自分も考えてはいるけどなかなかアイデアが出てこなくて、名前とどういう技かっていうのを募集したら考えてもらえそうですかね(笑)
正午。
街外れの草原で光太郎達の試合を観ながら、トレインはミルクを飲んでいた。光太郎が言うにはイヴもセフィリアもすごく強くなっているらしい。光太郎も素のままでは勝つことができないという。今はRXの状態の光太郎に、イヴとセフィリアが攻撃を仕掛けていた。イヴの追尾型の
トランス・ゲル化
イヴはゲル状に変化し、RXの足元に這った。
そこでセフィリアの姿が揺れる。セフィリアがもつ三十六手の技のひとつ、
RXの前後に十文字の剣閃が描かれた。足元が不安定になり、RXはそれを防ぐ為にリボルケインを抜かざるをえなかった。剣閃は1秒にも満たない内に打ち払われてしまったが、ついにRXにリボルケインを抜かせることができたのだ。2人にとって、これは大きな進歩と言える。
「やりましたね、イヴ!」
「うん!」
2人は嬉しそうだ。光太郎は変身を解き、「凄いじゃないか」と褒める。イヴはトランス能力のおかげで攻撃や防御のスタイルに幅が広がっている。イヴの体から離れた羽根はナノマシンの残骸なのだが、意識的に標的を追うようにプログラムさせているらしい。体から離れた以降は新たにプログラムすることはできないが、これは今後も応用次第で強力な力となりそうだ。
セフィリアはサタンサーベルをどんどんと使いこなしてきている。サタンサーベルを持ったセフィリアの攻撃はいくらRXと言えど軽視出来るものではない。サタンサーベル自体が桁外れの切れ味を発揮するのだ。セフィリアの攻撃力に関してはRXに近いレベルにまで達していると言える。
「うん、これも光太郎のおかげだよ」
「そうですね。少しでも光太郎さんの力になれるよう、力をつけていきたいと思います」
3人は観戦者のいる日陰に戻り、水分を補給した。
「さぁすがコウ様! カッコいいっスね〜♡」
キョーコが飛びついてくるも、イヴがトランス・シールドでそれを阻む。しかしキョーコはそれすらも飛び越え、光太郎に水筒を手渡した。
「コウ様が強いのは知ってましたけど、カッコ良くて優しくて、どこの王子様だって話っスよ! どこの王子様? それはキョーコの王子様? あ、そうだコウ様プリクラって知ってます? 今度一緒に撮りに行きませんかー? 色んな種類あるので何百回でも撮れちゃいますよ! ちなみに私、ジパング出身なんですけどジパング料理って食べたことあります? コウ様ってジパング風の名前ですけど、もしかして私と出身同じなんですか? やっぱり私とコウ様はお似合いですよねー」
「キョ、キョーコちゃん、少し落ち着いて…」
「あ、ゴメンナサイ。ゴメンナサイと言えば朝はとても悪いことしちゃったみたいっスね! キョーコ反省しました。反省しましたよー! あ、キョーコポッキー買ってきました。口移しで食べるゲームやりましょう! コウ様、はい、あ〜ん!」
キョーコの怒涛な攻めにたじろぐ光太郎。そんな光景を見て、トレインは苦笑した。その横でシャルデンが「キョーコさんも悪い子ではないんデスよ」とフォローした。
「ま、誰もがあんなキョーコを見て悪人だとは思わないだろうな」
キョーコの相手をしている光太郎には悪いが、何故かホッと胸を撫で下ろしている自分がいた。もし今と違う状態で違う運命を辿っていたら、あの猪突猛進娘の標的がこちらに向いていたのかもしれないのだ。光太郎には悪いが、人身御供として頑張ってもらうとしよう。
◆◇◇◆
暗黒結社ゴルゴム。
その組織は人類が生まれるはるか昔から存在していたとされている。
彼らは人類の文明や文化を破壊し、優れた人間のみを怪人に改造し、その組織の戦力としてきた。
その思想に、クリードは共感を覚えていた。
この世は腐っている。クロノスの長老会などという爺連中が世界を裏から管理支配し、クロノスが全てを決定付けていく。自らの欲望に堕ちていく人間。強者にプライドもなく媚びへつらう弱者。そしてそんな醜い人間を生み出してしまったこの世界を、クリードは創り直したかったのだ。
クリードはエキドナやシキ、ドクターと共にゴルゴムの支配を援護することを三神官に約束した。ゴルゴムの神官や怪人からすれば、クリードと言えども所詮人間である。戦力的に期待はしていない。しかし彼らが身につけている
ダロムは言う。
「貴様たちがこの場にいる事を許可してやろう。この世界を今現在支配しているのがそのクロノスという組織ならば、好きに暴れるがいい。その為の力ならば与えてくれよう!」
「ふははは、感謝するよ神官! クロノスを一掃し、ナンバーズも1人残らず
クリードはそう言って神官たちに背を向け歩き出した。
その場に残った三神官は星の使徒を値踏みしていた。
