転生・太陽の子   作:白黒yu-ki

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いえーい、スランプでしたよっと。
2週間も空いてしまいました。未完は絶対したくないので完結だけはしておきたいですね。
50話構成で、マイペースながらも進めていきます。


銀の戦士

男が意識を取り戻したのは、奇しくもこの世界に光太郎がやってきた時と同時期であった。

 

山奥でひとり起き上がった男は、悪夢を見ていたように気分を害していた。親友と命の奪い合いをした記憶が脳裏に鮮明に蘇る。あれが夢であれば、悪夢であればどれだけ良かったか。そう願うがそれが現実であったとこの体が、手が親友を傷つけた感触を覚えている。

 

「・・・俺はシャドームーン・・・? いや、俺は秋月信彦だ・・・」

 

混合する記憶の中で、思考を巡らす。親友である南光太郎を倒すことを是とするシャドームーンの記憶と、それを恐ろしく後悔する人としての記憶。そしてシャドームーンとしての記憶の中で、自分は確かに命を落としている。なぜ自分が再び現世に蘇っているのか天を見上げて考えていると、暗雲から聞き覚えのある声が響いてきた。

 

【・・・蘇ったかシャドームーンよ】

 

「この声は・・・創世王!?」

 

【そう、我が創世王だ。世紀王シャドームーンよ。我がゴルゴムはキングストーンをもつお前が蘇るのを、長い時間待ち望んでいたのだ】

 

「なにっ、どういうことだ!?」

 

【我がゴルゴムは平行世界での記憶が宿っている。その世界では我らがどういう結末を迎えたのかも知っておる。だがそちらの世界とこちらの世界では決定的に違う点があったのだ。それがブラックサンとシャドームーンよ。この世界ではキングストーンは5万年前を最後に消失してしまっておる。その為、新たな創世王を生み出すのは不可能であった。そこで私は思いついたのだ。平行世界の因果を曲げ、キングストーンを持つ者を呼び寄せれば良いとな】

 

「創世王よ! 貴様はまた俺と光太郎を戦わせるつもりか!?」

 

【ふふふ、当然よ。それがキングストーンを宿す世紀王の宿命なのだ!】

 

信彦はその宿命を振りほどくように激しく首を振った。

 

「俺はもう戦いたくない!」

 

【無駄よ無駄よ。ブラックサンと違い、貴様は改造を完全に終えておる。今は蘇ったばかりで人としての記憶が強まっているようだが、次第に立派な世紀王となるであろう。その時、貴様は再びブラックサンと戦う運命にあるのだ!】

 

脳まで響く創世王の声から逃れるように、信彦は山を駆けた。だがどれだけ走っても創世王の言葉が脳裏に刻まれる。そこから信彦の自分が自分でなくなってしまうかもしれない恐怖との戦いが始まることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数ヶ月が経った頃、信彦は未だシャドームーンの意識に取り込まれず生活を送っていた。自分が変わってしまう恐怖を抱きながら、日雇いの仕事でその日暮しを続けていたある夕刻、信彦は駅前で今にも泣きそうになっていた女性を見かけた。両手で顔を覆い、その手の甲は擦りむいているように見えた。正直、信彦は自分のことで精一杯であった。この数ヶ月、仕事上の付き合いしかもっておらず、それ以上の関係を自ら壁を作って拒んできた。そんな信彦だったが、気がつくとその女性に声をかけていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

信彦の声に女性は顔を上げる。涙は流していない。しかし、その内では悲しみが読み取れた。信彦は相手を怯えさせないように笑顔を浮かべ、隣に腰掛ける。女性はじっとこちらの顔を見て「大丈夫です」と答える。見たところ、手の甲の傷は大したことないようだ。問題は心の方である。そちらの方はやや強がっているように感じた。大丈夫と答える女性の表情は未だ陰が残っている。

 

「あの、どこかでお会いしましたか?」

「・・・いえ、初対面だと思いますよ」

 

女性に問われ、信彦は答える。美しい女性だ。こんな女性と出会っていれば、記憶に残っているだろうが、自分の記憶の中に彼女はいない。それに自分は元々この世界の人間ではないのだ。友人はいないし、知人と呼べる人間も数える程しかいない。

