【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス) 作:家葉 テイク
「――私の話はもうした。ここからは、アンタの話よ」
操車場へと走り始めてすぐ。
美琴は、そんな話を切り出してきた。
「…………わたくしの話、ですか?」
「私は、実験を中止に追い込む為に研究所の資料を漁っていたりしてね。…………その中に、アンタの名前があった。アンタの介入を許したのも、それが原因よ」
「…………わたくしの名前、が……?」
おい、待て。ちょっと妙すぎるぞ。いったいなんで俺が――レイシアちゃんの名前がそこで登場するんだ。レイシア=ブラックガードは小説じゃ一文字も登場しない脇役だぞ? それがなんで、
「『計画失敗を誘引する危険人物』。資料には、アンタのことがそう書かれていたわ。どうやら、内容を見る限り、数式や独自の公式に基づいて出された話らしいけど……疑心暗鬼によるヒステリーのような印象を受けたわ。多分、私の研究所襲撃で現場レベルではかなりの不安があって、それで……」
「意味が分かっていなくても構いません。書いてあることを覚えていたら、そのまま教えてくださいまし」
「……分かったわ。ええと――」
美琴の話は、以下の通りだった。
レイシア=ブラックガードの能力は、このごろ急激に伸びている。これは学校側も予期していなかった予定外の成長だ。この予定外の因子が万が一にでも
それは即ち、
とはいえ、レイシア=ブラックガードを直接的に排除すれば、実験と彼女の『予定外の因子』が深く結びつきすぎてしまう。ゆえに、
これにさらにレイシアちゃん――もとい俺の予定外レベル的なモノが数値で示されていたりしていたらしいが、美琴的にはそれはもう眉唾と斬り捨ててしまっていた為覚えていないそうな。
「…………まさか、科学の最先端を行くはずの科学者連中がこんなくだらない
美琴は深い悔恨にとらわれているようだったが、俺としてはそれどころではなかった。
予定外の成長……美琴からすればそんなのは当然で、『自分の身の回りで能力が急成長している者に目を付けて攻撃をしかけないと平静さを保てないくらいに研究者たちを追い詰めてしまったんだ』……という加害妄想のトリガーになってしまっているようだが、それは違う。
何故なら――この街には
だからこそ、不安になった。研究者たちが美琴の攻撃によって不安定になっていたのは確かだが、俺が狙われた理由は、必ずしもただの思い込みだけじゃない。
…………まずいな。そんなこと、微塵も考えてなかった。
……………………。
……いや、今はこんなこと考えていても仕方がないか。とりあえず、俺が狙われた理由は理解できた。ともかく今は、この問題を解決する。そのことを考えなくては。
「いえ、御坂さんの責任ではありません。――――有象無象に畏れられるほどの才能を持っておきながら、わきの甘かったわたくしの責任ですわ!」
「……ぷっ、何よ、それ」
「…………笑われたのは癪に障りますが、調子を取り戻したのなら何より。さ、もうすぐ操車場ですわよ。気を引き締めていきましょう……!」
言いながら、俺は
……この道の先をどこに着地させるのか。
そろそろ、考える時が来ているようだ。
***
***
そうして操車場に到着したときには、上条は既に戦闘を始めていた。鋼鉄のレールを吹っ飛ばして鞭のようにしならせている
「……お待ちください、御坂さん」
それを見て、俺は静かに美琴の肩を掴んで制止した。
「放して! アイツ一人に戦わせられない。私達が参戦するだけの『理屈』があるんなら、これ以上何を躊躇するっていうのよ!」
……どうやら、美琴的には相当『自分が黙って見ているだけ』という状況が腹に据えかねていたらしい。まぁそうか。上条の前では一人の女の子だが、それ以上に美琴は『血気盛んなヒーロー』なのだから。
だが、だからといって猪突猛進はいただけない。
「だからお待ちください、と言っているのです。
「そうだけど……」
「であれば、彼があそこまで立ち向かえているのは何故です?」
「……え?」
「――――答えは一つ。先程説明した通り、彼が能力を打ち消してしまう能力を持っているから、ですわ」
此処までの道中で、上条と俺の間に面識があることは説明していた。ついでに、上条の右手に宿る能力についても、少々。原理は分からないが、とりあえず異能を打ち消すことができる――程度には説明してある。
それと、能力は打ち消せても、二次的な現象までは打ち消せない、ということも。
「証拠に、彼は
これは実際、よくわからない問題なのだ。直接美琴が放った電撃は、上条の右手でも打ち消せる。それは美琴の異能だから当然だ。だが、それを一旦
……いや、もちろん、反射されても根本は異能の電気なのだから打ち消せるかもしれないが、ぶっちゃけそんなのは小説を読んだだけの俺には分からないし、そういう疑念が一ミリでもある以上この局面で一か八か試すのはあまりにもリスキーすぎると思う。
「じゃ、じゃあどうすれば……!? 私達はお荷物にしかならないっていうの……!?」
「そこについてはご安心くださいまし」
それに、それよりは確実な策だって用意してある。
「……
「ええそうよ……! 調べたから間違いない。でも、だからなんだっていうのよ!? そんなの、
「であれば――おそらく、彼の右手が触れれば、その反射膜全体が
「――――!!」
……お、もう察したか。流石に第三位の頭脳は回転が違うな。
「……なるほど。下手に電撃を飛ばすより、あの馬鹿が
「
それでいて、一度受けた電撃のダメージは上条にも打ち消される心配はない、という算段である。これなら、『計画』の要件を満たしつつ上条の負傷も最低限に抑えながら
…………このくらい計画を簡潔にしておけば、多少のイレギュラーが紛れ込んでも余裕を持って対処できるだろうしな。小説みたいなギリギリの綱渡りは、しないに限る。下手に
と、その前に、
「まずはあのレールを、こっちで引き受けてやらないと、ね…………!!」
バヂッ!! と紫電と亀裂が迸り。
上条に殺到していたレールが、虚空で押し留められる。
「こ、この能力は……っていうか、お前ら……!?」
「ったく、アンタってヤツは、こーんな無様に逃げ回っておきながら、よくあんな大口叩けたわね。…………見てらんないから、私達にも一枚噛ませなさいよ」
「ん、んなこと言ってる場合かよ……!? 忘れたのか、俺の言ってた『計画』は……!」
「瓦解してしまう、とでも?」
慌てて言い返そうとする上条を、俺は抑える。
「ご心配なく。常識的に考えてそんなことはありえませんわ。――――学園都市の第一位とは、有象無象から圧倒的に隔絶している最強の称号。たとえ相手が何人いようが、格下に敗北するはずなど……
「…………面白れェ」
「……今日は愉快な出来事の連続だ。オマエら、揃いも揃ってハラワタが煮えくり返るほど愉快な能書き垂れ流しやがって、殺される準備はできてンだろォなァ!?」
轟!! と。
…………よし、とりあえずこれで
俺は即座に前方に
「……ッ! クソ、レイシアお前無茶しやがって! っつか、なんでお前が此処にいるんだよ!?」
「上条さん、そのことについてはお互い様だと思いますわ!」
「……今はそこに拘泥している場合じゃないか」
痛いところを突かれたのか、上条は華麗にそこについて棚上げし、
「二人は御坂妹を頼む! どのみち、アイツの『反射』をどうにかできるのは俺くらいしかいない。二人はサポートに回っていてくれ!」
「異議なしですわ!」
「任せなさい、サポートどころか、こっちはあのクソ野郎を倒したくてうずうずしてんのよ!」
「――それでどォにかできるとか少しでも思ってンじゃねェぞ、クソ三下どもがァ!!」
どうやら、俺の挑発は
よし、弾いたレールは美琴が磁力で操作できるし、これを使えば一方通行の突風も防げる。あとは上条が
そこまで考えた瞬間、俺は
「御坂さん!! 今すぐ磁力で上条さんをこちらに引き戻してくださいまし!!」
「えっ、なん、」
「早く!!!!」
俺の剣幕に圧された美琴は、すぐさま上条のベルト金具に磁力を使い、こちらの方まで引っ張り戻した。
「なっ――一体何が、」
突然のことに前後不覚に陥っている上条を無視して、俺は
直後、ドガガガガガガガガガガガガガ!!!!!! という銃撃音の暴風雨が、世界を埋め尽くした。
「くっ!? これ、どういうことよ……!?」
「――――おかしいとは思っていたのです」
俺を攻撃してきた研究者の意図は分かった。だが、それだけならば普通の
だから、あの局面で
それが意味すること、それは。
「Insert/ちえ。ここで殺されてくれてりゃ、楽勝で終われたんだがよお」
銃撃の合間に聞こえる声。
あまりの事態に他の三人は聞く余裕すらないだろうが、この中で唯一警戒していた俺にだけは、その声が届いていた。
――――
まるでアニメのキャラクターに素人がムチャクチャな演技で声当てをしているみたいに、違和が却って別個の個性を入手してしまっているような圧倒的な異物感。
『Insert/仕方ねえから本格的にブッ殺しちまうけど、構わねえよな? 部外者共』
――――