前もって連絡があったのか、基地に着いた途端に控えていた陸娘などの隊員達が群がり、素早く大樹の持って居る残骸を回収する。
「では少佐殿此方へどうぞ」
恐らく普通の人間であろう男性が大樹を案内し、チロもそれについて行く。
建物の中に入り、少しして着いたのは、堅牢な作りながら豪華な装飾の着いた扉だった。
コンコンコンッ
「どうぞ」
扉の向こうから女性の声がする。
(...陸娘か?なら...あぁ秘書か)
鎮守府時代の経験から声の主と部屋の役割を察する大樹。
「失礼します。小官は近隣基地から来た草加少佐で...」
だが秘書の姿は何処にも非ず、
〝其処〟に...
〝
軍服を華麗に着こなす、一人の若い女性だった。
「ようこそ、我が戦車第一連隊本部へ。」
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(だ、第一連隊!?確か現在は栃木に居る筈じゃ...)
大樹の頭の中はフリーズしかけていた。
「色々思う所はあると思うが、敵陸上型の出現によって体制や編成が大きく変わったのだ。戦力...といっても陸娘ではない戦車の事だが、それ等の大半は栃木にある。
各地に作られた基地も、陸上型が確認されてから作られたものだ。」
その所為で人員が足りなくてな、とぼやく女性。
「あ、あの...この基地の司令の方ですか...?」
「あぁ、貴官と同じ人員不足による特例で配属された、宇佐見少将だ。君も今は暫定で少佐だが、もし本当に部隊を指揮するに値すると判断された場合はそれ相応の地位になるから期待しておけよ」
「は、はぁ..」
頭の処理が追いついていない大樹の代わりに、チロが質問する。
「此処にはどれ程の陸娘が居るのですか?」
「此処には15名程かな。皆優秀な
宇佐見はそう言うと、机に置かれた書類を取りだす。
「そう言えば、貴官等は快挙を成し遂げてくれた。人類初の敵兵器及び陸上型の鹵獲だ。これは人類にとって大きな一歩を踏み出せた事になっただろう。」
それでだが、と宇佐見は書類を二人の目の前に出す。
其処には、新型特殊車両贈与、と書かれていた。
「貴官等が此処に来たおおよその理由は分かる。その為、司令官就任を祝して、という事で我が部隊から一両其方に贈る。好きな種類を選んでくれ」
そう言われた二人だが、書類の新型特殊車両、という文字にキョトン、としていた。
「あ、あの...この新型特殊車両って何なんですか?」
チロが恐る恐る聞く。
「あぁ、これは軍内部での呼称で、実際には陸娘の事だ。我々としても、出来たばかりの近隣の基地が全滅するのは見たくないからな...さぁ、誰にする?」
そう言って宇佐見は、陸娘全員の名前と写真、種類、個人情報すべてが乗っている書類を出して妖しい笑みを浮かべた。
「...私には決める事は出来ません」
しかし、大樹は決められなかった。
「ほう?」
大樹のその様子に、ますます宇佐見は笑みを深める。
「本人の同意無しに人身売買の様に決めてしまうのは...些か非道ではありませんか?
私は以前から海軍で同じような娘達と接して来たので、本人達の意志がいかに大事かを良く知って居ます...。
私としては本人の意思を聞けないのなら、有り難い話ではありますが辞退させて頂きたく...」
「....よし!」
大樹の言葉を全て聞いた宇佐見は、満足したように書類をしまう。
「気に入った。今後は出来るだけ協力しよう。陸娘達には事前に志願するかどうかを聞いておく。」
そういうと、宇佐見は席を立ち大樹の方へと向かう。
「あぁそれと...」
宇佐見は大樹に顔を近づけ、
「あまり上官には逆らうなよ?」
それだけ言い残すと、そのまま部屋を出て行った。
「な~んかやな感じです...」
チロが歩きながら呟く。
「まぁ能力は確かなんだろうし、時には合理的判断が必要だからな...あれ位が丁度いいのかも知れん」
そう言う大樹だが、顔はやや暗い。
「でも...」
尚も不満が収まらないのか、チロは頬をぷくーっと膨らませる。
「そう怒るな。彼女にもきっと事情があるんだよ...」
大樹はそう言いながら先程の部屋を思い出していた。
執務机の奥の壁には写真が何枚か写真立てに入っており、
とても明るい顔で笑っている女性が軍服姿の少女達と写っているのがチラッと見えた。
(...あの人物が彼女だとすると...何が彼女を変えた?戦闘?それとも環境?
それとも...陸上型その物に何か...?)
大樹は、彼女が、彼女の姿こそが自分のこれから行く先、
宇佐見さんは(現時点でも其処まで)悪い人では無いのですよ...その切っ掛けは今後忘れた事に出て来る(かも)、そして今後悪化していく(かも)です。