 

・・・いや、親友がただひとりいるのか。

創世王の言葉から推測するに、光太郎もこの世界にやってきているのだろう。光太郎に会いたい。だがどんな顔をしてあの親友に会えば良いのだ。それにいずれは再びシャドームーンとして意思を奪われてしまうかもしれないのだ。その時にあいつを悲しませたくない。

 

「失礼しました。私はセフィリア=アークスと申します。あの、お名前を伺っても宜しいでしょうか」

「あ・・・俺は秋月信彦です」

 

信彦の名を聞き、セフィリアが「やはり違うのですね」と呟いたのが聞こえた。

 

「何か違いましたか?」

「あ、申し訳ありません。実は私は記憶喪失で過去のことを覚えていないのです。ですがあなたにはどこか懐かしいような暖かさを感じていたので、もしや探し人ではないかと早計してしまっていたのです」

「そうでしたか・・・。しかし本当に俺はあなたとは初対面です。探し人とは、あなたの恋人ですか?」

「え・・・」

 

セフィリアはきょとんとした表情を浮かべる。思ってもみなかった言葉を投げかけてしまったらしい。

 

「あ、すいません! 記憶がなかったんですよね」

「いえ、大丈夫です。しかしそういう関係ではなかったと聞いています。私たちにとって、南光太郎は大切な仲間だと聞かされています」

「・・・・・・え?」

 

その名を聞いて、信彦は思わず硬直してしまった。聞き間違いではない。確かにセフィリアは『南光太郎』の名を出した。同姓同名の可能性もあった。しかし信彦の思考は直感で、セフィリアが探しているであろう人物が自分の親友であるあの光太郎であると辿り着いていた。その名を聞いて胸の鼓動が早まる。

 

「・・・その・・・人は・・・今どこに・・・?」

「・・・? この街にいるのは確かなようです。しかしこの大きな街から人ひとり探すのは時間がかかってしまいそうですね」

 

信彦の変化に気付いたセフィリアは訝しげながらもそう答える。そう聞いた信彦は駅前を行き来する人達の顔を、誰かを探すように目で追い始めていた。

 

「アキヅキさん?」

「・・・セフィリアさんは、なぜその人を探してるんですか?」

「・・・私には記憶がないので仲間から聞かされた内容でしか話せませんが、光太郎さんは私たちをある組織から巻き込ませないように一人で姿を消してしまったようなのです。ですが仲間たちはそれに納得していません。だから追いかけているのです」

 

信彦は目を閉じ、光太郎の姿を思い出す。

あいつはそういうヤツだ。セフィリアの言う組織というのは、十中八九ゴルゴムだろう。ゴルゴムの怪人や神官、創世王相手では普通の人間は到底太刀打ちできない。自分を大切に思ってくれる仲間であっても、そんな仲間が傷つかないように自ら距離を置くのは光太郎らしいと思ってしまった。アイツは・・・変わってないんだな。

 

だが、そんな優しい光太郎だからこそ、心配なんだ。

いずれ自分が・・・シャドームーンが光太郎の前に立った時、迷わず倒してくれるだろうか。自分は何度か死んだ身だ。シャドームーンとなり、世紀王としての戦いが避けられないのであれば、親友である光太郎に倒されるそれは、本望というものだ。

 

「セフィリアさん」

「はい?」

 

信彦は意を決して立ち上がり、セフィリアに伝える。

 

「もしも光太郎に会えたら、伝えて欲しい。『シャドームーンがもしも再びお前の前に現れたら、躊躇うことなく倒してくれ。それが俺の願いだ』・・・と」

「え・・・あなたは・・・一体・・・?」

 

セフィリアの疑問に答えることなく、信彦は彼女に背を向け歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

自分がこの世界で目覚めた場所。

山奥のその場所で信彦は空を見上げる。そこには3神官のダロム、ビシュム、バラオムが宙に浮いていた。

 

「お待ちしておりました、シャドームーン様」

 

3神官は大地へ降り立ち、頭を垂れる。しかし信彦は首を振る。

 

「俺は秋月信彦だ。シャドームーンなんかじゃない!」

 

自身を否定する信彦を前に、ダロムは立ち上がる。

 

