Fate/if 運命の選択   作:導く眼鏡

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第5章:遺されし者(前)

家に帰る頃には、すっかり暗くなってしまった。

元々は気分転換の為にと出かけていたが、まさかここまで遅くなるとは思わなかった。

家の縁側で月の光に夜刀神をかざせば、それは月の光と相まって美しく輝く。

切嗣(親父)が遺した夜刀神はサーヴァントに通用する程の神秘を秘めている。

切嗣(親父)はどこでこの剣を手に入れたのか。切嗣(親父)は何をしていたのか。

思い返す程に謎は深まる。何故切嗣(親父)は俺に夜刀神を託したのだろうか?

それだけじゃない。そんな代物を手に入れた切嗣(親父)は、何をしようとしていたのか。

夜刀神が選ばれた者にしか使えないのなら、切嗣(親父)は夜刀神を振るえたのか?

振るえなかったのなら、何故扱えもしない代物を持っていたのか?

そして、夜刀神を俺が振るえる事を切嗣(親父)は見ていた。ならば、それを見て何も思わない訳がない。

分からない。切嗣(親父)は、俺に何をさせようとしていた?

世界を救う勇者になる事? 違う、そんな事を考えていたら切嗣(親父)は正義の味方になろうとしてなれなかった話をしていない。

平和な世界で平穏に育つ事を良しとするならば、そもそも剣を振らせなかっただろう。

なら、俺はどうすれはまいい?

俺は何を成せばいい?

俺は……

 

「悩んでいるのね、何の為に戦うのかを」

 

霊体化を解いたランサーが隣に座る。

昨日の夜、俺は確かにランサーと共に戦うと誓った。

だが、聖杯戦争でマスターがやれる事なんてたかが知れている。

本来、マスターが後方支援に回ってサーヴァントが前衛で戦うのが聖杯戦争だ。

しかし、俺には後方支援なんて出来ないし使える魔術も強化の魔術だけだ。

剣を自在に複製するようなでたらめな魔術が使える訳でもないし、遠坂のような派手な魔術攻撃が出来る訳でもない。

それこそ、剣を振るう位しか俺には出来ない。

だが、それでサーヴァントに太刀打ち出来るかと言われれば答えはNo。

相手にもならず、俺は瞬殺されるだろう。

そんな俺が、夜刀神を振るえる程度でどうすればいい?

 

「分からないんだ、切嗣(親父)が何の為に俺に夜刀神を託したのか。俺はどうすればいいのかを」

「それは、貴方が聖杯戦争でどう戦うかの話かしら? それとも、何の為に戦うか、目的の話?」

「前者も悩みだけど、今悩んでいるのは後者だ」

「そうね、貴方が夜刀神に選ばれた事実は、とても重くのしかかっているのかもしれない。けれど、それを使命だと、責務だと考えてはだめよ」

「夜刀神が云々は、考えから外せって事か?」

「えぇ、大事なのは貴方が誰の為に戦うか。何を目的に戦うかよ。それも、皆を助けたいなんて漠然な目的じゃだめ。貴方が本当に守りたいものが何なのか、誰の為に戦いたいかをよく考えなさい」

 

誰の為に戦うか。

俺が本当に守りたいものは何なのか。

それは…………

 

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

唐突に玄関のチャイムが鳴り響く、

どうやら、来客のようだ。

 

「はーい、今行きます」

 

こんな時間に誰だろうか?

桜や藤ねぇが訪ねて来るにしても、この時間に訪ねてくるとは思えない。

遠坂も、家に帰ってゆっくりして、明日また来ると言っていた。

では、この来客は一体……

 

ガラララ

玄関の扉を開き、挨拶と共に来客が誰なのかを確認しようとする。

しかし……

 

「こんばんわ、どちら様で……」

 

そこで、言葉が止まった。

玄関を開けた先にいたのは、昨日セイバーと戦っていた黒馬に乗った金髪の騎士。

そしてその前方には……

 

「こんばんわ、シロウ。夕方ぶりね」

 

雪のような白い髪の少女、夕方たい焼きを買ってあげたあの少女が、目の前に立っていた。

 

「君は、確か……」

「イリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ」


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