転生・太陽の子   作:白黒yu-ki

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力を求めて

キョート。

この都はジパングの現代にあっても過去の街並みをを残している。古い寺を見つめながら、トレインはホルスターに入れてある愛銃(ハーディス)に手を当てた。仲間内では陽気で知られるトレインだが、今の彼の表情は陽気とかけ離れたものだった。今の彼の胸中にあるのは不甲斐なさ。光太郎が、イヴが、セフィリアが創世王の元へと向かった時、自分は共に行く事が出来なかった。ゴルゴムの幹部である大怪人との戦いでも、ロボライダー から受け取ったボルティックシューターが無ければ有効打を与える事は出来ず、それよりも格上の創世王相手には完全に無力であったろう。

 

トレインの力では星の使徒の尖兵となっているゴルゴムの怪人、そしていずれ現れるクライシス帝国を相手にするには力不足なのだ。

 

「強さを求める…か。ガキの頃以来かな」

 

幼き頃、生きる為に強さを求めた。強くなければ、命を落とすからだ。トレインに世界を救う為などという崇高な言葉を掲げるつもりはない。しかし気の良いあいつ等を死なせない為には、今後襲いくる敵に対抗する力が必要だ。だがどうやればその力を手に入れられる? 単純な筋トレをしたところで怪人との実力が埋まるとは思えない。そして地球上で一番強固な金属、オリハルコンを素材とされた愛銃以上の銃は存在しない事がトレインの悩みに拍車をかけていた。

 

 

ゴルゴムの大怪人の体に致命傷を与えることができたのは、怪人の力を植え付けられ、それに加えて強力なサタンサーベルを操るセフィリア。元から史上最強の剣士の技量もあり、その2つが加わった事で大怪人以上の強さを見せた。

 

もう1人はイヴ。

まだ子供だがその強さはどんどんと増している。それはイヴの体内に存在するナノマシンに起因する。臨機応変のトランスを行えるナノマシンは科学の最先端技術だ。そしてそれを反映させる知識量も彼女の力だろう。

 

最後は特殊だが、シャルデンだ。

事情は戦いが終わった後に知ったが、今は亡き星の使徒ドクターが残した怪人因子の利用。それによってシャルデンはゴルゴムの怪人と同じレベルの肉体にまで引き上げられた。しかし…それは諸刃の剣。怪人の因子が脳にまで達すると、かつてのベルゼー達のように意識を奪われ、思考までも怪人のそれとなる。だがシャルデンは元から会得していた(タオ)の力でそれを防いでいたのだ。

 

 

…道…の力…か。

 

トレインは光明が見えた気がした。

 

 

◆◇◆◇

 

 

最後の眠り姫が目を覚ます。

イヴが目覚めると白い天井が視界に入った。未覚醒の頭が徐々に現状を把握していく。

 

生きている。

 

それはつまり、創世王との戦いに勝利した事を意味する。光太郎が勝ったんだ。そこでイヴはハッとして起き上がる。光太郎の勝利は信じていたが、あれだけの強さを誇った創世王との戦いだ。大怪我を負っているのではと懸念したが、自分の右手に触れていた暖かな温もりがそれをかき消した。

 

光太郎が自分の手を握りながら眠りに落ちていたのだ。長い眠りについていた体に倦怠感はあったが、イヴは思わず光太郎の胸に飛び込んでいた。

 

「んがっ!?」

 

突然の衝撃に目を覚ます光太郎だが、自分の懐に収まるイヴを認識して思わず笑みが零れる。

 

「イヴ! 目が覚めたんだな、良かった! どこか痛いところはないか? あ、そうだ。医者を呼んで来た方がいいか」

 

「…大丈夫」

 

慌てる光太郎に、イヴは心配させまいと笑顔を浮かべた。

 

「私、信じてた。光太郎なら絶対創世王を倒してくれるって」

 

「…創世王を倒せたのはイヴたちのおかげさ。俺ひとりだったらどうなってたか分からない」

 

セフィリアが片腕を切り落とした事で創世王がパワーダウンしたのは事実であり、そしてイヴのキングストーンへの呼び掛けがなければ光太郎の復活もなかった。幾ばくかの奇跡も手伝ったろうが、これらは彼女たちの尽力によるものだ。

 

光太郎はイヴの体に異常がない事を確認して、部屋の窓を開けて新鮮な空気を取り入れた。

 

「…涼しくなってきたね」

 

「寒いかい?」

 

「ううん、気持ちいい」

 

