Fate/if 運命の選択   作:導く眼鏡

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執筆途中の話が間違って投稿されていたので、上げ直しました。申し訳ありません


第16章:交錯する思惑

「さぁ……聖杯戦争ころしあいを始めましょう」

 

唐突に現れた目の前のスーツ姿の女性、バゼットは静かに言い放った。

彼女から感じる殺気は生半可なものではない。一瞬でも気を抜けば死が待っているかの如き気迫に思わず圧倒されそうになってしまう。

 

「どうしました? 来ないのであればこちらから行きますよ」

「待ってくれ! 会って早々に戦おうって言ってもここは新都だぞ! 周りの人を巻き込むつもりか!?」

「それでしたら心配はいりませんよ。人払いは既に済ませてありますから」

「え……?」

 

言われてみて気付く。周囲を見渡すが、先程まではまばらになりながらも結構な数の人がいたのに、今はそれが嘘のように人が全くいない。

 

「どういう……事だ」

「人払いの結界です。これで今、私達の周囲に一般人は誰一人いません。魔術は秘匿する物ですから、当然の処置です。さて……言っておきますけど、逃がすつもりはありませんよ」

 

バゼットは持っていた荷物を置き、拳を構える。

しかし、気になる事がある。バゼットの周囲にサーヴァントが見当たらないのだ。

 

「なぁ、お前のサーヴァントは一体……」

 

言いかけた所で、言葉は唐突に途絶える。

何の前触れもなく腹部にとんでもない衝撃が走ったと思ったら、気付いた時には背後の壁に叩きつけられていたのだ。

 

「がはっ……!?」

 

何が起きた? さっきまでバゼットと名乗った女性が戦闘の構えをしていて、それで……。

遅れて腹部と背中に激痛が走る。先程まで俺がいた位置にはバゼットが拳を振りぬいた姿で立っており、すぐ傍にはランサーが倒れている。信じられない事だが、俺はあの一瞬で殴り飛ばされていたらしい。

俺はまだいい。だけど何でランサーまで倒れている?

 

「ラン……サー……」

「殺すつもりで殴ったのですが、思っていたよりも頑丈のようですね。ですが、その身体ではまともに動く事も出来ないでしょう」

 

あまりの激痛に呻く事しかできない。まるで身体が一度破壊しつくされたかのようだ。

手足を僅かばかり動かすのが精一杯な状態の身体で、無理やり立ち上がろうとするが痛みのあまり立つ事ができない。

 

「さて、まずは一人……これも聖杯を回収する為の任務です、悪く思わないでください」

 

バゼットがランサーにゆっくりと歩み寄る。このままだと士郎と同じように倒れて動けないランサーは殺されてしまうだろう。

それを黙って見過ごしてもいいのか? 短い間かもしれないけど、ランサーは俺と一緒に戦ってくれた仲間だぞ。

動かないといけない。じゃないとランサーが殺される。だが、身体をほんの少しでも動かそうとしただけで激痛が走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそれがどうした? 今動かなければランサーが死ぬ。それだけは絶対に駄目だ。

激痛がどうした、そんなものは無視してしまえ。

目の前で大切な人が殺されそうになっているのに動かないでどうする。

衛宮士郎は身体中に走る激痛を無視して強引に身体を動かし始める。

指を動かす。指が付け根から焼け崩れそうな感覚に襲われる。

腕に力を込める。力を込めた腕が粉砕してしまいそうだと錯覚する。

身体を起こす。胴体が内側から崩れてしまいそうだと危険信号を発する。

これ以上動いてはいけない-そんなものは関係ない。

身体が限界を伝える-そんなものは無視する。

動く度に意識が途切れそうになる痛みが襲う-彼女が殺されそうになっているのに、そんな痛みにかまっていられない。

 

身体を起こし、吹き飛ばされた際にぶつかって折れた標識を手に取る。

一度身体を起こせば、不思議と痛みが気にならなくなってきた。

身体が麻痺して痛みを感じなくなっているだけかもしれない。だが、それにしてはさっきまでに比べるとスラスラと身体が動く。

何故かは知らないけれど好都合だ。今はただ、戦うのみなのだから。

 

バゼットと名乗った敵は俺が起き上がった事に気づいてこちらを振り向く。

こちらが起き上がった事が意外だったようで、驚愕を隠せていない。

 

「驚きましたね、貴方には半月はまともに動く事が出来ない程のダメージを与えたはずですが」

「生憎、俺は不思議と頑丈だからな……それに、ランサーが殺されそうになっているのに倒れている訳にはいかないだろ」

「なるほど、伊達にマスターを務めている訳ではないようですね」

 

多少フラフラとしながらもバゼットを相手に棒きれと化した標識を構える。剣のように振る事は出来ず、実質槍のように振り回す位しか出来ないだろう。

だが、それでもマシだ。無手でアレを相手にするのはサーヴァントと戦う事並の自殺行為だ。それなら、棒キレでも無いよりは全然いい。

 

「し……ろ……駄目、逃げて」

「ランサーを置いて逃げるなんて、できる訳ないだろ」

 

倒れているランサーが逃げろとこちらを心配してくれる。けれど、ランサーを置いて逃げるなんて事は絶対に出来ない。

 

「貴方の覚悟はわかりました。ですがこれは聖杯戦争……そちらがその気なら、こちらも全力で貴方を殺しに行きます」

 

