異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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騎士と現代兵器

 

  木の枝の上を飛び回るフランシスカのスピードは、間違いなく今の俺のスピードのステータスを上回っていた。彼女が枝から別の枝に飛び移る度に頭の上からがさがさと物音が聞こえ、返り血の臭いが移動を繰り返す。レイジングブルで狙いを定めようとしても狙いをつけられないほどのスピードで飛び回るフランシスカを睨み付けながら、俺は彼女の動きを思い出す。

 

 まず最初だ。間違いなく初めて見たであろうアンチマテリアルライフルの射撃を、超高速でこっちに接近しながら回避した。あれは間違いなく動体視力だけではないだろう。彼女の身体能力が非常に高いという理由もあるのかもしれない。

 

 そしてその後、彼女は隣にあった木を駆け上って別の木に飛び移り、俺に頭上から攻撃を仕掛けてきた。しかも俺の二刀流の反撃をたった1本の剣で防ぎ切っている。

 

 もしあそこでペレット・ダガーの散弾を使わなかったならば、今頃俺も惨殺されていたかもしれない。今のうちにペレット・ダガーに散弾を装填し直した俺は、左手にそれを構え、右手に持ったレイジングブルの銃口を木々の上を飛び回るフランシスカへと向けた。

 

 弾丸の数は無限ではない。今持っている弾丸がなくなれば、後は接近戦を挑むしかなくなってしまう。しかも接近戦はフランシスカの得意分野だ。相手の長所に戦いを挑むような形になってしまうから、俺たちは弾丸を使い果たしてしまった瞬間に、遠距離攻撃を行えない上に彼女の得意な接近戦で勝負するというかなり不利な状況になってしまう。

 

 だからこそ無駄弾を使うわけにはいかない。弾丸が減る度に不利になっていくからな。

 

 俺はスコープを覗き込みながら、俺の後ろでHK45のドットサイトを覗き込んでいるエミリアに言った。

 

「フランシスカを狙撃する。その間にエミリアはあれを拾ってくれ」

 

 わざわざ地面に置かれている対戦車ミサイル付きのバレットM82A3と言わなくても、さっきそのアンチマテリアルライフルに視線を向けていたから彼女も気が付いている筈だ。

 

 フランシスカがここまで追ってきた理由がエミリアを連れ帰ることだというのならば、攻撃目標は俺だけとなる。エミリアの攻撃にほんの少し反撃したとしても、彼女に対しては致命傷になるような反撃はしない筈だ。だからこそ俺は愛用のアンチマテリアルライフルをエミリアに託してみることにしたんだ。

 

「大丈夫なのか? 私が隙を見つけて撃つまでの間、援護は一切できないぞ?」

 

「何とか生き残って見せるさ」

 

 転生してきたばかりだというのに、また殺されてたまるか。俺はフランシスカを狙いながら、駐車場で車上荒らしに殺されたことを思い出していた。

 

 ナイフで刺された激痛。俺の財布を盗んでいった車上荒らし。もしあの時財布を渡していれば殺されずに済んでいたかもしれないと、俺はこの世界に来てから何回か後悔したことがある。

 

 きっとその後悔はこれからもするかもしれない。でも――――ここでフランシスカを殺すことを躊躇したせいで、エミリアが連れ戻された上にまた殺されたっていう後悔は絶対にしたくない!

 

 俺はフランシスカに合わせていたスコープのカーソルを少し下にずらし、レイジングブルの弾丸を放った。森の中の暗闇をも吹き飛ばしてくれそうな銃声が轟き、マグナム弾がフランシスカにではなく、彼女が飛び移ろうとしていた次の枝に命中する。

 

「――――!?」

 

 ゴーレムの外殻をあっさりと突き破るほどの強烈なマグナム弾が、フランシスカが踏む寸前だった木の枝をへし折った。突然足場が落下したことによってフランシスカはバランスを崩したが、剣を近くの木の幹に突き刺して落下するのを防ぐと、その剣を引き抜くと同時に木の幹を蹴り、俺の方へと剣を向けて飛び掛かってきた。

 

 不気味な笑顔ばかり浮かべていたフランシスカが、落下しそうになった瞬間だけ驚いたように見えた。

 

「あはははははっ!」

 

「!!」

 

 笑い声をあげながら飛び掛かってくるフランシスカ。俺は俺の頭に向かって剣を突き出してきた彼女の攻撃をペレット・ダガーで受け流し、振り払った直後の左手の下からレイジングブルの銃口をフランシスカへと向ける。

 

 俺の持っている銃が遠距離を攻撃できる武器だと気が付いていたらしいフランシスカは、銃口の前に立たないようにすぐに俺の横へと回り込む。剣が受け流された方向と同じく、俺から見て右側に回り込もうとするフランシスカ。俺はくるりと左に身体を回転させると、その勢いを乗せて左手のダガーを逆手持ちの状態で回り込んだばかりの彼女に叩きつけようとした。

 

 ククリナイフのように曲がったダガーの刃が、フランシスカの右肩の防具の表面を掠る。刃と防具が擦れて生じた火花に照らされ、一瞬だけ闇の中でフランシスカの表情がはっきりと見えた。

 

 相変わらず気味の悪い笑みを浮かべたまま、返り血だらけの顔で俺の方を見ていた。

 

「さっきはびっくりしたよぉっ!!」

 

「くっ!」

 

 右足で勢いを乗せて俺に体当たりしてきたフランシスカ。まるでジョシュアと戦った時に彼が俺に吹っ飛ばされたようだった。彼女は吹っ飛ばされた俺を追撃するために踏み込み、剣を右手で振り上げる。

