Fate/if 運命の選択   作:導く眼鏡

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3/30日、誤字に気付いたので訂正致しました。
訂正箇所
「戻って濃い、カムイ!」→「戻って来い、カムイ!」


第4章:課せられた使命(前)

……駆け付けた先は、見た事のない平原。

侍のような和風の姿をした軍勢と西洋の姿をした軍勢を分断するように、川が流れている。

離れの小島で一騎打ちをしているのは、セイバーと金髪の騎士。

2人の戦いは神話の如く次元違いの戦いであり、明らかに他とは一線を越えていた。

金髪の騎士がこちら側に気づいたのか、剣を止めてセイバーから距離を取る。

 

「無事か、カムイ…! よく生きていてくれた…!」

 

カムイと呼ばれて反応したのは、和風の軍勢から少しだけ前に出た人物。

あの人が、カムイという人物なのだろう。セイバーも、同じようにカムイを見つめる。

2人の表情は決して敵を睨みつけるような目ではなく、どちらも大切な弟妹を暖かく迎え入れるかのような優しい表情だ。

 

「…………兄さん! 何故こんな戦争を!?」

「さぁ…行くぞ。お前も戦いに加われ、カムイ。お前がいてくれれば、戦争はすぐに決着する。無駄な犠牲を出さずに、白夜王国を征服できるだろう」

「…………兄さん…俺は…」

 

金髪の騎士の言葉に、カムイと呼ばれた人物は迷いを見せる。

 

「騙されるな、カムイ。この男は暗夜王国の第一王子だ」

「リョウマ兄さん…」

 

セイバーがカムイを止める。

 

「ああ…カムイ…! 生きていたのね、良かった…」

「…悪運強いね、カムイ……は」

「良かったよ~! カムイ……!」

 

西洋の軍勢側から現れた3人の人物は、カムイと呼ばれた人物を見つけるなり安堵の表情を浮かべる。

その表情は、あの金髪の騎士やセイバーが浮かべていた表情と同じく親しい兄弟(姉妹)へ見せるものだ。

 

「何を言う、カムイをさらった暗夜の者め…カムイは私の…だ!」

「いいえ、カムイは私の…。誰にも渡しはしないわ…」

「騙されるな、カムイ。お前は俺達の大切な家族だ」

「戻ってこい、カムイ! またきょうだい一緒に暮らそう」

 

双方から呼び止められるカムイ。

どちらも必死にカムイを呼んでおり、カムイと呼ばれた人物がそれ程大切に思われているのが分かる。

しかし、双方は敵同士。どちらかにつくという事は、どちらかを裏切るという事。

 

「こっちだ、カムイ!」

 

セイバーがカムイに向かって手を伸ばす。

その後ろ側からは、セイバーの兄弟らしき人物達が不安そうにカムイを見つめている。

 

「戻って来い、カムイ!」

 

金髪の騎士がカムイに向かって手を伸ばす。

その後ろ側からは、同じように金髪の騎士の兄弟らしき人物達がカムイを見つめている。

 

目の前のカムイと呼ばれた人物は悩んでいる。

セイバーの側につくか、金髪の騎士の側につくか。

どちらも、カムイにとっては大切な兄弟なのだろう。どちらかを選ぶ事はすなわち、どちらかを裏切る、見捨てる事に等しい。

静かにそれを見守る。

そして、悩んだ末にカムイと呼ばれた人物が出した結論は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぁれ?」

「目が覚めたみたいね」

 

気が付けば、見慣れた天井と青い髪の女性……ランサーがすぐ傍でこちらを見つめていたのが見えた。

どうやら、先程の光景は夢だったらしい。カムイと呼ばれた人物がどちらを選択するのか、あの夢は一体何だったのか。気になっていたのもあるが覚めてしまったものは仕方ない。

 

「俺は、一体……」

「覚えていないかしら? 昨日何があったのかを」

 

昨日、そうだ……昨日は確か、ランサーが現れて……聖杯戦争への参戦を決意して、バーサーカーに……バーサーカーに襲われて、それから……

 

「っ! そうだ、バーサーカーは!?」

「バーサーカーには逃げられたけれど、撃退には成功したわ」

「そ、そうか……じゃあ、皆無事なのか?」

「あぁ、無事だ。それより目が覚めたのなら話が早い」

 

と、どこからともなくいきなりセイバーが現れた。先程までこの部屋には俺とランサーしかいなかったはずなのに、一体どこから現れたのだろうか?

