次回はその分頑張ります。
夏の夜。
大きな建物が勢いよく炎上していた。だがそれを消火している人の姿はない。その建物にいた職員のほぼ全員が横たわり、冷たい屍と化していた。人の身であれば焼け爛れてしまう燃え盛る炎の中にありながら、下手人は悠然と歩を進めている。
今や星の使徒の駒となったオオワシ怪人である。
怪人の身体能力は人間と一線を画す。その体は拳銃など通用せず、ハンドグレネードも効果が見られなかった。そしてそんなオオワシ怪人と戦闘を繰り広げている人影があった。
「ちっ! ゴルゴムの怪人って奴がこんなやりづらいとは思わなかったぜ」
男は手に装着したグローブから伸びる極小の糸を操りオオワシ怪人の体を捕らえる。男が操る糸はオリハルコンの鋼線。生身の肉体であれば簡単に刺身にしてしまう鋭さを誇る。しかし目の前の怪人には足止めにもならなかった。多少体に食い込む程度で、力負けして引きづられてしまう。
男の名はジェノス=ハザード。
「くっ、
コンクリートの壁すらも容易く打ち砕く破壊力であるが、オオワシ怪人の体を少々仰け反らせるだけに終わった。そして体を起こすオオワシ怪人の目が怪しく光る。その腕を標的目掛け振り抜いてきた。ナイザーはトンファーを盾にするも、怪人の怪力に負けて10m程吹き飛ばされるも何とか着地をする。事前に自分で後ろに跳んだから良かったものの、普通に受けていたらオリハルコン製の武器といえども無事では済まなかった。
「・・・ならば、一点に攻撃を集中させる」
オオワシ怪人の体の一番肉の薄い脇に巨大な槍、「グングニル」が飛ぶ。ベルゼーの放つ協力な一突きはそこでようやく怪人にダメージを負わせることに成功した。グングニルが怪人の体内に突き刺さる。
「ガアアアアアアアアッ!!」
だがオオワシ怪人もグングニルをその身に受けながらもその槍を掴み、ジェノスの糸もろとも振り回した。ジェノス、ベルーガ、ベルゼーの体が宙を舞う。オオワシ怪人は自身の羽を放ち、3人の体を撃ち抜いた。
「ぐあっ!」
「・・・くっ」
3人は四肢を撃ち抜かれながらも闘志は失われていない。横たわりながらも敵を睨みつける。こちらの被害は甚大。だがようやく一太刀ダメージを負わせることができたのだ。しかし彼らの絶望はここから始まる。オオワシ怪人の体の傷が瞬時に治り、再生していったのだ。
「・・・マジかよ」
ジェノスは唖然とする。そしてこの現象は以前見たことがあった。星の使途の古城で現れた超再生能力をもつ人狼。再生能力は同じだが、身体能力は天と地程の開きがある。光太郎というナノマシンを破壊できる人材がいない現状、目の前の怪人を倒す手立ては見つからなかった。
だがここで諦める訳にはいかない。彼らはそれでも必死で打開策を考える。己の命を犠牲にすることも厭わない。目の前の敵を排除する為の方法を必死に模索した。しかしそんな彼らの思考をあざ笑うかのように笑い声が響いた。
「あははははは、無様な格好をしているね、諸君」
シキの護符で空間を割いて星の使途が現れたのだ。先頭に立つのはリーダーのクリード。その横には道士のシキがいる。クリードの姿を視界に収めたナイザーは額に青筋をたてた。
「クリードォォ! こいつを差し向けたのは
「やぁ、ナイザー。どうやら苦戦しているようだね。どうかな、ゴルゴムの怪人と僕らのナノマシンの融合した新しい力は!? 気に入ってもらえたら光栄だよ!!」
そう高らかに笑うクリードにナイザーのディオスクロイが迫る。しかしそれも一瞬で目の前に現れたオオワシ怪人の体に阻まれてしまった。渾身の一撃を込めたがその肉体を僅かに削るだけに留まる。そして攻撃の直後を狙われたナイザーにオオワシ怪人の攻撃をいなす術はない。腹部にめり込む拳。骨が砕ける音が響き、ナイザーは苦痛の表情を浮かべて鮮血を吐いた。
「ぐはぁ!」
そして吹き飛ぶナイザーは意識と戦意はあれど、もう立ち上がることはできなかった。敵のいなくなった周囲を見渡すクリード。
