転生・太陽の子   作:白黒yu-ki

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久し振り過ぎてこの話を考えるだけでもとても時間かかってしまいました…。


ブラックキャットを名乗る男

「ブルム=プルマン…だな?」

 

男が店で食事をしていると、見知らぬ小太りの男が正面に立って名を聞いてきた。ブルムは横領犯であり賞金首にもなっている。目の前の男は警察には見えない為、掃除屋とアタリをつけたブルムは懐に入れてあった銃に手を伸ばす。

 

「おっと、やめておいた方がいい。この刺青を知らない訳じゃないだろう?」

 

小太りの男はそう言って腕を見せた。その腕を見た瞬間ブルムに戦慄が走る。その身に刻まれた数字、それは伝説の殺し屋『時の番人(クロノ・ナンバーズ)』に与えられる刻印。そんな伝説が掃除屋をやっている…そんな噂はブルムの耳にも入っている。

 

「ま…まさか…アンタがあの伝説の…」

 

「そう、俺様があの『黒猫(ブラックキャット )』だ!」

 

 

伝説の殺し屋を前にして、ブルムはどう足掻こうかではなく、どうすれば命が助かるかを脳内で目まぐるしく思考を巡らせていた。辿り着いた答えは抵抗せずに捕まる事であった…。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

南の街にあったスイーパーズ・カフェへ到着したスヴェンは早速情報を仕入れてきた。

 

「間違いないな。勾留されている賞金首に確認したが、『黒猫』に捕まったと供述している。案の定、抵抗もせずに捕まったそうだ」

 

「そうか…この世界では余程その名は恐れられているという事か」

 

光太郎はテーブルについて勝手に料理を注文しているトレインの姿に視線を移した。まるで子供のような振る舞いのトレインだが、やはり殺し屋としての過去を消し去る事はできないのだ。

 

「…トレイン、頼むなら600イェンまでにしてくれ」

 

「えー、何だよ。麻薬組織潰した賞金もらったじゃねぇか」

 

「お前なぁ…俺たちにどれだけ借金あると思ったんだ! あれだけじゃ完済には全然足りねえんだよ!」

 

「まぁ、何とかなるって。それよりも今は飯を食おうぜ!」

 

暖簾に腕倒し、トレインに懐事情を説いても効果はなく、スヴェンは肩を落とす。

 

「大変ねー、お金なら貸すわよ?」

 

そんな様子を見てリンスが胸元から札束を出すが、スヴェンは断固として拒否した。ジパングでリンスに借りた借金が知らぬ間に膨れ上がっていたらしく、麻薬組織の賞金は全てそちらに充てられたそうだ。

 

「もうお前からは借りん!」

 

「…そんな酷い…私は2人の為を思って言ってるのに…トレインは分かってくれるわよね…?」

 

「いぃっ!?」

 

スヴェンからトレインにターゲットを変えたリンスは目を潤ませて体を寄せる。

 

「トレイン…私の気持ち…受け取ってもらえるかしら…?」

 

慌てふためいているトレインと攻めるリンス、そしてスヴェンを余所目に光太郎は別の賞金首リストを眺めていた。100万以下の賞金首が大勢いるが、中には1000万を超える賞金首も存在する。現在の最高懸賞額はクリードの30億イェンのはずだ。しかしリストをどれだけ探してもクリードの項目は見つからなかった。不審に思った光太郎は受付嬢に訊ねた。

 

「すいません、以前は30億イェンの賞金首が載っていたはずなんですが、印刷ミスか何かでしょうか?」

 

「はい、そちらでしたら数日前に取り下げられておりますよ」

 

「取り下げられた?」

 

どういう事だ? 無駄な犠牲を出さない為にクロノスが手を回したのだろうか。それを聞いていたセフィリアの反応を窺うが、彼女も初耳だったらしい。スイーパーズ・カフェで個室を用意してもらい、セフィリアはベルゼーに連絡を取った。

 

《…やはりもう手が回っていたか》

 

事情を聞いたベルゼーは暫し黙り込んだが、開口しそう零した。この反応からしてクロノス側は予想していたと思われる。

 

《お前たちも知っての通り、クロノスのトップである長老会の要人が星の使徒に暗殺された。この事でクロノスの力は半分以下に落ち込んだと言っても過言ではない。クリードの懸賞金が取り下げられたという事は、星の使徒がクロノスの手の及ばぬところで世界の情勢に関与し始めているのかもしれぬ》

 