「人間など矮小な存在だ。奴らの力など、児戯にも劣るわ!」
「落ち着けバラオム。奴らは勝手にクロノスという存在を潰してくれると言うのだ。手間が省けて助かろう? それに我らゴルゴムの怪人が残した力を僅かであっても継承し、道という力として残してきた努力というものは褒めてやらねばな」
「ふふふ、そういうことかダロム。もしあの人間たちがクロノスを壊滅させることができたなら、怪人として我らの同志に加えるのも考えておきましょうか」
「そうだビシュム。そしてもしも奴らが敗れても人間同士の争いよ。我らゴルゴムは何の損害も被らん。謂わば、奴らは唯の捨て駒よ」
三神官の笑いが静かに響き渡った。
だが、クリードも三神官の予想通りに動く男ではない。
「ドクター、君の力でゴルゴムの怪人とやらを捕らえ、奴らの力を解明させてくれるかい?」
「もちろんだ。今から研究意欲が湧くよ。人とは違う存在の怪人…じっくり調べ尽くしてあげたいものだね」
ドクターはゴルゴムから与えられたスペースに能力で部屋を創り出した。
「エキドナ、シキ、君たちはドクターを援護してやってくれ。ドクターの能力なら必要ないとは思うが、万が一の為にね。怪人というのは厄介なものらしいからね」
「クリード、あんたはどうするんだい?」
エキドナの問いに、クリードは目を細めた。
トレインは呪われている。それは魔女を殺しても解けない呪いだった。そして先程も君は低俗な掃除屋として僕の前に現れた。そんなんじゃない。君はもっと冷たく、冷酷で、この世の全てを敵に回しても構わないとあの頃のトレインの眼は語っていたじゃないか! そして今、君を掃除屋として縛っている憎き人物。
スヴェン=ボルフィード。
ヤツをトレインの前から消してあげるよ。
そして君は僕に感謝するだろう。呪縛を解き放ってくれて、ありがとう、と。
クリードの殺意が、静かに向けられていた。
◆◇◇◆
夕刻。
一行はスヴェンたちのアジトに戻って来ていた。スヴェンが夕食を作ろうとしていた時に、電話が鳴った。
『あ、私よ私』
「生憎だがそんな名前の奴は知らねえ。そんじゃな、リンス」
『ちょっと、ちゃんと分かってるじゃない! 電話切ろうとするんじゃないわよ!』
「ボリュームがデケエよ。お前は俺の耳を壊すためにわざわざ電話掛けてきたのか?」
『そんな訳ないでしょ。そんなことより、スヴェンって南光太郎と連絡取れる?』
「連絡取るもなにも、目の前にいるよ」
『何だ、一緒に行動してたの。光太郎に伝えたいことがあるのよ』
リンスはそう言って光太郎に電話に出るように促した。スヴェンは携帯を光太郎に渡し、夕食作りに取り掛かる。既に台所にはシャルデンとイヴ、セフィリアがエプロンをして下準備をしていた。
『光太郎、久しぶりね。イヴちゃんに手は出してないでしょうね!』
「リ、リンスさんお久しぶりです」
『…なんでちょっとビビってるのよ。まぁ、いいわ。実はトルネオの研究チームについて調べてたんだけどね、そのメンバーの写真を入手したのよ。そこにFAXあるかしら。その写真送るわ。イヴちゃんには見られないようにね』
一体何事かと思ったが、光太郎は言われるままスヴェンにFAX使用の許可をもらい、リンスから送られてきた写真を覗き込んだ。そして知る。リンスが言わんとしていたことを。
写真の中に、イヴにそっくりな女性が写っていた。それはまるで、イヴが成長したような姿だった。
『その女性の名前はティアーユ=ルナティーク。元トルネオお抱えの研究者だったらしいけど、今は田舎で隠居暮らししてるみたい。写真の下に住所書いておいたけど、どうするかはイヴちゃんの保護者であるあんたに任せるわ』
写真の女性はイヴの母親にしては若すぎる。しかしそれでもイヴの関係者であることは間違いなかった。もしも親族であるなら…何故この人はイヴを残して去ってしまったのか。家族であるなら、愛情があるなら一緒にいるべきなのだ。
この女性の真意が知りたかった。
「俺、この人に会いに行こうと思います」
『そう、わかった。それじゃ私も行くわ。向こうで会いましょう』
「…はい」
電話を切り、写真をポケットの中に隠す。
そしてエプロン姿のスヴェンに携帯を返した。
「リンス、何だって? また面倒な依頼じゃないだろうな?」
「いや、そんなんじゃないよ」
光太郎は苦笑して否定する。そこにエプロン姿のイヴがお皿にハンバーグを乗せてちょこちょこと歩いてきた。
「光太郎、私、スヴェンに教えてもらってハンバーグ作ったの。上手に出来たよ」
「おお、凄いじゃないか。スヴェンって料理できたんだな」
「…むぅ」
頬を膨らませるイヴ。それを見てスヴェンは光太郎に「俺じゃなくてイヴを褒めてやれ」と耳打ちした。