「ナンバーズが4人か。新たなモルモットにはちょうどいいかな。シキ、彼らをドクターの元に。そしてついでだ。ここに捕われているエキドナやエーテスも連れ帰ろう」
「了解だ」
倒れたナンバーズに歩み寄るクリード。だが彼らにもナンバーズとしての矜持がある。敵に囚われ、モルモット扱いされるなど死よりも苦痛だ。何かに利用されるくらいなら、彼らは死を選択する。ナンバーズは互いに顔を見合わせ、同じ覚悟を抱いていると確信した。舌を噛み切ろうとした瞬間、クリードの持つ拳銃の銃弾を撃ち込まれてしまった。瞬間、彼らの動きは停止する。彼らの視界に映るクリードは新しい玩具を与えられた子どものような笑顔を浮かべていた・・・。
星の使徒は今、怪人の因子と究極のナノマシンを組み込む為の優れた体をもった実験体を手に入れたのだ。
◆◇◇◆
クロノス支部へのゴルゴムの怪人の襲撃。
その報は翌日の早朝にはセフィリアの元にも届けられた。その報を受けた一同の表情は一様に驚きと苦痛に塗り潰されていた。その場にいた人間300人近くの死傷者が出、更にその場に駆けつけたナンバーズの4人「ベルゼー、ナイザー、ジェノス、ベルーガ」の4人は生死不明と締められていた。
「おのれゴルゴム・・・!」
光太郎はゴルゴムを思い虚空を睨む。そしてその隣に立つイヴも何度か顔を合わせているベルゼーを思い出す。恐い雰囲気をもつ人だったけれど、自分に飴をくれようとしたり優しさを見せてくれた人。そんな人がもしかしたらもうこの世にいないのかもしれないという事実に、ゴルゴムの恐ろしさに現実味を帯びさせた。
「・・・捕らえていた星の使徒のメンバー、エキドナ=パラスとエーテスは連れ去られていたそうです。あの状態の2人が独自に逃げ出すことはないでしょう。光太郎さんの話を聞くに、ゴルゴムが捕らえられた人間をわざわざ助けるとは考えにくい。星の使途が絡んでいる可能性も高いでしょう」
セフィリアがそう冷静に分析する。しかしそれは表面上のものであり、内心は部下の安否を懸念している。しかし彼らは動くことができない。ゴルゴムや星の使途がどこにいるかの情報もない彼らは、果たしてどこに向かえば良いのか。
「何でもいい! 奴らの居場所を探る方法を・・・」
拳に込める力を強める光太郎。どんな方法でも良いのだ。そこでセフィリアが携帯電話に視線を落としているのを見て、閃いた。
「セフィリアさん!」
「は、はい?」
「ベルゼーさんと連絡は取れますか?」
「・・・いえ。電源が入れられていないのか、こちらから連絡を取ることはできません。無事であると良いのですが・・・」
光太郎はセフィリアが持っていた携帯を受け取る。
できるかどうかは分からない。しかしやってみるしかない。
「・・・光太郎?」
「ベルゼーさんたちは生きている。まずはその居所を調べよう」
「ベルゼーさんのいる場所、分かるの?」
イヴは光太郎の手の中にある携帯電話を見やる。しかし電源も入れられておらず、連絡を取る術もない。一体どうするつもりなのか、皆は光太郎の動きに注目していた。
光太郎は体を輝かせた瞬間、変身していた。
しかしその姿はこの場にいる誰も見たことのない姿だった。RXでもない。エキドナやエーテスを恐怖のドン底に叩き落としたバイオライダーでもない。その姿は前述の2つの姿よりも機械的で、赤い瞳から血の涙を流しているようにも見える。
ロボライダー。
光太郎が変身するRXがもつフォームのもう一つの姿である。
ロボライダーはセフィリアの携帯電話にアクセスする。そして携帯電話から全世界に広がるネット空間に意識を飛ばす。ロボライダーの脳裏には様々な画像・動画・情報が流れ込んでいた。どんなプロテクトがかけられていてもロボライダーの意識はそれを容易く突破する。そしてネットの海の更に奥へと潜っていった。
そして同時刻。
