転生・太陽の子   作:白黒yu-ki

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かつての親友

こうして拳を交えるのは何度目であろうか。

親友である信彦に、敵意を剥き出しに襲い来るシャドームーンを相手に、RXは自らの心を痛めながらも戦いを続けていた。この世界に限らず、RXの基本性能は他の追随を許さぬ程群を抜いている。グリード率いる星の使徒や、クロノスに属する時の番人(クロノ・ナンバーズ)の強さを以ってしても、その差には大きな隔たりが存在する。一般の人間の強さを凌駕する能力を持つ星の使徒や時の番人よりも、更に上のレベルをゆくゴルゴムの怪人。そしてそんな怪人よりも更に天上の強さに到達しているのがRXなのだ。そんな同等の強さを持った存在が、RXの前に立っていた。

 

「…流石はRX…と言ったところか。戦う度にその強さが増していくのを感じる。だがそうでなくては倒し甲斐というものがない」

 

「シャドームーン、お前の狙いは何だ!? やはり創世王になることなのか!?」

 

シャドームーンは二刀のシャドーセイバーを構え、徐々に間合いを詰めていく。RXは隙を見せぬ構えのまま、かつての親友に問いかける。

 

「………」

 

「俺は覚えている! クライシス帝国との戦いで人質にされてしまった子供達を助けてくれた。お前の中には信彦の心が残っているはずだ!」

 

「…フッ、それは奴らの思い通りになるのが気に入らなかったまでよ。いずれクライシス帝国も現れよう。その時にはあの時の借りを返してくれる。だがその前に、ここで貴様と決着をつけねばな!」

 

サタンサーベルと酷似する赤き剣閃。RXはそれをバイオライダーとなることで回避する。水晶の体となり、素早く距離を置く。

 

「そこだ!」

 

バイオライダーの体が形成されるほんの僅かな隙をシャドームーンは見逃さなかった。キングストーンのエネルギーが掌に圧縮され、緑の稲妻となってバイオライダー諸共大地を大爆発させた。バイオライダーは衝撃で中空を舞い、大地に叩きつけられた。

 

「ぐはっ!」

 

バイオライダーの体のあちらこちらにシャドービームの傷跡が刻まれている。無敵と同義とされるバイオライダーの体であるが、バイオライダーの体を貫く高出力のエネルギーを放ち、刹那程の隙をつけるのが可能なのはシャドームーンくらいのものであろう。バイオライダーはRXへと姿を戻し、片膝をついたまま顔を上げる。

 

「くっ…やはり強い! 手を抜けばやられるのはこちらの方だ!」

 

心に迷いがあれば、動きにも一瞬の躊躇いが現れてしまう。この戦いに勝つにはその迷いを振り切らなければならない。RXは立ち上がり、拳に力を込める。

 

「俺はやられる訳にはいかない! 俺が敗れてしまうと、仲間を…平和に暮らしている人々を守る事ができなくなる。シャドームーン、そして創世王よ! お前達の野望は俺が砕く!」

 

RXの決意が、キングストーンを通じてその身を光り輝かせた。RXの体から瞬時に傷が癒え、再びシャドームーンと向き合う。それと同時に、二人の頭上の空に暗雲が立ち込めた。

 

【…フハハハハ、会いたかったぞブラックサン、いや、仮面ライダーBLACK RXよ】

 

「この声は創世王か!? やはりお前もこちらの世界で蘇っていたか!」

 

【前の世界で言ったであろう。人間の心に悪がある限り、我は蘇ると。この世界の悪意は我を蘇らせるには充分なものであった。それは人の根源が悪であるからだ】

 

「違う! 確かに人間の中にはそんな心に負ける人間もいる。だがそれよりも多くの人間達は慈愛の優しさを持っている!」

 

【優しさなど、弱さの言い訳に過ぎぬ。その答えはすぐに出ることになる。弱さを消し去った世紀王シャドームーン、そしてその弱さに囚われている世紀王の貴様。この戦いの勝者がそのまま答えとなる。そしてその瞬間に新たな創世王が誕生する】

 

創世王の圧力が更に増し、大地が震える。寿命が尽きようとしている創世王であるが、それでも星ひとつ破壊できる位の力を秘めている。

 

【この世界には他の仮面ライダーはおらぬ。貴様は一人孤独に戦い、そして敗れるのだ。シャドームーンよ、今こそRXのキングストーンを奪い、世紀王同士の戦いに終止符を打つのだ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

