陸上これくしょん!   作:ゆっくり分隊長

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第拾壱話

先程まで朱莉達が使っていた演習場へと一行は降りてきた。

 

大樹は演習場の入り口でチロや朱莉達と共に待機をする。

 

「...では」

麗華は一度大樹達の事を一瞥すると、足に付いている移動装置を使って滑る様に、勢いよく動きだす。

 

暫く直線に走った後、鋭く、不規則に蛇行を始める。

 

ダァンッ!ダァンッ!

 

「...おぉ」

 

爆走中の麗華から放たれた砲弾は、800メートル程離れた的に寸分違いなく命中する。

 

「行進射、それに最大速度で蛇行しながらの射撃で当てるなんて...」

所謂スラローム射撃を敢行、尚且つ難なく成功させている麗華に、チロも驚きを隠せないようだ。

 

「チロは出来ないのか?」

 

「私は出来ても躍進射撃までですよ...」

 

それが命中しても戦車相手にはキツイし...と落ち込むチロ。

 

その間も麗華の47ミリは次々に目標を撃ち抜く。

10発程撃ちこんで停車した麗華の目線の先には、ボロボロになった的があった。

 

「...終わりました」

 

麗華がゆっくりと大樹の方へと向かって来る。

「有難う、見事だったよ。...そうだ、もしよければウチのチロと模擬戦をしてくれないかね?」

 

当人のチロは目を丸めるも、すぐにやる気になっていた。

 

「...まぁ、構いませんが」

麗華は嫌そうな表情を顔に出しながらも、了承する。

 

「模擬戦ですか、じゃあ私達は模擬戦用の装備を持って来るので、少し待ってて下さいね。後チロちゃんに合う装置も探さなきゃだから、チロちゃんも一緒に来てくれる?」

 

それを見ていた朱莉が即座に言うと、他の四人とチロを連れて走って行ってしまった。

 

残された二人は気まずい雰囲気になる。

 

「...なぁ君「麗華で良い」...麗華、君はあの娘達の事をどう思っているんだ?」

大樹は四人が居なくなった今が好機と一番気になって居いた事を問う。

「別に...、私はただの兵器だから」

 

「...昔から君達陸娘の様な存在を見てきたから、人間と同じように...否、〝人間の思考〟をする〝生き物〟だと言う事位知っている。本当はどうなんだ?」

 

麗華は俯く。

 

「...私だって皆と同じように行動したい。でも向こうに合わせる事が難しいし、そもそも昔からずっと五人だった所に無理やり入っても、結局は余所者...」

 

「そんな事、やってみないと分からないと思うが?」

 

「でも!万が一ずっと一緒だった五人に、私の所為で亀裂が入ってしまうと考えると...!」

 

俯いたま声を張り上げて叫ぶ。

その目尻には、微かに光る物があった。

 

「私はあの娘達とは感じ方も考え方も違うんだ!元々所属も違うし、独りになった後も長い間闘って来たんだから!そんな私が、仲間と一緒に闘ってもきっと連携出来ない!

それに仲間が死んでしまったら、今度こそ...今度こそ私は...!」

 

目尻に溜まった物は、雫となって零れ落ちる。

叫び声は次第にか細く、最後には絞り出すような声になる。

その頃には、零れ落ちる雫の大きさは増していた。

 

「...そう言ったことが、昔にもあったのか?」

そう問う大樹だったが、予想は付いていた。

 

「.....。」

麗華は俯いたまま沈黙するが、返答の代わりに地面を濡らしていくスピードが増す。

 

「...写真の人物か」

それを肯定と判断し、写真の中に写っていた軍服姿の将校を思い出す。

 

「...あの方は、私の司令官だった...。器の大きい人で、私達陸娘を含めた部下も信頼していた...だが、ある日突然敵の大群が.....。

皆必死に戦った。司令官も陣頭指揮を行って奮戦した....。」

 

「...だが駄目だった、という事か」

麗華は小さく頷く。

 

「生き残った少数は散り散りに、そして司令官含める大多数は....っ」

 

麗華は嗚咽を抑えきれずに言葉を切るが、その先の言葉は容易に想像出来た。

 

仲間を失う事の恐ろしさと、行き成り家族の様に団結して居る五人への入り辛さと引け目。

 

(やはり、海も陸も同じか...)

