【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)   作:家葉 テイク

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七九話:出会いは爆発的

 予感がなかったと言えば嘘になる。

 

 魔術サイドの戦力を持つ存在。つまり、学園都市の暗部。

 

 お父様の伝手で依頼できたという『組織』に、学園都市の闇が混入しているという事実。そこから導き出される真相というのは、かなり狭い範囲に絞られるはずだ。つまり──お父様が雇った傭兵部隊が、そもそも学園都市の『闇』の手の者であるという可能性。

 

 もちろん、お父様がこの街の『闇』に手の届く人間だとは思わない。お金持ちだし計算高い部分もあるとは思うけど、そういう暗い世界の住人ではない人だし。

 おそらくは──『闇』からの干渉。護衛という名目で、俺たちに干渉しようとしているのか。アレイスターの思惑なのか別の誰かの思惑なのか、そこは判然としないが──本来であれば、その思惑に気づいた時点で俺たちはそれを『攻撃』と判断し、何らかの対抗策を練っていた()()()

 

 とはいっても。

 

 その最悪の想定は、『彼』がいた時点で崩れたのだったが。

 

 

「……………………な、なんでアナタが…………?」

 

 

 ──徒花さんに連れられてやってきた、護衛部隊の作戦本部。

 

 

「……………………。い、いやぁ、思ったより早い再会だったね、裏第四位(アナザーフォー)

 

 

 馬場さんが、そこにいた。

 

 

 


 

 

 

第三章 魂の価値なんて下らない Double(Square)_Faith.

 

 

七九話:出会いは爆発的 Friend-"A".

 

 

 


 

 

 

「さて、説明してもらいましょうか。何故、アナタ達『暗部』の人間がわたくし達の護衛として雇われているのか」

 

 

 そう言って、レイシアちゃんは椅子に座ったまま足を組んだ。

 そんな俺達の目の前には、同じように椅子に座る白髪の老人──博士と、その横で気まずそうに俺達から目をそらす馬場さんがいた。

 

 そう。

 

 あの学園都市の暗部の頂点に君臨する組織の一角、『メンバー』の司令塔である博士だ。

 つまり……俺たちが雇ったのは、ただの傭兵部隊ではなく。

 学園都市の暗部組織『メンバー』なのだった。

 

 そう考えればあらゆることに納得がいく。あの『徒花さん』も、『メンバー』の一員であるショチトルさんの変装だったのだろう。ザ・魔術な武器を使っていたのも、彼女の正体がショチトルさんだからだったのだ。

 

 

「簡単な話だ。統括理事長・アレイスター=クロウリーの指令。それだけさ」

 

 

 俺たちの問いに、博士が口を開く。

 

 

「…………アレイスター?」

 

「ふむ。その問い返しのニュアンスだと君も名前くらいは聞いたことがあるか。最近の学生は彼の名前すら曖昧だからな。結構なことだ」

 

 

 博士は感心したように、

 

 

「実は、これから数日中のうちに君が危険に晒されるという情報を上層部が察知したらしくてな。喜べ、君はアレイスターに大切に思われているらしいぞ。統括理事長直轄の我々が任務を任されるくらいだからな」

 

 

 そこまで言って、満足したように目を瞑った。必要な情報は話した、ということだろうか。

 俺も、博士の口から伝えられた情報を脳内で整理していた。

 危険に晒される……のは、まぁ分かる。超能力者(レベル5)で、まだ地盤もしっかりしてない状態で、なおかつまだ後ろ暗い実験とかの手にかかってないのが俺たちだ。美琴さんですらヤバい実験に巻き込まれた経験があるのだから、当然俺達も遅かれ早かれそういう話が舞い込んでくることは分かっていた。

 だが…………アレイスターが俺達のことを庇うというのはどういうことだろう? 俺たちは──レイシア=ブラックガードは本来の歴史では単なる大能力者(レベル4)に過ぎない。今はこうして超能力者(レベル5)になっているが、それは俺がいることによる『乖離』。つまり、プランには存在しないイベントのはず。

 浜面のことを排除しようとしたことを考えると、アレイスターってプランに関係のない存在はあんまり歓迎しないんじゃないかな……? いや、その浜面もそんなにしっかり襲われてないことを考えるとそこまで排除したいわけではないんだろうけど……。

 

 

