転生・太陽の子   作:白黒yu-ki

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年齢詐称ナノマシン

ジェノスの覗き魔事件の翌日、光太郎はトレインに心具の事を訊ねるが案の定、本人も理解していなかった。その後も心具の精製を試みるが、その日は一度も成功しなかった。まだコントロールできないようだ。

 

「光太郎、私(けが)れちゃった」

 

深刻な表情のイヴに声をかけると、イヴの口からとんでもない言葉が飛び出した。

 

「光太郎以外の男の人に裸を見られた…」

 

先日の件だろう。

直ぐにあの場を立ち去った光太郎だが、若干の罪悪感はある。光太郎はイヴを慰める為に頭を撫でてやった。

 

「イヴ、辛かったな。ついでに言っておくが、俺なら見せていいって言い方は間違ってるからな?」

 

2人がそんな会話をしていると、部屋のドアがノックされた。イヴがドアを開けるとそこにはスヴェンが立っていた。

 

「スヴェン、どうかしたのか?」

 

「いや、実はお前に相談があってな」

 

「取り敢えず、中に入りなよ」

 

光太郎はスヴェンを招き入れてソファーに座らせる。

 

「実は…ジパングって国は犯罪件数が他国に比べて少なくてな…それは良いことなんだが、掃除屋としては生活し辛い。そこで、イヴも目が覚めた事だし他の国に移らないか?」

 

スヴェンやトレインの懐事情を思えば、収入が無いのは大きな問題だ。光太郎としてもあまりこの施設に長居するつもりはなかった。そろそろ潮時だろう。

 

「そうだな、そろそろ他へ移るとするか」

 

「…ふぅ、助かるぜ」

 

スヴェンは苦笑して頭を下げた。

本来ならばトレインとスヴェンは自由気ままに掃除屋暮らしをしていただろう。だがゴルゴムの魔の手が光太郎の関係者、つまりはトレインたちに伸びるのを防ぐ為に行動を共にしていた。ゴルゴムが滅んだ今、脅威は薄れたがクリードの問題もある。クリードはトレインを仲間に引き入れようと狙っており、クリードの配下にはゴルゴムの怪人も含まれている。安全の為にはまだ傍にいた方がいいだろう。

 

スヴェンと相談し、翌日にはジパングを発つ事になった。

 

 

 

その頃、ティアーユは研究室の一室を借りてナノマシンの更なる機能向上を目指していた。ナノマシンの強化はそのままイヴの生存に繋がる。創世王は倒されたが、今後も強敵が現れる。自分に出来ることはこのくらいしかないのだ。

 

しかしその研究は遅々として進まなかった。イヴに頼んで摂取したナノマシンは何故か独自の進化を遂げており、現在のナノマシン科学を遥かに超えるマシンとなっていたのだ。確証はないが光太郎に起因すると思われる。話を聞いただけであるが、バイオライダーとなった光太郎がイヴを液状となって包んだ事があるらしい。その時、バイオライダーに触れたナノマシンが何らかの変化を与えられたのではないだろうか。

 

「彼に関わると、些細な事でも進化するのでしょうか」

 

昨夜のトレイン=ハートネットの心具騒ぎもそれに当てはまる。

トレインは大怪人との戦いでロボライダーのボルティクシューターを借り受けたという。その時の経験が彼の中の何かを引き出した可能性も否めない。

 

結論として、ティアーユはイヴの体内に存在するナノマシン以上の物は作れずにいた。

 

「この短時間で完成した物は…24時間程幼くなるナノマシンと、24時間程大人になるナノマシン」

 

いつかのトレインが幼くなった時に得たデータを元に、身体の巻き戻りや成長するナノマシンは容易く作る事が出来た。しかしこれが何の役に立つというのか…。

 

「実験用のマウスでは成功しましたが…人間の体でも同じ変化が現れるでしょうか? 他人に試すわけにはいかないので、自分の体で試してみましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光太郎は翌日にジパングを発つ旨をティアーユに伝える為、研究室のドアを開けた。

 

「ティアーユさん、こちらにいますか?」

 

部屋の電気はついている。

どうやらこちらにいるのは間違いないようだが、返事がなかった。

 

「ん?」

 

光太郎は足元に落ちている物に気付いた。

それを拾い上げるとティアーユの私服一式であった。何故か下着まで含まれている。

 

「わ、わああああ!?」

 

顔を赤らめた光太郎はそれらを手放した。

 

「あら…?」

 

部屋の奥からシャツを1枚だけ着込んだ子供が顔を覗かせた。最初はイヴかと思ったが、雰囲気が違う。眼鏡をかけたイヴと瓜二つの女の子はトテトテと光太郎の前までやってきて脱ぎ散らかされたティアーユの服を拾い上げた。

 

「申し訳ありません。この姿になってサイズが合わなくてなってしまい、慌てて着替えを探していたもので…お見苦しい物をお見せしてしまいましたね」

 

女の子はペコリと頭を下げるが、その勢いでバランスを崩して光太郎に向かって倒れこんできた。このままでは顔面を床にぶつけてしまう為、光太郎は女の子の体を抱き止めた。

 

