【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス) 作:家葉 テイク
『続いては、学園都市が誇る
大覇星祭。
それは、学園都市で毎年七日間にわたって開催される、大規模な体育祭。
一般的な体育祭のそれと違うのは、大覇星祭は学園都市の全生徒が『学校単位』で参加している、という点。『白組』『赤組』という区分はあるが、学校内部で組が分かれることはないのである。
たとえば、常盤台が赤組だったら全校生徒が赤組、って具合にね。
この様子はテレビ局によって全世界に配信され、生徒の父兄は内部が一部開放される。能力による派手な競技が中継されるということもあってか、
それゆえ、エンタメ的にも毎年色々な趣向が凝らされているのがこの大覇星祭というものなのだが……今年はなんと、
その存在は、対外的には殆ど謎に包まれた存在とされている。
そもそも
そんなわけでメディアに顔出してるのは第三位と第五位、常盤台の中学生しかいないのが、今までの学園都市だった。
そう。
『だった』ということからも分かるように、今回の選手宣誓はそうではなかった。てっきり俺も美琴さんと食蜂さんがやるんだと思っていたけれど──なんと今回の選手宣誓、食蜂さんと削板さんがやることになったのだ!
確かに削板さんだったらギリギリやってもOKっぽいなとは思ったけど、まさかあの人がこんなオフィシャルな舞台に出るとは……。っていうか出てきて大丈夫な人だったとは……。
《……まぁそれ以前に、あの削板軍覇がちゃんと選手宣誓の口上を言えるかどうか、普通に心配な部分もあるんだけど…………》
《それはわたくしも思いましたわ》
というわけで。
俺達は、そんな選手宣誓がある開会式の場に、中学生代表の旗手の一人として参加しているのであった。
ちなみに、美琴さんは最初からこっちには打診されなかった。まぁ、第七位が宣誓やってる横で第三位が旗手っていうのも、美琴さんのメンツ丸潰れだからね。宣誓をやらなかった時点で美琴さんは完全に観客サイドになっちゃってるのだ。
その点、俺達は『
『選手宣誓っ!!!!』
《お、始まったね》
《……シレン、やっぱり能力の準備しておいた方がいいですわよ》
食蜂さんと削板さんの選手宣誓が始まるや否や、レイシアちゃんが心配そうに言う。
いやいや、確かにまともには終わらないと思うけど、そこまでするほどのことかね? あとレイシアちゃん、今は『重い旗持ちたくない』とかで身体の操縦俺に押し付けてるんだし、やるにしても能力の準備はレイシアちゃんがやらないとだよ。
《しっかし……どうするかなぁ、婚約破棄》
《どうするも何も、大覇星祭前に出来なかった以上、しょうがないから大覇星祭期間中にやるしかないでしょう。向こうも多少ゴネると思いますが……》
だよねぇ……やっぱ。
婚約者として大覇星祭にやって来て、そこで婚約破棄ってなったら、流石に向こうの心象も悪い。まぁ、離婚してすぐレイシアちゃんと婚約するような人だから、そこまでこの婚約にも熱心ではないと思うし、そういう意味で本気でこじれるとは思ってないけど……。
《ま、力関係的にはブラックガード財閥の方が圧倒的に上ですわ。わたくしが否と言えば、相手が従わない道理などありませんわよ》
《それがマズイんだよなぁ……》
《……む。わ、わたくしだって、もちろんアフターフォローはしますわよ? 権力でゴリ押しする
《おお、偉いぞ。レイシアちゃん》
そのへんはレイシアちゃんも成長しているというか。権力ゴリ押しでも、アフターフォローがあるのとないのとでは天と地の差があるからね。
……ただ、今回の場合俺が気にしているのは、そこではなく。
《でも、アフターフォローで『長い目で見た時の反発』は防げたとしても……『その場の衝動的な反発』まではどうかなぁって、ちょっと心配なんだよね。話を聞く限り、婚約者の塗替さんってけっこうプライド高いんでしょ? 頭に血が上って馬鹿なことしなければいいんだけど……》
《大丈夫でしょう。向こうだって立派な大人ですわよ? たかだか政略結婚の行方ひとつでキレる程、子どもではありませんわ。一応わたくしだって『美談』に仕立て上げる手伝いはしますし》
《そこんところ、レイシアちゃんの感覚は信用ならないからなぁ……》
自分の婚約の行方を『たかだか』って言っちゃうの、普通の女の子ならありえないからね。ホント、考え方がドライというか……。……いや、社交界と呼べるような場所にいる人ってたいていこんな感じなんだろうか……? 庶民だから分かんないや。
『──消えることのない絆を……絆を……絆…………えーと、次なんだったっけ?』
っ!!
そんな感じでレイシアちゃんと脳内作戦会議をしていた俺は、そこで特大の『嫌な予感』を感じて、意識を選手宣誓中の
台の上で腕を組んでいるこの街の頂点・削板軍覇は、堂々としながら、しかし豪快にレールを踏み外している真っ最中だった。
『……「消えることのない絆を頼みにして」で、』
『まぁいいや! 消えることのない絆とかの諸々は根性で吹っ飛ばしてっ!』
え、そこ吹っ飛ばしちゃっていいヤツなの!?
