転生・太陽の子   作:白黒yu-ki

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ジパングの紅葉

日出(ひいず)る国ジパング。

島国である為に他国からの侵略を受けにくく、数百年前まで独自の文化を築いていたと云われている。また他国と違い、銃の徹底した排除と国民のモラルの高さから犯罪率も低く、ジパングに腰を据える掃除屋(スイーパー)も少ない。

 犯罪に巻き込まれる確率も低い為、観光に訪れる人は多い。ジパングを訪れる理由のひとつに四季が挙げられる。他国にも季節はあるが、ジパング程顕著に季節を感じられる国は少ない。彼らは観光客に混じり、京の都と呼ばれる「キョート」で視界いっぱいの真っ赤な風景を目の前にしていた。

トレインはその風景を見ながら、親友を思い出す。

 

「来たぜ、お前の生まれた国によ」

 

親友の名はサヤ=ミナツキ。自分に自由な生き方を教えてくれた女。そのサヤが生まれた国がここ、ジパングなのだ。いつかは来てみようと思っていたが、随分と時間がかかってしまった。サヤが生まれた国であると考えると、さすがのトレインも感慨深い思いだ。隣に立つイヴの顔を見ると、紅葉に照らされたのか頬が赤く見える。「光太郎と一緒に見たいな」という小さな呟きを聞き、トレインは天を仰いだ。今頃あの男はどこで何をしているのだろうか。アクロバッターにつけられた発信機から、ジパングにいることは間違いない。キョートにいることも判明しているのだがそれ以上の縮尺は難しく、後は地道な捜索を続ける他ない。

 

「・・・きれい・・・ですね」

 

イヴと手を繋ぐセフィリアが目の前の紅葉を見て、感極まって声を漏らす。イヴもそれに同調し頷いた。

 

「セフィリアさんがジパング好きな気持ち、分かる気がする」

「・・・そうだったんですね。まだ思い出せませんが、この雰囲気は好みです」

「今度は光太郎と一緒に見に来ようね?」

「・・・光太郎・・・さん・・・ですか・・・」

 

語尾を濁し頭を抱える。セフィリアが意識を取り戻した時、記憶を失っていた。全てを忘れていたのだ。クロノスのことも、自分たちのことも、そして光太郎のことも・・・。だが心の奥では「思い出したい」という気持ちが残っているらしく、こうして時々何かを思い出そうとしていた。だがその思いが実を結ぶことは難しく、ただ頭を痛めるだけで終わってしまう。そんなセフィリアにトレインは「ゆっくり思い出せばいいさ」と声をかける。

 

「それより、腹減っちまったよ。何か食おうぜ? ここなら美味いものたくさんあるんだろ?」

「それがな、トレイン・・・」

 

周りに見える店を見て、トレインは腹の虫を鳴らす。こうしている間にも良い匂いが立ち込めていたのだ。そう催促するトレインに、スヴェンが寂しい財布の中身を晒す。

 

「ここまでの旅費ですっからかんだ」

「・・・なにっ! それじゃ飯は!?」

「我慢しろ。それか犯罪者を捕らえて小銭を稼ぐかだな」

「おいおい、この国って手配された犯罪者はほとんどいないんだろ? 無理じゃね?」

 

光太郎を見つける前に金策を見つける必要が出てきてしまった。トレインは傍にいたキョーコやシャルデン、ジパングマンにも訊ねるが持ち合わせはないらしい。そこでリンスとティアーユの姿がないことに気付いた。辺りを見渡すと一角にあった店から出てくる2人の姿を見つける。その手にはキョートの菓子があった。

 

「なに変な顔してんのよ、トレイン」

「リンス、くれ!」

「なに? このキョー菓子が欲しいの? ははーん、あんたらお金ないのね。貧乏ってイヤね」

 

リンスは意を得たりと笑みを浮かべる。だが購入したキョー菓子はトレインには譲らず、イヴとセフィリアに分けた。

 

「どうぞ、イヴ。セフィリアも食べなさいよ。なかなか美味しいわよ、これ」

「ありがと、リンス」

「ありがとうございます、リンスさん」

 

そしてトレインの目の前でキョー菓子をチラつかせる。

 

「美味しいわー、でもお金無くて食べれないなんて可哀想ねー」

「・・・イヤなヤツだな、お前」

「別にあげないなんて言ってないわよ?」

「いいヤツだな、リンス!」

「その代わり、貸しにしとくからね」

 

