【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)   作:家葉 テイク

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一四九話:踏み躙ったのは誰?

 ──その男は、かつて『ヒーロー』に憧れていた。

 

 

 でなければ、成り立たないのだ。

 かつて極悪に手を染めた少年が泥の中で藻掻き苦しむ姿を見て、あれほどに逆上する()()が。

 一見狂いに狂った木原の言行にも、その根幹には『想い』が存在している。

 では、この男の場合は?

 かつて『正しい歴史』においては一方通行(アクセラレータ)の善行を嘲笑い、その希望を断つことに全霊を尽くし──

 この歴史においては『かつての自分からの脱却』を標榜するほどに強い自己否定を抱えた──

 この男の、奥底にある『想い』とは?

 

 

「…………ふざけんじゃねぇぞ、クソガキが」

 

 

 一方通行(アクセラレータ)と那由他の啖呵を受けた木原の書の第一声は、腹の底から響くような──そんな低い怒りを滲ませた呟きだった。

 

 

 ──誰かを助ける、それがかつての少年の望みだった。

 

 

 目の前に立ち塞がる二人の少年少女に殺意を迸らせながら、木原の書の両腕がマーブル模様を大きく広げていく。

 火、水、土、風、四大属性が複雑に入り混じった両腕は、もはやパレットというよりは毒々しい工業廃水のような醜さを帯びている。

 

 

「一万人もその手にかけた大罪野郎が、そうやって誰かの為に駆けずり回って、それでそれまでのテメェの人生全部チャラにできると、本当にそう思っちまったのか?」

 

 

 ──科学は、その為の手段でしかなかった。

 

 

 だから木原数多は科学技術や研究成果そのものに執着しなかった。あくまでもそれによって何が為せるかという即物的な要素にしか目を向けていなかった。

 

 

「そォだと言ったら、どォする?」

 

 

 不敵に嘲笑う一方通行(アクセラレータ)に対し、その激情を示すような濁った属性の奔流が、『継承』などというお行儀のいい形式すらも取り払って二人を吞み込まんと爆裂する。

 これに対し、一方通行(アクセラレータ)は舌打ちを一つしてから傍らの那由他を抱え、そして猛獣のような俊敏さで濁流を飛び越えて攻撃を回避する。

 ──迎え撃つという彼の暴力性を安易に発露する方法ではなく、『抱えて躱す』という明確に誰かを守る為の行動を選ぶ。

 

 木原の書は、奥歯が砕けるんじゃないかと思うくらいに強く強く歯を食いしばった。

 

 

「できるわけねぇだろうが、バァァ──カ!!!!」

 

 

 ──でも、この手で作り出した結果は。

 

 

 木原の書は、口角泡を飛ばす勢いでその所業を否定した。いや、そうせざるを得なかった。

 でないと、無駄になってしまうからだ。かつて同じ局面に直面した、とある誰かの選択が、挫折が、そしてそこから続く長い『燻り』が。

 

 

「テメェは一生泥ん中だよ! 綺麗に洗い落とそうとしたって、こびりついた汚れは落ちねえ!! だから一生泥の中で溺れてろ! テメェみてえなのがそうやって未練がましくうろついてるだけで、周りが汚れちまうんだよ!!」

 

 

 ──いつもおぞましい極彩色に染まっていて。

 

 

 木原の書の左手に、銀色の杖が浮かび上がる。続いて数字のイメージを伴った火花が迸り、彼の両脇に天空から巨大な薬莢のようなものの幻影が二つ降り注ぐ。

 そこには、『Five_Over OS Modelcase "JAGGED_EDGE"』という文字列が刻印されていた。

 

 直後、虚空から白黒の『亀裂』が迸り二人へと襲い掛かる。

 これはあっさりと一方通行(アクセラレータ)に反射される──かに思えたが、一方通行(アクセラレータ)は反射で容易く弾けるはずの『亀裂』をわざわざ改めて跳んで回避する。

 すると、一方通行(アクセラレータ)を襲っていた『亀裂』は一方通行(アクセラレータ)がいた場所に到達するかしないかのところで不自然に『逆行』を始めだした。

 