 

「セイバー、突然霊体化を解くのは士郎の心臓に悪いからやめてあげて」

「む、すまない」

「いや、それはいいんだけど……何かあったのか?」

「あぁ、まずは着替えて来い。凛と共に待っているぞ」

 

それだけを伝えると、セイバーは霊体化して消える。

どうやら、4人揃ってから話を切り出すつもりのようだ。

なら、早く着替えていかなければ。待たせる訳にはいかない。

 

「…………」

「…………」

「その、ランサー?」

「どうかしたの?」

「着替えたいから、部屋から出てもらいたいんだけど……」

「…………ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、衛宮君。目が覚めたのね」

 

食卓では、遠坂とセイバーが対面側に、ランサーがその反対側で座っている。

そしてテーブルの真ん中には、爺さんが残してくれた家宝「夜刀神」が置かれている。

 

「早速だけれど衛宮君、貴方に聞きたい事があるの……この刀、どこで手に入れたの?」

「それは、俺の親父……爺さんが残してくれたものだ。それがどうかしたのか?」

「どうかしたのか、じゃないわよ。貴方、昨日この刀でバーサーカーを撃退していたじゃない」

「あ、あぁ。あの時は、俺がやらないといけない気がして、この剣で突き刺したんだ。マスターが前に出るのは危険だっていうのは承知しているけど、ランサー達が戦っているのに俺だけ指をくわえてみているだけなんてできない」

「そういう問題じゃないのよ! いい、衛宮君? サーヴァントは神秘が含まれない攻撃ではいかなる手段を以てしても傷一つ付ける事が出来ないの。にも関わらず、衛宮君はこの刀で、不意打ちに等しい形とはいえサーヴァントを撃退してみせた。ランサーの歌によって弱っていたようにもとれたけど、それでもこの刀に相当の神秘が込められているか、衛宮君が何か封印指定ものの神秘の塊でもない限り、例え核爆弾を使おうがバーサーカーに衛宮君がダメージを与える事なんてできないのよ」

 

……つまり、遠坂が言いたいのはこういう事だ。

神秘が宿っていない攻撃はサーヴァントに通用しない。だから、バーサーカーにダメージを与える事が出来た俺自身か、夜刀神に相当な神秘が宿っているとしか考えられない。だから、夜刀神について色々と聞きたいという事なのだろう。

 

「繰り返し聞くけど、衛宮君はお父さんがこの刀をどこから手に入れて残したのか、全く分からないのね?」

「あぁ、俺が衛宮切嗣(親父)に拾われた当初からこの剣はあったし、そもそもこの剣に関してはこの世に救いをもたらす唯一無二の刀なんだーって話位しか聞いていない」

「この世に救いをもたらす?」

「あぁ、それ位しか聞いていないからこの剣が何なのかって言われても俺には答えられない」

「そう、衛宮君も詳しい事は分からない、と……」

 

遠坂が神妙な顔をして夜刀神を見つめる。

それだけ、夜刀神が興味深い一品なのだろう。しかし、切嗣(爺さん)が遺したこの剣がそれ程のものとは今まで思わなかった。

考えてみたら、切嗣(爺さん)は世界中を旅していたし、俺を拾う前にそういう品を集めていたとしても、何の不思議でもなかった。

そして、それに思い至るとますます切嗣(爺さん)が何をしていたのかが気になってしまう。

切嗣(爺さん)は俺を助けたあの災害の日、何故無事だったのか。世界中を旅して何をしていたのか。

考えれば考える程、謎が深まるばかりだ。

 

「はぁ、衛宮君も分からないとなると、ますますこの刀が何なのかが気になってくるわね……そもそも重くてまともに振る事も出来ないし、衛宮君はよくこんなの振り回せるわね」

「夜刀神は、選ばれし者にしか扱う事が出来ないからな」

 

と、遠坂が愚痴を零すように漏らした一言に対して、セイバーが返答する。

夜刀神が選ばれし者にしか扱えない? 驚きの一言に、俺も遠坂も真顔のまま固まる。

 

「……あんた、この刀について知ってるの?」

「夜刀神はこの世に救いをもたらす唯一無二の刀。大昔、世界が悪意に飲み込まれようとしていた時に夜刀神に選ばれた者は、世界の悪を見事打ち払ってみせた。俺はそう聞いている」

「……って事は、この刀ってその大昔に出てきた本物って事?」

「あぁ、間違いなく本物だ。そしてそれを扱っているそこの少年は、夜刀神に選ばれた勇者という訳だ」

 

…………一瞬思考が停止する。

俺が、夜刀神に選ばれた勇者? 剣を振れるからって、俺が世界を救う勇者なのか?