「光太郎は孤独なんかじゃないよ」

 

RXの背後から、穏やかな声が届いた。

 

そこにはイヴたちが揃ってやって来ていた。彼等全員が揃っているのを見て、シャドームーンは大怪人たちが破れたのだと理解した。

 

「みんな、無事だったか!」

 

RXはこの場に駆けつけてくれた仲間たちの姿を一瞥する。トレインとスヴェン、キョーコやジパングマンは傷らしきものは見当たらないが、シャルデンは怪人のような姿になり、肩を貸してもらわねば立つ事も難しい程に傷ついていた。イヴの柔らかな肌も多くの傷が刻まれており、体内のナノマシンが治療を施しているのか傷口に光が纏って見えた。大怪人との戦いは一筋縄ではいかなかったことを物語っている。そして、RXを一番驚かせたのはセフィリアの存在だった。

 

「セ…セフィリアさん…やはりあなたが…」

 

この戦いでRXは初めてセフィリアの姿を見た。しかしその存在は感じていたのだ。この戦場で、サタンサーベルの鼓動を感じ取っていた。あの時、セフィリアの心の中で託したはずの聖剣の鼓動を…。サタンサーベルは持ち主を選ぶと言われている。世紀王であるRXか、シャドームーン以外には呼び寄せる事は出来ない。相対しているシャドームーンがそれを手にしていない以上、顕現させたのは彼女以外に考えられなかったのだ。

 

「光太郎さん、私が不甲斐ないせいであなたには苦痛の選択をさせてしまい、申し訳無く思います」

 

RXの仮面を真っ直ぐ見据え、セフィリアは自身の責任を詫びた。

 

「あなたがイヴたちの前から姿を消すという選択を招いたのは、私の弱さに起因します。だからこそ、今ここであなたに誓いたい。私はもっともっと強くなります。ですからいつまでも、あなたの隣にいさせて下さい」

 

そう告げるセフィリアの瞳には、決意と不安が見てとれた。自身の決意は確たるものだ。目標とする強さは目の前の戦士。それと同程度の強さを身につけなければ、今後も現れるであろう強敵との戦いでも弱点(ウイークポイント)となり、彼を危険に晒すこととなってしまう。

 

私は南光太郎の剣。

 

南光太郎やイヴたちを守り抜く剣。

 

その為に…強くなりたい。

 

 

 

 

そしてもう一方で、光太郎に拒絶されまいかと不安も抱えていた。だがそんな不安は、彼の優しい言葉でかき消えた。

 

「…セフィリアさんのせいじゃない。全てはゴルゴムの仕業だ」

 

RXはイヴに視線を移す。イヴは「私もセフィリアさんと同じ気持ちだよ」と告げた。

 

もう、これ以上の言葉は必要なかった。この場に駆けつけてくれた仲間、そして遠くで無事を祈ってくれているであろう仲間…その存在が、彼を更に強くする。

 

RXはシャドームーンに向き合い、構える。

 

だがただ一言、仲間たちに伝えたい言葉があった。

 

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

そう言い残し、RXは宿敵シャドームーンに向かって跳躍していた。空中で回転し、赤き光を浴びた両の足。

 

常人では一筋の影しか捉えれないであろうその攻撃を、シャドームーンは二刀のシャドーセイバーで防いでいた。その余波が周囲にソニックブームを発生させ、両者の立つ大地を陥没させた。その余波は仲間たちをも襲ったが、目には見えない波をセフィリアがサタンサーベルの一振りで消滅させていた。

 

 

「ぬっ!? 先程の攻撃よりも重い! これが今の貴様の本当の力か!」

 

二刀のシャドーサーベルでもRXキックは完全には防ぎきれず、シャドームーンは10メートル近く弾き飛ばされた。そしてシャドームーンは見抜いた。RXのパワーが先程よりも上昇しているのを…。

 

シャドームーンは瞬時に反撃に転じ、接近してシャドーセイバーを横薙ぎに払う。だがRXは体を液状に変え、攻撃を回避すると同時にその液状のボディをもってバイオアタックを仕掛けた。

 

「ぐっ…スピードも上がったか!」

 

シャドームーンの体から無数の火花が散る。バイオライダーは液状のまま空中で姿を変え、その肉薄した近距離から拳を繰り出した。

 