 反射の逆用。

 『正しい歴史』においても、木原数多が拳や鉄パイプで実践していたものだ。同様に木原の書も、一方通行(アクセラレータ)の演算を知り尽くしている。だから命中の直前にベクトルを逆転することで『反射』を貫通することができるのだ。

 

 

「テメェもそうだ、那由他ァ! 『木原』がこの街を救う!? できる訳がねえだろ!! 相似の野郎の感情が天敵兵装(アンチVアームス)なんてモンに昇華されたように!! 『木原』はどんな想いであれ最悪な形で出力するように変換しちまう、そういう変換器なんだよ!!」

 

 

 それは、存在自体が『原典・オリアナ=トムソン』という祈りを悪意の形で捻じ曲げて成立している──奇想外し(リザルトツイスター)に一捻りされるしかない木原の書の在り方そのものだった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。『木原』は、結局どう足掻こうがどこまで行こうが果ては『そこ』でしかねェんだ!!!!」

 

 

 ──だからいつしか、憧れを諦めていた。

 

 

「……私は諦めない。おじさんの言う『木原』がどんなものか、私にはまだ分からないけれど。それでも私は、絆理お姉ちゃん達と私の夢が折れないことを信じたい!!」

 

「……だそォだ。泣かせるだろ? 前途ある若者の足を自分の失敗談で引っ張ろォなンて老害、放ってはおけねェよな」

 

 

 その悪意を、木原那由他は真正面から受け止めていた。受け止めることが、できていた。

 

 

「…………!! 『木原数多』は結局そこから抜け出せなかった! そのままに終わった!! だが俺はそこで終わるつもりはねえ。木原数多から、いや『木原』から逸脱する。そんなクソったれな宿命を背負った状態から、再起してやるっつってんだよ!!!!」

 

 

 正真正銘、木原の書は吠える。大量の火花と共にルーンが再度ばら撒かれ、二体目の魔女狩りの王(イノケンティウス)が木原の書の横に立つ。

 同時に、バシャア!! と上条を抑えていた魔女狩りの王(イノケンティウス)が弾け飛んでいた。

 

 

「──ハァ……! ハァ……! 奇想外し(リザルトツイスター)を遮る風の壁はお姉さんと同じ、四大属性を組み合わせる方式によるもの。なら、今のお姉さんならそれを相殺することだって可能だと思わない?」

 

「チィ……!!」

 

 

 つまり、風を解除したことで奇想外し(リザルトツイスター)を上条に充てていた魔女狩りの王(イノケンティウス)に作用させたのだ。

 それによって術式の成立そのものを『失敗』させられた魔女狩りの王(イノケンティウス)はあっけなく消し飛ばされてしまったわけだ。

 

 今まさに魔女狩りの王(イノケンティウス)を散らしたツンツン頭の少年は、唸るような声色で木原の書に呼びかける。

 

 

「…………その為に、インデックスを『木原』に染め上げるっていうのか。アイツに自分を読ませることで!!」

 

「ああそうだ。そうやって『木原』を継承させてやる」

 

 

 対する木原の書は、悪びれるわけでもなくバツが悪そうにするわけでもなく、上条の怒りを笑って受け止めた。

 

 

「別に、この器そのものの価値を否定するわけじゃねえよ? 全人類に『木原』を継承させ、そのフィードバックを受けりゃあ最高だな。俺一人のエッセンスじゃ突破口が見えなくても、全人類のエッセンスを集結させりゃあ、『木原』から逸脱する為の材料は必ずあるはずだ!!」

 

 

 つまり、『木原』のネットワークの拡大──といったところか。

 全人類を『木原』にしてしまえば、その知識の集積は膨大な量になる。突然変異が新たなる種を生み出すように、そうしてモデルケースを膨大にした上で『突然変異』を集約すれば、突然変異の繰り返しによって新種の生物へと進化していくように、それは確かに『木原』とは異なる別種の何かとなる。

 その、はずだ。

 

 

「滑稽ですわね、()()()()

 

 

