家に帰る頃には、すっかり暗くなってしまった。
元々は気分転換の為にと出かけていたが、まさかここまで遅くなるとは思わなかった。
家の縁側で月の光に夜刀神をかざせば、それは月の光と相まって美しく輝く。
思い返す程に謎は深まる。何故
それだけじゃない。そんな代物を手に入れた
夜刀神が選ばれた者にしか使えないのなら、
振るえなかったのなら、何故扱えもしない代物を持っていたのか?
そして、夜刀神を俺が振るえる事を
分からない。
世界を救う勇者になる事? 違う、そんな事を考えていたら
平和な世界で平穏に育つ事を良しとするならば、そもそも剣を振らせなかっただろう。
なら、俺はどうすれはまいい?
俺は何を成せばいい?
俺は……
「悩んでいるのね、何の為に戦うのかを」
霊体化を解いたランサーが隣に座る。
昨日の夜、俺は確かにランサーと共に戦うと誓った。
だが、聖杯戦争でマスターがやれる事なんてたかが知れている。
本来、マスターが後方支援に回ってサーヴァントが前衛で戦うのが聖杯戦争だ。
しかし、俺には後方支援なんて出来ないし使える魔術も強化の魔術だけだ。
剣を自在に複製するようなでたらめな魔術が使える訳でもないし、遠坂のような派手な魔術攻撃が出来る訳でもない。
それこそ、剣を振るう位しか俺には出来ない。
だが、それでサーヴァントに太刀打ち出来るかと言われれば答えはNo。
相手にもならず、俺は瞬殺されるだろう。
そんな俺が、夜刀神を振るえる程度でどうすればいい?
「分からないんだ、
「それは、貴方が聖杯戦争でどう戦うかの話かしら? それとも、何の為に戦うか、目的の話?」
「前者も悩みだけど、今悩んでいるのは後者だ」
「そうね、貴方が夜刀神に選ばれた事実は、とても重くのしかかっているのかもしれない。けれど、それを使命だと、責務だと考えてはだめよ」
「夜刀神が云々は、考えから外せって事か?」
「えぇ、大事なのは貴方が誰の為に戦うか。何を目的に戦うかよ。それも、皆を助けたいなんて漠然な目的じゃだめ。貴方が本当に守りたいものが何なのか、誰の為に戦いたいかをよく考えなさい」
誰の為に戦うか。
俺が本当に守りたいものは何なのか。
それは…………
ピンポーン
唐突に玄関のチャイムが鳴り響く、
どうやら、来客のようだ。
「はーい、今行きます」
こんな時間に誰だろうか?
桜や藤ねぇが訪ねて来るにしても、この時間に訪ねてくるとは思えない。
遠坂も、家に帰ってゆっくりして、明日また来ると言っていた。
では、この来客は一体……
ガラララ
玄関の扉を開き、挨拶と共に来客が誰なのかを確認しようとする。
しかし……
「こんばんわ、どちら様で……」
そこで、言葉が止まった。
玄関を開けた先にいたのは、昨日セイバーと戦っていた黒馬に乗った金髪の騎士。
そしてその前方には……
「こんばんわ、シロウ。夕方ぶりね」
雪のような白い髪の少女、夕方たい焼きを買ってあげたあの少女が、目の前に立っていた。
「君は、確か……」
「イリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ」