やめてくれ信彦…。
これは…夢か。
俺は何もない真っ白な空間に立ち尽くしていた。夢の中にあっても夢と分かる瞬間がある。あまりにも現実離れしていたりするとたまにそう感じる。以前イヴが言っていたが、夢の中で新聞を手に取るとハッキリするそうだ。夢の中は自分の記憶が創り出したもの。なので新聞に載っている情報は自分の知っていることのみか、空白になってしまうという。
しかし今の状態はあり得なかったことが起きていたからこそ、夢だと判断した。その真っ白な空間に浮かぶ黄金の柄と血のように真っ赤な刀身。光となって消滅したはずの剣がそこにあったのだ。
俺はゆっくりとその剣に手を伸ばしたところで、一度意識が途切れる。再び意識を取り戻すと、そこはスヴェンが運転する車の中だった。
「おはよ、光太郎。居眠りなんて珍しいね」
右隣に座るイヴはそう言って手に持っていた本を下ろした。
どうやらいつの間にか眠ってしまったようだ。何か夢を見ていた気がするが、思い出せなかった。
俺たちは今、スヴェンの車で星の使徒がいるであろう街に向かっている。確証はないが、少しでも可能性があるのなら調査しなければならない。これ以上の犠牲者を出さない為にも…。
「すまない、いつの間にか寝てしまった」
「トレインなんて最初から寝てやがるんだ。気にすんな」
俺は長い時間運転をしているスヴェンに謝ると、スヴェンは隣でアイマスクをしながら寝ているトレインをチラ見してそう言った。アイマスクをしていることから、初めから寝る気だったようだ。
「スヴェン、あとどれくらいで着きそうかな?」
俺はスヴェンにそう尋ねる。それにスヴェンは「後2時間くらいか」と答えてくれた。
「それにしても、本当にその街にクリードの連中はいるのかね」
「スヴェンさん、その事なんですが、私に策があります」
スヴェンの言葉に、俺の左隣に座っていたセフィリアさんがその策というのを教えてくれた。クリードはトレインに執着しているし、俺も以前に星の使徒に勧誘を受けた。なのでセフィリアさん以外の面々が街を歩いていれば、本当にその街を根城にしているのなら向こうから接触してくるのでは、とのことだった。確かに現状ではそれが一番効果的と思われる。
「私は星の使徒に気付かれないように後をつけるつもりです」
「…そうだな、それが一番良さそうだ」
スヴェンはセフィリアさんの策を受け入れ、タバコを吹かした。タバコの煙は開けた窓から散っていった。
「あ〜、よく寝たぜ!」
街の手前に到着し、全身を使って背伸びをするトレイン。
それとは対照的に長時間の運転で疲れの見えるスヴェンの姿を見て、俺は少し休憩を取るよう提案した。星の使徒が本当にいるのなら、戦いになる可能性ある。少しでも本調子に戻さなければその疲れに足元を掬われるかもしれない。みんなも納得し、それを聞いたトレインはまたアイマスクをつけて「そんじゃ、行くときは起こしてくれ」と寝ようとしたところをスヴェンに止められる。
「お前はたっぷり寝ただろうが。戦いの前に銃のチェックでもしてろ」
「ちぇっ、へいへい」
トレインは諦めて銃を取り出してチェックを始める。トルネオ邸でも見たが、こうして改めて見ると普通の銃よりも大きく、装飾も凝っている。セフィリアさんから以前聞いたが、
「…セフィリアさん、大丈夫かい?」
「ええ。ただクライストと比べると頼りなさを感じてしまいます。速さにも剣戟にもある程度力を抑えなければならないかもしれません」
そう言ってセフィリアさんは刀身を見つめる。その姿を見て俺は申し訳なくなってしまった。
「ごめん、俺がセフィリアさんの大切な剣を…」
「あ、いえ、それは………その、光太郎さん?」
「はい?」
俺が申し訳なく視線を落としていると、セフィリアさんは何かを思いついたように近寄ってきた。
「それなら今度、私の言うことを1つ聞いてもらえませんか? あ、心配しなくても、クロノスに入って下さいとは言いませんよ?」
「…まぁ、俺にできることなら」
「ありがとうございます」
それでセフィリアさんが納得してくれるのなら何でもしよう。内容がこわい気もしたが…。
少し離れた所でトレインがイヴに怒られていた。
「トレインがセフィリアさんを受けとめてあげないから」と聞こえたが何の話だろうか。そのことを2人に尋ねると「光太郎には絶対に教えないよ」とイヴ。俺は何を仕出かしたのだろうか…。
◆◇◇◆
星の使徒のアジトの古城。
そこのリーダーであるクリードは目を閉じて昔のトレインの姿を思い浮かべていた。魔女に毒された今のトレインとは違う、自分以外のこの世の全てを憎んでいるかのようなあの冷たい眼光。邪魔となる者は冷酷に銃弾を撃ち込むその姿は、正に自分の理想像だった。強く美しく、そして正しく…。トレインを毒した魔女は退治したものの、トレインに打ち込まれた毒が消えることはなかった。
以前久しぶりに再会したトレインは冷たい眼光こそ戻りつつあったが、それでもまだ以前の君には遠く及ばない。次に会った時こそ、今の君を下し、僕が正しかった事を証明してあげなければならない。その時こそあの忌まわしき魔女の呪いが解かれるのだ!