 と。

 そこで、シレンが口を開いた。

 

 突然声を上げたシレンに──というより、()()()で呼ばれたことに対して、木原の書は茫然と振り返った。

 声が聞こえるということは奇想外し(リザルトツイスター)の危険域であるとか、そういった戦略眼はこの際関係なかった。そんなものよりも根幹を揺さぶるような一言が、今のシレンの言葉には含まれていた。

 

 

「黙って聞いていれば、そんなもの結局は自分で解決することを諦めて他力本願に走っているだけではありませんの」

 

 

 シレンもまた、戦略など関係ないとばかりにカツカツと靴音を立てながら前へと進んでいく。

 

 

「第一、そのやり方では全人類を『木原』で塗り潰すだけではありませんの? 本来あったはずの解決策を自分で潰すような本末転倒になっているように、わたくしには思えるのですが。魔道書の本能に誘導されすぎて、結局本来の望みが達成不可能な方に向かってはいるのではなくて?」

 

「…………んだと、テメェ」

 

 

 事実、その懸念は大いにあった。

 全人類を『木原』にするということは、全人類の可能性を『木原』の枠内に収めるということである。そうなってしまっては結局そこから生まれる可能性は『木原』の域を出ない。多少のマイナーチェンジは起こるかもしれないが、『木原』から逸脱した、『木原』とは別種の何かを見出せるとは思えない。

 

 

「それに」

 

 

 さらにシレンは、致命的な結論を木原の書に告げる。

 

 

「仮に『木原』とは別種の何かが生まれたとして……そんな方法で生まれたモノは、違う名前がついているだけで『木原』よりも悲惨な歪みの産物にすぎませんわ」

 

 

 木原の書が抱えている、根本的な矛盾点を。

 

 何故、木原の書は『木原数多』から逸脱したいと願ったのか。

 奇想外し(リザルトツイスター)の効果対象から逃れる為? それはもちろんあるだろう。だがそれだけではなかったはずだ。

 木原相似はそうだった。木原那由他もそうだった。

 いかに冷血な『木原』と言っても、その根底には『想い』がある。ならば、意志を持つ原典である木原の書の根底にだって『想い』はあるはずなのだ。

 彼の行動指針は、果たしてそれを叶えられるようなモノになっていたのか?

 

 

 答えは、否。

 

 

 二の句も告げられない木原の書を叱るような響きさえ伴って、シレンは静かに、しかし厳然と続ける。

 あるいは、『再起』の()()に教えるように。

 

 

「そんな逃げ腰で達成するのが、『再起』であるはずがないでしょうが!! それらしい理屈をつけてくっだらない妥協に逃げているんじゃありませんわよ、木原数多! やれる限り自分で足掻いてみなさい! 最初から誰かに丸投げするんじゃありません!! 今ある手札を並べて、考えに考え抜いて、それでも駄目なら手を伸ばせばいいではありませんか!! そこまで必死で頑張った方の手を誰も掴まないほど、この世界は終わっちゃいませんわ!!!!」

 

「………………!!!!」

 

 

 その言葉で、()()()()はキレた。

 

 

「…………ってんだよ……」

 

 

 ブワッッ!!!! と。

 三度、木原の書から数字のイメージを伴う火花と共に、大量のルーンが舞い飛んでいく。

 

 

「終わってんだよ!! もう!! 俺の世界(ゆめ)は!!!! とっくの昔に終わっちまってんだよォォおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」

 

 

 現れるのは、魔女狩りの王(イノケンティウス)

 しかしその大きさは先ほどまでのものとは段違いだ。傍らに生み出されたもう一体を呑み込みながら立ち上がった炎の巨人の体躯は、ゆうに一〇メートルを超える。再三展開したルーンカードの陣によってなし得た『異形』だった。

 

 

「『継承』ってのは、ただのコピーじゃねえ。学んで自分のモノにしてんだ。だからこうやって、応用だって効かせられるんだよォ!!」

 

 

 巨大な魔女狩りの王(イノケンティウス)が、右手に持った炎の十字架を振りかぶる。

 木原の書が操っている以上一方通行(アクセラレータ)の反射対策だって完璧だ。魔女狩りの王(イノケンティウス)は通常時ですら幻想殺し(イマジンブレイカー)と拮抗するほどの再生能力を誇る。

 あれだけ巨大な攻撃を受け止める戦力は、現状は奇想外し(リザルトツイスター)しかない。

 しかし。

 

 

(……木原の書さんが逆上しているせいで、風の防壁を展開できていない。今右手を使えば……おそらく、木原の書さんの根幹ごと『失敗』させてしまう……!!)

