【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)   作:家葉 テイク

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今回冒頭のやりとりは「おまけ:身体検査の話」のラストの話になります。


  第二章 二者択一なんて選ばない PHASE-NEXT.
六二話:二日目


《……その、シレン。話は変わるんですけれど》

 

 

 

 夢を見た。

 

 身体検査(システムスキャン)の日の夢だ。

 塗替についての詳しい話を初めてされた日の終わりに──レイシアちゃんは急に、こんなことを言い出した。

 

 

《シレンは、もしもわたくしが本当にどうしようもない、最低最悪の女だったら……どうしていましたか?》

 

 

 それは、一つの思考実験。

 当時は、そう思っていた。だが──実際に塗替斧令という男と相対して、その破滅を見届けた後では、少しだけ意味合いも変わってくるような気がする。

 

 

《わたくしは、シレンに救われましたわ。でもそれは、シレンの言葉を受け取れるくらい、わたくしに救いようがあったからだとも思っています。もしもわたくしがシレンの言うことに耳を貸さない、本当の意味で最悪な人間だったら……》

 

 

 俺は、レイシアちゃんに手を差し伸べた。

 そしてレイシアちゃんは、差し伸べられた手を掴み取った。

 

 でもそれは、レイシアちゃんに手を掴む意志があったことに加えて、差し伸べた手を掴もうと思える材料が揃っていたからこそ実現したことなんだよな。

 たとえば俺がアレコレ頑張っていなければ、ただ手を差し伸べたところでレイシアちゃんは掴もうと思わなかっただろう。

 むしろ、差し伸べられた手は振り上げられた拳に見えていたかもしれない。

 

 その時の俺は、その意味が分かっていなかった。

 

 

《それは────》

 

 

 そして確か──こう答えた。

 

 

《──差し伸べ続ける、と思う。たとえレイシアちゃんが本当の意味で最悪な人間だったとしても、それは一度伸ばした手を戻す理由にはならないだろ》

 

 

 聞かれた相手がレイシアちゃんだったから──というわけじゃない。

 きっと俺は相手が誰でも、そうすると思う。

 たとえそれが、塗替斧令であっても。

 

 そして重ねて言うが──そうして差し伸べられた手を掴み取ったのは、レイシアちゃんと俺の間に積み重ねがあったからこそ、なんだよな。

 

 では、もしも。

 

 レイシアちゃんが、それでも俺の手を掴み取らなかったら。

 待っていたって絶対に手を取らない相手に、俺はどうするだろうか。

 

 それでも諦めずに手を差し伸べ続ける?

 

 それとも……、

 

 

 


 

 

 

第二章 二者択一なんて選ばない PHASE-NEXT.

 

 

六二話:二日目 Restart.

 

 

 


 

 

 

「だからやりすぎなのよぉ!!」

 

「あ、はい。それについてはもう……」

 

 

 大覇星祭二日目。

 

 二日目の開会式(大覇星祭は一日の初めに開会式があるのだ。まぁ一日目よりは簡略化されてるけど)が始まる前、食蜂さんに呼び出された俺達は、そんな感じで半ギレ状態の食蜂さんに激詰めされていた。

 で、何でこんなに怒られてるかというと。

 

 

「確かにぃ!! 私は大覇星祭で活躍して、外野の注目力を集めてって言ったけどぉ……! 学園都市中をしっちゃかめっちゃかにしてとは言ってないわよねぇ!? これは明らかにやりすぎよねぇ!?」

 

 

 そう言って、食蜂さんは俺に携帯端末の画面をつきつけてきた。

 そこに映し出されていたのは、学園都市の有名ニュースサイトの一面である。

 

 

『新たなる超能力者(レベル5)誕生!!』

 

 

 さらに食蜂さんが画面をスライドさせると、様々な内容が出てくる。

 

 

『新超能力者(レベル5)は多重人格 新たな能力開発システムの誕生か』

 

『一人の少女が超能力者(レベル5)に至った道程 その感動の物語』

 

白黒鋸刃(ジャギドエッジ)の原理について』

 

『気になる序列は? ()()()()の意見は』

 

『新たな超能力者(レベル5)レイシア=ブラックガードの正体とは? 所属校は? 能力は? 調べてみました!』

 

 

 そして一連の記事を見せたあと、食蜂さんはデコレーションまみれの携帯端末をしまって言う。

 

 

「見て分かったでしょぉ!? 学園都市全体の注目力、アンタ一色! それどころかこのムーブメントは木原一族にまで波及していて、お陰で私の目的力もぉ……!」

 

「でもわたくし言いましたわよね。元婚約者がゴシップで攻撃してきたから、わたくしも対抗策として爆弾落としますわよ、って」

 

 

 涙目の食蜂さんに、レイシアちゃんはしれっと返す。

 うん、まぁ一応俺達も言ってはいるんだよね。その結果『まぁいいよ』って返事と一緒に名代として帆風さんが来てたという流れだから、てっきり食蜂さんもそこは承知してると思ってたんだけど……、

