックルダスターの色は黒だから、この破片はナックルダスターの破片ではない。

 

 もちろん、砕け散ったのは石の槍の方だった。ボロボロになった壁を巨大なハンマーで思い切り殴りつけたように、ナックルダスターで左のストレートを叩き込まれた石の槍は陥没し、その陥没した場所から亀裂を広げている。やがてその亀裂は他の亀裂たちと合流し、次々に石の破片を落下させていった。

 

 灰色の薄い煙の中で飛び散った白い破片が床に落ちていく。落下して埃の上に転がっていくのは、亀裂同士の合流を許してしまった破片たちだった。

 

 大きくなった亀裂の間から彼女が流し込んでいた魔力が噴出し始め、槍に変貌させていた魔力がなくなった石の槍はそのまま崩れていった。俺は左腕を引き戻し、石の破片と舞い上がった埃を纏いながら魔術師の少女に接近する。

 

 崩れていく石の槍の中に突っ込んだのは、エルフの少女に弓矢で射抜かれないようにするためだった。しかも、転生者も接近して攻撃する事が出来ない。あの魔術師の少女に即席のスモークグレネードを提供してもらった俺は、舞い上がった埃を突き破り、アサルトマチェーテを振り上げた。

 

「きゃああああああああッ!!」

 

「危ない!!」

 

 転生者の少年が、魔術師の少女を助けるために剣を構えて突っ込んで来る。サン・クヴァントで戦った吸血鬼の少女のように動きが非常に素早い。やっぱりこいつもレベルの高い転生者だったということか。

 

 でも、動きは旦那よりも遅いぜ? 

 

 少年が突っ込んで来る前に、俺は目の前の魔術師の少女に向かってアサルトマチェーテの刃を振り下ろしていた。黒い刃が少女の右肩にめり込み、鎖骨を粉砕する。

 

「キャアアアアッ!」

 

 彼女の絶叫を聞きながら、肩にめり込んでいたマチェーテの刃を引き抜き、俺は少女の後ろに回り込んだ。そして泣き叫びながら血の吹き出す右肩を必死に押さえている彼女のうなじに向かって、もう一度アサルトマチェーテの刃を振り下ろす。

 

 漆黒の刃が少女の脊髄を粉々に砕き、彼女の絶叫を消し去る。俺は彼女のうなじに叩き付けたアサルトマチェーテの刃を無理矢理引き抜くと、脊髄を叩き割られて絶命した少女が崩れ落ちてしまう前に、彼女の腰を左足で思い切り蹴飛ばし、俺に向かって突っ込んで来ていた転生者の少年に向かって吹っ飛ばした。

 

「なっ・・・・・・!?」

 

 血を吹き上げながら突っ込んできた少女の死体に体当たりされ、剣を構えていた転生者の少年は失速した上に体勢を崩してしまう。

 

 もらった!

 

 少女の鮮血で真っ赤になった石の床を蹴りながら、俺は彼女の死体を退けて体勢を立て直そうとしている少年の首筋に向かって、右からアサルトマチェーテを叩き付ける。でも、漆黒の刃は少年の首筋に激突しただけで、全くめり込んでいなかった。俺が湿地帯の町で奴隷扱いされていた時に、全く切れなくなったなまくらの包丁で鰐の肉を切ろうとしていた時のようだ。

 

 これが転生者の防御力か。確か、あのブタ野郎にも銃弾は効いてなかったな。

 

 俺は更にその刃を少年の首筋に向かって押し込むと、左手を背中に背負っているSaritch308LMGに向かって伸ばしながら反時計回りに回転し、取り出したばかりのLMG(ライトマシンガン)の銃口をエルフの少女に向けた。

 

「じゃあな!」

 

「!!」

 

 少女は慌てて弓矢を構えるが、矢を引きながら狙いを定めなければならない弓矢が、狙いを定めてトリガーを引くだけで攻撃できる銃に先手を取られてしまった時点で、7.62mm弾の群れに引き裂かれるという結果は決まったようなものだった。

 

 ブローニングM1919重機関銃のようなバレルジャケットが装着された銃身から、猛烈なマズルフラッシュと共に次々に7.62mm弾が連射されていく。獰猛な破壊力の弾丸たちを連続で叩き込まれたエルフの少女の肉体はあっさりとズタズタにされ、肉片と血を床の上にまき散らしてから崩れ落ちた。

 

「て、てめえ・・・・・・!!」

 

 残っているのは、この転生者の少年だけだ。

 

 俺は少年の首筋からアサルトマチェーテを離して飛び退くと、後ろに転がっていたエルフの少女の死体を踏みつけた。

 

「悪いな。俺は捨て駒になったわけじゃないんだ」

 

「黙れ。・・・・・・よくも俺の仲間を・・・・・・!」

 

「はははっ。そうだな。・・・・・・みんな、薄汚いハーフエルフに殺されちまったなぁ!」

 

 転生者の少年が激昂し、俺を睨みつけてくる。

 

 俺が最初に転生者の仲間の少女たちを狙ったのは、こいつを激昂させるためだった。転生者はかなり強力な力を持つため、基本的にこの世界の人間たちを見下している。だから、自分が格下だと思い込んでいた弱者に反撃されるだけでもキレるんだ。

 

 だから、反撃された上に仲間を殺されれば間違いなく激昂する。弱者に反撃された上に仲間を殺されたという恥を消すために、俺を殺そうとする筈だ。つまり、カレンがリゼットの曲刀を回収するまで囮になる事が出来る。

 

「絶対にぶっ殺してやる! このハーフエルフがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「お前もぶっ殺してやるよ、クソ野郎」

 

 返り血で真っ赤になったアサルトマチェーテを回してから、俺はニヤリと笑った。

 

 

 

 


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