「ダブルパンチ!」

 

「ぐはっ!?」

 

ロボライダーとして姿を変えたRXはシャドームーンのボディに両のパンチを叩き込み、更にシャドームーンを吹き飛ばす。シャドームーンは後方の木々に衝突し、それらを薙ぎ倒しながらも止まることなく飛ばされ、最後に巨岩を木っ端微塵にして雷雲を見上げる形で横たわった。

 

「ぐっ…流石はRXよ。更に強さを増す奴の力に、目覚めたばかりのこの体では到底勝てぬ」

 

片膝をついて立ち上がろうとするシャドームーン。目の前には、リボルケインを手にしたRXが既に身構えていた。

 

「…どうしたRX。俺を殺す好機のはずだ。なぜ動かぬ」

 

「…俺はお前を殺すつもりはない。全力をもって、倒してみせる!」

 

「甘いな。その甘さが…周りの人間たちを危険に晒すという事がまだ分からぬか」

 

シャドームーンはクックッと笑みをこぼし、立ち上がった。

 

「今トドメを刺さなかったこと、後悔するがいい」

 

 

二人が再び対峙したその瞬間、天井から光が注ぎ、シャドームーンを包んだ。その直後、シャドームーンの力が数倍に膨れ上がった。

 

【RXの力がここまでとは驚かされる。だが今、シャドームーンに我の力を与えた。貴様の命もここまでだ】

 

創世王によってシャドームーンは更なる力を手にした。その圧力はRXの肉体をもってしてもプレッシャーが重くのしかかっていた。あの時も、シャドームーンは創世王よりエネルギーを与えられてパワーアップを果たした。しかし尚、それでもBLACKには敗北を喫したのだ。創世王はそう告げたが、シャドームーンはこのパワーアップで有頂天になる程愚かではない。

 

 

二刀のシャドーセイバーとリボルケインの衝突で雷雲が割れ、その巨大エネルギーが対峙する二人の戦士の体を火花を散らして刻んでいく。その場にイヴやセフィリアたちが辿り着いた頃には、それだけで大きなダメージを負っていた。

 

「…ダメだ、二人の動き、俺には見えねえ」

 

目を細めて戦況の把握をしようとするトレインだが、トレインの眼でさえ強大なエネルギーがぶつかっているであろう事実しか認識できていなかったのである。スヴェンは「余波が凄まじ過ぎて目も開けていられんぞ」とぼやき、ジパングマンは立ったまま気絶している始末だ。この戦いを辛うじて把握できているのはセフィリアだけであった。人間を超えた怪人の肉体を得たシャルデンすら、目で追うことは不可能。それだけRXとシャドームーンの戦いは異常なのだ。その戦いを見守る彼等だが、シャルデンだけが天空を見上げていた。

 

「シャルデンさん、どーしたんスか? 」

 

それに気付いたキョーコがシャルデンに声をかける。

 

「…ソコに、南光太郎の倒す敵、『創世王』がいるのデスね」

 

天空に何かの姿はない。けれど、ソコで二人の戦いを見ている何者かの存在は感じるのだ。それをシャルデンだけが警戒していた。

 

 

 

 

何度目かの衝突の末、RXとシャドームーンは再び弾かれ横たわる。ダメージの積み重ねで二人の動きも徐々に衰え始めてきた。二人の戦いは常に一進一退。この時点で力の差は無きに等しかった。

 

【…このままでは勝てぬか、シャドームーンよ】

 

創世王は痺れを切らしたのか、その呟きが二人の戦士の耳に届く。瞬間、刻が止まった。天空から放たれた無慈悲な一筋の稲妻。それがRXに向かって伸びていたのだ。それは回避不能な一撃。RXがダメージを覚悟した直後、目の前の影がそれを防いだ。

 

轟音と閃光が周囲を走る。

 

RXとシャドームーンはそこに立っている人物を見た。吸血鬼のような羽を広げ、RXの前で仁王立ちしているシャルデンの姿を…。

 

「ぐっ…この戦い…手を出すは野暮というものデスよ、創世王」

 

シャルデンはそう呟いて吐血する。ただでさえ半死半生のダメージを負っていた肉体に、創世王の一撃を受けたのだ。シャルデンの体はボロボロと崩れ始めていった。

 

「シャルデン!?」

 