「期は熟したのです。今夜の満月の力をもって、あなた様の中に眠るシャドームーン様の力が目覚めるのです!」

 

「なに!?」

 

信彦を囲み、3神官が自身の力の石を掲げた。

 

 

 

 

ダロムは天の石を。

 

 

 

ビシュムは地の石を。

 

 

 

バラオムは海の石を。

 

 

 

そして同時に満月の光が信彦に降り注ぐ。

 

 

 

「ぐっ・・・うぅ・・・うううぅぅぅ・・・!!」

 

 

焼けるような体の痛みを抱え、信彦は倒れこむ。

しかし体の痛み以上に、自分の意思が消えていく事の方が恐ろしかった。

 

 

「こ、光太郎・・・・・・、すまない、俺はまたお前を・・・・・・!!」

 

 

信彦は最後に大きく叫ぶ。

天から雷鳴が振り注ぎ、辺りを明るく照らす。

 

光が収まり、そこに立っていたのは本来の姿を取り戻した3神官。

 

そして仮面ライダーBLACK RX最大の強敵、シャドームーンが緑の目を光らせていた。

 

 

 

◆◇◇◆

 

 

時は少し遡る。

 

光太郎はアクロバッターと共に記憶の中にあったゴルゴムのアジトに向かっていた。自分の記憶の中にある日本と、今自分がいる世界のジパングという違いはあったが、可能性のひとつとして潰しておくべきではあった。そして日本で言うところの京都の山頂に登頂した瞬間、背後から殺気を感じた。そちらを見やると、遠く離れた校舎の屋上にゴルゴムの怪人の姿があった。その眼下には何も知らず遊んでいる子どもたちがいる。

 

「そうはさせん!」

 

光太郎は咄嗟にロボライダーに変身し、ボルティックシューターで20キロ以上離れている怪人に向けて連射する。光の矢は怪人の体を何度も貫き、怪人は倒れ爆発を起こした。子どもたちに被害が及ばなかったことに安堵した光太郎は変身を解き、そちらに背を向けようとした。だが、視界にそれが映ってしまったのだ。天使の姿が・・・。

 

思わず二度見した光太郎は目を擦り、こちらに向かっているであろう天使の姿を凝視した。

 

「・・・イヴ!?」

 

15キロ以上離れているが、間違いない。あれはイヴだ。

 

「なぜイヴがここに・・・」

 

《・・・・・・・・・》

 

イヴたちがジパング、そしてここキョートに辿り着いているのは、アクロバッターの車体に発信機がつけられてしまっているからなのだが、それを知らない光太郎は驚きの余り固まってしまった。全てを知り、敢えて伝えなかったアクロバッターは「知~らない」とでも言うかのように顔を背けている。

 

だがイヴがこちらに向かっているのならば、すぐにこの場を離れた方が良さそうだ。これでは何のために皆の前から消えたのか、分かったものではない。そう考えて身を翻そうとしていると、目の前に何かが投げつけられた。

 

「・・・!」

 

光太郎は咄嗟にそれを受け止める。何の攻撃かと警戒したが、自分の手の中に収まるそれはミルクの入った瓶であった。

 

 

 

 

「・・・・・・ミルク?」

 

 

 

 

「少しはのんびりしろよ」

 

 

 

 

正面に、木に背を預けてミルクを飲んでいるトレインの姿があった。トレインは「ぷはぁ」とまるで酒を飲み干したように満足そうにミルクを飲んでいた。

 

 

 

 

「・・・トレイン、なぜジパングにいるんだ?」

 

 

 

 

「おっかねえ女がアクロバッターに発信機つけてたみたいだぜ?」

 

 

 

 

「リンスさんが? アクロバッター、そうなのか?」

 

 

 

 

《・・・・・・シラナイ》

 

 

 

 

「・・・アクロバッター?」

 

 

 

 

《・・・つけられたような気もする》

 

 

 

 

なぜそれを最初に伝えないのか、光太郎は思わずため息をつく。光太郎はアクロバッターの車体をくまなく探り、件の発信機を見つけてトレインに投げつけた。

 

 

 

「返しておいてくれ」

 

 

 

 