 

 

 戦略的には、失策。しかしそれがこの期に及んで、シレン達の首を絞める。

 

 

(……いや、待てよ? 音が木原の書さんに届かないようにすればいいなら──!!)

 

 

 そして。

 

 

 ギチリ、と。

 

 巨大な魔女狩りの王(イノケンティウス)の動きが、突如として静止する。

 インデックスではない。

 木原の書の影響を受けてしまう可能性を回避する為、インデックスは木原の書の術式に対して介入しないようにしている。であるならば、この局面で炎の巨人を止めうるのは──

 

 

「……随分と、他人(ひと)の術式を便利遣いしてくれているようだけどね?」

 

 

 ──必然、ステイル=マグヌス。

 煙草をふかしたその少年は、額に汗しながらも落ち着き払って一息ついた。

 

 

「な、テメェ……!?」

 

 

 同じ霊装を使い、同じ術式を使用しているなら──その制御に干渉することは、同じ術式を長く使っている者ならば可能だ。もちろん容易ではないが──忘れるなかれ、ステイル=マグヌスは掛け値なしの『天才』である。

 

 

「チッ、だがこっちには聖人の身体能力も、」

 

「お忘れですか? 『それ』は弱点もまた備えているということを」

 

 

 木原の書が音速で対応しようとしたその時には、木原の書の脇腹には釘が撃ち込まれていた。

 日用品を使って術式を発動することに長けた天草式に身を置いていた魔術師が生み出した、釘と十字架による『神の子』の処刑を象徴する霊装が。

 

 

「がぼぁッ!?!?」

 

 

 瞬間、『原典』であり生半可な攻撃では防衛機能と自己再生機能でダメージすら発生しないはずの木原の書の身体が、明確に傾いだ。ピシピシと亀裂が走るような不穏な音と共に、木原の書はその場で膝を突く。

 

 

「クソが……!! バカな、なんで急にこんな都合のいい展開に……!? 魔術師どもはあの戦場に縛り付けてやっていたはずだ! 脱出してこの戦場にやってくるなんてありえな、」

 

「──()()()()()()()()()

 

 

 木原の書の呻きを遮るように、シレンは宣言する。

 彼女の傍らには、面倒くさそうに頭を掻く一方通行(アクセラレータ)の姿があった。

 

 そう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ったく、直接ぶつけてやりゃあイイってのに、なンだってこンなまどろっこしいことする必要があるのかね」

 

「……お話、したいですからね」

 

 

 奇想外し(リザルトツイスター)

 シレンの右手によって発生した音のベクトルを一方通行(アクセラレータ)が操作することで、木原の書にはぶつけずに巨大魔女狩りの王(イノケンティウス)だけ『失敗』させたのだ。

 そしてその『失敗』を穴埋めする形で──ステイルと神裂がこの戦場へとやってきた。

 

 

「……ま、俺達の知ったことじゃねェな。こっちもこっちで都合があるンだ」

 

 

 つまらなさそうに鼻を鳴らすと、一方通行(アクセラレータ)は飛び上がって木原の書に肉薄する。

 

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それに対し、木原の書が何か言う前に、第一位は右の毒手を無慈悲に振り下ろし──

 

 

「いや、それは困るな、一方通行(アクセラレータ)

 

 

 ゴッッッ!!!! と、その細身の体が宙を舞った。

 

 

一方通行(アクセラレータ)のお兄さん!?」

 

「クソったれが!! 寸前で回避した!! だがいったいどォして……」

 

 