『……日ごろ学んだことの成果を発揮し──』
『これまでの道で出会った強敵と培ってきた根性をぶつけ!!』
『己の成長を見せることで父兄への感謝を表し──』
『まだ見ぬ強敵たちに己の根性を見せつけ挑戦状をたたきつけて!!!!』
………………なんか色々フィルターがかかった上で捻じ曲がって出力されてるような気がするんですが、これ大丈夫なんでしょうか。
っていうか、なんか削板さんの背後からなんかカラフルな気流が生み出されているような雰囲気なんですけど……これ、全開の『
《シレン、シレン。一旦下がりますわよ。あれ、多分このあと爆発しますわよ。君子危うきに近寄らずですわ》
《そうだね、レイシアちゃん……》
言いながら、俺達は持っていた旗を地面に突き立て、削板さんの背後から十分に距離をとる。
その直後。
『この大会が最高に根性の溢れた思い出になるよう! あらゆる困難障害四面楚歌無理難題五里霧中が襲い掛かろうとも────全て根性で乗り越えることを誓うぜっ!!!!!!』
ドッゴォォおおおおおおン!! と。
ちょうど俺達が先ほどまでいた場所をも巻き込むように、カラフルな爆裂が盛大に発生していた。
いっそコミカルなほどに、屈強な学生たちが吹っ飛んでいく。いやー、アレで特に大事件とかにならないんだから、削板さんの能力もわけがわからんね。仮に
で、一通りやり終えた削板さんは、そんな背後の様子を確認して、こう一言。
『……あん? なんか騒がしいな……。……まぁいっか!』
「良かないわっっっ!!!!」
その場にいた人間のツッコミが、完全一致した瞬間だった。
「あはははははは!!」
「……ちょっと夢月。笑わないでくれます?」
その後。
開会式を無事(?)に終えた俺達は、多少の休憩のあと、待機していたGMDWと一緒に競技前の待合場所で最後の調整をしていた。
……のだが。開会式の様子を中継で見ていたGMDWの面々は、おかしくて仕方がないとばかりに未だに大爆笑中なのであった。……開会からもう一時間経つっていうのに。
いやまぁ、気持ちは分かるけども。
「だっ、だってっ……! シレイシアさんっ、開会式中に、グラウンドに旗を突き立てて、そそくさ逃げてっ……あはははは!」
「燐火まで……」
どうやら、俺とレイシアちゃんの逃走劇の一部始終が、中継映像の端っこに映っていたらしい。
削板さんのインパクトがデカすぎて話題にはなっていないが、身内にはよく分かったらしく、こうしてネタにされているというわけである。
いやほんと、削板さんの様子が思いっきり中継されててよかった。下手に俺達のこと映されてたら、今頃ネットで『そそくさ令嬢』とか言われてたよ。
「──危機管理能力の高さゆえですわ。それより夢月さん、そろそろわたくし達の出番ではなくて?」
「ああ、そうでしたね。……一日目、第一競技『二人三脚』。準備の手間もかからないからってんで、期間中何度も同じ競技を使い回しやがるのはエンタメ的にどうかと思いますけど」
「そもそもが体育祭なのだからエンタメがどうとかは二の次でしょうというのはさておき……競技的にポピュラーですものねえ。……ああ、そうそう。わたくし達の後は美琴さんと転入生の婚后さんが走るらしいですわよ」
「ケッ、我々は第三位の前座ってわけですか。気に入らないですね」
「同感ですわ」「二人とも、そんなどうでもいいところで腐らない……」
普通にスケジュールの問題だよ。
っていうか夢月さん、今やすっかりレイシアちゃんの野心部分と共鳴するようになっちゃってるなあ……。まぁ俺がブレーキ役だから、派閥の中にレイシアちゃんと共感してガス抜きしてくれる人がいるのは助かるんだけども。
「一応確認しておきますわ。わたくし達と同じレースを走る対戦校はどのようになってます?」
「はいっ、第一コースは常盤台中学、第二コースが新色見中学、第三コースが霧ヶ丘中学、第四コースが静菜高校ですねっ」
打てば響くように、燐火さんが情報を伝えてくれる。
この対戦カードは公式からの発表があるまでは一般には公開されていない情報なのだが、そこはそれ。派閥の情報網というのはけっこうスゴイので、俺達はこの情報はわりと早期に掴んでいて、色々対策も準備していたのだった。
「目下のところ最大のライバルは霧ヶ丘中学ですねっ。新色見中学も研究者畑の学生がそこそこいるようですが、この競技には応用が難しそうですしっ。静菜高校は能力開発ではあまり突出した噂を聞かないですしっ、出場者も
「甘いですわよ、燐火さん。情報によると、静菜高校の出場者は
「そーですかね? レイシアさんは心配しすぎだと思いますけど」
いやいや、
あと、新色見中学は確か操歯さんのトコだったよね。まさか全身サイボーグをやった操歯さんレベルの人がうようよいるとは思わないけど、それをやれる下地があるって考えておいた方がいいかもしれないな……。
…………しかし……、
《……組み合わせ聞いたときから思ってたけど、中学生と高校生の合同競技っておかしいよなあ……》
《そうかしら? わたくしとしては、
…………一理ある。
でも、確かにそうかもなあ。
……それはそれで歪だと思うけど、
《……考えさせられるなあ、うん》
《シレンは考えすぎなだけだと思いますわよ》
…………言われてしまった。
「さ、予習復習は済ませました。あとは、本番でいい結果を残すだけですわよ、夢月」
「もちろんです! さあ、学園都市中に、そして世界中に──示してやりましょう!」
ううむと考え込む俺をよそに、前を向くレイシアちゃんは、意気揚々と言う。
世界に宣戦布告するような、そんな不敵さで。
「目の覚めるような『圧勝』で当然。魅せるは『次元の違い』。──それこそ、我ら『GMDW』だと!」