確かに、助けられたならば今度は俺が助けたいとは思っていた。だが、世界を救う為の勇者っていうのは、少々大げさすぎる。

 

「なぁ、さすがにこの剣を扱えるからって俺が選ばれた勇者っていうのは言い過ぎだと思うんだが」

「だが、事実だ。その刀が偽物という事はない。でなければ、そこのランサーが呼ばれず別のサーヴァントが召喚されるだろうからな」

 

つまり、夜刀神が偽物という可能性はほとんどないという事か。

だが、セイバーの口ぶりからするとランサーの真名に心当たりがありそうなものだが、もしかしてセイバーは、ランサーを知っている人物なのだろうか?

 

「ってちょっと待ちなさいセイバー、貴方ランサーの真名に心当たりがあるの?」

「あるぞ。最も、向こうも俺の真名にはたどり着いているだろうがな」

「そうね、私もセイバーの真名は分かっているわ」

 

遠坂も同じ考えに至ったのか、俺が疑問に思った事をそのまま口にする。

そして案の定、セイバーとランサーはお互いを知っているらしい。

 

「夜刀神に選ばれた事自体を重く受け止める必要は無い。だが、自惚れた軽率な考えは死を招く。これから先、少年には様々な苦難が待ち受けているだろう。悩んだ末に決断を下さなければならない事もあるだろう。それでも、自分の意志を最後までしっかりと貫け。それが俺から出来る少年へのアドバイスだ」

 

セイバーはそれだけ言うと、その姿を消してしまう。

本当ならその現象に対しても相当な驚きが出ていたのだが、夜刀神の件が予想以上に重く、セイバーの姿が消えた現象に対しては、ランサーが言っていた霊体化というやつなのだろうとしか考えなかった。

 

「何というか、想像以上にスケールのでかい話になって来たわね」

 

遠坂は呆れたように溜息を吐いてこちらに向き直る。

 

「いい、衛宮君。貴方が夜刀神に選ばれた勇者だっていうのが事実だとしても、それを喜ぶのはお門違いよ。貴方は人間で、思っている以上にあっさりと死んじゃうの。貴方の死で悲しむ人だって普通にいる、だから決して無茶だけはしないで頂戴」

「遠坂……?」

「多分、今日は頭の整理とか必要でしょうし私も一度家に帰るわ。明日、また来るから……その時までにあなたがどうしたいのかを考えて、しっかりと決断しなさい」

 

遠坂はそう言って、部屋を出る。

そしてそのまま、靴を履いて家を出てしまった。

 

「それじゃあ衛宮君、明日また来るからそれまでに考えを纏めておきなさい」

 

遠坂はそれだけ言って、そのまま家まで歩いていった。

夜刀神について、まだまだ分からない事だらけではある。

分かるのは、俺が夜刀神に選ばれたという事。

重い運命を、背負ったという事だけだ。

 

「どうすればいいかは、貴方も悩みなさい。そして、悩んだ以上は後悔だけはしないで。どれだけ悩んでも構わない、だけど決して後悔しないように、よく考えてからどうするのかを決めなさい」

 

すぐ傍にいたランサーは、俺に対して助言をするように静かに呟いた。

夜刀神に選ばれた、という事実。

だが、命を賭けて何と戦う? 俺が戦うべきなのはなんだ?

そもそも、聖杯戦争にはどんな目的で参戦を決意した?

俺は、あの日助けられた。なら今度は、俺が助ける番だ。

だけど、助けるって誰を? 俺はこの戦争で、誰を助ける?

助けられたからには、助けなければならない。

けど、それは……

 

「色々と考える事も多いでしょうけれど、ここでずっと考えるよりは、一度外を出歩いてみるのはどうかしら? 一度リフレッシュして、頭をすっきりさせてからまた考えるのも一つの手よ」

 

ランサーは一度リフレッシュの為に外出を奨めてくる。

確かに、今のままここで悩み続けるよりは有意義かもしれないし、何か見えてくるかもしれない。

そうと決まれば、早速出かけよう。今日は休みだし、一度ゆっくりと街を見て回ろう。

そうして、俺はランサーと共に街へと出かける事にした。

 

 

 

 

……どんなに悩んでも決断の時はやってくる。

なら、俺は後悔をしないように……しっかりと悩もう。


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