 万事休す、そんな状態の木原の書の傍らに立っていたのは、銀髪の『人間』だった。

 地面につくかというほどの長髪をそのままにし、神秘的な緑眼は無感動に世界を眺めている。

 そいつの名は、『アレイスター=クロウリー』。

 

 

「チィ……!! よりによって今来やがるか……!!」

 

一方通行(アクセラレータ)さん!? 堕天とは……!?」

 

「説明は後だ! それよりも、とっととアイツを止めねェと、厄介なことになるぞ!」

 

 

 臨戦態勢をとる一方通行(アクセラレータ)に対し、アレイスターは微笑み──そしてその手から伸びた光の網が、木原の書をあっさりと捕縛した。

 

 

「ありがとう。君たちが木原の書にダメージを与えておいてくれたお陰で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 言われて、シレンの脳裏に先ほどの木原の書とアレイスターの一幕が脳裏をよぎる。

 あの戦いでは、木原の書はシレンの右手によって一時的に存在が崩壊する寸前まで追い込まれていたが──アレイスター=クロウリーともなれば、その隙にその存在の根幹に術式を仕込んでおくくらいのことはできるのではないだろうか。

 

 そして、木原の書が弱った段階でその術式を発動する手筈だったのであれば。

 

 

「アレイスター……! もしかして、最初からこの局面に持っていくことが目的で……!?」

 

「いや、なに。あの一瞬で描いたにしては上出来な絵図とは思わないかね?」

 

 

 全ては、イレギュラーである木原の書を自分の手駒にする為の策略。

 

 

「『木原』は、たとえ正しい願いを備えていたとしても、あらゆる行為が害意を備えて出力される。木原相似の好意が天敵兵装(アンチVアームス)となったように。木原那由他の今回の行動だって、見方を変えれば『街を守りたい』という正しい願いの為に一万人を殺害した虐殺犯に暴行を正当化する大義名分を与え、木原の書という一個の自我ある存在の抹殺としてアウトプットした──と解釈できる」

 

 

 アレイスターは、そう言って一方通行(アクセラレータ)と木原那由他の方へ視線を向ける。

 

 

「木原の書は、魔道書ゆえにその『木原』のメカニズムを限りなく機能(システム)化している。このあたりは、相対していた君達も心当たりがあるのではないかね? あらゆる『知識』を継承して害意を備えて出力する性質は、いみじくも彼自身が先ほど言った通り一種の変換機と言えるだろう」

 

 

 アレイスターの右手に、いつの間にか銀色の杖が浮かび上がっていた。

 ただしそれは、衝撃の杖(ブラスティングワンド)ではない。

 その理由に、彼の周囲には『杖』の他にも『杯』や『短剣』、『円盤』といった象徴武器の幻影が火花を伴って漂っている。

 そして彼は言った。

 

 

「たとえば此処に、生命の樹(セフィロト)という神の敷いた善徳を代入すればどうなると思う?」

 

 

 世界最悪の魔術師に相応しい、神をも恐れぬ最悪の計画を。

 

 

「お誂え向きに、今この学園都市には高濃度の天使の力(テレズマ)を扱う魔術師達が戦闘を行い、その余剰している天使の力(テレズマ)が街中に満ちている状態だ。これはいずれは別位相に戻っていく残り香でしかないが、これを束ねて悪徳の変換機に通してやれば……善徳は、悪徳へと反転する」

 

 

 ()()、『()()』。

 

 

「神の敷いた善徳。──人がその裏に見つけた、表裏一体の悪徳。第二の系統樹邪悪の樹(クリフォト)。人の負の感情を表す第二の大樹を通り、悪魔の苗床として機能せよ」

 

 

 まるでそれが、最初から『彼』の存在意義だったかのように。

 予定調和の無感動さで、アレイスターは呼びかけた。

 

 

「堕天変換機原典・『木原の書(プライマリー=K)』」

 

 

 


 

 

 

最終章 予定調和なんて知らない 

Theory_"was"_Broken.   

 

一四九話:踏み躙ったのは誰?

Old_Yearning.

 

 

 


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