転生・太陽の子   作:白黒yu-ki

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恥ずかしい。

ただただ恥ずかしい。
徹夜明けの頭で考えた話は後で読むと後悔するということを改めて痛感しました。


誓いの花

「違う意味で賑わってやがるな」

 

トレインはミルクを飲みながらそう独りごちる。それを聞いていたスヴェンが何かを悟ったような表情でタバコを吹かした。

 

「トレイン、もう俺は光太郎の能力の限界に関しては推し量れねぇ」

「俺は逆に『光太郎だから』で納得できるようになってるぜ?」

 

昼食を終えたトレインとスヴェンの視界には、バイクレースに出場した謎の男を探し出そうとする係員や新聞記者が騒いでいる。幸い、ヘルメットで光太郎の素顔は見られていない。だがアクロバッターはそうはいかず、今はバイクカバーをかけてスヴェンの車たちと留守番中だ。

 

「いや、でも流石に人間だから空を飛んだり大気圏突入とかはできないだろ?」

「光太郎だぞ?」

「・・・ありえそうでこわいな」

 

気になった2人は光太郎に聞いてみる。どうやらバイオライダー状態なら飛行も可能らしい。そしてクライシス帝国が初めてやってきた時に宇宙に放置され、生身で大気圏を突入して地球に戻ってきたということも言っていた。その言葉にはトレインとスヴェンだけでなく他のメンバーも絶句である。ティアーユだけが光太郎の体の神秘に興味を強めていたが・・・。

 

光太郎はそんな皆の心情に気付かず「これからどうする?」と聞いた。

 

「そうだな。姫っちたちに花火を見せてやりたいし、まだ数時間あるけど場所取りとかするか?」

「・・・それなら私が一人で行っておきましょう。皆さんはゆっくりなさっていていいデスよ」

「おお、ありがとな、シャルデン」

「いえ・・・その役目が一番安全な気がするのデス」

「・・・?」

 

まだ一度も花火というものを見たことのないイヴのために、いい場所を確保しておかねばならない。それを提案したトレインに、シャルデンが手を挙げた。苦労人シャルデンも、いつまでも流れに乗せられて流れ弾の犠牲になる訳にはいかない。正に素早い立候補だった。

 

「えー、シャルデンさんお祭り一緒に回らないんですか? それじゃシャルデンさんかわいそーだし、キョーコもそっちのお手伝いしようかな」

「い、いえ、キョーコさんは皆さんとご一緒に楽しんでいて下さい。私の連絡先はキョーコさんが知っていマス。場所はその時刻になったら連絡して頂ければ伝えますので、私はこれで失礼します」

「あ、シャルデンさ-」

 

キョーコが声をかける暇もなくシャルデンは身を翻して会場に向かって行ってしまった。シャルデンの後ろ姿を見てトレインとスヴェンが目を細める。

 

「・・・ということは、何かが起きたら俺たちがワリを食わされる訳か?」

「頼んだぜ、スヴェン」

相棒(パートナー)を見捨てて逃げようなんて見下げ果てたヤツだな」

「いや、俺、子どもだし、そういうのは大人の役目ってやつだろ?」

「光太郎、こいつの中にあるナノマシン破壊して元の姿に戻してやってくれ」

「いっ!? 待てよスヴェン。俺はまだこの姿を楽しむんだ!」

 

この一行の中で一番重要なポジション。それは戦力でも統率力でも癒しでもない。どうやら生贄のようだ。まさか自分がそれを必要とする存在であるとは思いもしない光太郎は、話を聞いていても内容を理解できていない。首を傾げるばかりだ。

 

そんな男性陣を見てリンスはため息をつく。

 

「はいはい、あんたたちの言い分は分かったわよ。それじゃスヴェン、あんたは時間まで情報収集。元々そのつもりだったんでしょ?」

「あ、ああ!」

「トレインは私の買い物の荷物持ちね」

「断る!」

「あっそ。それじゃ何か起きた時はあんたが全部責任とるのね?」

「・・・じゃんじゃん買い物してくれ!」

 

トレインは満面の笑みでサムズアップする。

 

「あと・・・キョーコ、あんたも来なさい。ここ、ジパングの服とかも売ってるみたいなのよ。オススメとか教えてもらえるかしら」

「あ、そうなんですね。いいですよ! 浴衣とかあるとキョーコ嬉しいかもです!」

「ありがとう。後は・・・セフィリアさん? あなたもいつもそんな暑苦しい格好してないで、もっとオシャレしなさいよ。スタイルいいんだし、美人がオシャレしないなんて罪よ?」

「そ、そうですか?」

 