大樹は過去に同じ様な境遇の艦娘と二人きりの時に同じ様な状態に陥った事があった。

 

(あの時もこうしたっけな..)

大樹は、無言で麗華の側に寄ると、優しく抱きしめる。

抱きしめた瞬間にビクッと震えたその華奢な身体は、彼女の部屋で感じた

誰も寄せ付けない様な物では無く、触れただけで折れてしまいそうな、そんな雰囲気を出していた。

 

「逝ってしまった仲間を忘れない事も大事だが、何時までも引き摺って居ても故人は悲しむだけだ。忘れないよう心に刻んだ上で、亡き戦友の分も前を向いて進んで行く事が必要だ」

 

「でもっ、そんな事簡単に出来る筈が...!」

 

それを聞いた大樹は、自分の手帳を取りだして、俯いたままの彼女の眼前に差し出す。

数滴の涙が手帳の上に落ちるが、大樹は気にしない。

「...これを見てくれるか?」

手帳に貼ってあった写真には大樹と隣にもう一人、紺色のセーラー服にピンク色の髪の快活そうな少女が楽しそうに笑って立って居た。

 

「元気そうな娘だろう?この娘も君と同じ様な境遇にあったんだ。」

 

麗華は、驚きの余り目を瞬かせ―――る事によって零れ落ちそうになった涙を慌てて拭く。

 

「こんな明るい娘が...?」

 

「あぁ。遭難しかけて居た所を助けたのだが、最初は他の仲間と馴染めてなかった...だが今は仲間たちと打ち解け、この通り明るい表情をする様になってくれた。

だから、出来ない、なんて事は無いんだよ」

 

その時、遠くから少女達の声が聞こえてくる。

 

準備を終えて、装備を運んできたのだ。

 

「まずは君が前を向く事だ。次は仲間だ。

君の仲間は君の事をちゃんと想ってる。正面から行け。喧嘩をしても良い。そうすれば無理やりでは無く、自然と仲間に入れる。それでも無理だったり、どうしても仲間が出来た事による戦友の死が怖ければ私の所にくれば良い。ウチは誰一人として死なない...否、私が殺させない。その時は私もチロも歓迎するぞ」

 

「...でも、本当に私のことを想ってるかなんて、」

 

「...あれ!?麗華ちゃん、何で泣いてるの!?大丈夫!?」

彼女が泣いているのに気付いた朱莉は走って向かって来る。

それを追う様に残りの皆も重い装備を持ちながらも急いで走って来る。

 

「これが証拠じゃ駄目かい?」

 

麗華は、涙ながらも漸く笑顔を見せた。

 

「ど、どうしたの麗華ちゃん!?具合悪いの!?大丈夫!?」

 

朱莉達は普段無表情で冷たい雰囲気しか出さない麗華が涙を流し、その上笑っている事に相当動揺しているようだ。

 

「...この様子だと、君が泣き顔も笑顔も始めて見せたって感じだが」

 

「....まぁ、そうですね」

 

「...これが第一歩って事で良いか?」

 

「...えぇ。」

 

嬉しそうなその表情に、大樹は鎮守府時代の艦娘達を思い出す。

 

(元気にやってると良いが....)

 

 

 

 

 

 

 

 

一     方     そ   の    頃。

 

「おいちょっと待てこの書類聞いて無いし判を押した覚えも無いぞ、何だこの毎日お菓子代のお小遣い500円を各艦娘に、って....まさかお前等か!?」

 

「知らないクマ。提督の寝ている内に判子を盗んだなんて、そんな事ないクマ」

 

「...全く、草加殿は艦娘達に大層な教育をなさっていた様で..!」

 

「なっ!?提督の事悪く言うなんて、許さないんだからぁ!!」

 

「そうニャ!!」

 

「そうクマ!」

 

「だぁーーーっ!五月蠅い五月蠅い!兎に角駄目だ禁止だ!」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 




今回は紹介お休みです
因みに手帳の写真は一応カラーです...時代的に白黒にしたかったけどそれだと髪色分からないし、時代的になんとか可能なので...。誰かは言わずに予想して貰うとして、出来るだけ意外性のある娘を選びました。

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