 

 

「爆弾どころか核爆弾じゃないのよぉ!! 新しい超能力者(レベル5)ぅ!? いや確かに能力が強化されてるのは知ってたけどぉ……超能力者(レベル5)はいくらなんでも成長力を飛ばしすぎでしょぉ!?」

 

「仰る通りで、ハイ……」「しょうがないじゃありませんの。というか、だから前以て言ってありましたわよね? ちゃんと超能力者(レベル5)云々も言ってありますわよ?」

 

「こちとらそれどころじゃなかったのよぉ!!!!」

 

 

 ああ……食蜂さんがへたりこんでしまった……。

 察するに、食蜂さんの方も別件で色々と立て込んでて、派閥からの報告をちゃんと汲み取れてなかったんだろうな。それで右から左状態でゴーサインを出していたから、予定外の爆弾で慌てている、と……。

 っていうかこの子結構ポンコツだな。なんかもうちょっとこう、冷静な感じのイメージがあったんだけど……。なんというか、過去編に出てたときの食蜂さんって感じがする。

 

 

「もうっ……! お陰で幻生の足取りは分からなくなるしぃ……!」

 

 

 …………()()

 

 

「ちょっとお待ちを。今、幻生、と?」

 

 

 幻生って……あの幻生だよな。

 木原幻生。超電磁砲(レールガン)はアニメしか見てない俺でも知ってるぞ。木山先生の上司みたいな人で、テレスティーナさんのおじいちゃんでもあるっていう。

 

 

 

「……あ」

 

「なんか口を滑らせたみたいですわね……」

 

 

 でも今の『あ』は悪手だと思うよ、食蜂さん。

 一般学生からしたら良く分からない名前かもしれないが、ある程度以上本格的な開発をやっている高位能力者なら誰しも一度は耳にするっていうくらいだしね、木原幻生。俺もこっちに来てから何度か名前を聞いたことがある。

 だから普通に流しておけば、いくらでも誤魔化せたんだけど……。そんなあからさまに情報漏洩しちゃいましたみたいな顔されちゃったらね……もうそこに食蜂さんのアキレス腱があるって判断しないわけにはいかないからね……。

 

 

「食蜂さん。あの、多分わたくし達のことは信用ならないと思っているのでしょうけど……よければ、事情を話してみてもらえませんか? その、色々と引っ掻き回してしまった償いもしたいので……」「わたくしは悪いとは思っていませんしこれが負い目になるとも思ってませんけどね」

 

 

《レイシアちゃん、流石に今の食蜂さんに追い打ちは可哀相だよ》

 

《追い打ちではなく、こういうところで『悪いことしました』って言質とられたら後から骨の髄までしゃぶりつくされるからそれを防止しているのですわ! というかシレンは脇が甘すぎ! 大派閥の長という自覚を持ちなさい! 困るのはわたくし達だけではありませんのよ!》

 

《あ、はい……すみません……》

 

 

 うう……。やはりこういう話だと立場が弱いぜ。

 でもまぁ、今回はレイシアちゃんの言うことにも一理あると思うので気を付けよう。食蜂さんも、まぁ仲良くなればそのへん大丈夫になるよね。

 

 

「………………、……まぁ、アンタがそういう方面で信用力を持ってるのは、分かっていたことだしぃ? とっても……とーっても業腹力が高いんだけどぉ、百歩譲って協力を仰いであげてもいいんだゾ」

 

「なんなんですのこの女?」「まぁまぁレイシアちゃん……」

 

 

 レイシアちゃんを宥めつつ、俺は食蜂さんに続きを促す。

 

 

「それで? 結局食蜂さんの目的というのはいったいなんなので?」

 

「……それはねぇ――――」

 

 

 


 

 

 

「……………………」

 

 

 話を聞いて、俺とレイシアちゃんは無言になっていた。

 いや、無理もないと思う。

 食蜂さんの話を総合すると、以下の通りだった。

 

 

 ──始まりは、食蜂さんの所属先の研究所。

 高位能力者というのは、学校だけでなく能力開発の為の研究所にも『所属』することが多い。それらは一般には『特別授業(クラス)』と呼ばれているが──まぁそれは建前。実態は学校教育よりも実験を優先させているわけだ。

 ちなみに、レイシアちゃんがときたまやっているHs-Oシリーズとの模擬戦もこれに該当している。

 

 そしてそんな所属研究所にて、食蜂さんは絶対能力進化(レベル6シフト)計画の存在について耳にしたらしい。

 実験稼働中は暗部の情報統制により知られていなかったようだが、実験が頓挫したことで食蜂さんの耳にも入るようになったようだ。

 ()()()()()その実験について調べていたところ、彼女は妹達(シスターズ)の身柄を探している組織の存在を発見したそうだ。

 