それがベルゼーの見解だった。

だがおおよそ正解のような気もする。星の使徒が遂に動きを見せた、それは次の戦いが間近に迫っている事を意味する。

 

「ありがとうごさいます。調査を続けるとは思いますが、無理はしないで下さい」

 

《同じ失態はせん》

 

光太郎の言葉を聞いてベルゼーは苦笑し、通信を終えた。

クリードの動向は気がかりだが、現状その情報を得る手段はない。情報網の大きいクロノスに頼る他ない。そのクロノスも星の使途によって弱体化させられてしまっているが、それでも組織の力は大きい。ベルゼーからの続報を待つしかない。

 

「今は当初の目的通り、トレインのニセモノを見つけよう」

 

光太郎の提案を皆が了承し、スイーパーズ・カフェを後にした。

トレインのニセモノがまだこの街に留まっている可能性も高く、そしてこの街はそれほど大きくない。彼らは手分けして捜索にあたることになった。

 

そして現在、イヴとリンスは西はずれの宿の近くまでやって来ていた。

 

「賞金首を捕まえた報酬を受け取っているのなら、街の中でもそれなりの宿に泊まっている可能性が高いわ」

 

リンスの推測でここまでやってきたが、2人は宿の前で出入りする人間を監視する事しかできなかった。それだけでは誰がブラックキャットを騙っているのかは分からない。宿の人間に直接訪ねようとリンスが考えていると、イヴは「私に任せて」と宿に向かって歩き出した。するとイヴの体が徐々に透明化していき、リンスは思わず目を擦る。改めて見返す頃には完全にイヴの姿が消えていた。

 

「イヴちゃん…あなたはもう立派な光太郎のパートナーよ。常人離れしてるわ」

 

リンスは思わず苦笑した。

 

イヴは体内のナノマシンを活性化させ、皮膚の色を変化させていた。周囲の景色を肌に投影させ、透明人間のように姿を消していた。気配を消す技術もセフィリアから学んでおり、余程の達人でもなければイヴの存在に気付かないだろう。

 

一般客に紛れて宿内に入り、周囲を見渡す。何組かの宿泊客の姿はあったが、その時点での収穫はなかった。イヴは上の階へ向かって体をウンディーネへとトランスさせる。体がゲル状のように溶け、扉の僅かな隙間から部屋に侵入をした。そうして幾つかの部屋を捜索し、最後の部屋へやってきた。人の姿はないが、荷物は残されていることから空き部屋ではなさそうだ。一応荷物を検めさせてもらおうとイヴが探っていると、扉がガチャリと開いた。そこはシャワー室であり、小太りの中年男が当然といえば当然なのだが、裸で出てきた。

 

透明化しているイヴに気付かない中年男は不運にもその状態でイヴに近付いてしまった。

 

「…変態!」

 

「へ?」

 

髪をハンマーにトランスさせ、中年男の脳天を一撃。彼にとっては何が起きたのか理解もできていないだろう。憐れとしかいいようのない不幸な男はその一撃で気絶し横たわっている。

 

「…あ、やっちゃった」

 

思わず攻撃してしまったが、冷静を取り戻したイヴは自分の行いを悔いた。この人は何も悪いことはしていない。悪いのは不法侵入をしている自分なのだが、突然醜いものを見せられてついやってしまった。どうするべきか悩んでいると、イヴは男の腕に書かれているそれに気付いた。腕に数字の「13」と書かれているのだ。トレインやセフィリアのようなタトゥーではなく、油性マジックで書かれたそれを見てイヴは思わず呆れてしまった。

 

「…この人が、トレインのニセモノ?」

 

 

 

 

 

 

 

イヴから事情を聴いたリンスが皆を呼び集め、シャルデンが部屋から男を攫って街の路地裏へと場所を移した。勿論、服は着せた。

 

「やり過ぎなんじゃねえか?」

 

未だ目を覚まさない男を見下ろしてトレインはイヴを見やる。

 

「う…だって…」

 

「イヴちゃんは悪くないわ。悪いのはイヴちゃんに変な物を見せたコイツよ」

 

言い淀むイヴを庇うようにリンスはトレインに言い返す。

状況を考えると同情するが、リンスを敵に回す橋は渡れない。トレインはそれ以上何も追求しない事にした。

 

「う…う〜ん」

 

男の顔が歪んだ。

 

「お目覚めのようデスよ」

 

シャルデンがそう言った直後、男は大欠伸をしながら背伸びをして起き上がった。その場にいる光太郎達を見渡したが、頭が完全に覚醒していないのか呆然としている。

 