第四位相当(わたくし)を、ですの?」

 

 

 考え込んでいると、レイシアちゃんがそう切り返した。

 気づけば小机の肘をかけとてもふてぶてしい感じになっているし。レイシアちゃん、完全に腹芸モードである。

 

 

「そこを疑問に思うか。君は随分身の程を弁えているようだ」

 

「……あ?」「言葉には気をつけなさい。自分の序列に満足しているなどとは一言も言っていませんわよ」

 

 

 レイシアちゃんがガンたれそうになったので、先んじて牽制をしておく。

 いやまぁ、別に序列なんかどうでもいいんだけど……やっぱりね、ナメられちゃうとよくないし……というか、『レイシア=ブラックガードの印象』ってわりと大事なんだなって今回の一件で学んだから。

 確かにのほほんと笑って過ごせてたらそれが一番いいんだけど、締めるところは締めないと、組織のボスである俺がナメられたら組織全体に不利益が出ちゃうから。

 

 

「これは失礼。ただ、疑問の着眼点としては優秀だと言っておこう」

 

 

 博士も雇い主の不興は買いたくないのか、お手上げとばかりに両手を挙げる。

 

 

「正直なところ、私も詳しい話は知らないのだがね。どうもアレイスターは、君に序列を外れた価値を見出しているようだ。第一候補(メインプラン)への当て馬にするつもりか、あるいは全く別のプランを並行させているのか……」

 

 

 それきり、博士はどうも自分の世界に入ってしまった。

 うーむ。とりあえずアレイスターの思惑によって期せずして暗部の助力が得られたということは分かったが……肝心の『身の危険』については良く分からなかったな。

 まぁ博士もそんなに話さないってことは詳しく分かってるわけじゃないんだろう。

 

 

《えーと……この後って確かヴェントが襲ってくる事件だったよね。確か……〇九三〇事件》

 

《……でも、ヒューズ=カザキリはもう既に発現しちゃいましたわよね? 流石に一方通行(アクセラレータ)冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)先生も対策を練ってくるのではないかしら》

 

《……ってことは、もしかしてその穴埋めの為に俺の能力が狙われる……とか?》

 

《あー、考えられますわね。……でもそれってむしろ狙うのはアレイスターの方ではないかしら? わざわざわたくしに子飼いの戦力を与える意味が分かりませんわ》

 

《確かに…………》

 

 

 うーん、まだ全体的に情報が足りてない気がするな。

 せっかく暗部の人たちと協力関係にあるんだし、そのへんについては暗部の情報網とやらをうまいこと使わせてもらって、ついでに調べてみようか。

 ……暗部の情報網といえば、そういえば今まさにその情報網を使ってインディアンポーカーの開発者を調べてるんだったよね。そういえばこっちに来てから徒花さんの姿を見ていないけど……。

 っていうか、徒花さんじゃなくてショチトルさんか? ……うーむ、とっさの時に言い間違えそうで怖いし、とりあえず本名聞くまでは徒花さんと言っておこう。たぶんガワの名前なんだろうし。

 

 

「馬場さん。徒花さんは今何をしているんです? 調査の手伝いですか?」

 

「ん? ああいや、一応ここが『メンバー』の本拠地だからな。周辺の安全確認をしているはずだ。尾行されて襲撃なんてされたら堪ったものじゃないからな。…………ただ、ちょっと遅いな」

 

 

 確かに。もうこっちに来てからかれこれ三〇分は経つ。周辺の安全確認なら一〇分やそこらで戻ってきそうなものだが……。

 …………もしかして、何か面倒ごとに巻き込まれた?

 

 そこまで思い至った俺は、すぐさま立ち上がる。

 その意図を察した博士が、俺たちの動きを手で制した。

 

 

「いや結構。私が駒を動かそうじゃないか」

 

「ロボットですか? 徒花さんがもしも面倒に巻き込まれているなら、この時間まで手古摺っているということ。彼女を手古摺らせるような相手は機械人形程度では心もとないでしょう。わたくしと馬場さんで様子を見てきますわ」

 

「え!? 俺も!?」

 

 

 だって、現状の最高戦力って俺達を馬場さんがアシストしてくれる形だしね。何事もなければ良し、もしも敵襲だったら速攻で徒花さんを拾ってから本拠地移転。どちらにせよ馬場さんを引き連れてやった方がずっと安全だ。