そう考えていたクリードの部屋に、同志シキが入ってきた。
「何だい? 今はトレインのことを考えているんだ。それを邪魔しようとするならいくら君でも許さないよ」
「それはちょうど良かった。その本人がこの街にやって来ているぞ」
「何だって!?」
クリードは驚いて立ち上がる。
あぁ…ついに僕の元にやってくる決意をしてくれたんだね、トレイン! この時をどれ程待ち焦がれたことか…さぁ、トレイン! 一緒に世界を創り変えようよ!!
クリードはすぐに迎えを送ろうとするが、シキに止められる。
「待て、クリード。まずはこれを見てほしい」
そしてその場に映像を映す。
そこにはトレイン、スヴェン、南光太郎、イヴの姿があった。
「…余計なのもいるが、この男は南光太郎だったね。この男も同時にやってきてくれるなんて今日は何て素晴らしい日なんだ!」
「クリード、喜びに震えるのはいいが、この者たちがこの街にやってきた理由を考えろ」
「え、僕の同志になるためじゃないのかい?」
「お前の頭はハッピーセットか。黒猫も南光太郎も掃除屋だ。そして今のお前は懸賞金30億イェンをかけられた犯罪者だ。そちらの方が可能性が高いだろう」
シキの言葉にクリードは笑う。
「それでも同じことさ。今日こそ弱体してしまったトレインを下し、僕の傍で呪いを解くとしよう。それとも何かい? 君の自慢の
「…! 良いだろう。道の力こそ史上最強であることをこの場で教えてやろう! この力の前では時の番人とて敵ではない!」
「ふふ…期待しているよ」
シキは身を翻して部屋を出て行った。
部屋に1人残ったクリードは口角を上げる。
今日は君の呪いが解かれる素晴らしい記念日だ!!
◆◇◇◆
光太郎たちは街をのんびりと歩いていた。
「本当にこの街にいるのかね。もうかれこれ1時間は歩いてるぞ」
「ボヤくなよスヴェン。あ、あれ見ろよ!」
「…ついに来たか!」
「この街限定の濃厚ミルクアイスだってよ。食ってみようぜ!」
トレインはアイス屋の屋台を見つけて騒ぎ出す。咄嗟に戦闘モードに引き上げようとしたスヴェンは思わず「真面目にやれ」とトレインの頭を叩く。この流れだとイヴから一言ツッコミが入るんだろうなと思ってイヴの方を見た光太郎だったが、イヴはトレインの方を全く気にせず、屋台の方を見てはソワソワしていた。
「…イヴ?」
「な、なに、光太郎!」
「屋台が気になるのかい?」
「トレインみたいに子どもじゃないし…気に…してないよ?」
そう言うイヴだが、明らかに気にしているのは誰の目にも分かった。光太郎はスヴェンに無言で視線を合わせると、スヴェンはため息をついて「トレインのせいで気が抜けた。好きにしな」と許可が降りた。
「なぁ、イヴ」
「何?」
「俺、小腹空いてきたんだけど、一緒にアイスでも食べないか?」
「!」
「あ、でも子どもじゃないし、ダメかな?」
「だ、ダメじゃないよ!」
イヴは必死になって否定する。そしてアイスを4つ購入し、それぞれを手渡した。
「流石光太郎だぜ! 何も言わなくても俺の分まで買ってきてくれるなんてよ」
「何でいい歳したおっさんが昼間からアイス食ってるんだろうな…」
「美味しいかい、イヴ?」
「光太郎と一緒にアイス食べるの…久しぶり。美味しい」
4人は近くのベンチに腰を下ろす。
そしてその場にシルクハット男のシャルデンと女子高生キョーコがやってきた。
「お久しぶりデスね。南光太郎。そしてそちらは…黒猫さんでしたか?」