 それが、木原幻生。

 これは俺も初めて知ったのだが、なんとこの木原幻生、絶対能力進化(レベル6シフト)計画の提唱者だったらしい。記憶から抜けてるのか、どっかで補完された情報なのかは定かではないが……。

 

 ただ、今回は彼本人が直接動いているわけではなく、雇われを使って色々と好き勝手しているようだ。……が、妹達(シスターズ)を狙う以上、その目的は十中八九ミサカネットワークにあるとみていいだろう。

 木原一族が、それもSYSTEM研究の元老とも呼ばれていて絶対能力進化(レベル6シフト)計画を提唱した男が、ミサカネットワークを使って何かをしようとしている。そんなの、もう完全にヤバイ事態の幕開けだろう。

 なので食蜂さんも必死になってそれを抑えようとしている……らしい。

 

 

《……レイシアちゃん、これどういうことだと思う?》

 

 

 俺は、混迷の極みに立たされていた。

 

 ……………………いや、こんなエピソード欠片も知らね────し!!!!

 いやいやいや、分かってはいたよ!? 俺がいる以上いずれ世界情勢も変化して、起こる事件も乖離してくるって! 特に今回なんて大々的に超能力者(レベル5)として名乗りをあげちゃったんだから、どう考えても影響なしなんてありえないってことは覚悟してたよ!?

 でも! これは! 急すぎるだろ!

 もうちょっとこう、段階を踏んでというか、そもそもこれ俺が名乗りをあげる前から始まってた話だよね!? 俺達の乖離とか全く関係ない次元のやつじゃん!!

 

 

超電磁砲(レールガン)、ですわね》

 

《へ? 美琴さん?》

 

《そっちではなく。作品の方ですわ》

 

 

 慌てふためいている俺とは対照的に、レイシアちゃんはわりと冷静だった。

 

 

《確かシレンが前世で亡くなったときも、超電磁砲の漫画はやっていたんですわよね?》

 

《うん、まぁ……。俺は読んでなかったけど……、あ、でも確かに、大覇星祭の話をやってるっていうのは聞いたことあるかも。っていうか、食蜂さんもそこで初登場だったらしいし》

 

《であれば、そのエピソードが『これ』という可能性はあるのではなくて?》

 

《えぇー……いやいやいや、こんな大掛かりな話スピンオフでやるかなぁ? 下手したら学園都市全体を巻き込む話でしょ、これ。〇九三〇事件みたいにさ》

 

《そんなこと言ったら幻想御手(レベルアッパー)だって一万人巻き込んでるじゃありませんの》

 

 

 ……う、確かに。

 

 

禁書目録(インデックス)なんてしょせんバカ学生上条当麻の視点で進められているのですから、学園都市の細かい情勢なんて省かれてて当然ですわ。シレン、アナタあのツンツン頭がご丁寧に夕方のニュースで学園都市の情報収集をしたりするキャラに見えまして?》

 

《みえない……》

 

《まして木原がらみでしょう? 一般学生には話が降りてこないでしょうから、こういう感じで正史では描かれなかったエピソードが出てきても何もおかしくありませんわよ》

 

 ……言われてみれば。

 そう考えると、なんか考え方も変わってくるね。そうだよそうだ。そもそも『とある』ってスピンオフやら外伝やらが異常に多い作品なんだった。BDの特典小説とか全然読んだことなかったし、そこで出てきたエピソードがこの先俺達に関わってこないとも知れないんだよな……。

 そう考えると、このくらいで慌ててもしょうがないのかもしれない。

 

 

「ちょ、ちょっとぉ? ブラックガードさん? いきなり沈黙力を発揮しちゃってどうしたのかしらぁ……?」

 

「あ、すみません。少し脳内会議を……」

 

「……アナタ、けっこう不思議な感じよねぇ。二重人格というにはちょっとオカルトすぎっていうかぁ……」

 

 

 呆れたように、食蜂さんは呟く。やはり精神の専門家からすると、俺達の特性も普通の人とは違った形に見えるのかもしれない。

 

 

「ともあれ、私の事情力は今話したとおりなんだケドぉ……アナタは別に幻生のことを調べなくてもいいわぁ」

 

「それはどういう意図ですの? 超能力者(レベル5)の戦力が調査に回ることは、アナタにとっても有益ではなくて?」

 

「…………たったの一手で私の計画を台無しにしてくれたアナタがそれ言う?」

 

 

 ……ぐうの音も出ません。

 

 

「アナタが本筋に関わってたら、私の計画力が全部めちゃくちゃになっちゃいそうなのよぉ。だからアナタには、その強大な戦闘力を私の防衛に回してほしいんだゾ。ちょうど……」

 

 

 そう言って、食蜂さんは携帯端末を操作して、その画面を俺に見せてくる。

 監視カメラの映像だろうか。そこには一人の少女が映されていた。

 

 御坂美琴が、何やら電子機器を操作して何らかの調査をしている映像が。

 

 

「……御坂さんも、私の暗躍力に気付いたみたいだしねぇ☆」


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