Fate/if 運命の選択   作:導く眼鏡

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これは、衛宮士郎がかけがえのない日常を守る事を選んだ物語。


運命の選択 -光へ進み行く-
第8章:運命の選択 ~光へ進みゆく~


頭に思い浮かべたのは、俺の周りにいる皆。

そこにあるのは、かけがえのない日常だ。

俺には、それを手放す事なんて出来ない。今まで築いてきた日常を捨てる事は、出来ない。

だから俺は……たった一人の家族ではなく、今まで築いてきた日常を守る事を選んだ。

 

 

「イリヤ……ここは退いてくれないか?」

「え……?」

 

 

一瞬の空白。イリヤは、今なんと言われたのか分からないという目でこちらを見ている。

たった一人残った家族だ。出来る事なら、ずっと一緒に……平和に暮らしたいと思う。

しかし、これは聖杯戦争だ。誰かを守るという事は、誰かを守らないという事でもある。両方の手を取って皆仲良く、なんて事は出来ない。

俺には、大切な日常がある。毎日家に来て家事を手伝ってくれる桜、中学時代からの付き合いの慎二、生徒会長の一成、そして藤ねぇに遠坂。

俺の周りには、大切な人達がいる。日常の中には、決して手放せない皆がいる。

だから俺は、唯一遺された家族ではなく、遠坂達と共に日常を守る事を選んだ。

 

「ごめん、イリヤ……」

「シロウ……?」

「俺には、守りたいものがある。俺の周りには大切な人達がたくさんいる。それらを捨てる事は、俺には出来ない」

「ねぇ、何言ってるの……? シロウは、私の家族なんだよ?」

「分かっている……けれど俺は、遠坂と共に、皆を守る為に戦うって決めたんだ。だから、イリヤの為だけに戦う事は出来ない」

「なんで……なんで、そんな事言うの? シロウ……シロウも、キリツグと同じように私をおいていっちゃうの?」

「イリヤ……ごめん」

 

衛宮士郎は、イリヤではなく遠坂達を選んだ。

それを理解させられたイリヤは、目から涙を溢れさせながら泣き叫ぶ。

 

「……っ! ばか! ばかばかばかばかばかばかばかシロウ!!」

 

それは、イリヤの心からの叫びだった。

ようやく巡り合えた唯一の家族が、自分を選んでくれなかった。

家族がいてくれれば、それだけでよかった。それなのに、唯一の家族は……

彼女には、それがたまらなく悲しかった。悔しかった。

やっと会えた家族は、自分よりも普遍的な日常を選んだ。

その事実が、彼女にとって何よりもショックだった。

 

「もう知らない、シロウのばか!! ライダー、セイバー達をやっつけて!!」

 

イリヤの叫びに応じ、ライダーが動きだした。

その威圧感は、昨日の夜に会った時とは全く違う……完全に敵として対峙した、冷酷な騎士としてのものだった。

 

「言ったはずだぞ、少年。イリヤを悲しませるような事があれば私が許さんと」

「ライダー……」

「お前がイリヤではなく、そこの娘達を選んだ以上私達は敵同士だ。ここからは、お前をイリヤの家族だとは思わん!」

 

ライダーが剣を抜く。あの剣から放たれている禍々しいオーラが、ライダーの怒りを表わしているかのように荒れ狂っている。

 

「さぁ、行くぞ。我が剣の露と消えるがいい!!」

 

ライダーが馬を走らせ、こちらに向かって来る。

いや、違う。向かって来ると認識した時には、ライダーは既に目の前で剣を振り降ろそうとしていた。

かろうじて見えたそれに、反応する事は出来ない。俺は、このままライダーの剣に切り捨てられて……

 

 

キィン!