トレインの手にキョー菓子を渡し、リンスは他の面々にも配り始めた。シャルデンたちにも「貸しにしとくわ」と一言添えながら・・・。早く金策を探らないとリンスにいくつ借りを作ることになってしまうのか、彼らの背後からは破産の音が聴こえてくるようだった。ちなみに彼らはこの時食べたキョー菓子の味を全く味わえなかったという。

 

◆◇◇◆

 

午後を回り、ホテルはリンスが宿泊費を融通してくれることとなった。その分利子は加算されるようで、スヴェンたちの肩は重い。リンスとティアーユはホテルへ向かい、他のメンバーは手分けして光太郎と金策を探すことにした。平和な国ジパングで需要は少ないながらもスイーパーズカフェは存在する。スヴェンはひとりでそこを目指し、トレインは野良猫よろしく姿を消して自由行動に移ってしまう。キョーコ、シャルデン、ジパングマンも方々へ散っていった。

イヴもひとりで光太郎を探そうとするが、流石に子どもがひとりで行動すると危うい。イヴの実力から犯罪に巻き込まれる可能性は薄いが、迷子と勘違いされる可能性は大いにあるのだ。そういった理由からイヴとセフィリアはペアで行動をしていた。

キョート駅周辺は凄まじい人が出入りしており、この中に光太郎がいたとしても見つけるのは困難を極める。空を飛んで捜索しても良いが、それは目立ってしまう。

ふたりはこの場での捜索を諦め、駅から少し離れた場所を歩いていた。行き交う人々を目で追うが、そこに見知った人物はいない。そんな調子で進んでいると目の前に大きな建物が見えてきた。耳を澄ますと子どもの声が聴こえている。

 

「学校のようですね」

 

セフィリアがイヴの視線の先の建物に気付いてそう答えた。

 

「・・・学校?」

「ええ。私も詳しくは覚えていませんが、同年代の子どもたちが通う勉学の場だったと思います」

 

校門からグランドを覗く。そこには昼休みに友人たちと遊び回る子どもたちの姿が大勢目に映った。イヴにとって、これだけの人数の同じ年頃の子どもを見るのは初めてだった。もしもあの時に光太郎と共にいることを選ばなければ、あの中に自分もいたのかもしれない。目の前の環境が羨ましくも思えたが、それでも自分は光太郎を選ぶ。

 

「行こう、セフィリアさん」

「・・・はい」

 

次に向かった先は山であった。この街を一望できる程の高さを誇るその場に、ふたりは容易く辿り着く。イヴは同年代の子と比べ物にならない程の体力を身につけ始めているし、セフィリアにしても記憶を失ったとはいえナンバーズなのだ。山頂に着いた時にも息は乱れていなかった。

ふたりは山頂からキョートの街を眺める。小さく映る多くの人々が行き交い、その光景を紅葉が彩る。この平和な街を眺めていると、ゴルゴムという組織が本当に存在するのかと疑いたくなるほどだ。ゴルゴムだけではない。クロノスの最高幹部が消えたこの世界で、星の使途がどんな行動を起こそうとしているのかも気にかかる。光太郎を追うということは、そのふたつの組織を追うということと同義だ。光太郎がジパングに向かったということは、暗にそのどちらかがこの近辺にいることを示す。

平和に見えるこの光景も、人々が気付いていないだけで非日常なモノに侵食され始めているのかもしれない。

 

「イヴ、焦らないでください」

 

そんな不安を抱えていると、隣に立つセフィリアがイヴの頭を撫でてそう言う。

 

「セフィリアさん?」

「焦りは行動力を生むでしょう。しかし同時に失敗も招きます。仲間を信じてください。・・・あの日病院で目覚めてからの記憶しかありませんが、それでもあなたが私にとって大切な人であることはこの胸が教えてくれます」

 

視線をイヴに合わせるように屈むセフィリアは、イヴの手を自らの胸に当てる。イヴは自分の手に暖かな温もりと、穏やかな胸の鼓動が感じられた。

 

「・・・うん、正直焦ってたよ。もしかしたら余計な心配かもしれないけど、私の知らない場所で光太郎が傷ついて倒れちゃったらって考えると胸が苦しいの」

「・・・ええ」

「光太郎は私たちのことを考えてひとりで戦うことを選んだんだと思う。でも、光太郎が傷つくなら、私も同じように傷つきたい。光太郎が苦しんでいるのなら、私も一緒に苦しみます。相棒(パートナー)ってそういうものだと思いますから」

