転生・太陽の子   作:白黒yu-ki

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光太郎とひとつになって得た力

星の使徒の古城。

そこで眼帯紳士スヴェンはエキドナを相手にし、なかなか自分の射程距離に近付けずにいた。

 

エキドナの能力はGATE()

その能力で空間を越えて離れた場所に刃物を持った腕や爆弾、銃弾などを出現させてくる。しかもそのどれもが死角から行われるのだ。並の人間ではそれに気づく前に御陀仏だ。

しかしスヴェンも光太郎程ではないにしろ、並の人間ではない。今のスヴェンは眼帯を外し、両の目でバトルフィールド全体を注視していた。

 

全ての攻撃がかわされているエキドナは唇を噛んだ。

 

「どうやら偶然じゃないみたいだね。何だい、その目は」

 

「こいつは俺の親友からの貰いもんさ」

 

スヴェンの右目は普段眼帯の下にあり、滅多に使用しない。

この右目はかつて捜査官時代の相棒であり、親友でもあったロイドの忘れ形見だ。ロイドはこの目の特殊能力『予見眼(ヴィジョンアイ)』を使い、数々の危機を脱してきた。対象の人物の数秒先の未来を映し出すこの眼のおかげで、スヴェンはエキドナの数々の死角からの攻撃を避けることができていたのだ。

しかしそんな情報をわざわざ敵に教えてやるスヴェンではない。この能力は欠点もあるのだ。この能力は体への疲労が半端ではない。普段眼帯をしているのもその為だ。その為にこの戦いも長引かせる訳にはいかない。

 

「女に銃を向けるのは性分じゃねえが…」

 

スヴェンは銃を手にエキドナに向かって駆け出した。

 

 

 

 

◆◇◇◆

 

 

セフィリアの手の中で淡い光を放つサタンサーベル。

剣士としての技量から、この剣が凄まじいポテンシャルを秘めていると感じ取っていた。それは過去に自分が愛刀としていたクライストよりも遥かに上の力。あの人が以前私との戦いで使ったあの光の杖に勝るとも劣らぬ力だ。

 

そしてセフィリアは確信する。

 

「クリード、大人しく降伏しなさい。この剣は…痛いですよ?」

 

しかしそんな忠告を聞き入れるクリードではない。

 

「どんな能力を使ったのかは知らないが、その剣がどんなに硬かろうが、僕の幻想虎徹(イマジンブレード)は精神の剣だ。僕の心が折れぬ限り決して折れる事はない! そんな剣で僕の幻想虎徹に勝てると思うか!!」

 

クリードの生きた剣は、剣とは思えぬ軌跡を描いて切っ先がこちらに迫る。セフィリアはサタンサーベルを足元に振るった。

 

 

 

その風圧でクリードの足元の大地が割かれる。体勢を崩したクリードは剣をセフィリアに突き刺すことも叶わず、片膝をついた。

 

「すっげえ…」

 

トレインは目を丸くしていた。あの剣が何なのかは知らないが、あの剣を持ったセフィリアとは決して敵対したくないと苦笑する。だがその恐ろしい剣を前にしても、クリードの眼に絶望はない。

 

「幻想虎徹…LV3…」

 

小さくそう呟く。クリードの剣は光り輝き、立ち上がるその姿はまた異形であった。剣と右腕が一体化しており、先程よりも強烈な威圧感を放っていた。

 

「…セフィリア…君は殺すよ」

 

「クリード、あなたを無力化します」

 

瞬間、二人の姿は消える。その高速の動きはトレインであっても完全には捉えきれていなかった。セフィリアはともかく、クリードはあの状態になって更に動きが速くなっている。

 

そしてその上空で、リオンの一撃を受けて城の屋根に叩きつけられたイヴの姿があった。

 

「…くっ」

 

「やっぱりお前じゃ俺には勝てねえよ。諦めたらどうだ? 今なら俺がクリードさんに言って、お前だけでも見逃してもらうよう伝えてやるぜ?」

 

