Fate/if 運命の選択   作:導く眼鏡

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思っていたより長くなりそうなので前編後編ではなく中編も入りました。


第7章:強襲(中)

アインツベルンの広大な森、そこに一般人が立ち入る事は決してない。

何故ならば、森の奥に存在する城は認識阻害の結界によって決して森の外からは

発見する事が出来ないし、森の中にも人払いの結界によって一般人が森の中に

入ろうという気を起こさせないからだ。

そんなアインツベルンが所有している森を突き進み、

アインツベルンの城を目指す存在が複数いる。

鉄骨をも叩き斬る大斧を担いだ大男、物語に登場する空飛ぶ天馬に騎乗した槍を持った兵士、

雷の魔術を放ち、道を阻む木々を粉砕する魔術師。

そして最奥には、3人が通った後に出来た道とその周辺を徘徊する謎の男。

それだけならまだいい、問題は彼等全員の姿が視認出来ないという点である。

姿は見えないけれど確かにそこに気配はある。

そんな奇妙な存在を遠見の魔術によって認知したイリヤは、只事ではないと警戒を強める。

 

「何、あれ……私、あんなの知らない」

 

動揺を隠せず震えるイリヤ。そんな彼女を見て、セラとリズが武器を取り出す。

 

「お嬢様、ここは私達にお任せを」

「イリヤの敵は、私達の敵。だから、イリヤを怖がらせる奴は私達がやっつける」

 

セラは魔術によって生み出した使い魔を周囲に展開、リーゼリットは重量級の戦斧を軽々と

振り回しながら森へ向かおうとする。

 

「待って、セラとリズだけじゃだめ……私も、ライダーと一緒に行く」

「お前達二人では荷が重かろう、私が前に出る。二人は後方を頼む」

 

イリヤがライダーの馬に騎乗し、ライダーが城から駆け出す。

それに続くように、セラとリーゼリットも戦闘態勢で森へ向かっていった。

 

「士郎、貴方はどうするの?」

 

ランサーがこちらに問う。ここで待つのか、それとも戦うのかと。

俺は聖杯戦争に参加したマスターだ。しかし、サーヴァントと戦えるような力は無い。

今襲撃を仕掛けている敵が何なのかは分からない、もしかしたら足手まといになるかもしれない。

けど、ここで指をくわえて見ている事だけは出来ない。

それでは、何の為に今まで剣を振ってきたのか分からない。

大切なものを守る為に、今まで鍛錬を重ねてきた。

戦わない理由は、何処にもない。

 

「俺も戦う。イリヤ達が戦っているのに、俺だけここにいるなんて出来ない」

「戦う……それが、貴方の選択なのね」

「あぁ、これは曲げない」

 

ランサーは士郎の決意が固い物である事を確認すると、表情を和らげて静かにほほ笑む。

 

「なら、私の加護を貴方に授けるわ。私の歌で、貴方に力を」

「歌?」

「えぇ、私の歌によって貴方の力を向上させる。戦う上で強さを底上げするのは、とても大事な事よ」

 

ランサーは目の前に立つと、静かに歌い始めた。

周囲に水しぶきのような何かが浮かび上がり、俺の周囲を漂い始める。

歌と共に身体に力が漲って来るのが感覚で分かる。

普段よりも調子がいい等という次元の話ではない。

歌によって力が漲る今の状態なら、昨日ランサーと初めて出会う直前に戦い、全く歯が立たなかったあの敵が相手でも充分戦える。

それ程までに桁違いの力が全身に行きわたっているのを、本能で理解した。

 

「さぁ、行くわよ士郎。歌の加護を得た今なら、あの敵の姿も見えてくるはず」

「あぁ、行くぞランサー!」

 

ランサーと共に城から駆け出す。

遠くでは、イリヤ達が戦っている。4体の見えない敵……いや、今は敵の周囲から発せられる呪いのような靄が見える為に居場所がうっすらと分かる。

その内の1体がこちらに気付いたのか、ターゲットを変えてこちらへと飛翔してきた。

敵の姿はシルエットのように浮かび上がって見える。これが見えない敵の正体、

空飛ぶ天馬に騎乗した敵が空中からこちらへと攻撃を仕掛けて来た。

その攻撃は普段の士郎だったならばかろうじて防げても、それが手一杯。あっさりと態勢を崩されてチェックメイトだっただろう。

だが、今はランサーの歌による加護を得ている。

敵の槍の軌道が遅く見える士郎は、敵の槍を弾いて敵の態勢を崩す。

そして、天馬の上で態勢を崩した敵が天馬の制御を失えばどうなるかは明白だ。

バランスを崩して天馬から振り落とされそうになった敵の心臓を、ランサーが容赦なく薙刀で突き刺した。

 

「……っ」

 

心臓を貫かれた敵がこれ以上戦う事も出来る訳がなく、天馬に乗っていた敵はそのまま動かなくなり、やがて消滅した。

 

「まずは一人、けれど他の敵もかなりの曲者揃いね……急いで駆け付けましょう」

「あぁ、行くぞランサー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が剣の雷を受けるがいい!」

 

ライダーの暗黒剣から黒い雷が放たれる。

しかし、それを紙一重で避ける謎の男。そして所持している武器から無数の銃弾を放ち、ライダーを牽制しつつ後退する。

 

「チッ!」

 

ライダーはそれらを弾き、体勢を立て直す。

本来、サーヴァントに銃弾等効くはずがない。

しかし、捌き切れなかった銃弾は顔をかすめ、傷をつける。

それはあの男が持つ武器に、神秘が含まれているという事だ。

 

「ええい、ちょこまかと逃げ回るつもりか!」

 

追撃に駆けだそうとすれば、埋め込まれていた罠が作動してライダーを、そしてライダーと同じ馬に乗るマスターであるイリヤを襲って来る為、迂闊に攻め込む事が出来ないでいる。

森の中に何時の間にこれだけの罠を用意したのか。そして罠を巧みに使った戦術、戦い方を見てライダーは確信していた。

 

 

 

 

 

……この敵は、かつてない程に厄介な曲者である事を。


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