「大丈夫かい?」

 

ドジな子なんだなと心中で苦笑するが、その瞬間に何かの既視感を覚えた。この感覚は以前にもどこかで…。

 

「あ、ありがとございます。体が小さくなってしまってバランスも変わってしまったみたいですね。胸が小さくなってとても軽く感じます」

 

「え、もしかしてティアーユさんなんですか?」

 

「はい、新しく作ったナノマシンの実験をしていました」

 

幼くなったティアーユは光太郎の姿を見上げる。

 

…これが、あの子の視界。

自分を全て受け入れてくれるような暖かさを感じる。あなたが光太郎さんの傍にいたいと思う気持ちが分かるような気がします。私とイヴは同じDNAをもっている。根源的なモノは全て同一。もしも私もイヴと同じ境遇であったら、同じようにこの人に惹かれていたのでしょうね…。

 

光太郎は苦笑しながらティアーユの体を解放する。

 

「小さくなると、本当にイヴと瓜二つですね。一瞬イヴかと思いましたよ」

 

「そんな事を言ってはイヴが悲しみますよ? あなただけはちゃんとあの子を見てあげてください」

 

「は、はい。あの、ところで元の姿には戻れるんですか?」

 

「大丈夫です。トレインさんのようにナノマシンをコントロールする必要はありませんから。時間経過で元に戻りますよ」

 

研究道具を片しながらティアーユはそう答える。小さな体では重い道具の片付けは大変そうであった為、光太郎も手伝う事にした。

 

 

 

 

 

 

ティアーユの体については混乱を防ぐ為に直ぐに皆に伝えた。

最初は皆驚いていたが、直ぐに慣れた。皆曰く「光太郎と一緒にいたら驚くのに慣れた。直ぐに切り替えないと身体がもたない」らしい。そこまで常識はずれな事をしているつもりはないのだが…。

 

「ティアーユ、子供の姿になるナノマシンをくれ!」

 

「あー…ティアーユ、このバカの言う事は無視していいぞ。前回子供の姿の時に映画やら電車に子供料金で体験できなかったから未練がましく言ってるだけだ」

 

新しく作ったナノマシンの説明をすると、トレインが同じものを欲しがってきた。しかしその理由はスヴェンが説明した通りの動機だろう。光太郎も「あげる必要はないと思うな」と苦笑した。

 

「それにしても、こうやって並ぶと双子みたいね」

 

イヴと小さくなったティアーユが並び立つ光景を見て、リンスは覗き込むようにして2人の顔を見比べた。クローンであれば姿も似るのは当たり前なのだが、そもそもクローンの人間を見る機会などない。リンスのその言葉を聞いたティアーユは「それじゃ私がお姉さんですね」と笑った。

 

「ティアーユってすげえな、こんな面白いもん作れるなんてよ。せっかくだし皆子供になって遊ぼうぜ! スヴェン、アンタは保父役な!」

 

「誰がそんな役やるか!」

 

「まぁ、聞けよ。姫っちは同年代の子と遊ぶ機会なんてないだろ? 少しくらいそんな思い出与えてやるのも、紳士の務めだとは思わないか?」

 

「む…」

 

部屋の隅ではスヴェンがトレインに言いくるめられそうになっているが、騙されるな。トレインの言い分も理解できるが「面白そう」というのが本心だろう。

 

「ジパング発つのは明日だし良いじゃねえか」

 

トレインの言葉に光太郎はチラリとイヴの様子を窺った。今までイヴの周りで子供の友人ができた事はない。掃除屋である光太郎と行動を共にしている為、子供と関わることが極端に少ないのだ。心の底では寂しさを抱いていたのかもしれない。小さくなったティアーユと並び立つイヴは少しだけ嬉しそうに見えたのだ。

 

「…ティアーユさん、そのナノマシンってまだありますか?」

 

今日一日だけでもイヴに子供らしい思い出を作ることができるなら、それは大切にしたい。光太郎は溜息をついてナノマシンのストックをティアーユに訊ねた。

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

数時間後、光太郎達はキョートの水族館にやって来ていた。

光太郎とスヴェンはナノマシンを使用せず、保護者としてこのツアーに参加している。光太郎も小さくなるナノマシンを試したのだが、体内にあるキングストーンがそのナノマシンを打ち消してしまうのか、効果が現れなかった。しかしイヴが「光太郎はそのままが良い」と言ってくれたので、子供姿になるのは他の者に任せる事にした。

 

「ほら、シャルデン君もキョーコと一緒に行きましょー!」

 

「…キョーコさん、そんなに走らなくても魚は逃げセンよ」

 

幼くなったシャルデンが、同じように幼くなったキョーコに手を引かれて奥の水槽に駆けていく。シャルデンの危機察知能力は優れており、ナノマシンを使用する事になった瞬間にあの部屋から離脱を図ろうとした。しかしその行動を先読みしていたキョーコに取り押さえられ、懇願されてあの姿となった。キョーコの頼みとなるとシャルデンは何故か甘くなるようで、渋々ながらも了承していた。