リンスにそう言われてセフィリアは自分の服装を眺める。クロノスから支給されたスーツなのだが、自分は私服というものを持っていない。同じスーツが何着かあるだけだ。

 

「し、しかし私は光太郎の剣としてそういうものに現を抜かす訳には・・・」

「オシャレしたら光太郎も喜ぶわよ?」

 

セフィリアの耳元でリンスは小さくそう囁く。

 

「・・・分かりました」

「残りは光太郎とイヴちゃん、ティアーユさんね。イヴちゃんとティアーユさんは一緒にお店を見て回りたいって言ってから、一緒に行ってきなさい。2人だけじゃ心配だから光太郎、あんたは2人のボディーガード。いいわね?」

「は、はい」

「それじゃ、2時間後にまた会いましょう」

 

リンスはそう言って解散を促す。

スヴェンは直様スイーパーズ・カフェへ向かい、リンスたちもその場を離れる。離れる前にリンスはイヴに向かってウィンクした。その反応を見て、リンスが自分のためにグループを作ってくれたのだとイヴは気付いた。

 

「ありがと・・・リンス」

 

イヴは微笑んで感謝の言葉をかける。

 

「さぁ、それじゃ行こうか。この国にはどんな出店が出てるのかな」

 

光太郎が子どもっぽい素顔を見せて辺りを見渡す。そんな光太郎を見てイヴは苦笑してしまった。自分が読んだ本に「男はいつまで経っても子ども」という一文があったのを思い出す。本当にそうなんだ、といつもは頼りになるこの人を見て納得してしまった。

 

「私・・・お祭って子どもの時以来なんです」

 

ティアーユも辺りを見渡してそう言う。

 

「それじゃ、まずは祭りの定番、カキ氷でも買いましょうか」

 

光太郎はイヴの手を取る。急に手を握られたイヴは驚いたが、イヤではなかった。キュッと光太郎の手を握り返す。そしてイヴは空いたもう片方の手をティアーユに差し出した。

 

「ティアーユも、一緒に行こう?」

「・・・ええ、そうですね、イヴ」

 

差し出された手を取り、賑やかな露店の中へと3人は消えていった。

 

 

 

◆◇◇◆

 

 

花火の場所取りにきていたシャルデン。

彼はその場に見知った顔を見つけていた。この場に不釣り合いなその姿は、とても観光客とは思えないだろう。周りの人たちもその人物を遠巻きに眺めていた。

 

「・・・お久しぶりデスね、マロさん」

「え、あ、シャルデンじゃねぇか・・・元気してたか・・・?」

 

かつての同志、マロだった。アジトであった古城でRXに飛ばされ星にされて以来か。しかし久しぶりに会った同志の顔は以前と違い全く覇気が感じられなかった。何かに怯えるかのようにビクビクとしている。原因はなんとなく察するが・・・。

 

「ところで、今クリードたちってどこにいるんだ? 連絡もつかなくてよ・・・」

「・・・そうデスね。マロさんには話しておいた方がいいでしょう」

 

そしてシャルデンはマロが飛ばされてから今までのことを説明した。

 

「クリードは今ゴルゴムという組織の元にいます。ゴルゴムの目的は怪人による人間たちの支配デス。とても容認できるものではありません」

「・・・・・・南光太郎もこの街に来てるのかよ」

「また、敵対しマスか?」

 

シャルデンのその言葉にマロは残像が見えるくらい首を振った。

 

「絶対ごめんだ! 頼まれたって敵に回るもんかよ!」

「・・・それを聞いて安心しました。それであなたはどうしマス? クロノスのナンバーズがあなたを追っているはずです。このような目立つような場所にいるとすぐに見つかりマスよ?」

「・・・シャルデンやキョーコは平気なのか?」

「光太郎さんとは協力関係にありマスので、一時的でしょうが見逃してもらえているようデスね。私はできればマロさんとは敵対したくないと思っていマス。あなたがクリードの元に戻るのは自由デスが、どうしマスか?」

 

マロは目を閉じて考える。

シャルデンの言う通り、ゴルゴムに屈するのはゴメンだ。だからといってかつての同郷の仲間シキを裏切るのも(はばか)られる。そして絶対にしたくないのが南光太郎と再び敵対することだ。渡り鳥の群れと共に空を飛ぶ体験なんてもう二度としてたまるものか。そして答えを出す。

 

「星の使途マロはあの時に死んだ。ここにいるオレは全く別の人間だ。その人間としてゴルゴムの怪人ってヤツと戦ってやるよ」

 

マロはシャルデンにそう言って笑った。

 

 

 

 