ボードに乗ってイヴを見下すリオン。確かにイヴでは翼を使ってもリオンのような旋回能力には敵わない。しかし光太郎の為にも、この戦いは負けられない。光太郎が初めて、自分を頼ってくれたのだから。

 

「私は…諦めない…!」

 

「…へー、あっそ」

 

リオンは手刀を振るう。リオンの能力は『AIR(空気)』。その能力で真空の波を発生させる。その真空波がイヴを襲うも、間一髪でイヴは自らの体を鋼鉄化させることで防ぐことができた。

イヴは自らの弱点を把握している。自身のトランスは長時間扱うことができない。現在の連続使用は1分弱という制限がある。それ以上のトランスは体が保たず、強制解除されてしまうのだ。その為、リオンのようにずっと空中にいることはできない。羽根の弾丸を撃ち込んでも軽く避けられてしまう。

 

そんな手詰まりな状態のイヴを見て、リオンは自らの勝ちを確信する。だがあの女は妙にムカつく。自分の最強の技で終わらせてやると、風を操り、自身に纏わせた。

 

「…これは俺の最強の必殺技だ。命中すれば岩盤だろうが粉々だ。お前のそのチンケな体じゃ耐えれないぜ?」

 

リオンは最後に、と降参を勧めるが、イヴはそれを拒否した。

しかもその表情は笑みすら浮かべている。その余裕のある表情にリオンはイラつきを覚えた。

 

「ちっ、とっとと消えろぉぉぉぉ!!」

 

自身を台風にして突っ込んでくるリオンにイヴは全身の力を抜いて微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヴのトランス能力って便利だな」

 

特訓中、光太郎は私にそう言ってくれた。

光太郎に褒めてもらうのは嬉しい。

 

私のトランスはあれから色んな本を読んで、幅が広がってはいる。しかしそれでも試合で光太郎やセフィリアさんに一度も勝つことができなかった。(セフィリアさんも変身した光太郎には一度も勝てていなかったけど)

 

それを思って落ち込んでいる私に、光太郎は何か考え事をしていた。

 

「光太郎、どうしたの?」

 

「ん? いや、俺のアレもトランスに近いのかなって思ってさ」

 

「…RXへの変身?」

 

「いや、それとは違うんだ。そういえばこの世界に来てからなったことなかったな」

 

光太郎はそう言ってRXに変身した。この姿は何度か見ている。しかし光太郎が言うには他の姿にもなれるらしい。

 

そして光太郎はその姿を私だけに見せてくれた。

いつもの黒い姿でなく、青い仮面。

 

「これが、バイオライダーだ」

 

どうやら名前も変わるらしい。RXという名前のままじゃいけないのか疑問を投げかけてみると、どうやら光太郎本人もよく分かっていないみたいだったけど、そういうものと納得しているらしい。

 

 

そして「見ていてくれ」と言ったバイオライダーは見る間に体を溶かしていく。溶かしていくという表現が正しいのか自信はなかったけれど、ゲル状の何かに変わってしまった。そしてまた元の状態に戻る。

 

「こういうトランスもできるかい?」

 

「…分からない」

 

今までも体の一部を鋼鉄化したり、天使の羽を生やしたりはしていた。でもそれは物質変化の領域の範囲であって、液体のようなモノにトランスできるとは思えなかった。光太郎の期待に応えれないと思い、俯いてしまっていると、バイオライダーの手が自分の手を包んだ。

 

「光太郎?」

 

「無理に覚えてもらおうとは思っていないよ。ただ、万が一のためにこれができるようになれば、イヴが怪我する危険が少しでも減るんじゃないかなと思ってさ」

 

バイオライダーの手がゲル状化する。私は目を閉じてバイオライダーを感じ取る。私はいつも無意識にトランスの能力を使っていた。それが当たり前であると、何気なく体を変化させていた。でもそうじゃない。私の中のナノマシンが体の構造を変化させているんだ。いつもは意識していないけれど、意識的に私の中のナノマシンに命令を送るとどうなるか。

まずは自分の手が水になるイメージを浮かべる。

分子を変化させ、結合させ、その1つ1つを網目状にトランスさせる。目を開けると、私の手はバイオライダーと同じように透明化していた。

 

