異世界で転生者が現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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リゼットの曲刀

 

 裏庭で巻割りを終えた俺は、肩にかけたタオルで汗を拭きながらトマホークを物置にしまうと、裏口のドアに向かって歩き出した。

 

 空は雲で埋め尽くされて曇り空になっている。もう少ししたら雨が降り出すかもしれないな。午後は筋トレじゃなくて地下で射撃訓練でもしておくか。

 

 俺はモリガンのメンバーの中では射撃が下手な方だ。LMG(ライトマシンガン)や汎用機関銃を2丁持って近距離で乱射するから、照準を合わせるためのアイアンサイトやホロサイトをちゃんと除いて射撃したことがあまりない。姉御も射撃は苦手だって言ってたけど、最近は射撃訓練のレベル8をクリアしたって言ってたから、俺よりも射撃は上手い筈だ。

 

「カレンに教えてもらおうかな・・・・・・」

 

 カレンは射撃がかなり上手い。射撃訓練のレベル10を、1発も弾丸を外さずに8秒以内にクリアできるんだ。彼女はセミオートマチック式のマークスマンライフルで、そんな早撃ちみたいな狙撃が出来るんだぜ?

 

 彼女に援護してもらうとかなり安心する。遠距離や中距離の敵が俺を攻撃する前に彼女が倒してしまうから、俺はそいつらの事をまったく気にしなくていいんだ。

 

 旦那も射撃が得意だけど、旦那はかなり遠距離からの狙撃が得意だからな。2km先にいる転生者の頭をアンチマテリアルライフルの狙撃で吹っ飛ばした事があるらしい。そんな遠距離狙撃が出来るのは旦那だけだ。

 

 裏口のドアを開けると、ミラが黒いチャイナドレスのような制服を着て楽しそうに階段を下りてくるのが見えた。どこかに出かけるんだろうか?

 

「み、ミラ! ちょっと待って!」

 

(早く行こうよ、シンっ!)

 

 ん? 信也も一緒なのか?

 

 どこに行くつもりだ? まさか、デートじゃないだろうな!?

 

 俺は急いで近くにあった通路の角に隠れ、玄関の方へと信也を引っ張っていくミラを見つめていた。信也を連れてデートに行くつもりなのか? でも、2人とも着てるのは制服だからな・・・・・・。依頼でも引き受けたんだろうか?

 

「――――ギュンター、何をしているのだ?」

 

「あ、姉御ッ!?」

 

 いきなり後ろから声をかけてきたのは、黒いドレスのような制服を身に着けた姉御だった。さっき裏庭で剣の素振りをやってたんだが、もう終わったんだろうか。彼女は胸や腕に着けていた防具をもう外していた。

 

「いや、ミラと信也がどこに行くのか気になっちまって・・・・・・」

 

「信也のレベル上げだ。ミラは彼の護衛だよ」

 

「レベル上げ?」

 

 転生者には、レベルがある。武器や能力を生産できるあの便利な端末を持つ転生者は、レベルが上がると生産に使用するポイントを手に入れ、攻撃力と防御力とスピードの3つのステータスが段々と強化されていく。

 

 旦那はレベルが187だからかなりステータスが高いんだが、信也はまだ24だった筈だ。確かに、レベル上げが必要かもしれない。

 

「ああ。これから他の転生者と戦う事になるかもしれないからな。レベルは上げておいた方がいいだろう」

 

「そうだな。転生者は強敵だからな」

 

 姉御と話をしていると、ミラが信也の腕を引っ張りながら玄関の外へと出ていくのが見えた。

 

 レベル上げということは、相手は魔物なんだろう。おそらく行き先は西の森だろうな。ネイリンゲンの周囲には魔物が少ないからこの街は防壁に囲まれていないんだけど、西の森は魔物が集まりやすいから、他の傭兵ギルドや騎士団が魔物の掃討に出かけることが多いんだ。

 

「そういえば、カレンは?」

 

「カレンなら、エイナ・ドルレアンにある実家に帰っているぞ。父親に呼び出されたらしい」

 

「実家に?」

 

 エイナ・ドルレアンはネイリンゲンの北にある都市だ。オルトバルカ王国の南側を統治する領主のドルレアン家がある都市で、南側にある街の中では一番大きい。

 

 彼女はそのドルレアン家の娘なんだ。

 