 

「イヴはどこに行ったかな…」

 

「あっちだ」

 

光太郎がイヴの姿を探していると、スヴェンが親指で方向を差す。

そちらではペンギンが水中を泳ぐ姿を見る事ができる大きな水槽があった。イヴとティアーユ、セフィリア、リンスの子供集団がペンギンの優雅な泳ぎに熱中していた。光太郎もそちらへ向かい、疲れた表情のスヴェンも後を追う。

 

「子供の視界って何でも大きく見えて新鮮ね。光太郎は小さくなれなくて残念だったわね。キングストーンだっけ? それがあるのも良い事ばかりじゃないのね」

 

子供リンスはそう言って笑う。

 

「なぁ姫っち…手を繋がなくても迷子なんてならねぇよ」

 

「ダメ、今のトレインは私よりも小さいから言う事を聞くの」

 

子供とはいえ、女性陣に囲まれているトレインはとても居心地が悪そうだ。何とかして脱出をねらうトレインは別方向に指を差した。

 

「姫っち、あれを見ろ!」

 

「?」

 

「スゲー長い魚のウ◯コだ!」

 

皆の視線がそちらに向いた瞬間、トレインはイヴの手を振り解いて瞬足で離脱を図る。脱出成功…と気を抜いた直後、足元が何かに捕らわれた。態勢を崩したトレインは前のめりに床に叩きつけられた。

 

「いでっ!?」

 

トレインの足首にはイヴの足から伸びたロープが絡み付いていた。

 

「ロープ? こんな物いつのまに!?」

 

「トレインの考えてる事なんてお見通し。本当、幼稚。やっぱりお子様なんだよね」

 

「言い過ぎじゃね?」

 

「イヴ、ここは私に任せてください。さぁ、ハートネット。ここからは私と手を繋いで行きましょう。どんな小細工しても無駄ですよ?」

 

子供姿で可愛らしいはずのセフィリアから闘気が溢れ出す。その闘気を敏感に察知した魚達が思わず逃げ惑っているのに気付いた光太郎は、慌ててセフィリアに声をかける。

 

「セフィリアさん、魚が怯えてます」

 

「あ…失礼しました。ハートネット、他の生き物に迷惑をかけないようにしましょうね」

 

「う…わ、分かった」

 

表情を引攣らせたトレインはセフィリアの優しい言葉(脅し)を受けて素直に従う事にした。そんなトレインの姿を見て、スヴェンは良い気味だと小さく笑っていた。

 

 

 

 

ペンギンに餌をやったり、海獣ショーを見たり、イルカに触れたりと全ての事がイヴにとって初めての体験だ。いつものイヴは難しい専門書を読み、光太郎の力となるべく遊びに時間を割くなどしていなかった。普通の子供が経験しているはずの何気ない日常、いつかはそんな毎日をイヴに送らせてやりたいと光太郎は思った。

 

 

 

その為にもクリードの野望を打ち砕き、クライシス帝国を退ける必要がある。前の世界でゴルゴムの創世王を倒した後、クライシス帝国はどの時期に現れただろうか。正確には覚えていないが、恐らく半年前後だろう。ゴルゴムの創世王や神官たちは以前の記憶を残していた。ならばクライシス帝国の面々もそうである可能性が高い。こちらの力をよく理解しているはずだ。対策も講じているだろうし、前以上の苦戦を強いられるのは想像だに難しくない。

 

 

帰り道、イヴが「先に戻っていて下さい」と伝えて光太郎以外の者を帰らせた。夕暮れ道に光太郎とイヴだけが残る。

 

「光太郎、さっきから呼んでたんだけど上の空だったね」

 

「そ、そうだったのか。悪かった、考え事をしていたんだ」

 

2人で遠回りをしながらゆっくりと歩く。

足元に伸びる自分たちの影を見ながら、イヴは光太郎の手を握った。

 

「イヴ?」

 

「今日は…楽しかった」

 

「そうか、それは良かった」

 

「でも光太郎は楽しんでなかったね。別の事を考えてたんだ。クリードや…クライシス帝国の事?」

 

「…そうだな。特にクライシスの怪魔戦士の強さは肌身に染みている。ゴルゴム以上の強敵なのは間違いないんだ」

 

光太郎は思わずそう言ってしまったが、無駄に不安がらせる必要はないと気付き、慌てて笑顔を取り繕う。

 

「でも大丈夫さ。俺が…」

 

「俺が?」

 

俺が何とかしてみせる。

そう答えようとした光太郎だが、言いかけてやめた。自分は1人ではない。心強い仲間がいるのだ。目の前の少女も、圧倒的な力を誇った創世王に立ち向かった戦士だ。

 

「いや、俺には頼りになる仲間がたくさんいる。クリードや、クライシス帝国がどんな策を講じてきても、必ず乗り越えられるさ」

 

「うん!」

 

光太郎のその言葉に、イヴは嬉しそうに頷いた。

 


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