Fate/if 運命の選択   作:導く眼鏡

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第9章:我が家

アインツベルンの森から帰還した俺達は、俺が住んでいる武家屋敷に集まっていた。

その一室、皆で和やかに食事とするはずの場所で、衛宮士郎は正座をさせられている。

縮こまるように正座をしている士郎を挟み込むように立っているのは、桜と藤ねぇだ。

士郎の後ろでは、何食わぬ顔で遠坂がお茶を飲んでおり、現状を楽しんで観察している様子。

何故このような事になっているかというと、それは30分前に遡る。

 

 

 

 

「ただいまー」

 

あれから、何事もなく無事帰って来た俺は誰もいないであろう家に帰宅する。

返事はない。当然だ、この家の住人は、5年前から衛宮士郎ただ一人なのだから。

 

「辛気臭い顔はやめなさい、まずは無事帰って来れた事を喜びましょう」

 

一緒に来ていた遠坂が、家にあがって行く。

人の家だというのに、遠慮なしに堂々と入り込んで行くのは、遠坂らしいと思わず苦笑いが漏れてしまった。

そして、テーブルが置かれている皆で団欒する為の一室で、セイバーとランサー、遠坂と俺の4人がテーブルを囲むように座っていた。

 

「本来なら、普段貴方と慣れ親しんでいる人が言うべきなのでしょうけど、他に誰もいないし、私が代わりに言っておくわ。

……おかえりなさい、衛宮君」

「あぁ、ただいま」

 

それはなんでもないはずのやりとり。俺が日常に帰って来たと実感できる、何気なく、それであって大事な言葉だった。

 

「それじゃあ、これからの方針を話し合いましょう」

 

感情に浸るのもここまで、と気持ちを切り替えた遠坂が話題を転換する。

今は聖杯戦争の真っ最中だ。何時までも平和ボケしていては、何も出来ずに死んでしまう。

皆を守る為には、周囲に被害を及ぼす輩を俺達が優先して倒していかなければいけないのだ。

 

「まずは、現状の整理をしましょう。私達、つまりセイバー陣営とランサー陣営は協力関係にある」

 

あのライダーと互角の戦いをしてみせたセイバー。最優の名に恥じない実力を持っており、その強さは間違いなく聖杯戦争では優勝候補のはずだ。

ランサーも、サーヴァントなだけあって士郎とは比べ物にならない英雄としての力を兼ね備えているが、セイバーを相手にランサーが勝てるかと言えば答えは否と言わざるをえない。

しかし、逆に言えばそのセイバーが協力関係にある、つまり仲間である現在は非常に心強い存在でもあった。

 

「次に、敵サーヴァントだけれど……確認出来ているのは、アインツベルンのライダー、黒馬に騎乗して戦う騎士の英霊ね。御三家なだけあって、あそこはかなり厄介。恐らく聖杯戦争で一・二を争う強敵だと思う」

 

決別した家族、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。彼女のサーヴァントであるライダーは、間違いなく難敵として俺達の前に再び立ちはだかるだろう。

しかし、爺さんの実の娘……たった一人残った家族である彼女とは、出来れば戦いたくない。

勿論、これは戦争だからそんな事を言ってはいられないのはわかっている。だが、それでも……出来れば、平和的に彼女と手を取り合えればと思ってしまう。

 

「衛宮君は、彼女と戦い辛いかもしれないでしょうけど……いざとなったら、覚悟を決めないと死ぬのは貴方だって事を覚えておいて。聖杯戦争は、生半可な覚悟じゃ生き残る事なんてできないから」

「わかった、覚えておく」

「よろしい。そして、未だ会った事のないアーチャーとキャスター、アサシンは今の所は除外。どんな相手かも分からない以上、奇襲に警戒する位しか今とれる対策はないもの」

 