「・・・光太郎、お前の気持ちは分かる。巻き込ませたくないって気持ちもありがたいとは思うぜ? だけどよ、俺たち・・・まぁ、特に女性陣連中だな。納得してねえんだよ」

 

 

 

 

「トレイン、お前だって分かってるはずだ。ゴルゴムの恐ろしさを! 奴らは人を傷つけるのを何とも思っちゃいない。現にセフィリアさんだってあんな目に遭ってしまった! 今度は命を失うかもしれない。だから、ゴルゴムやクライシスの戦いは全て俺ひとりが引き受ける。みんなは今まで通りの日常を送っていてくれていいんだ!」

 

 

 

 

「・・・俺やスヴェンにとっての日常っていうのは、貧乏な掃除屋暮らしだな。リンスの奴は盗賊請負人だし、セフィ姐は記憶失ってっけどクロノスに戻ることになるんかな? ティアーユはまた隠居暮らしだろうし、キョーコはジパングで学生か。シャルデンやジパングマンは分かんねえな。で、姫っちの日常っていうのはどんなんなんだ?」

 

 

 

 

 

 

「・・・イヴにとっての日常は・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私にとっての日常は、隣に光太郎がいることだよ」

 

 

 

 

 

 

光太郎の背後からそう答えが届く。

 

そちらを振り向くと、そこには息を切らしたイヴが立っていた。

 

「・・・イヴ」

 

「光太郎、歯を食いしばって」

 

「え?」

 

シュルシュルとイヴの髪が拳を作り、その拳で思い切り光太郎の頬を殴った。突然のイヴの攻撃に光太郎は思わず無防備で受けてしまい、その場で倒れ込んでしまった。倒れた光太郎にイヴが馬乗りになる。

 

「光太郎の嘘つき」

 

「・・・ああ。軽蔑してくれていいさ」

 

イヴの髪が拳を解き、光太郎の腕に巻き付く。

 

「もう、光太郎の言葉は信じない。私は、私が考えたように動く。私は光太郎とずっと一緒にいる。光太郎に拒否する権利はないから。それが私に嘘をついた罰」

 

「・・・ダメだ、イヴ。ゴルゴムやクライシスとの戦いが終わったら好きにしてくれていい。だからそれまでの間は俺ひとりで戦わせてくれ」

 

光太郎とイヴ、どちらも引こうとしないその現状に、トレインはため息をついた。

 

「光太郎よ、姫っちのことだから、お前の目の届かないところで絶対無茶するぜ? それだったらお前の目の届くところで、いざとなったらお前が守ってやった方が安全なんじゃないか? 俺たちが光太郎の仲間だってことは、もうゴルゴムには知られてるんだ。こちらを狙ってくるのは有り得ないことじゃねえ」

 

「・・・だけど」

 

 

光太郎がトレインに反論しようとするが、それに続く言葉が出てこない。確かにゴルゴムの動きとしては有り得る話だ。こちらが派手に動けばこちらだけを狙うかとも思うが、前回の戦いの時にダロムが「搦手」を使うのを是としていた。

 

仲間を巻き込みたくないという自分の願いは、初めから不可能だったのだ。光太郎がそう後悔していると、それを察したのかイヴが怒りながらも「私は巻き込まれた訳じゃないよ」と言った。

 

「これは光太郎とゴルゴムの戦いじゃないよ。人と、ゴルゴムの戦い。私たちは巻き込まれたんじゃない。当人なんだよ。当人が戦うのは当然」

 

イヴの主張は理屈なのか、屁理屈なのか、光太郎には覆す言葉がなかった。だがここでいくら言葉遊びをしてもイヴが諦めないというのは認めるしかない。

 

 

 

光太郎がそう折れようかとしてる時、遠くの山に雷が落ちた。

そして直後に感じる威圧感。それをトレインとイヴも感じたのか、思わずそちらに顔を向ける。

 

「これは・・・!?」

 

既視感のある威圧感。

光太郎は起き上がり、そこにかつての強敵の姿を思い浮かべていた。




ついに誕生したシャドームーン!

果たして信彦の心は残されていないのか。

そして再び親友同士の戦いが始まってしまうのか。

光太郎の叫びが戦場に響く!!

次回『相対する太陽と月』
ぶっちぎるぜ!!

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