「せっかく射撃を教えてもらおうと思ってたんだけどなぁ・・・・・・」

 

「はははっ。帰って来てから頼んでみるといい」

 

「ああ、そうするよ」

 

 俺は肩にタオルをかけたまま、階段に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷の中も、モリガンに入る前から全く変わっていなかった。廊下には彫刻や絵画が飾られていて、その廊下の先にある広間のガラスケースの中には、私の祖父が国王陛下から与えられたという黄金の宝剣が納められている。

 

 そのガラスケースの前に、金色の豪華な装飾がついた真っ赤な服に身を包んだ1人の男性が立っているのが見えた。上着の襟の部分には、ドルレアン家の家紋が刻まれた銀のバッジを付けている。

 

 その人が、私の父親だった。

 

「お久しぶりです、父上」

 

「おお、カレンか。――――立派になったな。活躍も聞いているぞ」

 

 ガラスケースの中の宝剣を眺めていた父上は、後ろを振り向いて私の顔を見つめながら笑った。

 

 父上の笑顔も、私がモリガンに入る前から変わっていない。モリガンに入ったのは半年くらい前で、それから1回も実家には戻ってきていないから、父上の優しい笑顔を見るのは半年ぶりだった。

 

「それで、試練なのだが・・・・・・」

 

「はい」

 

 私が実家に呼び出されたのは、領主になるための試練を受けるためだった。父上が送ってきた手紙には試練の内容は全く書かれていなかったから、何をやるのか全く分からない。

 

「カレンよ。あの肖像画の女性が誰だか分かるか?」

 

 父上はガラスケースの奥にある肖像画を指差しながら言った。

 

 ガラスケースの奥の壁に掛けられている肖像画には、甲冑を身に着けた金髪の女性が描かれていたわ。甲冑の胸と肩の部分には、ドルレアン家の家紋が刻み込まれている。私にそっくりな女性だったわ。

 

「リゼット・テュール・ド・レ・ドルレアン。初代当主です」

 

「その通りだ」

 

 肖像画に描かれている女性は、ドルレアン家初代当主のリゼット・テュール・ド・レ・ドルレアンという女性だった。彼女はあのレリエル・クロフォードがこの世界を支配するよりも前に活躍した女性の騎士で、大昔に勃発した700年戦争を終結させたオルトバルカ王国の英雄なの。歴史の教科書にも必ず乗っている偉人なのよ。

 

 でも、彼女は戦争を終結させた後、家臣に裏切られて暗殺されてしまうの。

 

「実は、数日前にある冒険者がダンジョンの中で地下墓地の入口を発見してな。・・・・・・その地下墓地の入口に、我がドルレアン家の家紋が刻み込まれていたらしい」

 

「地下墓地ですか?」

 

「ああ。おそらく、そこにリゼットの棺がある筈だ」

 

 初代当主のリゼットは家臣に暗殺された後に埋葬されたんだけど、どこに埋葬されたのか全く記録が残っていなかったの。だから、今まで彼女が埋葬された場所がドルレアン家の者でも分からなかったのよ。

 

 入口にドルレアン家の家紋があったということは、間違いなくその地下墓地に埋葬されているのはドルレアン家の者ね。

 

「そこで、お前に『リゼットの曲刀』を棺から回収してきてもらいたい」

 

「リゼットの曲刀・・・・・・?」

 

「そうだ。初代当主のリゼットが、親しかった風の精霊から与えられたという伝説の2本の刀だ。彼女の遺体と共に埋葬されたらしい」

 

 リゼットが活躍した時代は、レリエル・クロフォードが世界を支配するよりも前だから、彼の心臓を貫いた大天使の魔剣よりも古い刀ということになる。

 

 彼女が愛用していた2本の刀が、そのダンジョンの奥にある彼女の棺の中で眠っているということなのね。

 

「リゼットの曲刀を、他の冒険者や盗賊共に渡すわけにはいかん。初代当主のために風の精霊が与えた刀は、我らドルレアン家の者が持っていなければならんのだ。――――カレンよ。ダンジョンの最深部にある地下墓地から、リゼットの曲刀を回収するのだ。これが領主になるための試練だ」

 

「はい、父上。必ず回収して参ります」

 

「頼んだぞ。特別に、1人だけギルドの仲間を同行させてもいい。モリガンの仲間と共に試練に挑むと良い」

 

「はい」

 