遠距離攻撃を得意とするアーチャー、魔術に優れたキャスター、暗殺を得意とするアサシン。

この3つのクラスのサーヴァントは、正攻法での戦いではなく、搦手を得意とするクラスだと聞いている。

暗殺者が正面から白兵戦に優れたセイバーと戦って勝てる訳もないし、アーチャーはその名の通り、弓による遠隔攻撃が主だ。キャスターだって、魔術に優れてはいるものの、接近戦を苦手とする。故に、この3つのクラスに関しては表に出て正面から挑んで来る可能性は低い。だからこそ、奇襲に警戒するしか今は出来ないのだ。

 

「最後に、あのドロドロの身体のサーヴァント……多分、あれがバーサーカーだと思う。正直、不気味としか言いようがない上にあれを操るマスターは不明。だけど、あのバーサーカーはステータスだけなら、聖杯戦争では間違いなくトップに躍り出るだけの力を持っているわ」

 

理性無き狂戦士、バーサーカー。セイバーと共に一度戦ったが、はっきりと言うとでたらめとしか言えない。

身体を切っても再生する上に、攻撃力も尋常じゃない。あれと1対1で対峙すれば、セイバーでも苦戦は免れない。

 

「それに、バーサーカーが最後に咆哮を放った時に現れたあの見えない敵達。バーサーカーの宝具だと思うけれど……正直、謎が多すぎるし見えない敵ってだけで十分な脅威よ」

 

そう、あの見えない敵はバーサーカーと戦っている時、バーサーカーが咆哮をあげた時に奴を助けるかのように現れた。バーサーカーが召喚した眷属なのかはわからないが、あの見えない敵とは何度か戦っている。

しかし、本当にバーサーカーの宝具というだけで片付けていいのかという疑問も沸いてくる。

何故なら、あれはランサーと出会う直前にも俺を襲って来たし、アインツベルンの森でも戦った。

あれがバーサーカーの宝具なら、その両方の時に、バーサーカーが近くにいた事になる。

では、その時何故バーサーカーは隙を突いて襲って来なかったのだろうか?

なんらかの代償があって攻撃出来なかった、という線もある。しかし、断定は出来ない。

 

「だから、今最も警戒すべきはあの謎に包まれたバーサーカーね。あれに関しては、放置していても脅威にしか成り得ないし、真っ先に対処すべきだと私は思うわ」

「俺もそう思う。となると、当面の方針はバーサーカーの調査及び、その討伐って事でいいか?」

「それに賛成よ。当分はバーサーカーについて調べて、あいつに対する対策を練って動きましょう」

 

これからの方針は纏まった。まずはバーサーカーの正体、もしくはマスターを突き止めて対策を練る。

他のサーヴァントは対策も何も無い為、一度戦った事があるバーサーカーの対策から始めよう。

 

「それじゃあ、今日の会議はこれでおしまい。後はこれからの行動だけれど……」

 

と、遠坂がこれからの行動について話そうとしていた時だった。

 

「しろー、御飯出来て……あれ?」

「先輩……? それに、遠坂さん? 何を、しているんですか?」

「あっ」

 

気付いた時には、藤ねぇと桜がこちらを見て固まっていた。

何時の間に家に来ていたのか、というより全く気付いていなかった。

 

「あれ、あれ? なんで士郎の家に遠坂さんと……見慣れない人が二人? っていうより侍!? 侍がいる!? 忍者に続いて侍!?」

「先輩……その……そちらの方達は、誰なんですか? それに、どうして遠坂さんがここにいるんですか?」

「いや、あのな、桜、藤ねぇ、これは……」

 

慌てて弁解しようとするも、時既に遅し。

 

 

 

「なぁにをやっとるんじゃぁああああああああああああああああああああい!!!」

 

 

衛宮家に、藤ねぇの虎の咆哮が如き叫び声が響き渡った。

それから、ランサーやセイバーの事に関して過去を捏造し、爺さんの知り合いが、爺さんを頼って訪ねて来た事にして無理やり誤魔化したり、遠坂が火に油を注ぐ発言をして修羅場を楽しんで観察したりと、散々な事態になった。


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