ドクターは自らの研究の向上に興奮を覚えていた。なにせ、人としては最強の部類に入るナンバーズを実験体にでき、更には怪人として強化することができるのだ。人の限界を超えた生物の創造。それはもはや神の領域といっても過言ではない。自らが創り上げたこの生物は、ゴルゴムの怪人に勝るとも劣らぬ存在だ。ゴルゴムの他の怪人も、あの神官共とていずれは自分たちの駒に組み込んでやろうとほくそ笑む。いつかはあの化物、南光太郎とて足元に跪かせてやろう。
だが直後、呼び出し音が鳴る。
ドクターが音のする方に顔を向けると、そこはモルモットが所持していた衣服だ。発信機の類も存在なかったし、携帯電話も破壊した。もう用はないと適当に捨てていたが、そちらから聴こえていたのだ。ドクターが近づきそれを探る。ボロボロになった携帯電話が力なく「ピ・・・ピピ・・・ピ」と途切れ途切れに音を鳴らしていた。
「・・・ん? 電源も落としてから壊したはずだが、まだ動いていたのか」
ドクターはそれを踏みつけ、今度こそ完全に破壊した。
「ふふ、改造の続きを楽しもうか」
そして身を翻してデスクに向かう。だがその時、デスクに置いていたコンピュータが自動で点滅し始めた。誤作動かと思い駆け寄るドクターだが、まるで操作が効かない。
そしてコンピュータが勝手に文字を弾き出す。
『ミツケタ』
「・・・みつけた?」
ドクターが画面に表示された文字を読む。
『オマエハドクターダナ』
「・・・また勝手に文字が・・・どうなってる」
『キサマラノヒドウ・ゼッタイニユルサン』
「・・・・・・・・・まさか」
このフレーズに、ドクターは心当たりがあった。自分にトラウマを植えつけ、「許さん!」と迫ってきたあの男。だが今自分は異空間にいる。いくら奴が化物といっても、そんな場所にあるコンピュータにアクセスなどできるはずがない。・・・できないはずだ。・・・できないでいてくれ。
ドクターがそう願って歯をガチガチ鳴らせていると、傍にあったいくつかのコンピュータが爆発を起こした。
「ひぃ!」
恐怖心を抱いたドクターはいきなりの爆発音に驚き、腰を抜かす。画面には更に文字が打ち込まれていた。
『ゼッタイニニガサン』
『オレハ・キサマタチヲ・ゼッタイニユルサン』
『イマスグイク』
「来んなっ!」
『イク』
ドクターの叫びも虚しく、相手はすぐにでもこちらに来ると言う。ドクターの脳裏に何時かのトラウマが蘇る。逃げなければ・・・すぐにでも逃げなければ・・・と腰を抜かした状態で床を這う。そんなドクターの様子に何かを察したのか、クリードたちが助け出したエキドナとエーテスが震えだした。
「イヤアアアアァァァァァ、コワイィィィィィ!!!」
「ウキィィウキィィィウキィィィィ!!」
阿鼻叫喚である。
そんな状況の場にシキがやってくる。
「ドクター、何事だ」
「奴が! 奴が来る!!」
「・・・この地獄絵図、南光太郎か」
「そうだ! 早く逃げなければいけない!」
「落ち着け。いくらヤツでもお前の能力の中であれば危険はないだろう。それにこちらには5人の怪人がいるのだ。いくらヤツとて敵うまい」
シキはそう言って液体に漬けられている4人のナンバーズを見上げた。ゴルゴムの怪人よりも強力な存在となった星の使徒の新たな力として生まれ変わった彼らを・・・。
変身を解いた光太郎は地図を広げ、小さな孤島を指差した。
「ベルゼーさんが持っていた携帯は異空間にあったけど何とか繋がることができた。そこの異空間と繋がりが近いのはこの島だ!」
皆は光太郎が今何をしたのか理解していない。元・星の使途のメンバー以外は異空間という存在に疑問をもったが、光太郎が言うのなら本当にあるのだろうと無理矢理納得させた。それを発見した方法についても「光太郎ならできるんだろう」という謎の説得力が彼らの中にはあった。
星の使徒の居所を掴んだ光太郎。
だが彼らはまだ知らない。
自分たちの前に立ちはだかるであろう相手の正体を・・・。
囚われたナンバーズは無事なのか!?
そして再び衝突する星の使徒と光太郎たち!
だがそんな光太郎たちの前にオリハルコンの武器を使う怪人たちが現れる。
血の涙を流す彼らに光太郎は何を思うのか!?
次回『悲しみの涙・炎の王子』
ぶっちぎるぜ!!