Fate/if 運命の選択   作:導く眼鏡

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サーヴァント強化クエでマルタさんの強化クエが来たら大勝利


第2章:潰える日常(前)

その姿は、まるで神話上の歌姫のようだった。

それが、彼女を初めて見た時に抱いた感想。

どこからともなく突然現れた彼女は、俺に迫り来るナニカをあっさりと斬り捨てた。

そんな姿に見惚れていた俺へと向き直った彼女が、出会い頭に言った言葉は……

 

「貴方が、私のマスターかしら?」

 

それが、彼女の第一声だった。

はっきり言うと、訳がわからない。

いきなり、貴方がマスターかと言われても、何も知らない俺からしたら、

どう返事をすればいいのかもわからない。

 

「えっと……マス……ター……?」

 

助けてくれた彼女が、何者なのか。何を言っている事すらもわからない。

わかる事といえば……目の前の綺麗な女性が、公園でみたあの騎士や侍と同じ存在

という事だけ。

 

「…………」

 

女性は何も言わずに、静かに俺を見つめる。

その様子をなんと言えばいいのか。あまりの出来事に、頭が追いついていない。

完全においてけぼりを喰らっていた。

 

「サーヴァント・ランサー。召喚に従い、参上したわ。それで、貴方が私を呼んだのかしら?」

 

繰り返される声。マスターという言葉、ランサーという名前を耳にした瞬間、左手に痛みが走った。

突然焼きごてを押されたかのような激痛。朝、桜に指摘された痣がここに来て痛み出した。

その痛みに思わず左手の甲を押さえつけると、それが合図だったのか女性は静かに頷いた。

 

「これより、我が槍は貴方と共にあり。貴方の運命は、私と共にある……ここに、契約は完了したわ」

「契約……?」

「えぇ、貴方が聖杯を求めて私を召喚し、私はその召喚に応じた。私の事は、ランサーと呼んで頂戴」

 

女性は、さらりと言ってのける。

 

「そうか……変な名前だな」

「勿論、真名ではなくクラス名に過ぎないわ。それはそうと、貴方の名前は?」

「……俺は士郎。衛宮士郎だ」

 

本来なら、間抜けにも程がある返答。

しかし、名前を言われて名前を聞かれた以上、こちらも名乗り返すのが筋だ。

混乱していても、どんな相手であろうと、筋は通さないとダメだ。

 

「…………」

 

女性は、無言でこちらを見つめる。何かまずい事でもあったのだろうか?

女性の目線をたどると、その視線は俺が持っている()に向けられていた。

 

「……貴方、その刀を何処で手に入れたの?」

「刀って……これの事か?」

 

女性が見つめていた()、夜刀神を正面に持ち上げる。

女性は、この剣について何か知っているのだろうか?

 

「この剣は、爺さん……俺の義父が残してくれた家宝だ」

「……そう、それが私を呼ぶ触媒になったのね」

「触媒?」

「なんでもないわ。それより貴方、正規のマスターではないみたいね」

「え……?」

「安心して、それでも私は貴方のサーヴァントよ。契約を交わした身として、貴方の事は裏切らない。だから警戒する必要はないわ」

 

もう一度はっきりと言おう。彼女が何の話をしているのかわからない。

わかるのは、彼女が俺の事をマスターなんてとんでもない言葉で呼んでいる事位だ。

 

「そもそも、俺はマスターなんて名前じゃないぞ」

「気に入らなかったかしら? なら、士郎……そうね、この呼び方でいいかしら?」

「っ……!」

 

彼女に士郎と呼ばれた瞬間、顔から火が出るかと思った。初対面の相手なら、普通は苗字で呼ぶ。

それが苗字をすっとばして、いきなり名前で呼ばれたのだ。

 

「ちょっと待て、なんだってそっちの方を……っ!?」

 

突然、左手に痺れが走る。先程の戦闘で痛めてしまったのか、と一瞬思ったがそれは違う。

手の甲が熱く、包帯を取ると左手にあった痣は、入れ墨のようなおかしな紋様に変化していた。

 

「なっ……!?」

「それは令呪と呼ばれるものよ。私達サーヴァントを律する3回限りの絶対命令権。ただし、命令できるのは3回だけ。……それは貴方と私を繋ぐ生命線のようなものと思ってくれればいいわ」

 

令呪、と言われてもしっくり来ない。つまり、俺は彼女に3回限りだが、何でも言うことを聞かせる事が出来るという認識でいいのだろうか?

ふと、彼女が突然外の方を振り向く。

 

「どうやら、新手のようね。外の敵は二人……かなりの重圧だけれど、戦わなければ死あるのみ。貴方の覚悟が出来ていないなら、私だけで戦うわ」

「ちょ、待ってくれ! 何が起きているのかこっちはさっぱりで……責めて説明してくれ!」

「大丈夫よ、貴方は私が守るわ……夜刀神に選ばれた貴方を、絶対に死なせない」

 

こちらの制止を聞かず、彼女は土蔵から飛び出す。

外の敵って事はさっきみたいな奴がまだいるのか!? あいつはそれと戦いにいったのか!?

 

このまま行かせる訳にはいかない。そう思い至ると共に、大打撃を食らったばかりで悲鳴をあげる身体に鞭打って無理やりにでも走る。

外に飛び出した彼女を追うように続けて外に出る。

そして、彼女が飛び出していった先を振り向くと……

 

 

「ふっ!」

「きゃあっ!」

 

 

数度の剣と槍の打ち合いの末、ランサーが弾き飛ばされる姿。

そしてランサーを弾き飛ばした漢は……あの時、公園で騎士と殺し合っていた

あの赤い鎧の侍だった。

 

「どうした、その程度では俺の首はとれんぞ」

「……っ!」

 

弾き飛ばされたランサーが立ち上がる。しかし、目の前の侍は強大すぎる。

このままランサーがあの侍と戦い続けても、勝てない……戦っても、殺される。

 

「やめろ、ランサー!」

 

再び侍と打ち合おうとするランサーを制止する。

それと同時に、侍の奥方から、聞き覚えのある少女の声が聞こえて来た。

 

「セイバー、そこまでにしておきなさい」

「ふむ、他でもないマスターが言うなら仕方あるまい。だがいいのか? 相手はサーヴァント。恐らくランサーだろう。今は敵を倒す絶好の機会だぞ?」

「それはそうなのだけれど、あの様子じゃちょっとね」

 

そう言って、セイバーと呼ばれた侍の後方から現れたのは、やはり見覚えのある少女。

同じ学校にいる同級生、遠坂凛だ。

 

「やっほー、衛宮君。こんな所で会うなんて奇遇ね」

「遠坂……!? 何でお前がここに!?」

 

それは意外な再会。

何故、遠坂がこんな所にいるのか。そしてセイバーと呼ばれた侍と、ランサー。

おいてけぼりの俺……

何が起こっているのかはさっぱり分からず、この事態をどうすればいいのか。

出来る事ならば、思考を投げ出したかった。

 

「その様子だと無事だったみたいね。それにしても、貴方がランサーのマスターだなんて少し意外だわ」

「ちょっと待ってくれ、さっきも言われたけどマスターがどうのって言われても……俺にはさっぱりだ」

「……待ちなさい、衛宮君貴方もしかして」

 

 

 

 

「聖杯戦争を知らないまま、マスターになったの?」


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