 つまり、ダンジョンの奥で発見された地下墓地にあるリゼットの棺の中から彼女が愛用していた2本の刀を回収して戻ってくれば、私は領主になる事が出来るのね。

 

 連れて行って良い仲間は1人だけかぁ・・・・・・。誰を連れて行くかは、屋敷に戻りながら考えておくわ。

 

 私にそっくりな先祖の絵画を見つめていると、私を見つめていた父上が笑ったのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「あー! また外れたッ!」

 

 的をあと1つ撃ち抜けばレベル8の射撃訓練をクリアできたんだが、俺がコルトM1911A1からぶっ放した.45ACP弾は的の右側を掠め、地下室の奥にある壁に弾痕を付けていた。

 

 カレンだったら絶対に1発も外さないで10秒以内にクリアできるんだろうなぁ・・・・・・。俺は全くクリアできない。狙撃は苦手だ。

 

「ふふふっ。相変わらず外してるのね」

 

「お、カレン。お帰り」

 

 空になったマガジンを取り外して新しいマガジンを差し込んでいると、後ろから彼女の声が聞こえてきた。どうやら実家から戻ってきたようだ。

 

 俺の後ろで腕を組みながら立っていたカレンは、コントロール用の魔法陣をタッチすると、マガジンを交換したばかりの俺のコルトM1911A1を「借りるわね」と言って拝借した。

 

 彼女が始めたのは、射撃訓練のレベル10のようだった。俺が苦戦しているレベル8よりも、明らかに的の魔法陣の動きが素早い。しかもフェイントのように左右にいきなり動き出すから、動き出す前に照準を合わせて撃ち抜かなければならない。この地下室で出来るトレーニングの中で一番難易度が高い射撃訓練だ。

 

 でも、カレンは落ち着いてそのままトリガーを引き始めた。まるで全く狙いを定めずに適当に撃っているかのように銃口を向けてから、すぐにトリガーを引いている。だが、彼女がぶっ放した.45ACP弾は全部的のど真ん中を撃ち抜いている。彼女が持つコルトM1911A1がマズルフラッシュを煌めかせる度に、真ん中を撃ち抜かれた的たちが消滅していく。

 

 空になったマガジンをすぐに取り外し、新しいマガジンを差し込んだカレンは、また同じように素早く狙いをつけてトリガーを引き続けた。

 

 そして、彼女の目の前から全ての的が消滅し、緑色の魔法陣に囲まれたスコアが表示される。

 

 もちろん、得点は100点だった。

 

「す、すげぇ・・・・・・!」

 

「簡単よ。・・・・・・はい」

 

 彼女はニヤリと笑いながら俺にハンドガンを返す。

 

「・・・・・・ところで、ギュンター」

 

「ん?」

 

「あのね、あんたにお願いしたいことがあるの」

 

 お願いしたいことだって? 何なんだ?

 

 俺にハンドガンを返したカレンは、少しだけ俯いてから再び俺の顔を見上げた。

 

「明日、ダンジョンに行くの。出来れば一緒に来てほしいんだけど・・・・・・」

 

「ダンジョン? おいおい、ダンジョンを調査するのは冒険者の仕事じゃないのか?」

 

 この世界の地図には、まだ空白になっている場所が何ヵ所もある。そこは環境や生息している魔物が危険過ぎるせいで全く調査が出来ていない場所で、ダンジョンと呼ばれているんだ。冒険者たちの仕事は、そのダンジョンを調査することになっている。

 

「領主になるための試練なのよ。ダンジョンの奥にある地下墓地から、リゼットの曲刀っていう伝説の刀を回収してこないといけないの。・・・・・・できれば、手伝ってほしいんだけど・・・・・・」

 

「構わないぞ。明日は予定がないしな」

 

「ほ、本当!?」

 

「おう!」

 

 彼女は嬉しそうに笑いながら俺の顔を見上げた。

 

 ダンジョンかぁ・・・・・・。俺たちは傭兵だから、あまりダンジョンに行く事はないんだよな。だから少し楽しみだ。

 

 俺は再びコントロール用の魔法陣をタッチしてレベル8の射撃訓練を選ぶと、カレンに返してもらったコルトM1911A1をホルスターから引き抜いた。

 

「なあ、カレン。射撃を教えてくれよ」

 

「喜んで!」

 

 俺に頼まれたカレンは、楽しそうに笑った。

 

 

 

 


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