 

 

「依頼主たってのご希望だ。馬場くん、行きたまえ。……それに、超能力者(レベル5)のスペックを把握できる貴重な機会だしな」

 

「この程度で測れるほど底の浅い器だとでも?」

 

 

 レイシアちゃんはそう言って、博士に背を向ける。

 

 

「精々、底の深さに絶望しないことですわ」

 

 

 


 

 

 

 時は遡り──ショチトルが周辺の安全確認に出た直後。

 メイド服に身を包んだショチトルは、油断なく周囲を警戒しながら、少しずつ周辺の安全を確認していた。

 ショチトルも戦闘職ではないとはいえプロの魔術師である。尾行されるような愚は犯していないし、ここまでは順調だった──のだが。

 

 ドッゴォォオオオオオン!!!! と。

 腹の底に響くような『爆』音と同時に、捨てられたビルと思しき廃墟の一角が吹き飛んだ。ちょうどその隣のビルにいたショチトルが慌てて窓から様子を見ると──どうやら、近くにある陸橋からワゴンが何らかの爆撃を行ったらしい。ワゴン自体は陸橋を降りて高架下に向かっているようだが……。

 

 

(……下部組織に対する攻撃か?)

 

 

 最悪の可能性の一つが脳裏をよぎるショチトルだったが、通信にはそれらしい混乱は生じていない。加えて、どうも騒ぎの規模が小さい。『メンバー』の下部組織に襲撃を仕掛けられたなら、あの程度では済まない。もっと蜂の巣をつついたような騒ぎになっていたはずだ。

 

 

(とすると、かなり心臓に悪い偶然ではあるが、全く無関係の組織同士の小競り合いか──)

 

 

 ひとまず警戒度を下げたショチトルだったが、次の瞬間さらなる驚愕に心臓を鷲掴みにされることになる。

 窓から視線を落として、今の爆撃で攻撃されたであろう組織の様子を確認すると────金髪の少女が、車に積まれた黒髪の少女に『何か』をしているところだった。

 問題は、その黒髪の少女である。

 ショチトルの記憶が確かなら、彼女の名前は──佐天涙子。

 

 

「…………ハァ。あのバカはまた厄介なことに巻き込まれているのか。知らんぞ、私には関係のない話だ」

 

 

 嘆息し、メイド服の裾を翻してショチトルは窓から背を向け、

 

 

「……………………~~~~っ」

 

 

 そして次の瞬間、窓枠に足をかけた。

 

 

「あの馬鹿野郎、起きたら一発ぶん殴る!!」

 

 

 躊躇なく飛び降りたショチトルは、手の中にアステカの石鋸──マクアフティルを発現し、金髪の少女の背後に降り立つ。

 金髪の少女は緩慢な動作で振り返ると、今まさに修羅場を終わらせた人間とは思えないくらいのんきな声色で話し始める。

 

 

「なになにぃ? 結局、もう新手が来たって訳ぇ?」

 

「…………ソイツは回収させてもらうぞ」

 

 

 言葉のやりとりはそれ以上なかった。

 

 暗部の、戦闘が始まる。

 

 

 


 

 

 

 先手を打ったのは金髪の少女だ。驚異的な身のこなしでショチトルに肉薄した少女は、突進の勢いそのままに体を回転させ、回し蹴りを叩き込んでくる。

 蹴りに何か仕込んである可能性を考慮したショチトルは、あえてそれを受けずに飛びのくことで攻撃を回避する。

 

 

「おろっ?」

 

 

 そしてその判断は正解だった。

 空振りした回し蹴りはそのまま地面へと着地したのだが、そこでボンッと爆竹が破裂したような小爆発が発生したのだ。もしも剣で受け止めていたなら、爆発の衝撃で大きく体勢を乱されていたことだろう。

 

 

(蹴りに爆発……爆弾使いということか? しかし肉弾戦に爆撃を織り込むとは酔狂な……)

 

 

 目の前の敵の脅威度を上げつつ、ショチトルは油断なくマクアフティルを構える。

 ショチトルはもともと戦闘職ではない。本職は死者の言葉を聞くカウンセラー的な術師で、戦闘に応用できるような術式も殆どない。

 今の彼女が使っているのは潜入にあたって開発した付け焼刃の身体強化術式で、マクアフティルも手に馴染んだ武器とは言い難い。

 

 

(ただ、強化した腕力でマクアフティルを叩き込めば大抵の人間は行動不能に追い込める。硬度も申し分はない。爆撃を凌ぎながら胴体に一撃……いけるか?)