 

 

……いなかった。

目の前で振り下ろされようとしていた命を刈り取る死の刃は、一太刀の刀によって防がれていた。

 

「何をしている、少年。それでも夜刀神に選ばれた者か?」

 

ライダーの攻撃を防いだのは、セイバーだった。

セイバーはちらりとこちらを見て微笑むと、そのままライダーに向かって剣を構える。

 

「セイバーか…やはりお前とは、因縁の決着を付けなければならないらしいな」

「来い、ライダー。今度は誰の邪魔も入らない正真正銘の一騎打ちだ……参る!!」

 

ライダーとセイバーが戦いを始める。

サーヴァント同士の戦いは、先程までの戦いとは桁違いの規模での戦闘だ。

セイバーが攻勢に入れば、ライダーはその全ての剣撃を防ぎきる。その衝撃で、周囲の木が折れて倒れる。距離を取ったライダーが剣から黒い雷を放ち、セイバーが避けた先に存在していた木がまとめて砕け、なぎ倒される。

彼等の命がけのやりとりは、どうあがこうが周囲の環境を激変させてしまう。

その様子を眺めていた俺の元に、遠坂が歩み寄って来た。

 

「やっぱり衛宮君は、私が見込んだ通りの人だったわね」

 

遠坂が隣に立って、穏やかな笑顔を見せる。

その笑顔は、普段の遠坂からは考えられない程綺麗な笑顔で、思わず見惚れてしまいそうになってしまう。

だが、今は戦いの最中。この危機を乗り越えなければ、皆を守る事は出来ない。

 

「さぁ行くわよ、ライダーはセイバーに任せて、私達はマスターを叩くわ!」

「その、遠坂……一つだけいいか?」

「何?」

「イリヤは……殺さないで欲しい。出来れば、無力化する程度に留めてくれ」

「難しい注文ね……衛宮君がそこまで情を持つなんて……まぁいいわ、無理して殺す必要もないし、かるーく灸を据える程度にしておいてあげる」

「……ありがとう」

「お礼は後! 言っておくけど、桜も心配しているんだから早く帰るわよ!」

 

遠坂が宝石を準備する。宝石に魔術を込める事で、詠唱を省いた状態で魔術の行使が行える。それが宝石魔術だ。

遠坂が取り出した宝石はそのどれもが一級品。それだけ、強力な魔術が込められている事は容易に分かる。

遠坂は本気だ、なら俺も覚悟を決めよう。

持っている夜刀神を構えて、イリヤと対峙する。

イリヤは、悲痛な表情でこちらを睨んでいる。彼女を悲しませているのは、他でもない俺の選択だ。

 

「イリヤ……」

「……シロウが、私を捨てて行くなら……キリツグと同じように帰って来なくなるくらいなら、私がシロウをここで倒す。シロウを倒して、ずっと私の傍に置く。それで、ずっと一緒に……」

「それは貴方の我儘よ」

 

イリヤに対して、遠坂の言葉が突き刺さる。

 

「貴方がやろうとしている事は、衛宮君の意志を無視した貴方の一方的な都合での我儘でしかない。そんな事をやろうとしている人に、衛宮君は味方をしないわ」

「うるさい! そんなの関係無いもん! 私は……私は……シロウと一緒にいれれば、それでよかったのに!!」

 

イリヤが髪の毛を使い、鳥のような使い魔を作り出す。

白い鳥のような使い魔は、身体を構成し終えると共にこちらに向かって高速で突進してきた。

 

「呆れた、思い通りにならなかったら癇癪を起こすのね。けれど、私達だって負ける訳にはいかないのよ!」

 

飛んできた使い魔を、遠坂が宝石を使って撃ち落とす。

今目の前で繰り広げられている光景を言葉だけで表すと、全く緊張感のないように捉えられるが、実際に行われているやり取りは

一挙一動が命のやり取りだ。一匹でも撃ち漏らせば、即座にあの使い魔は俺や遠坂の身体を貫いて、容易く命を奪っていただろう。

俺が目で見て反応する事すら出来なかった速度の使い魔を撃墜出来た遠坂の手腕も、かなりのものだというのがよくわかる。

続けて、イリヤが髪の毛を使って使い魔を作り出す。

髪の毛から鳥のような使い魔を作り出すその様は、これが戦闘でなければ一種の芸術のような美しささえ感じるだろう。

だが、命のやり取りでそのような光景に見惚れている場合ではない。

次々と飛んでくる使い魔を宝石で撃ち落としている現状も、遠坂の持っている宝石が尽きれば

為す術がなくなってしまう。この均衡を維持するだけでは、確実にジリ貧になる。

それを破る為には、俺がなんとか隙を作らなければいけない。

 