 

自分の目の前の少女はここまで強い想いを抱いている。自分の記憶の中にはいない南光太郎という人物はとても果報者だ。ここまで言い切ってくれる相手など、そういるものではない。この少女にここまで言わせるとは、どんな人物なのか、セフィリアは尚更思い出したくなった。

 

 

 

 

瞬間、ふたりの体に寒気が走った。

それと同時に野鳥たちが一斉に騒ぎ、飛び立っていく。

イヴは直感する。これは殺気であると。その気配を探ると先程通ってきた学校の屋上に黒い影が見えた。人とは違う異形な存在。

 

「ゴルゴムの怪人!」

 

イヴは反射的に身を乗り出してそう叫んだ。子どもたちを襲おうとしているのか、怪人の殺気はそちらに向いている。防ごうにもここからでは距離が離れすぎていた。これから怪人が起こすであろう悲惨な光景を想像し、イヴは動悸を早める。人の目も気にせずに翼を生やそうとした直後、無数の光の筋が怪人を貫いた。

 

「・・・え?」

 

光の筋は止まることなく撃ち続けられている。光の出処に視線を向けると、20キロは離れているであろう別の山から放たれていた。そしてイヴたちの耳に爆発音が届く。視線を戻すと怪人がいた場所が炎上していた。子どもたちは慌てており、教師が避難させ始めているが、被害はないようだ。

 

「どうやら、最悪の自体は免れたようですね」

「今のはゴルゴムの怪人だった。それを倒せる人なんて、この世界に何人もいないよ・・・」

「・・・イヴ?」

 

イヴは光が撃たれていた山に体を向ける。トレインも電磁銃(レールガン)という銃弾を撃つことができると聞いている。しかしそれでも連射は不可能だ。トレインでもなく、当然他の仲間たちでもない。そうなるとあれを行える人物はひとりしかいない。

 

「光太郎だ・・・!」

「・・・!」

 

そう答えを下したイヴは周りの目も気にかけず、翼を生やしてその山に向かって飛び立ってしまった。セフィリアが呼び止めるも、イヴの目にはもう光太郎がいるであろう場所しか映っておらず、セフィリアの制止も虚しく響く。イヴの天使の姿に周りがざわめく中、セフィリアもイヴを追いかけた。しかし当然空など飛べず、ナンバーズの経験も忘れた彼女は体の動かし方も満足に理解していない。以前のセフィリアであれば空を飛べないまでも家々の屋根を飛び移る程度の技量はあったが、今は体力はあれど普通の人のように走ることしかできなかった。

 

山を下り、イヴが向かったであろう方角へ走る。この時点で完全にイヴの姿を見失っていた。そして多くの人が行き交うこの街で、真っ直ぐ走ることは困難だ。人々の間を縫うように急ぐもサラリーマン風の男とぶつかり、セフィリアは倒れ込んでしまう。男はセフィリアに詫びを入れ手を差し出すも、セフィリアは逆に自らの非礼に立ち上がって頭を下げる。男は再三頭を下げて立ち去ったが、セフィリアは近くにあったベンチに腰を下ろすことにした。軽く膝を打ったらしく、痛みが残っている。

 

「私では、イヴも、南光太郎さんも追いかけることができないんですね・・・」

 

自分の無力が恨めしく思える。自分の過去がどうだったかはともかく、今の自分は普通の女性と何ら変わらない。ふと視線を落とすと手の甲も擦りむいてしまっていた。

 

記憶を失って目を覚ました自分の前には仲間たちがいた。

 

優しい仲間たちが。

 

そして今までは常に仲間たちがいた。

 

しかし今の自分の傍には誰もいない。

 

それを思うと途端に寂しくなってきてしまった。

自分にはあの人たちしか頼れる者がいないのだ。周りの雑踏の音も自らの孤独に拍車をかけ、セフィリアは両手で顔を覆ってしまった。

 

そしてどれだけの時間そうしていただろうか。

 

セフィリアの世界は優しい声で再び開かれる。

 

「大丈夫ですか?」という優しい声が届き、セフィリアは顔を上げた。

 

そこには優しそうな男性が立っていた。




確実に光太郎に近づいているイヴたち。

セフィリアの前に現れた男は一体何者なのか!?

そしてゴルゴムではついにあの男が目を覚ます!

次回『銀の戦士』
ぶっちぎるぜ!!

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