 

 俺は体勢を立て直しながらペレット・ダガーを彼女へと向けて投げつけた。フランシスカは俺に振り下ろす筈だった剣で俺の放り投げたダガーを叩き落とすと、その状態から剣を振り上げる。俺はその一撃で首を跳ね飛ばされないように後ろへと飛び退くと、彼女の右へと回り込みながら左手でペレット・ブレードを引き抜いた。

 

 剣を振り払って彼女にガードさせ、その隙に右手のレイジングブルで銃撃。でもこのリボルバーの攻撃を警戒しているフランシスカは、銃口を向けられるとすぐに射線上から逃げてしまう。

 

 至近距離でぶっ放したマグナム弾が外れ、俺は再装填(リロード)しておこうかとポケットへ手を近づける。でも、どうやら時間稼ぎは十分みたいだった。

 

「力也ぁっ!!」

 

 俺のバレットM82A3を構え、銃口をフランシスカに向けたエミリアが叫んだのが聞こえた。12.7mm弾の破壊力に加えて対戦車ミサイルまで搭載した大型のアンチマテリアルライフルを騎士が構えている姿に違和感を感じながら、俺はフランシスカから距離を取る。

 

「対戦車ミサイルをお見舞いしてやれッ!!」

 

 左手をランチャーのトリガーへと伸ばしたエミリアは、暗視スコープの向こうのフランシスカを睨み付けながら、ライフルの下に取り付けられた小型の対戦車ミサイルを発射した。ミサイルの後ろから吹き出す炎がエミリアの姿を映し出し、真っ白な煙の槍が、恐ろしい破壊力を秘めたミサイルを切っ先にしてフランシスカへと伸びていく。

 

 これが直撃すれば彼女は終わりだ。フランシスカはその一撃を回避するために不気味な笑みを浮かべたまま横へと走り出そうとする。アンチマテリアルライフルの弾丸を回避した彼女ならばミサイルも回避することはできるだろう。

 

 俺たちは彼女に放った先制攻撃で、彼女がどれだけの身体能力と動体視力を持っているかを知っていた。だというのに、回避されるかもしれないのにミサイルを撃つわけないだろ?

 

 ちゃんと作戦を考えてたんだよ。

 

 回避しようとする彼女に向かって俺はにやりと笑ってやると、腰の左側にあるペレット・ダガーの鞘へと手を伸ばし――――そこから伸びていた細いワイヤーを、指で思い切り引っ張った。

 

 そのワイヤーが繋がっている先は―――先ほど彼女に向けて放り投げ、剣で叩き落されて地面に突き刺さったままのペレット・ダガーだった。

 

 ペレット・ダガーが刺さっている場所は、俺から見て回避しようとしていたフランシスカの反対側。鞘から伸びたワイヤーは彼女の右足の防具に引っかかると、そのまま彼女をぐらりと躓かせる。

 

「っ!!」

 

 俺は彼女が躓いたのを確認すると、彼女へと向かって走り出す。彼女が回避するのを阻止したのはいいけど、躓いたままの状態ではせっかくエミリアが放ってくれた対戦車ミサイルは命中しない。スコープで照準をフランシスカに合わせていればミサイルは彼女へと向かっていくんだが、エミリアにはそれを教えていなかった。そのためエミリアは、ミサイルが外れてしまったと思ってスコープから目を離してしまっている。

 

 だから、フランシスカをミサイルの真正面に立たせてやる。

 

「――――終わりだ、フランシスカ」

 

「!!」

 

 彼女に肉薄した俺は、彼女が振り払った返り血だらけの剣をペレット・ブレードで受け止めると、脇腹に向かって思い切り左の蹴りを叩き込んだ。レベルが6にまで上がっていたために強化されていた俺の攻撃力のステータスのおかげで、蹴られたフランシスカがミサイルの方へと吹っ飛んでいく。

 

 そして丁度、俺が蹴りを叩き込んだのと同じ場所に、エミリアが放った小型対戦車ミサイルの先端部が叩きつけられた。脇腹の部分を覆っていた防具がミサイルの突進で潰れ、フランシスカの身体が折れ曲がっていく。

 

 肋骨を粉砕された上に内臓を衝撃で潰されているというのに、口から血を吐き出しながらもフランシスカは俺を不気味な笑顔を浮かべたまま見つめていた。

 

 ミサイルが彼女の身体を粉砕しながら、フランシスカを暗い森の中へと連れ去っていく。俺の目の前に生じた白煙が段々と薄れ始めていく中、ミサイルがフランシスカを連れて飛び去って行った方向から轟音が聞こえた。

 

 対戦車ミサイルが爆発した音だった。ゴーレムとゴブリンの群れを一撃で吹き飛ばしてしまうほどの爆発だけど、あの爆発がなかったとしてもフランシスカは助からなかっただろう。

 

 俺は森の奥で木々とフランシスカを焼き払った爆炎に背を向けると、アンチマテリアルライフルを手にしたまま目の前の爆炎をじっと見つめているエミリアに「行こう」と言うと、彼女からバレットM82A3を受け取った。

 

「…………そうだな」

 

 エミリアも爆炎に背を向け、地面に置かれていた自分のバレットM82A2を背負って歩き出す。

 

 間違いなく、フランシスカは死んだ。彼女以外にジョシュアの追っ手がいる可能性もあるため、すぐにここを離れた方が良いと考えた俺は、ワイヤーを引っ張って地面に刺さったままだったダガーを引き抜くと、それを鞘に戻し、エミリアと共に国境を目指して歩き始めた。

 

 


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