「あれ、俺何してたんだ?」

 

シャワーを浴びた直後に気絶させられている。状況がこれだけ転がってしまっていてはその疑問が出るのは当然だ。スヴェンが溜息をついてブラックキャットについて話をしようとすると「成る程!」と男が立ち上がって勝手に納得を始めた。

 

「何故か気を失ってしまった俺様を君らが介抱してくれたんだな! 礼を言うぜ!」

 

光太郎達は何も言っていないが、勝手に解釈されているようだ。

スヴェンが本来の目的であるブラックキャットを騙る事への危険性を説明しようとすると男は立ち上がって「礼に夕飯を奢ろう」と言い出したのだ。

 

◆◇◆◇

 

光太郎達がそのような事をしていた同時刻、街の入り口近くではマフィアの男達がある人物を捜索していた。そこにいたのは左目の上に十字傷を刻んだ殺し屋スタンパー=ウィルソンであった。スタンパーは組織の金を盗んだブルム=プルマンを追っていたのだが、その人物も掃除屋に捕まったと聞いて苛立っていた。

 

「ちっ! 何しにこんな田舎までやってきたと思ってやがる、クソが!」

 

「ス、スタンパーさん、それがブルム=プルマンの奴を捕らえたっていう掃除屋…例のブラックキャットらしいですぜ」

 

部下からその情報を聞き、スタンパーは思わず口角を上げる。

 

「ブラックキャット…例の伝説の殺し屋か。これは良い。その掃除屋を殺し、この俺こそが最高の殺し屋である事をこの業界に知らしめる良い機会だ。テメェら、今すぐにそのブラックキャットを探して来い!」

 

「は、はい!」

 

部下達がスタンパーに気圧されて慌てて街へ向かおうとした直後、部下のひとりの体が切断された。血飛沫がスタンパーの顔を汚し、2つに分かれた亡骸は大地は落ちる。

 

そこにいたのは黒猫のような姿をした獣人。かつての世界で剣聖ビルゲニアが光太郎への捨て石としたゴルゴムのクロネコ怪人であった。突然現れた怪人に部下達は恐怖し、拳銃を発砲する。しかし怪人の肉体には通用せず、鉛玉は皮膚に弾かれて足元に転がっていった。

 

部下達は涙目になりながら逃走を始めようとするが、クロネコ怪人の脚から逃れる事は出来ず、鋭い爪の餌食となってその命を奪われていった。

 

「な、なんだアイツは…!?」

 

スタンパーも状況を把握できていなかったが、部下達を惨殺していく化け物が自分の手に負えない相手である事は長い殺し屋経験から理解していた。直ぐに車に乗り込み、アクセルを踏み込む。一気にトップギアに入れた車は猛スピードでその場を離れていく。

 

「は、ははは! 逃げ延びたか、何だったんだあの化け物は…」

 

戦場を離脱した事でスタンパーは安堵の溜息をつき、先程のクロネコ怪人の姿を思い出す。以前ゴルゴムの創生王を名乗る者が全世界で騒ぎを起こした事件があった。スタンパー自身、創作のようなものと決めつけていたが、自分の理解の範疇を超える存在を目の当たりにした今、真実であったのではと思い始めていた。

 

ドスン、とフロントガラスに黒い影が落ちてきた。スタンパーは思わず目を見開いて息を止めた。先程部下達を惨殺していた化け物が目の前にいたのだ。不気味な口元を開け、自分を標的としていた。

 

「や、やめて…く」

 

スタンパーが命乞いをしようと表情を曇らせた直後、クロネコ怪人の目が輝いて青い破壊光線が放たれた。

 

 

車は大爆発を起こし、スタンパーはそれから先の言葉を発する事なく炭化し崩れていった。

 

 

◆◇◆◇

 

「聞こえたか?」

 

ブラックキャットを名乗るウドニーの後を歩く光太郎達だったが、遠くからの銃声が聞こえて足を止めていた。

 

「なんだなんだ、事件か。仕方ない、このブラックキャットに任せておきな!」

 

ウドニーは大股で銃声が聞こえた方角へ歩き出すが、スヴェンは心配そうな表情を浮かべる。

 

「光太郎、あいつ大丈夫そうか?」

 

「…ハッタリが通用する相手ならな」

 

街の外へ出ると、そこには無残な死体が転がっていた。

異常な光景だ。彼らは直ぐ様警戒態勢をとり、周囲の気配を探っていた。ただウドニーだけが膝を震わせて顔を引きつらせていた。

 