 

 

 相手の身のこなしを考えると、大振りなショチトルは分が悪いだろう。

 下手に攻勢には出ず、基本的に守勢に入りつつ敵が焦れるのを待つ戦法を選び取るショチトルだったが──、

 

 

「自分から進んで後手に回ってる時点で、五割負けを認めてるようなモンって訳よっ!!」

 

 

 シュゴッ!! と。

 少女がどこからともなく取り出したロケット弾が、ショチトルめがけて突っ込んでくる。とっさにマクアフティルで受け止めかけたショチトルだったが、そんなことをすればマクアフティルを起点とした爆発によって木っ端微塵になるのは分かり切っている。

 慌てて前方へと飛び込んでロケット弾を回避したが、それもまた少女の思惑通りだったらしい。ロケット弾はショチトルのすぐ後ろに着弾し、ただでさえ体勢を崩していたショチトルは爆風に煽られて倒れる。そしてそこに、右足を振りかぶる少女がいた。

 当然、次の攻撃など分かり切っている。

 

 

「ぎッッ…………!!」

 

 

 腹に蹴りを叩き込まれたショチトルは、声なき悲鳴を上げながら地面をゴロゴロと転がっていく。肺の空気が一CC残らず絞り出されたかのような苦痛を味わうが、のたうち回っていてはその時点で終わりだ。ショチトルは必死の思いで地面を転がりながら体勢を整え、マクアフティルを杖代わりにして起き上がる。

 そうして前を見据えた頃には、すでに金髪の少女はショチトルの懐に潜り込もうとしていた。

 

 

「…………!! この……!」

 

 

 ギン!! とマクアフティルを構え、金髪の少女の掌打を防ぐが、当然手負いのショチトルに防ぎきれるほど少女の攻撃も温くない。少しずつ、だが確実に削られながら、ショチトルは考える。

 

 この窮状を打開する手段自体は、ショチトルにもあった。……だが、それには代償が伴う。彼女の目的は、この学園都市に潜んでいる『裏切者』の始末。ここで力を使いすぎれば、いざというときに『身が持たない』可能性もある。

 とはいえ、ここで殺されてしまえば使命どころの話ではない。そもそも、マクアフティルだけでこの爆撃少女を倒すにはあまりにも練度が不足している。

 

 

(やるしか、ないか……!)

 

 

 逡巡の末、ショチトルが術式の発動を決意した、ちょうどそのとき。

 

 

「──どうやら、取り込み中のようですわね? 徒花さん」

 

 

 二人の間を遮る一陣の暴風によって、戦闘は中断させられた。

 見上げると──白と黒の翼をはためかせる金髪の少女、レイシア=ブラックガードが空高くから舞い降りているところだった。

 

 

 


 

 

 

 フレンダさんやんけ!!!!

 

 ……その戦場を見たときに俺が思ったのは、そんな言葉だった。

 いや、ツッコミどころが満載すぎなんだよ。なんで徒花さんとフレンダさんが戦ってるの? なんで車の中に佐天さんが積まれてるの? なに、フレンダさんが佐天さんを誘拐? じゃあ周りで倒れている悪そうな男の人たちはいったい? そもそもなんで徒花さんは戦闘なんかしてるの???

 分からないことが多すぎたが……ともかく、俺としてはさっさと戦闘を終わらせないといけない。そして穏便な形で決着をつけないといけない。ただでさえ身の危険とやらがこのあと控えているというのに、今からアイテムとも喧嘩なんて絶対に御免である。

 

 

「…………ま、さか……白黒鋸刃(ジャギドエッジ)!? なんで超能力者(レベル5)がこんなトコに……!!」

 

 

 フレンダさんは迷わず佐天さんの方に走ろうとしたので、俺は即座にその間に『亀裂』を伸ばしてゆく手を遮る。

 

 

「……質問します。佐天さんを誘拐したのはアナタですか?」

 

「………………は?」

 

 

 問いかけてみると、フレンダさんはポカンとした表情で声を上げた。

 …………あー、これなんか誤解があるな? 徒花さんもポカンとしてるフレンダさんを見て怪訝そうな表情をしてるし。

 