冬を感じさせる風がイヴの長い金髪をなびかせる。

ひとつの戦いが終わった。でもまだ全てが終わった訳ではない。まだ倒さなければならない相手がいる。星の使徒、そしてクライシス帝国…。特にクライシス帝国はゴルゴムの怪人よりも遥かに強い『怪魔戦士』がいる。以前光太郎から聞いたクライシス帝国の話では幹部に四大隊長がおり、『怪魔獣人』『怪魔妖族』『怪魔ロボット』『怪魔異生獣』を束ね、その上にジャーク将軍、そしてクライシス皇帝がいたという。自分はもっと強くならなければならない。私の隣にいる、この人を守る為に…。

 

 

 

 

 

イヴが目覚めた事は直ぐに皆にも伝えられた。

そして夕刻には小さいながらも祝いの席が設けられ、豪華な食事が並ぶ立食パーティが行われた。病み上がりのイヴを心配して光太郎は傍に付き添っているが、普段と変わらない様子のイヴを見ると余計な心配だったようだ。

 

「イヴ、辛くなったら直ぐに言うのですよ?」

 

「大丈夫です」

 

ドレス姿のセフィリアがイヴを気遣う。セフィリアのドレス姿を初めて見た光太郎は思わず見惚れてしまっていた。じっと見つめていた光太郎の視線に気付いたセフィリアは僅かに頰を染める。

 

「リンスさんにコーディネートして頂きましたが、どこか変でしょうか…? お恥ずかしながら、このような格好は初めてなので…」

 

「変だなんてとんでもない! とっても似合ってますよ」

 

光太郎の素直な感想に、セフィリアの頰が緩む。

 

「それにしても、数時間でよくここまで準備できましたね。セフィリアさんが計画したんですか?」

 

「ふふっ、私じゃありませんよ」

 

クロノスの建物で会場と食事の準備ができるのは組織の人間しかいない。恐らくセフィリアではとアタリをつけていたのだが、彼女は否定して「実はベルゼーが行ってくれました」と笑った。その言葉にイヴは驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべる。この会場に残念ながらベルゼーは参加しておらず、今度会った時には礼を述べなければな。

 

「でも本当、美味しいです。トレインならきっと卑しく食べ貯めようとしてそうです」

 

イヴがそう辛辣な事を言った為、光太郎は無意識にトレインの姿を探した。しかしイヴの予想に反して、食事をそこそこにシャルデンやキョーコ、ジパングマンことマロと会話をしていた。いつものおちゃらけたトレインの顔ではなく、とても真剣なものだった。

 

一通りの話が済んだのか、トレインは静かに会場を出て行った。彼が豪華な食事を堪能せずに退出する事に違和感はあったが、無理に追うことはしない。だが気掛かりではあり、光太郎はそれまで彼と話をしていた3人に声をかけた。

 

「やぁ、今トレインがいたけど、少し様子おかしくなかったか?」

 

彼らは互いの顔を見合わせ、「実は…」と答える。

 

「黒猫さん、道の力の事を聞いてきたのデスよ」

 

「道の力?」

 

「ええ。どうやって身につけたかという疑問を抱いたようデス」

 

その辺りは光太郎も詳しくは聞いていない。前の世界では生まれつき超常の能力を宿した少女もいたが、それと似たようなものだと考えていた。星の使徒とはそういった能力をもった人間が集められた集団ではあるが、思い返してみると初めてシャルデンやキョーコに出会った時に言っていた。ルーベックシティでギャンザとの戦いが終わった時「彼に力を与えたのは我々」と言っていたのを思い出す。道の力とは習得させる事が可能なのか。

 

「私とシャルデンさんはシキさんが作った神氣湯を飲んで能力を手に入れました」

 

「神氣湯?」

 

キョーコの話に出た聞き慣れない物に思わず光太郎はおうむ返しに聞き返した。それをマロが補足する。

 

「神氣湯とは道の力を強制的に発現させる事のできる薬湯ッス。シキの奴は趣味でそういった薬湯を作ってたんで…」

 

「…そうか、それで星の使徒を増やしていたのか。手強い能力者を簡単に増やす手法があるのは厄介だな」

 

「いえ、それ程便利ではありまセンよ」

 

「どういう事だ?」

 

「神氣湯を飲むと、能力を身につける事ができマス。しかし、必ずしも全員が習得できる訳でもないのデス。能力を得る為の潜在能力を有していない場合肉体は滅びる…つまり死んでしまうのデスよ」

 

「…今まで生き残った割合は?」

 

「多く見積もって2割程でしょうか。殆どの者は命を落としてしまいました」

 

恐ろしい薬だ。

だが光太郎の前に立つ3人もそれを服用したという事になる。ひとつ間違えば、誰かが欠けていたかもしれないのだ。

 

「そんな危険な物を…君たちは飲んだのか」

 

悲しい表情の光太郎を見て、3人は困った顔を見合わせる。

 

「…そう…デスね。私はクロノスを倒す為ならば命を捨てても構わないと考えていました。だからこそ、そんな恐ろしい薬湯を受け入れてしまったのでしょう」

 