「イ、イヴ!」
「ん…?」
「こんなに美味しそうなハンバーグを作れるなんて凄いじゃないか! 俺はこんな食欲をそそるハンバーグは今まで見たことないぞ? イヴは料理の腕も最高なんだな! 将来の旦那さんはすごい幸せ者だと思うぞ!」
光太郎は焦って思い浮かぶ言葉でイヴを褒めた。
「やり過ぎだ」と頭を抱えるスヴェンをよそに、喜ぶイヴ。そしてその言葉を聞いた一同が自慢の料理コンテストを行う事になり、テーブルには多くのメニューが並ぶ事になった。そして『第一回料理自慢お嫁さんにしたいコンテスト』の結果、シャルデンが優勝を飾った。
再び料理の腕を上げて第二回のコンテストに燃える面々だったが、この日の食費は通常の4倍に膨れ上がり、スヴェンから開催中止を余儀なくされてしまった。
「なんだ、どっか行くのか?」
バイクを出してきた光太郎にトレインがそう聞いてきた。その声を聞きつけ、イヴ、セフィリア、キョーコがやってきた。その3人がやってきたのを見て、トレインは「いつも聞き耳たててそうでこええよ」と身震いする。
「ああ、ちょっと頼まれたことあってさ。少しだけ行ってくるよ」
「光太郎、私も行く」
「コウ様、私も行きますよー。シャルデンさんの言う通りいつも傍に!」
「キョーコさんが行くのなら監視役の私もご一緒しないといけませんね」
3人はそう言うが、光太郎は困った表情を浮かべてしまう。ティアーユの真意を問いただしに行くのだ。それが最悪なものだった場合、できればイヴにはこのまま何も知らせずにいたい。
「みんなには悪いけど、今日だけはひとりで行きたいんだ。頼むよ」
光太郎は3人にそう告げる。
「危険は無いのですか?」
「ああ」
「分かりました。キョーコさん、私が行けないのであなたもダメです。監視下外に行かれては困りますからね」
「えっ、ちょっとそれは横暴っスよー!」
一番最年長のセフィリアが光太郎の気持ちを汲んでくれた。そして未だ未練の残っているキョーコを引きずって家の中に入っていく。
イヴは動こうとしなかった。これからどうなるのだろうとトレインは場を見守っている。そしてイヴが口を開く。
「私がいると…邪魔……?」
「違うんだ、そうじゃない。俺はイヴをそんな風に思ったことなんてない。いつだって大切に思っているよ。それに約束したろ? 俺はイヴを置いてどこかに消えたりしない。イヴの元に、ちゃんと帰ってくるよ!」
過去にした約束を思い出すように、光太郎は小指を差し出した。イヴも自分の小指を見つめる。そしてコクリと頷く。
「分かったよ、光太郎。私…光太郎の帰ってくる場所をちゃんと守っておくよ」
「ああ、頼もしいな」
そう光太郎は笑う。
イヴは光太郎に背を向けて家の中に向かう。
「私…何となくだけど、光太郎は女の人に会いに行くんじゃないかって思ったの」
「………」
「これも何となくだけど、金髪のお姉さんで、おっとりとしたタイプの美人な女の人に会いに行くような気がした…」
「………」
冷や汗を流す光太郎。
ギギギギと硬直しながらバイクに跨る。
「それじゃ、行ってくる!」
光太郎はエンジンを吹かして逃げるように走って行ってしまった。
その場にイヴと共に残されたトレイン。イヴは未だに家の中に戻ろうとしない。心中は何を考えてるのか、それを探るのも怖い。
「な、なぁ姫っち。さっきやけに具体的だったけど、女の勘ってやつか?」
トレインにそう聞かれ、イヴは懐から写真を取り出した。それはリンスが光太郎に送ったあの写真である。
「光太郎のズボンのポケットに入ってた。昨日リンスからわざわざ連絡があって、FAXも使ってた。何かあったんじゃないかと思って探してみたの。多分、光太郎はこの人に会いに行ったんだと思う。私にそっくりなこの女の人のところに」
「姫っち、マジこわいぜ…」
イヴはくるりと身を翻し、光太郎が走り去っていった方向を見つめた。トレインは嫌な予感がしている。
「あの…姫っち? 光太郎とも約束したし、中で俺と一緒に大人しくしてようぜ?」
「トレイン、よく思い出して。光太郎は私の元に帰るって言った。別にそれはこの家じゃないよね? それに私、追いかけないとは一言も言ってないよ」
イヴはそう言って背中を光らせた。
トランス・
イヴの背中に天使の羽が生える。
そして勢いよく飛翔していってしまった。
暫く青空を見上げていたトレインだったが、今更どうしようもないと開き直ってスヴェンたちを説明する。すると「なぜ止めなかったのですか、ハートネット」と久方ぶりにセフィリアのプレッシャーをぶつけられたのだった…。
ティアーユの元に向かう光太郎。
そして知る。ティアーユとイヴの関係を。
そんな時、スヴェンから連絡が入った!
次回 『私が生まれた意味』
ぶっちぎるぜ!!