 

《これたぶん、この倒れてる男たちに佐天が攫われたのを、フレンダが助けたというところではないかしら? 徒花はおそらくその一部始終を見て誤解したか、居合わせたフレンダに敵と認定されたか……どちらにせよ行き違いのような気がしますわ》

 

《俺も同感。……しかし、どうやってここから二人に矛を収めてもらおうか……》

 

《あら? 簡単なことですわ》

 

 

 そう言うと、レイシアちゃんは『亀裂』を発現したままワゴンに積まれている佐天さんの拘束を取り外し、ペシペシと顔を叩く。

 

 

《『共通の知人』に仲立ちしてもらいましょう》

 

「佐天。起きなさい、佐天。寝ぼけているんじゃありませんわ。ほっぺを引っ張りますわよ」

 

 

 ほっぺを引っ張りながらそんなことをレイシアちゃんが言っていると、さすがに痛みを感じたのか、佐天さんが目を覚ました。数秒ほどぼけっとしていた佐天さんだが、やがて意識がはっきりしてくると、自分の置かれた状況の異常さを認識したらしい。

 

「なッ? ここ……なんであたしこんなとこに!?」

 

「あー、そういうのはいいんですの。ひとまずこっちにいらっしゃい」

 

 

 腕を掴んで引っ張り上げると、佐天さんは足をもつれさせながらも二人の前まで歩いていく。徒花さんと、フレンダさん。二人の少女を見た佐天さんのリアクションは分かりやすかった。

 

 

「あれ……フレンダさんと……大覇星祭で助けてくれた人!」

 

 

 ……なるほど。そういう繋がりがあったのね。

 

 

「佐天さん、二人との関係は?」

 

「え? あ、はい。こっちはこないだ知り合ったフレンダさんって方で、こっちは……えっと、大覇星祭のときに危ないところを助けていただいて」

 

「あー、んー? ……えっと、なんかお知り合いっぽい雰囲気? よかったよかった、それじゃー私は結局これで退散って訳で……」

 

 

 と、紹介してもらったところでフレンダさんがそそくさと撤退を始めようとしていた。

 ……うん、まぁ向こうが退いてくれるならそれでいいんだけども……。

 

 

「待て。貴様、どこの組織の人間だ」

 

「うぐっ」

 

 

 ……まぁ、行き違いだろうとなんだろうと、戦闘してしまった相手をそのまま見逃すというわけには、いかないわけでして。

 

 

裏第四位(アナザーフォー)。ここに留まっていたらこの倒れている男たちの追手が来そうだ。いったん全員まとめて本拠地に連れて行った方が得策じゃないか?」

 

 

 と、そこで少し離れたところで待機してもらっていた馬場さんがやってきて提案してくれる。

 うむ、確かにそうだな……。どこの組織の人間だか知らないし、佐天さんを誘拐して何がしたかったのかもわからないけど……とりあえず追撃前に体勢を整えておくべきだ。

 

 

「ちょ、勘弁してよ! アンタ達に巻き込まれて追撃なんて御免なんだけど!? 結局、ソイツを保護してくれるなら私は別にかかわらなくてもいいし、帰らせてもらうわよ!」

 

「いや…………」

 

 

 しれっと逃げようとするフレンダさんの目の前にさらに『亀裂』を打ち込みながら、俺はある種の悲しみを感じながらフレンダさんに言う。

 

 

「……そもそも、彼らを倒したのはアナタなのですから、当然報復対象にはアナタがロックオンされているのでは? なら、わたくし達と行動を共にした方が安全だと思うのですが」

 

「………」

 

 

 たぶん、フレンダさん的には俺達(というかよその暗部組織である『メンバー』)と行動を共にしてると、上司の麦野さんにお叱りを受けてしまうとか、そういうことを気にしているんだと思うけど、かといって一人で敵組織の報復を受ける危険性を考えると……当然、選ぶ選択は一つだけなわけで。

 

 

「……………………………………」

 

 

 青い顔をするフレンダさんに、口には出さず、俺は心の中だけで呟いた。

 

 

《オシオキカクテイ、だね……》

 

《オシオキで済めばまだマシではなくて?》

 

 

 ……レイシアちゃん、言ってやるなよ……。


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