「遠坂、俺が前に出る。援護を頼む!」

「衛宮君、何を言っているの!?」

「今のままだと、遠坂の宝石が底を付いて何も出来なくなる。そうなる前に現状を打開するならこれしか方法は無い」

「だからって、それじゃああんたが危険にさらされるのよ!」

「分かっている。だからこそ、援護を頼む。一人で戦っている訳じゃないんだ」

 

遠坂は数瞬の間思考をめぐらせ、イリヤの攻撃を凌ぐのが精一杯の現状をどうにかするには、この策がベストだと判断すr。

 

「分かったわ、だけど無茶はしないで」

「あぁ、それじゃあ頼む」

 

確認の完了と共に、夜刀神を構えて前に出る。

 

「シロウ!?」

 

俺が前に出て来た事に対して驚いたのか、イリヤの対処が僅かに遅れる。

当然、それを見逃す遠坂でもなく、宝石の魔力を解放する。

 

「Ein KÖrper ist einKÖrper!」

 

その言葉が合図となり、イリヤが咄嗟に展開した使い魔が完成する前に夜刀神で斬り伏せた俺は、その場から離れる。

俺の役目は、あくまで隙を作る事。使い魔を破壊し、無防備となったイリヤは遠坂の宝石魔術を直に喰らうしかない。

 

「嘘!? そんな……っぁあああああああああああああ!!」

 

それでも、咄嗟に防壁を張ってダメージを軽減した辺りは、伊達ではない。

しかし、対処が遅れた事によるタイムラグはどうしようもなく、防壁を完全に張る事が出来ず魔術によるダメージを受けてしまったイリヤは、そのまま吹き飛ばされてしまった。

 

「はぁ……はぁ……まだよ、まだ私は負けていない!」

 

イリヤは、ふらふらとしながらも立ち上がって遠坂を睨みつける。

その目は、家族として接してくれた時の無邪気な目ではなく、魔術師として、敵対する者を殺さんとするばかりの鋭い目だ。

 

「お嬢様、御無事ですか!?」

 

イリヤの後方から、セラとリズが駆けつけてくる。

二人とも無傷とはいえないが、こうしてイリヤの元に駆け付けたという事は敵を倒したという事なのだろう。

 

 

 

「士郎、今はどうなっているのかしら?」

 

俺の隣には、同じように敵を倒して追いついて来たであろうランサーの姿。

駆けつけたばかりで、状況が理解出来ていない彼女に、俺は今の現状を説明する。

 

「ランサー、俺は遠坂達と一緒に戦う事を選んだ。今はイリヤ達とは……敵同士だ」

「そう、それが貴方の選択なのね」

 

それだけ聞くと、ランサーはイリヤ達を見つめる。

短い間かもしれないが、家族として過ごしたイリヤ……彼女を置いて行く事に、胸が痛む。しかし、俺が選んだのはこれまで築き上げた大切な日常を守る道。

選べる道はどちらか一つ。選んでしまった以上は、引き返す訳にはいかない。

 

「ここは一度退こう、遠坂。今これ以上戦っても、痛み分けにしかならない」

「えぇ、そうね。向こうにも増援が現れた以上、無理に戦いを続けてもどうなるか分からないもの」

 

イリヤ達も、様子を見ているのか向こうからこちらに襲いかかって来る様子はない。

それを見た俺は遠坂と共に、イリヤ達から警戒を解く事なく森を立ち去る。

 

「シロウ…………」

 

イリヤは、悲しそうな目で俺達が去っていく姿をずっと見つめていた。

セイバーとライダーも、決着をつける事なくこの場を離れる。

次に会った時こそ、決着を付ける。お互いに相手から目を離さず、双方は離脱した。

お互いの主を守る為に。

 

この戦いで決着がつく事はなかった以上、どこかで再び彼女達と戦う事になるだろう。

その時が来るまでに、強くならなければならない。

もう、後には戻れない。誰かを助けるという事は、誰かを助けないという事だ。

俺が選んだのは、桜や藤ねぇ達を守る道……それを覆す気はない。

 

 

 

この日の帰り道は、どこか寂しさを感じさせるものがあった。




溜め込んでいた120個以上の石を全て割ってもジャンヌオルタさんは出ませんでした(血涙)

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