「な…ここで一体何があったっていうんだよ」

 

「ウドニーさん、リンスさん、ティアーユさんと一緒に街へ戻るんだ! シャルデンとキョーコちゃん、ジパングマンはその護衛を頼む!」

 

「分かりました。皆さん、こちらへ!」

 

シャルデンが先導するがウドニーは体を震わせながらもその場から離れようとしない。

 

「お、俺様を誰だと思ってやがる。あの伝説のブラックキャットよ。こんな大それた事をしでかした奴は俺様が懲らしめてやるぜ」

 

この期に及んで未だ虚勢を張るウドニーにスヴェンは呆れ返る。

 

だがもう街に逃げ込む時間は残されていなかった。跳躍していたクロネコ怪人が彼らの前に降り立ったのだ。

 

虚勢を張っていたウドニーだったが、腰を抜かしてしまった。怪人の様相に恐怖心を植え付けられてしまったのだろう。爪から滴る鮮血が恐ろしさをより濃いものにさせる。

 

「ゴルゴムの怪人!?」

 

ウドニー以外の者達は目の前の化け物がゴルゴムの怪人であると理解していた。

 

「光太郎さん、私が相手をします」

 

「ううん、私がやるよ」

 

普通の人間であれば相対するだけで恐怖する容姿である怪人も、セフィリアやイヴには気圧されることのない相手だ。これまでもゴルゴムの怪人と戦い、大怪人をも打ち倒し、創生王と戦ったこともある2人にとってはスケールの小さな相手だろう。無論、それでも油断する事は無いだろうが、化け物相手にそのような態度の女性や子供を見てウドニーは混乱していた。

 

セフィリアとイヴがクロネコ怪人の前に立って構えようとすると、後方から銃弾が走った。銃声はクロネコ怪人の目に命中。クロネコ怪人は怒りで咆哮するが、傷は直ぐに再生を始めていた。

 

下手人は愛銃を手に溜息をつく。

 

「やっぱりコイツも再生すんのか。光太郎、ちょっち俺にやらせてもらうぜ」

 

トレインはクロネコ怪人の前に立つ。クロネコ怪人は目にも留まらぬスピードで爪撃を繰り出すが、トレインはそれらを紙一重で躱していた。

 

トレインは元より人間という規格内であれば最上級の強さに位置する。しかし光太郎と出逢い、大怪人との戦いを経てその枠を打ち破ろうとしていた。普段の特訓から光太郎やセフィリアの超人的なスピードを目にしている。2人のスピードにはまだ対応できないが、それに比べれば目の前の怪人のスピードは間違いなく格下だ。

 

トレインの強さはゴルゴムの怪人に充分通用している。それもただの怪人ではなく、恐らく星の使徒によって強化されている怪人である。だが再生持ちということはトレインにとって有効打となるものがないという事だ。トレインは一体どうするつもりなのだろうか。

 

クロネコ怪人は躱し続ける標的に苛立ち、跳躍して距離をとった。

その瞳が怪しく光り、破壊光線が放たれる。

 

『危ない』

 

光太郎がそう叫ぼうとした直前、トレインは愛銃の銃口をクロネコ怪人に向けた。トレインの体がボンヤリと灯り、ハーディスの形状が変化していく。心具形態となったハーディスから巨大な光弾が擊ち出され、破壊光線諸共クロネコ怪人を飲み込んだ。光弾は怪人を完全に消し去り天空へと昇っていった。

 

 

「ハートネットの新しい技、あれが心具というものですか。途轍もないエネルギーでしたね」

 

「…ああ。トレインの奴、まだまだ強くなりそうだな」

 

セフィリアと光太郎がそんな会話をしていると、トレインは大きく息を吐いた。

 

「いやー、ぶっつけ本番で試してみたけどうまくいったぜー」

 

身を翻して戻ってくるトレインを見て、イヴは不満顔だ。

 

「トレイン、今度は早い者勝ちだよ」

 

「姫っち、そう怒んなよ」

 

今の戦いを見ていたウドニーはトレインの胸元にタトゥーが刻まれているのに気付いた。

 

「黒い装飾銃…胸のタトゥー…それにあの強さ…もしかしてブラックキャットって…」

 

ウドニーはボソボソと何か呟いていたが、緊張の糸が切れたのか「きゅう」と意識を手放して倒れ込んでしまった。




今後、ちょくちょくと進めていきたいと思います。

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