そして数時間後、光太郎たちと合流した彼はマスクをかぶり、「ジパングマン」と自己紹介をしながら膝を震わせていた。

 

◆◇◇◆

 

 

花火の時間まではまだ余裕があったが、全員はシャルデンがとっているであろう場所へ向かった。キョーコがシャルデンに連絡を取り、その場に向かったのだが、そこには見覚えのある巨漢がいた。確か星の使途の男だったはずだ。しかし彼は妙なマスクをかぶっており、自身を「初めまして、ジパングマンと申します」と自己紹介を始めた。シャルデンから事情を聞いたらしく、ゴルゴムを倒すために共に戦ってくれるという。何かの罠かと一同は考えたが、ジパングマンの震えた膝を見たら、そう疑う気も失せた。この男の災難(光太郎が起こしたこと)の話は聞いていた。完全に信用するには時間がかかるかもしれないが、今はゴルゴムに対抗する新たな仲間が増えたと喜ぶことにした。

 

「み、南光太郎さん、肩こってないっすかね!?」

「いや、大丈夫だよ」

「あ、それじゃ喉渇いてないっすか? すぐ買ってきますよ!」

「どうしたんだ? 前会った時とえらく態度違わないか?」

「な、な、何言ってんですか、俺と南光太郎さんは初対面ですよ、初対面!」

 

ジパングマンは光太郎に対し、驚く程低姿勢だ。手を擦るその姿勢はまるでハエを思わせる。ジパングマンに接待されている光太郎を見て、イヴは思わず光太郎の手を引いた。

 

「光太郎、ちょっと向こうに行こう?」

「あ、ああ」

 

光太郎は皆に離れることを伝え、イヴに引かれるまま従った。

 

2人は会場から少し離れた静かな場所に来ていた。そこは会場を見下ろせる場所だった。辺りには人気もない。こんな場所に何の用があるのか光太郎は気になったが、それを聞かずにイヴが要件を切り出すのを待つことにした。

 

 

 

 

 

空は既に暗くなっている。

 

 

イヴは光太郎の手を握ったまま夜空を見上げる。

 

「星が・・・よく見えるね」

 

そしてそうポツリと呟いた。

 

「そうだな」

 

光太郎も見上げて肯く。

 

「お祭で食べたカキ氷、美味しかったね」

「ああ」

「光太郎とティアーユと一緒に見て回れて楽しかったよ」

「俺もだよ」

 

イヴはそっと光太郎の顔を見上げる。光太郎は未だ夜空を見上げていた。

 

「光太郎は私にいろんなモノを見せてくれるんだね。光太郎は私に自由を見せてくれた。冷たいアイスの味を、一緒に乗ったバイクからの景色を、たくさんの人があつまる街を、大きな海を・・・そして今日はお祭りも・・・」

 

イヴは光太郎の顔を見つめ続ける。

 

「・・・なんで私にそこまでしてくれるの? 私が子どもだから・・・? 作られた人間だから・・・?」

「違うよ」

 

光太郎はイヴと視線を合わせる。

 

「イヴがイヴだからだよ。子どもだからとか、作られた人間だからとかそんなのは関係なく、俺がイヴにいろんなモノを見せてやりたいと思ったんだ。迷惑だったかい?」

「ううん、そんなことない・・・!」

「そっか、それなら良かった!」

 

光太郎はそう笑う。

 

優しい人。

 

暖かい人。

 

そして誰よりも強い人。

 

自分はこの人に相応しい相手になりたい。

 

「光太郎」

「なんだい?」

「私は、光太郎の相棒(パートナー)って自分では言ってるけど、トレインたちみたいにうまくできない。でも、いつかなるから。光太郎に相応しい相棒に」

「・・・イヴはオレなんかには勿体無いくらいだと思うぜ?」

「ううん、私がそう思ってるの。私が納得したいの。いつかは、私が光太郎を助けてあげる。だから、待ってて欲しい」

 

イヴはそう告げる。

 

そして直後、夜空に大輪の花が咲く。

大きな音が胸を叩く。

色とりどりの花が夜空を彩る。

 

イヴはそれを見て想像する。

大きく成長した自分が光太郎の隣に並び立つ姿を。

 

 

光太郎は打ち上がる花火を見上げている。

 

イヴはそんな光太郎を見つめゆっくりと口を動かす。

その言葉は音の波に消されてしまったが、イヴは満足そうな表情を浮かべていた。




自らの誓いをたてたイヴ。

そしてジパングマンという新たな(?)キャラが増えた一行。

だがそんな頃、クロノスに星の使途の刃が向けられていた!

次回『囚えられた番人』
ぶっちぎるぜ!!

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