「お前はシャルデン=フランベルクか。ルーベックシティー以来になるか…」
「私の名を覚えてもらえていたようで光栄デス。実は我々のリーダー、クリードがあなた方に会いたがっているのデスが、お越し頂けマスか?」
「断る!」
シャルデンの誘いをトレインが一蹴した。
光太郎たちの狙いはアジトを探ることであるのに、トレインの発言は作戦を全てを台無しにするものだった。思わずトレイン以外のメンバーは発言者を見やる。
「…理由を聞いても構いませんか?」
「今はアイスを食っているからだ!」
「…………は?」
トレイン以外の全員が固まる。しかしその後すぐにキョーコが近寄ってきた。
そして光太郎の持っていたアイスをじーと眺める。
「イイっスねー。キョーコもアイス買ってきちゃうので一緒に食べましょう! シャルデンさんの分も買ってきますね!」
「いえ、私は結構デスので…」
「でもみんな食べてるのにシャルデンさんだけのけ者じゃカワイソーじゃないスか。キョーコが奢っちゃうので気にしなくてもイイッスよー」
シャルデンは本当に断っていたつもりだったのだが、キョーコの妙な優しさで全員でアイスを食べることになった。トレインとキョーコだけは気にせず食べているが、その他全員が居心地悪く「なんだこの状況」と心中でツッコミを入れていた。
アイスを食べ終え、全員は星の使徒のアジトである古城にやってきていた。通路を少し歩き、少し開けた場所に出る。そこに星の使徒と思われる6人が立っていた。そしてシャルデンとキョーコもその場に進み、こちらを見下ろした。
既にこちらは全員がいつでも戦闘態勢に移れるようになっている。そんな光太郎たちの前に、真ん中に立っていた金髪の男が一歩進む。
「やぁ、トレイン。久しぶりだね。この街に来たのは偶然かい? それとも運命かな?」
「…へっ! 偶然でも運命でもねえさ。俺は掃除屋だからな。犯罪者の前に掃除屋が現れるって言ったら、理由は1つしかねえだろ?」
男はトレインの言葉に残念そうに頭を振るう。
「やっぱりまだ魔女の毒が抜けていないんだね。悲しいよ、トレイン。こうなったら無理にでも呪いを解くしかなさそうだ。そしてトレインの隣にいる君。君は南光太郎だね? 僕はクリード=ディスケンス。初めまして」
やはりあの男がクリードだったようだ。クリードは大量殺人者とは思えないにこやかな表情を浮かべて自己紹介した。
「実は君の情報はある程度仕入れてはいたんだ。君にも星の使徒に加わってもらいたかったんだが、なかなか迎えに行けなくて悪かったね。南光太郎、クロノスが支配しているこの世界を、僕たちと一緒に創り変えてみないかい!?」
クリードはそう誘う。
確かにクロノスのやり方は間違っている。だからと言って星の使徒のやり方が正しいとも思わない。そのような組織に南光太郎は属さない。
「クリード=ディスケンス! 俺たちは掃除屋だ。だがその前に、1人の人間として、これ以上お前の悪行を目逃す訳にはいかない。俺はお前を止めてみせる!」
「そういうこった。俺はお前の隣には立たない。お前を捕らえるぜ、クリード!」
2人の叫びがその場に響き渡る。
そして、クリードは目を細めた。
そして口をゆっくりと開く。
「呪いを解くために…君を倒すよ、トレイン」
そして遂に、星の使徒との戦いの火蓋が切られた!!
ついに始まった星の使徒との戦い!
トレインvsクリード
スヴェンvsエキドナ
イヴvsリオン
RX vs 残り全員
次回 『復活! 赤き剣‼︎』
ぶっちぎるぜ!!