「キョーコは…毎日が退屈でした。だから死んでもどーでも良いって思ってたし、もしも生き残って面白い力が手に入るなら飲んでもいいかなって…」

 

シャルデンとキョーコは神氣湯を飲んで覚醒した一般人だ。しかしマロは違う。道を操るという民族の出であり、2人よりも深い知識があるはずだ。

 

「俺も道の力についてシキ程詳しい訳じゃないんだが…遥か昔から道士が身につけていた力とされている。2世紀から3世紀の頃にジパングには邪馬台国という国があった。初めはそれを攻め滅ぼす為の力だったはずだ。使い手は多くはなかったみたいだがな。書物に書かれている道のルーツはそこが最古のはずだ」

 

「当時も神氣湯という薬があったのか?」

 

「そこまでは分からないっすけど、当時の道士は薬を服用せずに独力で力を発現させていた節がある。そもそも道の力の源が何なのか、頭の悪い俺じゃ理解しようとも思ってなかったんで…」

 

マロはそう言って頭を下げる。

 

「私の推測ですが、黒猫さん…前回の戦いで力不足を感じてしまったのではないでしょうか?」

 

「トレインが?」

 

「ええ。私もそう感じてしまいましたから、気持ちは分かるつもりデス。ゴルゴムの怪人相手に、現状の道の力では五分にも持ち込めない。能力次第デスが、私の『BLOOD』の殺傷力では怪人の肉体に通用しまセン。だからこそティアーユ博士に頼んで怪人因子の薬を作って頂いたのデス。そんな私ですから黒猫さんの無力感も理解できますが、死の危険がある以上、神氣湯を彼に渡す訳にはいかないのデスよ」

 

「神氣湯を今持っている、という事か?」

 

「クリードから有能な能力者をスカウトする為にと、幾つかは頂いていました。しかしもう必要ないと考え、かつてのアジトであった古城に置いたままデス。未だクロノスによって立ち入り禁止区域となっているはずデスので、クロノスの手に渡ったか、シキさんが回収しているかもしれまセン」

 

シャルデンはそう言うが、その話の最中にマロが懐から小瓶を取り出した。

 

「…俺はまだ手元にある。けどよ、俺にももう必要がないから、光太郎さんが持っててくれよ」

 

シャルデンとキョーコがもう所持していない以上、これがこちら側の最後の神氣湯となる。しかしこれを誰かに飲ませるつもりは光太郎にもない。光太郎は既に立ち去ったトレインの姿を思い、無茶をやらかさなければいいが…と憂いた。

 

 

◆◇◆◇

 

 

光太郎の心配を他所に、トレインは屋上で月を見上げていた。

シャルデン達から道の力の事は教えてもらえたが、そのキッカケを与えてくれる薬の受け渡しは拒否されてしまった。力の習得か、死か。クリードを捕らえるまで死ぬつもりはないが、今の自分のままじゃダメなのだ。ゴルゴムの怪人を率いるクリードにも敵わず、それよりも上の強さをもつというクライシス帝国には無力に等しいだろう。戦いとは力が全てではないが、1匹の蟻がどれだけ工夫しても大きな恐竜には敵わない。最低限の力は必要なのだ。

 

しかし今の自分にできるのは体内に巡るナノマシンによる微量な放電のみ。しかもそれは静電気程の弱さの為、オリハルコンの銃身に帯電させた電磁銃の利用法しかない。しかも放電にも限度があり、1日に数回しか使えない。

 

愛銃の銃口を月に向け、トレインは意識を高める。全身から微弱な電気が走り、それらがオリハルコンの愛銃に帯電されてゆく。バチッ、バチッと音が弾け、静かな夜の空気を一変させる。

 

…まだだ。

この程度じゃ大怪人の肉体には通用しない。

 

 

『無駄だよ。魔女の毒によって堕落してしまった君では、それ以上強くはなれない』

 

 

トレインの視界の端に立つ幻がそう囁く。

 

 

『思い出すんだ、かつての君を! 全てを否定し、全てを憎んでいたあの頃を! あの憎しみがあれば、君はもっと強くなれる!』

 

 

「…ッ、うるせーよ!」

 

確かにあの頃より弱くなっているかもしれない。しかし当時の自分に戻るつもりもない。俺はサヤが導いてくれたこの道を選んだ。この道で、掃除屋としてお前も捕らえ、そしてクライシス帝国にも不吉を届けてみせる。それが俺の生き方だ!

 

トレインがそう決意した瞬間、幻影は消え去り、体から走る電気がハーディスを包んだ。形状が変わった愛銃は銃口を輝かせ、直後、光弾が放たれた。電磁銃よりも速い光弾が空気を裂き、光の粒子を散らしていくのをトレインは薄れる意識の中で見ていた…。


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