「その調子だ」

 

バイオライダーの暖かな声が響く。

そして、私の体をバイオライダーの体がゆっくりと包む。

 

「俺からもサポートするよ。だからゆっくりと覚えていこう」

 

「…うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

台風がイヴの立っていた場所に直撃し、採掘機のように抉れる。

 

しかしそこにイヴの姿はなかった。「避けられた?」と周りを見渡すも人影はない。だが、そこでリオンは見てしまった。足元に絡む液体を。

 

その液体が自分の体を一気に包み込んできた。

 

「な、何だよコレ!」

 

リオンは咄嗟にボードを浮かせようとするが液体は空中へ避難した自分に纏わりついて離さない。

 

その液体は自分の体を全部覆い尽くし、呼吸すらできなくなる。そのショックで能力のコントロールが上手くいかず、リオンは落下した。

 

リオンに纏わりつくもの。それは液体といってもゲル状な物質に近かった。

 

「降参して」

 

イヴの声がリオンの耳に届く。

 

まさか、これはさっきの女が変化した姿なのかよ!

 

「そうだよ。これが光太郎が私と1つになって教えてくれた力。あなたの攻撃は…もう私には通用しない」

 

ふ、ふっざけんな!!

 

リオンは精一杯の力を込める。リオンを中心に発生した風がゲル状のイヴを引き剥がした。ゲル状のイヴはリオンから少し離れた場所に落ち、元の姿に戻る。

 

息を切らすリオン。リオンにとって目の前のか弱そうな少女はとても恐ろしいモノに映っていた。人の形をした何か…。そうとしか思えない存在に、リオンは立ち上がるも膝が震えていた。

 

「…化け物め」

 

「…それでもいい。光太郎と一緒にいられるなら、それでもいいよ」

 

イヴはリオンに向けて駆け出す。リオンは恐怖からボードに乗って空中へ避難する。この空は自分の領域だ。この場所にいれば、自分は最強なんだ!

 

大空へ辿り着いたリオンは安心感からホッとして、イヴがいるであろう大地を見下ろす。しかし失念していた。あの女も飛べたのだ。

 

トランス・天使

 

翼を広げて一直線にこちらに飛びかかるイヴに、リオンは悲鳴をあげて真空波を放つ。

 

トランス・ゲル化

 

一瞬で体を変化させるイヴ。その状態のイヴに真空波が当たるも、何のダメージも見えずに通り抜けてしまった。

 

「ウソだろ!?」

 

驚くリオンの真上で止まるイヴ。

 

トランス・鋼鉄化

 

体を鋼に変え、リオンを抱えて地上に落下する。いかに自身を浮かせることのできるリオンでも、重たい鋼を持って浮上することは困難だった。地上に落下したリオンはそのショックで気を失った。

 

 

イヴのゲル化はバイオライダーのように万能ではない。連続使用は1分しか保たないし、打撃や銃弾の類は通じないが、炎や電撃などにはダメージも負ってしまう。バイオライダーのゲル化分子はイヴのナノマシンでは再現不可能であった。でもいつかは、私も光太郎と同じくらいの強さを身につけたい。

 

あの人に並び立つ為に…。

 

 

イヴがそう決意して空を見上げると、ちょうどそこには城の壁を突き抜けてきた大男が空の彼方へ飛ばされるところだった。大男の姿は次第に見えなくなる。心なしか泣いていたように見えた。あんなことができるのは世界中を探しても光太郎しかいないだろう。

 

しかし星の使徒のメンバーは捕まえる予定のはずだったのだが、お星様にして良かったのだろうか。またどこかで悪さをしないだろうかとイヴは心配していたが、空の旅に出ていたマロは「南光太郎こわいRXこわいゴメンナサイもうしません」とブツブツ呟いていたので、恐らく問題ないであろう。




見事リオンに勝利したイヴ!

セフィリアもサタンサーベルを駆使してクリードを追い詰めていく。

そしてセフィリアの剣がクリードを捉えた瞬間、謎の男がそれを阻む!!

次回 『現れた謎の男ダロム!』
ぶっちぎるぜ!!

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