倒れこむシャルデンをRXはその腕で受け止めた。他の仲間たちも慌てて駆け寄って来る。

 

「シャルデン…何て無茶を…」

 

「…南光太郎、あなたとあの戦士の関係は以前聞き及んでいマス。この戦いに邪魔があってはいけないのデス。デスが…天空からのエネルギーが徐々に増大するのに私だけが気付いた。その瞬間、体が勝手に動いてしまいました」

 

右腕を力無く掲げるシャルデン。だがボロボロと砂のように崩れ落ちてしまう。

 

「どのみち…私の命は残り僅かでした…。最後の力を振り絞り、あなたを守れた…上出来デスね…」

 

シャルデンは消滅しようとしている自身の傍で、涙を流している少女に目を傾ける。

 

「シャ…シャルデンさん…」

 

「キョーコさん…ティアーユ博士に伝えてもらえませんか? あなたのおかげで南光太郎の盾になれた。感謝しています…と」

 

「い、嫌です! 自分の口から伝えて下さいよ! 死んじゃダメですよ!」

 

「………」

 

シャルデンは答えない。自身の命の火が消えゆくのを、間近に感じているのだ。死ぬことに対して恐怖はある。だがそれは以前から分かっていたことなのだ。この怪人の肉体を得た時から…星の使徒として道に目覚める前から…病が自身の体を蝕んでいたのだ。

 

シャルデンは目を開ける。そこには心配そうに自分を見下ろす仲間たちの顔があった。キョーコは涙をポロポロと流している。ジパングマンはマスクを外し、必死に呼びかけてくれている。自分が死ぬ時には、一人孤独に世を去るのだと思っていた。だがこうして仲間たちに看取られながら逝ける。

 

「み…なみ…こうた…ろう…」

 

風が吹き、シャルデンの崩れ落ちた体は灰となって散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

あなたなら、どんな強敵であろうとも必ずや勝利を……。

 

 

 

 

 

 

 

小さい、本当に小さなシャルデンの最後の声が、そう聴こえた気がした。

 

 

 

「シャルデン…」

 

RXは掌に残った灰をそっと握る。

 

【如何に怪人の体を得たとしても所詮は紛い物。我の邪魔をするとは愚かな人間よ】

 

人の心を持ち合わさない創世王にとって、シャルデンの死はそこらの虫けらの死となんら変わらないものであった。それがRXの怒りに火をつけた。

 

RXは立ち上がり、シャドームーンを見据える。

 

「………」

 

敵にとって、今は攻めるに絶好の機会であったはずである。しかしシャドームーンはその隙をつかず、RXが再び戦闘態勢に移るまで立ち尽くしていた。

 

「…余計な邪魔を」

 

シャドームーンは小さくポツリと呟く。シャドームーンとて、創世王の一撃は望まぬ手助けであった。今となっては創世王の座などどうでも良く、ただひたすらにRXとの戦いに身を燃やし、シャドーセイバーの切っ先をRXに向けて殺気を飛ばす。

 

「RXよ…その男への弔いだ。貴様の魂も共にあの世へ送ってやろう」

 

「おのれゴルゴム…! 俺はシャルデンの魂に誓う。必ずやお前たちを倒してみせる!」

 

「創世王よ! これからの我等の戦いに手出しは無用! RX、貴様の最高の技を繰り出して来い!」

 

シャドームーンは一足飛びでRXに肉薄し、シャドーセイバーを振り下ろす。だがRXはリボルケインでそれを受け止め、その衝撃が足元の大地を陥没させた。

 

「どうしたRX! 俺を殺す気でやらぬと、次に死ぬのは貴様の脆弱な仲間たちだぞ!」

 

「!」

 

RXの両目が赤く輝く。リボルケインを振るい、シャドームーンを弾き飛ばす。

 

「そんなことは絶対に許さん!」

 

シャドームーンが大地に足をつけるのと同時に、跳躍したRXはリボルケインの切っ先をシャドームーンに向けた。それを見切っていたシャドームーンだが、自らの意思でシャドーセイバーをリボルケインから離す。

 

「ぐっ!?」

 

シャドームーンの体をリボルケインが貫く。無限の力がリボルケインからシャドームーンの体内に注ぎ込まれる。

 

 

「…ぐっ…RXよ…この一撃で先ほどの借りは返したぞ!」

 

「何っ!? シャドームーン…わざと俺の攻撃を…!?」

 