バゼットが真っ直ぐこちらに迫って来る。このまま棒立ちしていれば、3秒もしない内にこの肉体はミンチと化すだろう。だが、そのままつもりは毛頭ない。

俺は決めた、これ以上誰かを泣かせる訳にはいかないと。俺の身近にある日常を守ると。

それなのにここで殺されてたまるか。お前なんかに、この日常を決して壊させはしない。だからこんな所で……

 

「ここでお前に、殺されてたまるかぁあああああああああ!!」

 

標識をバゼットに向けて振り下ろす。だが、そんなものは何の脅威でもないといわんばかりにバゼットはそれを手で弾く。

 

「はぁっ!」

「っ!」

 

弾かれたのならば再び振る。剣は力任せに振り回すものではなく、己の身体の一部として使いこなす。

相手に攻撃の隙を決して与えさせない為に、この連続攻撃は決して途切れさせてはいけないのだ。

故に、俺は標識を振り続ける。腕が引きちぎれそうな痛みに襲われようとも、攻撃を止める事はない。

しかし、相手もこちらの攻撃を的確に受け流しており、全く有効打を与える事ができない。

そして、スタミナの差も魔術の世界に入り浸っている戦闘のエキスパートと、実戦経験をそこまで積んでいない高校生では明らかに違う。

事態は一向に好転せず、いずれ士郎の体力が尽き始めていく。そうすればおのずとどうなるのか、予想は難しくない。

 

「はぁっ!!」

「がっ……!?」

 

バゼットの鋭い一撃が武器越しに士郎を殴り飛ばす。

その時の衝撃で士郎の獲物はぐしゃりと曲がり、使い物にならなくなってしまった。

 

「悪あがきをする事自体は勝手ですが、これ以上長引かせる訳にもいきません。そろそろ仕留めさせて貰います」

「ぐ……ぁっ」

 

獲物が使い物にならなくなり、今の状況は絶望的だ。

もう士郎自身に打開策等ない。これ以上、彼に抗う術等残されていない。

 

「こんな所で……ちくしょう」

 

かろうじて残された力で立ち上がりはするものの、アレを相手にする手段がもう残されていない。

獲物も無しに、肉弾戦を挑む身体能力等士郎には無い。

万事休す、チェスで言うならばチェックメイト。誰が見てもそうとしか思えない。

それでも、彼は……

 

 

 

「諦めが悪いですね。貴方の獲物はもう使い物にならない、強化の魔術以外にもとっておきの魔術があるというのであれば話は別ですが……見た所それも使えない様子。それでも尚あがくというのであれば、望み通り慢心せずに仕留めましょう」

 

当然、瀕死の相手でも油断するような敵ではない。士郎自身に、逆転の目等残されていない。

だがそれでも立ち上がる。何故なら……

 

「勝ち目がなくても、俺は立ち上がる……大事な人を守る為に今まで生きてきたんだ、それなのにこんな所で……折れたりしない!」

 

それが彼の、正義だから。 彼の信念だから。

だからこそ彼は立ち上がる。何度でも、何があろうとも。

士郎自身はボロボロ、逆転の芽等ある訳がない。だが、それは……

 

 

 

 

 

「そうよ士郎、諦めるにはまだ早いわ」

 

 

 

 

 

士郎一人で挑む場合の話だ。彼にはランサー、サーヴァントがいる。パートナーがいる。

一人では無理でも、二人なら戦える。戦いは、一人で行うものではない。

 

「ラン……サー?」

「復帰するまで待たせてごめんなさい、私はもう大丈夫」

 

「サーヴァントが復活しましたか、思ったよりも長引いた影響ですね。ですが貴方も全力を出せるコンディションではない様子。なんなら2体1でも問題ありません」

 

ランサーが復帰して尚、バゼットは自分が勝つと宣言している。そこには何かカラクリがあるはず。

だが、それがどんなカラクリなのかはわからない。それでも、可能性が0じゃないならば十分戦える。

そう、諦めるにはまだ早い。

 

 

「士郎、厳しい事を言うけれど私と貴方が一緒に戦ったとしてもアレには勝てないわ」

「そんなのはやってみなくちゃわからない、それにランサー一人に戦わせるなんて事はできない」

「いいから聞いて、貴方は夜刀神に選ばれた人間……なら、念じて見なさい。心の中で夜刀神を呼んでみるの」

「夜刀神を……呼ぶ?」

「えぇ、貴方なら出来るわ。貴方が呼べば夜刀神は、真の持ち主の元にやってくる」

 

夜刀神を呼ぶ、という事の意味はよくわからない。だが、何となくイメージは掴める。

士郎は、心の中で静かに念じる。夜刀神が、家の蔵に置いてある様子が鮮明に頭の中に浮かび上がる。

 

(夜刀神、俺に力を貸してくれ……来い!!)

 

瞬間、夜刀神が蔵の扉を突き破って飛び出していくイメージが彼の頭の中で鮮明に浮かんだ。

飛んで行った夜刀神がまっすぐこちらに向かってくるイメージが頭の中で鮮明に映し出されている。そして、次の瞬間……

 

 

「武器を新しく生み出した……いや、これは呼び出した!? この神秘、まさか……貴方も伝承保菌者!?」

 

 

 

 

 

「行くぞバゼット、俺達はまだ負けていない」


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