シャドームーンは自身の体を貫くリボルケインを引き抜き、跳躍して距離を置く。RXの必殺技の代名詞とも言われるリボルクラッシュ、それを受けて生き抜いた怪人は限られている。だが肉体に刻まれたダメージは大きく、片膝をつきシャドーセイバーを大地に刺して倒れこむのを防いでいた。

 

リボルケインのエネルギーは無限と言っても過言ではない。そのエネルギーはかのオリハルコンを材質としたセフィリアの武器、『クライスト』すら一合で消滅させた程だ。その一撃に耐え肉体をそのままに留めているシャドームーンの強さは、計り知れないものがあるとセフィリアは危惧していた。

 

片時も目が離せない戦況であったが、彼等は背後の気配を察知して不意にそちらを振り向いた。シャルデンの遺灰を手に、キョーコの全身がどんどんと熱を帯びていたのだ。キョーコの体を取り巻くそれは殺意。

 

「…キョーコ、キレちゃいました。敵は、みんなぶっ殺します」

 

今にも飛びかからんとするキョーコの全身は、既に1000度近くの高温を纏っている。簡単に止めることなど出来はしない。皆が止める間も無く、キョーコは飛び出していた。

 

RXの頭上を飛び越え、シャドームーンに向かって掌に溜めた炎弾をぶつける。

 

「キョーコちゃん!?」

 

RXが呼びかけるも、キョーコは攻撃の手を休めない。

 

「よくもシャルデンさんを…! よくも…よくもぉぉぉぉ…!」

 

「…………」

 

キョーコの怒りを、悲しみを、シャドームーンは防ぐ事もせず、反撃するでもなく静観していた。キョーコの能力はゴルゴムの怪人よりも数歩劣る。大怪人には通用せず、それより格上のシャドームーンに対し、怒りで多少リミッターが外れていたとしてもダメージを負わせるには至らない。キョーコの攻撃の合間に反撃するのは、シャドームーンにとって容易いはずなのだ。

 

だが次第にキョーコの炎が弱まっていく。道の力といえど有限である。道の気が減少してしまったキョーコの力は、普通の女子高生と何ら変わりはない。それでもシャドームーンの体を叩き続けていた。

 

「…シャルデンさんは私にとってお兄さんみたいに優しくて…いつも私を心配してくれて…シャルデンさんを…返してくださいよ…!」

 

「………」

 

シャドームーンはキョーコのパンチを片手で受け止める。そしてキョーコの涙をもう片方の手で拭った。

 

「……兄…か」

 

力を出し切り座り込むキョーコを前に、シャドームーンは何を考えているのか。再び顔を上げたシャドームーンは立ち上がり、ゆっくりと歩を進める。RXの眼前までやってきたシャドームーンは、一言「勝負は預ける」とだけ告げ、横を通り過ぎていった。シャドームーンが足を止めたのはシャルデンの遺灰の前。周囲にいるセフィリアやイヴ達には目もくれず、遺灰を見下ろしていた。

 

 

シャドームーンの体内に潜在する力を、キングストーンが掌に収縮させてゆく。掌に浮かぶは輝く3つの石。それはゆっくりと浮遊して灰の上に落ちる。直後、風が舞い、灰が集まって形を成してゆく。僅か数秒後には無傷のシャルデンがそこに横たわっていたのだ。それを見たキョーコは最早力など残されていなかったにも関わらず、最後の力を振り絞ってシャルデンに歩み寄る。

 

「シャルデン…さん?」

 

キョーコの呼び掛けにシャルデンの眉が動く。

 

生きているのだ。それも怪人の肉体ではなく、人の姿として。キョーコは嬉しさのあまり涙を零した。皆がシャルデンに駆け寄る中、シャドームーンはRXに背を向けて叫ぶ。

 

「敵に塩を送るのはこれが最後だ! 次に会った時には…必ずや貴様を倒してみせる!」

 

そしてシャドームーンは天空を見上げる。

 

「もはや次期創世王など眼中にない。RXとの戦いを邪魔するのであれば、創世王、あなたといえど叩き斬る。覚えておくがいい!」

 

そう言い残し、キングストーンの光と共に周囲を照らし、光が収まった頃にはそこにシャドームーンの姿はなかった。RX、南光太郎は、宿敵の中にかつての親友の姿を見た気がした。


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